アスピライトタワーの稼働を止めたのは、ミオンが倒れてからそう長い時間はかからなかった。
ネコヤマの指示より的確に、田所がその動力へのエネルギー供給を絶った。
制御室はその大半が吹き飛んでいたが、稼働に関するコンソールは一部が機能していて、その見た目は田所にも見慣れたスイッチと計測器で構成されていた。
「…驚きました、部屋の中心で大きな魔石がある、それ以外はほとんど日本で見たことのある施設のモニター室と同じですよ」
田所が言いながら、金田たちのもとへ戻ってくる。
屋上は、先ほどまでの現象は嘘のように消え去り、それどころか、霧の濃度も少しばかり薄くなったように見えた。
「ミオン様の様子はどうですか?」
田所から返されたスマホを持つ山田にネコヤマが尋ねる。
「うん、息はしてるし苦しそうにもしてないから、多分大丈夫」
心配そうなネコヤマの声に、山田が答える。
「ネコヤマさん、ミオン様のあの白い煙みたいなのって、なんだったの?」
金田が尋ねると、電話の向こうではネコヤマが考え込むようなうなり声をあげているのが聞こえた。
「…私も詳しくはわからないんですが…今の制御不能なタワーの力は魔力以前の方向を持たないエネルギーにも作用しているんじゃないかと考えています、そのくらいしか…」
ネコヤマの回答は思いのほかはっきりしないものだった。
しかし、田所はその言葉に意外そうな顔をする。
「魔力自体がなにかの力を加工したもの…ということでしょうか?」
「…多分…そこをはっきりと認識できたのは王様だけだったんです」
田所の推察にも、ネコヤマの返答は渋いものだった。
「そうですか、このタワーといい、魔力や先ほどの現象…興味が尽きないですね」
田所はふっと笑いながらアスピライトタワーを振り返る。
「ところで、ミオンどうする?」
山田は、自分の身体に身を預けさせているミオンを指さして言った。
「…先生が抱えていくのが適当でしょうなぁ」
山田が金田に仕掛ける前に、珍しく斎藤が口を出す。
その顔は、ほんの少しだけニヤついていた。山田はその顔を見て、おっ、という顔をする。
「…えー、バレたら絶対怒られるヤツじゃん」
「田所っちもサイトーも一仕事してきたんだよ、これは金田のしごとだよ」
山田はそう言って金田を促し、金田は渋々ながらミオンのそばにしゃがみ込んだ。
「…お姫様だっこ、しちゃいなよ」
「…それは人生で初めてだな…」
いじわるな笑みでそう唆す山田に、金田はふとそんなことを漏らした。
そして、言われるがままミオンを抱きかかえ、立ち上がる。
ミオンの体重がストレートに腕と、それよりも腰に重く響いた。
「絶対長く持てないわ、これ…マンガみたいには出来ませんな」
お姫様だっこの現実を知り、金田は思わず呟いた。
「…うにゅ…」
ミオンは金田に抱えられたまま、ふにゃふにゃの顔で猫のように丸くなった。
「あー、また酔っぱらってますわ、この人…」
「お、いいねー!」
金田は溜息を漏らすが、それを見た山田はすかさず、ニヤニヤしながらスマホでミオンの顔を何枚か撮影した。
後日それを山田に見せられたミオンは、その日1日自室から出てくることはなかった。
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『ボクが見た優しい異世界の話。』
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