召喚の森に、ピアズとミオンの姿があった。
アスピライトタワーから戻って数日後、二人は定期的な連絡のために、いつもの森の広場を訪れていた。
大きな魔法陣は相変わらずそのままで、それを隠すように周囲から伸びた木々の葉が、風に揺れるたびにそこに新しい光と影の模様を作り出す。
ミオンはかつて自分が破壊した岩の上に座り、ピアズはその斜め前辺りに彼女を見下ろすように佇んでいた。
「アキトを見たのか…」
ピアズは驚いた様子でミオンに尋ねた。
「…アスピライトタワーの力にやられちゃってたからあれだけど…多分、あれはあたしの中にあったもの…みたいな」
ミオンは髪の毛をかき上げながら、深く思い出すようにうつむいて額に指を立てる。
数日前のアスピライトタワーでの一件の話。
ミオンは、現象は憶えているが、自分に起きた症状は上手く伝えられないでいた。
「…そうか」
ピアズは顔を上げてお手上げといったポーズを取り、寂しそうに笑って見せるミオンに短くそう言った。
彼は、しばし考えを巡らせる。
彼の脳裏には、先日のミリアのライブでの自分の体験が浮かんでいた。そしてそこにミオンの今回の話が交差して絡み合うようなイメージが膨らんでいく。
イメージが導く先には結論は見えなかったが、ミオンの言葉には今は十分すぎるほどの発見があった。
「アスピライトタワーに行ったのか」
一呼吸置いてから、ミオンに尋ねた。表情があまり変わらない男だったが、声色は若干心配している色を覗かせていた。
「うん、召喚者の一人が間近で見たかったって…やっぱりあたしは、そこまで体に悪影響は出なかったよ、大丈夫」
ピアズの心境を察してか、にっ、と笑みを作りながらミオンは答える。
「…なんか、東京タワーと同じだ、って言ってたな」
そして、最後にそう付け加えた。
言葉に反応するピアズ、眉が、一瞬だけ持ち上がった。
「…トウキョウタワー?…そいつはあれの構造が判るのか?」
聞きなれない名称に発音が怪しくなっていたが、ピアズは明らかに興味をそそられていた。
その人物に。
「多分、ちょっと理解してるんだと思う、調べてもらう?本人も興味ありそうだし」
「全力でやらせてやってくれ」
ミオンが言うと、会話のテンポが遅いピアズが珍しく即答した。
「…ところで、ピアズ」
ふと、ミオンはピアズの手元を指さした。
紅い瞳がまん丸くなり、それを以外そうな眼で見ていた。
「なんだ?」
ピアズはいつもの変わらない口調で言った。
「なんなのその団扇」
不思議そうな顔で、右手に握っている団扇について尋ねるミオン。
彼女が見ている団扇には、ミリアの顔が大きく転写され、どこかのお酒の商品名とキャッチコピーが書かれていた。
「ミリアのグッズ?らしいぞ、無料でもらったんだ」
ピアズは事もなさげにそう言った。
まるで、そんなことか、とでも言いたげにそれでミオンを軽く仰いで見せた。
「結構楽しんでんじゃん、意外」
風を受けながら、クスリと笑うミオン。
「行かないとわからんからな…確かにお前の言った通り、あれは物凄いヒントがありそうだ」
ミオンのその顔を見て、ピアズは少しだけ笑みを浮かべる。そこには、ミオンとの関係を示すものの他に、自分の勘に対する自信ものぞかせていた。
「…封印を解く役に立つの?ライブが?」
ミオンはピアズを見上げて言った、その顔には強い期待と不安のいろが薄く広がっていた。
「ミリアの力と、アスピライトタワーの役割が根本的に同じもの…であればあるいは」
ピアズは、魔術の探求者としての自分、の表情に戻ると、考えを巡らせながらそう言った。
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