ボクが見た優しい異世界の話。   作:かぱえるくん

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…昭和かよ…

大理石の床には、崩れ落ちた天井や壁の破片が散乱していた。

踏みしめるたび、細かな欠片が乾いた音を立てる。

エントランス中央の大階段は、形こそ残していたが、手すりの装飾はほとんど失われ、敷かれていたはずの赤い絨毯は裂け、ところどころで石段に貼り付くように残骸だけがこびりついている。

見上げれば、穴の空いた高い天井から淡い光が差し込み、その光の中で粉塵がゆっくりと漂っていた。

天井には、かつて巨大なシャンデリアを吊っていたであろう金属の枠だけがいくつも残されており、その多くは歪み、鎖が途中で焼き切れたように垂れ下がっている。

そして、視線を移すと、壁や床のあちこちから、大小さまざまな**コード**が顔を覗かせていた。

立ち込める黒い霧の中を、スマホのライトを照らしながら金田たちは階段を上っていた。

「…また酔いそうになってません?ミオン様」

背後からミオンに上着を引っ張られ始めたのに気づいて、金田が突っ込む。

「あ!っと…いかんいかん」

金田の声に、それまで断続的に瞼を閉じていたミオンの眼に力が戻る。

「しかし、確かに霧は厄介でござるが…さほどの危険はないのでは?」

先頭で階段を登り切った斎藤が、辺りを見回しながら言った。

「…あたしも来るの初めてなんだけど…この霧の影響でどんなことが起こるかがわかんないから…やっぱ3人だけで行かせるのは…と、思ったんだけど…」

ミオンは言いながら、金田の背中に頭をぶつけ始める。

「…心配しすぎですよ、ミオン様」

再び金田の上着をつかんでもたれかかってくるミオンに、金田は声をかける。

「…だってぇー、危ないじゃんー…」

そう言ったミオンの表情はふわふわと緩み、金田の背中に体重を預け始める。

「…責任感強いのはわかるんだが…これは…」

「…もう、ミオンのことだっこしてあげたら?」

意識がもうろうとしているミオンを見て、山田がボソリと呟く。

それを聞いたミオンは、一瞬で表情を戻して金田の背中から離れた。

「…おっさんにだっこしてもらうのは、ちょっとキモいなー…」

そう言いながら、自分の頬をぺちぺちと叩くミオン。

心なしか、意識もはっきりしてきたように見える。

「…お、おう…」

金田と山田は、先ほどのミオンの行動を思い出して複雑な表情を浮かべた。

2階に上がると、そこは1階とはまるで趣が違っていた。

通路に沿って大小さまざまな部屋が並び、構造は直線的で飾り気も少なく、まるで古いオフィスビルのフロアを思わせる整然とした造りだった。

だが、その無駄のない構造とは裏腹に、フロア全体の荒廃した様子は一階と何ら変わらないものだった。

扉はほとんどが外れ、中には衝撃で半ばねじ曲がったまま壁に引っかかっているものもある。

部屋の内部には、本棚が倒れ、書類が焼け焦げ、机や椅子がひっくり返ったまま散乱していた。

「ここの右奥、だっけ?」

「ものをどけた跡があるでござるな、恐らく田所殿はここを通ったのではないかと」

呟いた金田に斎藤が言う、二人が向けた視線の先には城の建築様式とはまるで違う、コンクリートの通路が真っすぐに伸びていた。

両脇には細長い窓が等間隔に並び、天井には照明器具を取り付けるための傘だけが残されている。

「…昭和かよ…」

その光景を見て、思わず金田は呟いた。

「もしもし、ネコヤマさん?通路に出たよ」

山田がスマホを取り出してネコヤマと連絡を取り始める。どうやら今回はただの電話のようだ。

通話をスピーカーフォンに切り替え、ネコヤマの声を辺りに響かせる。

「はーい、お疲れ様ですー、どうですか?」

「…魔力の暴走事故?って言ってましたけど…ここ、なんなんです?」

金田は尋ねた。

実のところ、金田たちはこのエリアのことを何一つ知らないままここまで来ていた。

実際に足を踏み入れてみると、事故の凄まじさもさることながら、節々に見える明らかに不釣り合いな文明の痕跡も気になっていた。

「魔族の領域は、もともとはロスマジシア王国という、れっきとした小国だったんです。その王様がいたお城が、みなさんが今いらっしゃるロスマジシア城です」

全員が通路を歩く中、ネコヤマの説明がコンクリートの壁に反響していた。

「アスピライトタワーはその王様が主導して作った魔力装置なんですけど、この状態になったのは、それが試験運用の段階で爆発を起こした…ということらしいんです」

「この黒い霧もその影響ってことだよね?」

ネコヤマの話を聞いた山田が、辺りを見回しながら言った。

「そう、しかもその時の爆発の規模はロスマジシア全体に影響を及ぼすほどに大きかった、魔族の集落がボロボロなのはそのせいですね。そしてその凄まじさゆえに、周辺諸国に魔導兵器の実験と勘違いされているんです」

「…ああ、なるほど」

金田は数日前の魔石取引の事件を思い出し、納得の表情を浮かべる。

 




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『ボクが見た優しい異世界の話。』
https://kakuyomu.jp/works/2912051601353541835
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