昼下がりの街道を、ミオンと金田が並んで歩いていた。
金田の両手には、食材や日用品がぎっしり詰まった袋がぶら下がっている。
ミオンはというと、手ぶらのまま串焼きを片手に、上機嫌でそれをかじっていた。
「…なんで俺だけこんなに持ってんの」
金田がぼやくと、ミオンは気にも留めず、串を指でくるくる回す。
「まぁまぁ、せっかくの休みなんだから、あたしともデートしちくりよー」
「これは荷物持ちって言うんですよ、ミオン様」
ミオンの相変わらずの軽口に、金田はそっけない口調でそう返した。
転移装置まではもうすぐの場所だったが、正直、腕と腰がしんどかった。
「えー、ウリちゃんとは夜のライブ見に行ったんでしょー?」
含んだような笑みを浮かべ、ミオンはからかうようにそう言った。
「あんたが同行させたんでしょーが」
金田は思わず溜息をついた。
街の喧騒は少しずつ遠ざかり、代わりに森の匂いが風に混じり始める。
買い物袋が揺れるたび、瓶や野菜が小さく音を立てた。
ミオンはふと歩みを緩め、金田の横顔をちらりと見る。
その視線に気づいた金田が眉をひそめた。
「…ウリちゃんに、なんかした?」
ミオンは少しニヤリとしながら金田に尋ねた。
「…言い方がゲスいですよ、ミオン様」
ミオンの物言いに、半ば呆れながら金田が返す。
あー、そうじゃなくて、ちゃんと理解してあげられてて偉いねぇー、って
その態度にミオンは金田に向けた掌をパタパタと振りながらやんわりと答える。
いつもと少しだけ違うミオンの反応にいささか拍子抜けした金田。
「…まぁ、似たようなトコあるし…そこら辺を見て山田をぼくのところに宛がったのでは?」
金田は自分の過去を思い出すように中空に視線をやると、少し笑った。そして、おどけた調子でミオンに尋ねた。
「うんー、意外と早く馴染んでくれてよかった、安心した」
ミオンは安どの笑みを金田に向けてそう言った。そして、すこし思案するような表情の後に、
「…告るなよ」
と、ボソリと呟く。
そこはもう、金田をバカにするいつものミオンだった。
「…ないわー、さすがにないわー」
金田が引き気味に突っ込む。
ふと、金田のスマホから着信音がなった。
「…電話?」
金田が取り出したスマホをみて、ミオンが呟く。
不思議なことに電波は県外だったが、着信は山田からだった。
「あ、山田となら使えるようになったんだ、田所さんと魔族の人たちが最近、山田の持ち物でいろいろ試してるみたいで」
「…ふーん」
ミオンが、興味深そうに金田のスマホを見る。
「金田!今すぐミオンと戻ってきて!」
スマホからは山田の声、心なしか、切羽詰まった声色だった。
「お?どうしました?」
「田所っちが、今日は魔導兵器を見に行く、って言ったまま戻ってこなくて…レプトルにそれ言ったら顔真っ青になってたんだ」
「…田所さんが、魔導兵器…」
山田の早口にいろいろ思考が追い付かなかったが、なんとなく理解した部分だけを反射的に口にした。
「…え?アスピライトタワーに行ったの?ダメじゃん」
金田のその言葉を聞いたミオンは、表情を驚きに変えて素っ頓狂な声を上げる。
驚いたついでに、持っていた串がポキッと音を立てて折れた。
ミオンのその反応を見て、金田はじんわりとした不安に見舞われた。
魔族の居住区をさらに奥へ進むと、やがて森が開けた。
金田とミオンがそこへ着くと、すでにレプトルと斎藤、そして山田が待っていた。
風が枝葉を揺らし、ざわりとした音が周辺を包む。
足元には踏み固められた土が広がり、ところどころに苔むした岩が転がっていた。
金田の視線の先には、木製の柵がぽつりと設けられ、その奥には、ほとんど瓦礫と化した廃墟群が広がっていた。
かつては城とその関連施設だったのだろう。
手前には、場違いなほど滑らかな石造りの大門がぽつんと残り、そこから伸びる石畳の道は、両脇の造園だった場所ごと崩れ落ちている。
黒い霧が地を這うように漂い、その向こうに、折れた塔の影がかすかに揺れていた。
そして城だったものの隣にそびえる巨大な鉄塔は、中腹の柱が溶け落ちたようにえぐれたまま、空へ突き立っている。
全体を包む雰囲気は、リストリア王国の城とはまるで違った石と木の文明ではなく、どこか機能的で、科学めいた匂いを残している。
「あれがアスピライトタワーです、あそこら一帯は、魔力の爆発事故の影響で、異常な魔力濃度をずっと維持していまして…誰も近づけないんです。捜索に行きたいのはやまやまなんですが…」
レプトルは塔を指差して、申し訳なさそうに言った。
「じゃあ、田所さんは大丈夫なんですか?」
「…前にも言ったけど、あんたら召喚者は魔力を感じないからどこ行っても平気、ただ、魔石モンスターや怪奇現象にはフツーに遭遇すると思うけど」
金田の心配そうな声に、すかさずミオンはそう言った。
声色は安心させるようであったが、その内容はいろいろと物騒であった。
「では、3人で向かうということでござるな」
斎藤は事も無げにそう言った。
「あたしも行くよ、3人じゃ危ないし」
「ミオン様、それは…」
ミオンが当然のようにそう言って前に出るが、すかさずレプトルがそれをなだめるように口を挟む。
「ミオンは大丈夫なの?どっか特別なの?」
「…あたしは…腕力はあるけど、魔力ほとんどないんだ…だから影響は薄いから大丈夫!」
山田が尋ねると、それを受けたミオンはニヤリと不敵な笑みを浮かべてそう言って山田に返す。
「…しかし」
「とは言っても、なんか影響あるんだろ?」
遠慮がちに食い下がるレプトルの様子を見て、金田が突っ込む。
「酔っぱらう!でも大丈夫!」
ミオンは、笑顔で力強くそう言った。
レプトルは苦い顔をし、斎藤は顔を少し引きつらせた。
山田は金田を見てほくそ笑む。
金田は嫌な予感しかしなかった。
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