特設ステージ裏は、照明やスピーカーなどをまとめて制御する魔道具がおかれ、それに魔力を供給する箱や、グッズの箱、そのほか必要な道具がそこらへんに積まれ、その周りをスタッフがせわしなく動いている。
垣間見える表のステージはミリアが光を浴びて歌い、関係者がステージ袖でそれを見ている。
テントの中は表の華やかさとは違う、張り詰めた空気が漂っていた。
ライブも中盤、ミドルテンポの軽快な曲が観客の手拍子と重なり、ミリアの歌声がそこに乗る。
「…なんだこの子」
騒ぎを聞きつけたライブの関係者らしき男の一人が、奥からやってきてそう尋ねた。
「はい、さっきからアキモトさんを出せ!ってしつこいんだよ…」
立っていた警備スタッフも、困ったような顔で、彼にそう言った。
ここは、ステージ裏のスタッフおよび関係者専用の入り口。
分厚いカーテンで閉ざされた入り口の前では、甲冑に身を包んだ警備スタッフが見張りをしていた。
その横で、カーテンをめくってやってきた関係者らしき男と、目の前でわめき散らしている少女を見て、不思議そうにそれを見ていた。
肩を怒らせながら、二人を睨みつける少女は、山田だった。
スタッフにああしらわれてもなおも山田は奥に進もうと試みる。
その行動は、一度や二度ではなかった。
スタッフは、やれやれといった感じで山田の身体を軽く押し戻す。
「友達の金田がかわいそうだろ!なんでのけ者にしたー!」
テントの向こうに向かって叫ぶ山田、声色こそ怒りを帯びていたが、その様子はどこか、寂しげで悲しげだった。
「…なんか、こんな感じなんですよ」
苦笑いしながら、男の方を見る。
「うーん、さっぱりわからんけど、帰ってくれんかなぁ…」
その視線を受けた男も困った様子で、なだめるように山田に声をかける。
それでも山田は引き下がらなかった、しかし、感情の行き場はどこにもなく、激しい苛立ちを抱えていた。
身体を張って自分を助けてくれた金田に悩んでほしくない、でも、今は金田はここにいない、それでもこの行動を止められない。
人に真剣に向き合えば向き合う程空回りして失っていく、いつもそうだ、と山田は学校での生活を思い返していた。
そしてまた、ここでも同じことをしている。
山田はそれが悲しくて仕方がなかった、だからせめて秋元に金田のことを伝えずにいられなかった。
止まってしまうと泣いてしまう、どうしようもない孤独感が山田を苛んでいた。
そんなときだった。
「すいませーん」
背後から金田の声、少し息を切らせながら小走りに駆け寄ってくるのが判った。
「俺がコイツの保護者なんです!」
そう言って、山田の背後から肩に手を置いた。
山田はうつむいて、泣きそうな自分を懸命にこらえた。
「どうもすいませんね、ちょっといろいろ過激な妹でして…」
「…そうですか、ちゃんと見ておいてください」
金田がおどけた調子でそう言うと、警備スタッフは、面倒ごとが片付いて一安心といった様子で、そう返した。
「はは、以後気を付けます…ほら、帰るぞ」
金田は、警備スタッフに苦笑いでそう言いながら、山田の腕をつかんだ。
「…ダメだ金田!ちゃんと言ってよ!」
金田に腕を引かれた山田は、抵抗しながら涙声で訴える。
その顔はやはり、怒りより、寂しさの色が濃かった。
山田は、自分の大切な仲間である金田が自分の痛みを諦めることが耐えられなかった。
「…ありがとな、でも、今日はダメみたいだから帰ろうぜ、な?」
金田は山田の方を向き直ると、両手を山田の肩に置いて、そう言った。優しい顔だった。
山田はその表情を見て、自分の気持ちが金田に伝わっていることは理解した。
それでもなお、納得のいかない様子の表情を金田に向ける。
向き合ってくれた分だけ、山田も金田の助けになりたい、そう思ったからだ。
そんなやりとりのさなか、背後から足音が近づいてくるのが判った。
二人が振り返ると、すぐにカーテンがめくられ、その隙間からステージ裏の緊張感のある様子と、それに伴った独特の空気が光とともに漏れてくる。
そして、警備スタッフの声。
「あ、アキモトさん、お疲れ様です」
ふいに、テントの奥からアキモトが姿を現した。
「…あ」
思わず金田は、驚きの声を上げる。
「…金田!?」
秋元は、一瞬固まった。その後に、確かめるように恐る恐る金田の名前を呼んだ。
その姿は、当初のオタクファッションではなくどこで仕立てたのかは不明だったが、スーツ姿だった。
そして、髪型も整えて、いかにもプロデューサーという雰囲気に変貌していた。
ちゃんとやってるんだな、お前。
金田は心の奥でそう呟いた、正直嬉しかった。
そんな金田の様子を見て、山田が服の裾を引っ張った。
はっとした金田は一度、ちらりと山田の方を見ると、息を大きく吸ってから秋元を真っすぐに見た。
そして秋元を指さして、勢いのままにまくしたてた。
「よ、よくも俺をのけ者にしてこんな成功しやがったな!」
傍らでそれを聞いた山田が、金田のことを見上げていた。見開いた瞳が、ぱあっと明るく輝いた。
「え?」
きょとんとする秋元に、金田は構わずに続けた。
こみ上げる本心に、出来るだけ逆らわずに素直に。
「…気に入らねーんだよ!上から目線で…なにが待ってる、だ!ただのドルオタのクセしやがって…お前らのライブなんか、この魔王軍の金田様がブッ壊してやるからな!」
金田は正直、自分でも無茶苦茶だとは思っていた。
絶対、大人としては間違い、筋違い、逆恨み、だという自覚はあった。
でも、だからと言って、もうこれ以上自分の痛みに蓋はしたくない。
善悪ではなく痛み、そこに寄り添ってくれようとした不器用な山田にも、ちゃんと応えてやりたかった。
金田はその時、まるで長くそこにあった胸のつかえを手を入れて丸ごと取り出して、そのまま秋元に投げつけるような爽快感を感じた。
そして全身を襲う得体のしれない高揚感に胸が高鳴った。
「そうだ!ブッ壊す!」
山田も瞳を潤ませながらも嬉しそうに、それに続いた、そして彼女は手にしたボンタンアメを全て秋元に投げつけた。
「帰るぞ!山田!」
「ウリエルちゃんだ!バカヤロー!」
そして二人は言うだけ言うと、秋元の返答も待たずに逃走した。
秋元は、二人の後姿をただただ呆然と眺めていた。
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『ボクが見た優しい異世界の話。』
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