災害の女神になったので異世界巡ります。神話の時代から 作:Revak
それは、ある種の偶然か、あるいは
物理的世界ではあるが、裏の世界に魔法がある世界で死んだ男が、この異世界の神話の時代に降り立った。
強力な魂は依り代となり、人々の想いが重なる。
そうして男は女に成り、目が覚めた。
「……?」
仰向けの女は目を開けて、疑問を抱いた。
空が見える。ありえない。自分は事故死したはず。
横断歩道を歩いている途中、プリウスに轢かれたはずなのだ。意識がある方が可笑しい。
女は立ち上がった。
そのことで周囲を見て、更に疑問を抱いた。
周囲が抉られている。まるで空間事消えたかのように無いのだ。
自分を中心に百メートル間きっかり周囲が無くなっている。
百メートルより外には足元に草が生えているが、自分の足元の草は消えてなくなっており、地面も荒野のように枯れている。
そして女が居るのは森だ。だが百メートル内の木々は押しつぶされ歪められなくなっている。
「どういう事だ?」
女が声を出した。
そのことに女は違和感を抱いた。
己の声が綺麗なソプラノボイスになっている。
喉を触るが、そこに喉仏を感じられなかった。
そして、更に視線を下に向ける。
そこには胸があった。
巨乳とは言えない。だが貧乳とも言えない微妙なラインの胸だ。
股間には男の象徴は無く、綺麗なスジがあった。陰毛はハート型に剃られている。
「女の体、だと……?!」
馬鹿な──と女は思考が停止した。
最近ある小説サイトでは男が女になるというのは流行っているが、それはフィックションのはずだ。
だが、死んだはずの自分の意識が連続して存在している。これは紛れもない現実だ。
あの事故が夢だとしても、女に成ったのは訳がわからない。
どうするべきか。女は考える。
こんな森の中で女の体で全裸。悪漢に襲われたらひとたまりもないだろう。というか全裸なら即ハメOKの痴女である。
服を着なければ、と思うが近くに服らしき物はない。
どうするべきか──と考えていると頭の中に情報が入ってくる。
それは、己の正体と力の使い方の取り扱い説明書だった。
「災害の、神……」
この世界は今、神話の時代だ。
一人の創造主が世界を作り、そこに神々を送り込んだ。
そして神とは超常存在であり、存在しているだけで世界に影響を与える。
産み出された多数の人間の想いと神が発する力の残滓。それが混ざり合い生まれたのが災害の神であるこの女だ。
災害を司るだけあって能力は星規模だ。
その気になれば地球と同サイズの隕石を落とすことも、大地をすべて洪水で流すことも出来る超越者の頂の様な力を持っている。
更に神が持つ権能を持つ。物質の創造、読唇などだ。
女はまず全裸だと不味いので服を作った。
雑な知識しかないが、神の力によるブーストによりそれなりの物が作られた。
ブラジャーとショーツを着け、上はクロップトップ。下はジーンズ。靴は革靴だ。
女の身長は百七十センチほど。顔つきはボーイッシュ系。髪型はウルフカットに近いが肩までかかる長髪だ。
銀髪碧眼という美少女特有の容姿である。
では、ここからどうするか。そう女は悩み始めた。
神なので飲食不要睡眠不要疲労無効の存在である。
正直生存するだけなら仕事も食事も必要ない。
だが、それだと味気ないというか、人間として駄目な気がする。
まずは人にあい、情報と……仕事を得ようと女は考えた。
それなりに外に居ても可笑しくない格好になったので、女は歩き始めた。
そしてすぐ問題が生じた。
「えぇ……」
この周囲の抉られた空間はどうやら自分を中心に動いてるらしい、とわかったのだ。
女が動くとその分周囲の空間が抉られていき、木々がなぎ倒されて消え行く。
どうすればいいのかわからない。
神として得た知識は必要最低限の物でしかなく、これを抑える方法はわからない。
というかメインが災害の神としての権能なのでどうしても能力と知識が破壊系に特化してしまう。
