ボクが見た優しい異世界の話。   作:かぱえるくん

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これがなにに見えます?

通路を抜けると、空気が変わった。

扉一つ挟んだだけなのに、そこはもう城ではなく、完全に鉄筋コンクリートの建物だった。

なじみのある踊り場付きの階段を上ると、建物の屋上らしき場所に出た。

四方を鉄の柵が囲み、城の崩れた塔の先端部分と同じくらいの高さがあった。

風が吹き抜け、黒い霧が薄く流れていく。

目の前には巨大な鉄骨の建造物――アスピライトタワーがそびえ立っていた。

間近で見ると、その存在感はひときわ強く、異様で、金田の視界にはまるで収まりきらない大きさを持っていた。

見上げても頂点は霞んで見え、金田は思わず目を細めた。

全長は百メートルほどだろうか――そんな規模に思えた。

ここは、その中腹にある特に損傷の激しい部分に最も近い位置だった。

本来なら、この屋上からタワーへ直接接続できる構造だったのだろう。

鉄柵の一部が扉になっており、そこからタワーに向かって外付けの鉄製階段が伸びていた。

階段は何度か折り返しながら鉄骨に沿って配置され、中腹のエリアへと続いていたはずだ。

だが、損傷の中心部に接続される手前で、熱に溶かされたように途切れ、先端が消えていた。

その途切れた先端、そこには男が一人立っていた。

田所の後姿だった。

「田所さん!なにやってるんですか?」

金田が叫ぶと、田所は振り返りゆっくりと階段を降り始めた。

「…遠くから見るだけのつもりだったんですが…つい」

田所は、苦笑いを浮かべつつそう言った。

「ご無事で何よりでござる」

「…で、なんでこんな処に…?」

「金田さんは、これがなにに見えます?」

田所は意味深な笑みを浮かべて金田に尋ね、後ろを振り返る。

彼の視線の先にある鉄骨の塔は、鉄の骨組みとボルトで作られた異世界とはかけ離れた文明の代物だった。

赤でも白でもない、焼け焦げた暗い色をした格子状の骨組みが、空へ向かってゆっくりと細くなっていく。

よく見ると鉄骨の間には石材が混ざり、導線のような光の筋がところどころで脈打っていた。

中腹の大きくえぐれた部分は、まるで巨大な手で抉り取られたように歪み、そこから黒い霧がゆっくりと漏れ出している。

鉄骨は熱で溶け、垂れ下がったまま固まり、石材は砕けて塔の外側に貼り付くように散っていた。

塔の最上部には、アンテナのように細長い構造物が何本も突き出している。

だがその多くは途中で折れ、残ったものも黒く焼けて、かつてどんな役割を果たしていたのか想像もつかない姿になっていた。

「…なににって…」

田所の問いに戸惑う金田だったが、すぐにその意図に気づいてはっとした。

「…スカイツリー、じゃない…東京タワー?」

金田が答えるより早く山田が呟き、田所が頷く。

「そう、私もウリエルさんと同じように見えます、サイズはちがいますけど」

金田は改めてタワーを見上げる、確かに全体の形状や鉄骨の組まれ方、爆発によってえぐれた部分にも展望デッキのようなフォルムを辛うじて確認できた。

「見てください。最上部の何本も伸びているのが、恐らくアンテナ。この足元の構造は制御室。電源供給設備みたいなものもあったはずです。そして…目の前のえぐれた部分、あそこが展望デッキの部分ですが…このタワーの場合は制御階だったんじゃないかと」

田所は半ば感心したような口調で、自分の推測を語った。

「じゃあこれは、…魔力の電波塔、ってこと?」

「…わかりませんが…電波というより…魔力そのものを“飛ばす”…ことを目的にしたのかも知れませんね」

田所が言うと、山田のスマホからネコヤマの声が響いた。

「そうです。アスピライトタワーは、ロスマジシアの魔力を世界に等しく届けるという設計思想があったんです。もともとこの土地は資源としての魔力が豊富な国でしたので…」

「…それは一大プロジェクトですね…先に共有してしまえば、資源国として他国に狙われることもない」

田所は納得の表情を浮かべながら、改めてタワーの中腹を見る。

そこからゆっくり漏れ出す黒い霧の揺らめきは、時に小さな火花のようなものを迸らせていた。

「…王様はもともと変わった人でしたけど…タワーのことを言い始めたのは自分のことを“ウェイダー”と名乗り始めた頃からでしたか…前世の記憶がどうとかって」

「…ウェイダー…ウエダ…どこの上田さんが転生したんだよ…がっつり日本人じゃねぇか」

ネコヤマの言葉に、金田は苦笑するしかなかった。

「…じゃあ、そろそろ帰ろっか?あんまりいるとなにに巻き込まれるかわかんないから」

しばらくして、それまで黙っていたミオンが声を上げる。

「そうでござるな、ただでさえ、ここは不気味でござる」

斎藤は辺りを包む黒い霧の生き物のような漂い方に眉を顰める。

「…うん、それもあるし、あたしまた酔いそうになってきた…」

言いながらミオンは、軽くあくびをした。

「それはイカン!」

金田は慌てて身を翻して階段に向かい、山田もその後ろに続いた。

「…あ、最後にいいですか?」

田所は言った、

その声に全員が振り返り、足を止める。

「どうしたんです?」

「まだ、動いてますよね?これ」

金田が尋ねると、田所はネコヤマに向けて、やや慎重な口ぶりでそう言った。

 




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『ボクが見た優しい異世界の話。』
https://kakuyomu.jp/works/2912051601353541835
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