「なんで友達のライブ行かないのん?」
山田はむすっとしながら、ポツリと呟いた。
そこは夜の大通り。
二人の周囲は、昼間の喧騒とは違うざわめきに包まれていた。
屋台の明かりが風に揺れ、かすかに漂うアルコールの匂いと焼けた肉や香辛料の香りが漂ってくる。
通りには冒険者や港の労働者、町の住民が行き交い、酒場帰りの笑い声と、ステージの歓声が混ざり合っていた。
どこか浮ついた空気が街全体を包んでいる。
金田の目の前には、遠くでライブを行っているミリアのステージが観客の頭の隙間からわずかに垣間見えていた。
ミリアの持つ天性の歌声は相変わらずだったが、それに加えて、表現者としてステージで自分を演出する術も備えつつあった。
サウンドも、以前より細部にわたって音質の向上がはっきり分かった。ところどころに原曲にはない音も追加しているように思えた。
人数は1000人はいないまでも500人以上はいるんじゃないか、という規模で、多くの者たちが、強烈なオレンジ色の光を放つサイリウムを同じリズムで振っていた。
そして、ミリアの煽りにしたがって大合唱をする者も少なくなかった。
金田は結局、ベクターが言っていた冒険者ギルドの周知イベントの特設ステージ、その近くまで来ていた。
斎藤と田所は先に帰った。ミオンも別の用事があると言って先ほどどこかへ消えてしまった。
残ったのが金田と山田。
金田はベクターの前では秋元に会いたくないという意思を示したものの、帰りながらふらふらと心が揺れてしまい、つい、会場付近まで来てしまっていた。
それに付いてきた山田だったが、会場を目の前にして足を止めてしまった金田の歯切れの悪い行動に、少しイラついていた。
金田は、遠くて見えないミリアのステージをぼんやりと眺めながら、これだけの規模の人間に現代のアイドルライブを浸透させた秋元の手腕に複雑な気持ちを抱いた。
それは、ここに至るまでの秋元の成功も苦労も含めての気持ちだった。
「…うるせー、そもそもなんでついてきたんだよ」
金田は面倒くさそうに言った。
「…ミオンがおっさん見といてって言ったんだもん」
「…とはいえ、JCに監視されてもなぁ…」
山田の答えに、金田はため息交じりにポツリと呟く。
「わかるよ、どうせ友達の成功を見るのが怖いんでしょ?」
「…事情も知らんで、そういうことを言うんじゃありません」
山田の言葉は、今の金田にとっては正直うっとおしかった。
金田は山田に苦笑いと適当な言葉で返したが、態度はもっとそっけなかった。
いっそいつものようにいがみ合う展開の方が楽だった。
しかし、今に限ってそんなことはなく、やたら鋭いことを言ってくるばかりだった。
「違うの?だって、友達とアイドルの女の子?にのけ者にされてんでしょ?会うとムカついちゃうからここでウジウジしてんじゃないの?
山田の声は真剣だった、しかし、それを受け取る金田は、ごまかすような態度をとるしかなかった。
山田の物言いは、まともに聞いたら誰だって傷ついてしまうような鋭く直線的なものだったからだ。
「そんなんじゃ…ありません」
金田の顔から次第に笑いが消えていった。言葉もどこか力がない。
「嘘だ、金田絶対腹立ててる、だから、今からそれはちゃんと伝えた方がいいよ!ボクも一緒に行くから」
山田はムキになって真剣な声で金田に言った、真っすぐに金田の目を見て。
山田の一言が、どれだけ自分の感情の真実に近くて、どれだけ自分を救うかなんて知っていた。
でも、それができない。
秋元を憎むのは筋違い、かと言って全てを忘れて秋元の夢の傍らにいるだけの存在にもなりたくない。
何度も繰り返すこの考えが、どんどん自分を惨めな気持ちにさせていく。
そして、今日も秋元とミリアのライブを見るのが怖い、でも無視できない。
その無様な様子を、たかだか中学生の女の子に見透かされてしまう。
これ以上居心地の悪いことはない。
説得するような山田の言葉に、金田は煩わしさを隠せなくなっていた。
「…お前、学校で友達いないんじゃないのか?」
金田は苛立ちのあまり、そんなことを口走ってしまう。
そして、言い終えた瞬間、金田自身が自分の発言のひどさに驚いた。
「…なんだよ」
信じられないと言った様子で、ポツリと言葉を漏らす山田。
山田の顔が一瞬の戸惑いを見せたかと思うと、じわじわと緊張の色を帯びていく。そして、警戒するように一歩後ろに距離を取ると、顔を背けるようにうつむいてしまった。
「あ!すまん…今のナシ」
慌ててそう言う金田だったが、山田の様子を見て自分の発言を心底後悔した。
「仲間だと思ってたのに…なんで学校のことなんか言うんだ…」
うつむいて小さな声で呟く山田の肩は震えていた。
その声には、ふつふつと湧き上がる怒りの感情の高ぶりと同時に、崩れて消えてしまいそうなもろさがあった。
「どうせ友達なんかいないもん!お前も同じかよ、金田のあほー!」
山田は感情をそのままぶつけるようにそう叫ぶと、金田に背を向けて走り出す。
「あ、待てって!」
反射的に思わず山田の腕を掴む金田。
山田は一瞬立ち止まり、金田の方を見た、涙をにじませた大きなその瞳には、とても繊細で透けるような純粋さを宿している。
それが、怒りより悲しみの感情を色濃く映したまま、一直線に金田を睨んでいた。
金田は、その感情にこたえる言葉も態度も示せずにたちどまってしまう。
次の瞬間、山田は金田の腕を振りほどいて走り去っていった。
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『ボクが見た優しい異世界の話。』
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