取りあえずこのことをどうにかせねば、と思い人を探しに行った。
自分が神だという自覚はある。だがこの時代の知識や世界に関する知識は殆どない。
本来ならば得られたのかもしれないが、中の人が混じってしまった副作用なのだろう。
神に疲労の概念は無く、二時間ほど疲れることなく森を楽しみながら歩いて行く。
と言ってもみるべき森が進むたびに抉られ消えていくのは少し心が痛む。環境破壊は楽しくない。
そして森を出て、平原に出た。
そうして平原をまた一時間程進んで行く。
歩いても歩いてもどこにも辿り着かない。
太陽が見えるが女は太陽が沈む方が東だっけ西だっけと考え方角もわかっていない。
そうして一昼夜休まず歩き続け、遠くに村の様な物が見えた。
木の拙い柵に囲われた木造の家々が並ぶ村だ。
神としての高い視力を持ってしてかすかに見える。
あの村に行って情報を得るべきか、と女は考えたまずはこの謎の消滅をどうにかせねばと考える。
今もまだ消滅は機能しており足元の草などが消滅して行っている。これで人に物を聞こうとしたら相手が消滅してしまうだろう。
そうして悩んでいると奥から一人の者が見えた。
銀色の鎧に身を包んだ者だ。鎧から性別は伺えない。
顔もまた鎧に包まれている。
鬼の鎧武者、という言葉が似合いそうな格好をしており事実右手には刀を持っている。
その者は女に向かって突進する。
女はそれに恐怖を感じた。
当然だ。刀持って鎧纏った不審者が己に向かって突進して来たら誰だって恐怖を感じるに決まっている。
女はこの存在に対する対処法を己の権能から探そうとしたが、それよりも鎧武者の方が速い。
鎧武者は女の半径百メートル内に近づき──耐えて進んでいった。
女はそれを見て驚いた。
己の謎の消滅空間は絶対の物だと思っていたのだ。それが破られた事に対する驚愕だ。
驚愕しながらも何とか女は振るわれる刀に対し腕で防御する事に成功する。
人の肌に当たったとは思えない硬質的な音が響いた。
衝撃は来た。だが痛みはない。
薄皮一枚すら斬られていない。
女は己の体の強靭さに感謝した。
そして、ようやく己の力の使い方を知り、その力を行使する。
「風」
暴風が吹き荒れた。
それはサイクロン、台風だ。
荒れ狂う大風が鎧武者を襲う。
暴風によって周囲の地形を抉りながら鎧武者を吹き飛ばしていった。
数キロは軽く飛んで行った。戻るのに時間がかかるだろう。
「なんだったんだ、あれは」
女はそう呟いた。
異世界初のコミュニケーションが刀と風とは少し悲しいものがあった。
しかし、戻るのに時間がかかるという予想はすぐ破られた。
圧倒的スピード──ソニックブームが生じるほどの速度で鎧武者が戻ってきているのだ。
そこでようやく女はあれが自分と同質の存在──神であると感じ取った。
相手が神なら本気で相手しなければならないだろう。
だが、己の持つ能力はどれも破壊規模が大きく、被害が大きすぎる。
確実に殺せるのは隕石か噴火だろう。だがどちらも下手に使えばこの大陸自体ぶっ壊れかねない。
ならば、出来るのは風操作ぐらいか。
女はそう考え暴風を操って攻撃する事を考える。
しかし行動するより早く他の者が動いた。
地面から巨大な化け物──モンスターが出現したのだ。
長さは二十メートルを超え、直径も五メートルほどのワーム型のモンスターだ。
モンスターもまた、この時代ではある種の神の一種だ。
原初の神々の力の残滓と人々の想いが折り重なる事で生まれ落ちた架空の生き物擬きたち。
「なんだ?」
女が疑問の声を出す。
ワームを筆頭に森から多種多様なモンスターたちが出現する。
ゴリラとサルの融合体。巨大な狼。二メートル近い鼠。人狼。その他二十種類を超えるモンスターが湧いて出てくる。
そしてそれらは発狂状態。女にも鎧武者にも、なんなら明後日の方向にも走って行く。
女に近づく者は格が足りないので消滅していくが、それを理解できておらず近づいて死ぬモンスターが多数居る。
(おえ!)
女は目の前で生物が死ぬというのを見て思わず吐きたくなったが強靭な表情筋のおかげで顔色一つ変えずに済んだ。
力の行使は息をするかの様に出来るが、それによる被害は考えていなかった。
先ほど風で死ななかったらとんでもない物を見る羽目になっていたのか、と少しげんなりした。
鎧武者は女に向かうのを辞め、モンスターの集団を殺す方にシフトした。
飛ぶ斬撃や別れて放たれる斬撃などでモンスターの群れをばっさばっさとなぎ倒していく。
無双ゲームもかくやと言った感じで吹き飛んで行くのは見てて爽快感があった。
女はそれを見て、あの鎧武者は何がしたいんだ? と疑問を抱いた。
いきなり人を殺そうとしてきたかと思えば今度は
話を聞かねば、と思うが話が通じるのか、という思いもある。
「スーちゃん!」
そこに女の声が響いた。
空から女が降りてくる。
(セーラー服?)
そこに居るのは赤い髪に赤い瞳の美少女だった。しかし何故かセーラー服を着ている。
そして右手には槍を持っている。
「私も手伝うよ!」
「頼みます!」
鎧武者──スーちゃんと呼ばれた方が返事した。声は女の物だった。
どうやら友人関係か何からしい、と女は判断する。
実際それは正しい。スーちゃん──スサノオと槍を持ったセーラー服の女オーディンは親友と呼べる間柄だ。
瞬く間に殲滅が終わる。女が何かするまでもなかった。
(逃げる隙失った!)
ふぁっきゅーと女は内心中指を立てた。
スサノオとオーディンが二人の前に立つ。
オーディンが意を決したように声を発した。
「新しき神。あなたはなぜこんなことをするの?」
「オーちゃん、聞いても答えは……」
よくわからないまま、女は答えた。
「それはこちらの台詞だ。何故其方らは余に攻撃する?」
女は自分の口から出た言葉に対し驚いた。
其方とか余とか言うつもりは欠片も無かったのになぜかそう言葉が出ていた。
どうやらこの体は謎の翻訳機能もあるらしいとこれで知った。
「それは貴女がモンスターたちを狂わせているからですよ」
そうスサノオが言った。
「狂わせている? ……なるほど。余にそのような能力があるというのなら謝罪しよう。だが、余の意思で行った事ではない。何せ余は生まれて間もないのでな」
「……そう、なのですか?」
スサノオが信じられない、とばかりに目を見開いたが鎧によって隠されているので見えなかった。
「じゃあ、まずはその周囲に圧を与える力をどうにかしなきゃ! 神ならそれが出来るはずだよ!」
「そうは言われてもな……どうすればいい?」
素直に女は問いかけた。
「うーん、それは力が溢れているのが原因だから……こう封印とか、封じる感じで……神なら相手の封印は基本技能としてあるから……」
「封印か……やってみよう」
そうして女は封印について考えた。
一瞬俺の右腕が疼く……というのを考えた。
その結果、封印方法がわかった。
女の左目に黒い眼帯がつけられた。赤い文字で封と書かれている。
それにより女が発している圧は消え、通常となった。
だがそれでも並みの者が触れようものなら消滅は免れないだろうが、ある程度のコントロールは可能となった。
「これでいいか?」
女はそう言った。
女は己の左目の眼帯に触れた。
だがそれでも視界は通常通り見える。
「うん! それで大丈夫……よかった。これで触れ合えるね」
そう言いながらオーディンが近づいて来た。
「私はオーディン。君の名は?」
そう言いながらオーディンは握手をしようと手を差し出してきた。
「余の名は……」
女は考えた。
前世の名を言おうとしたが、前世の名は思い出せなかった。
家族の名も友の名も思い浮かぶ。だか自分の名前だけ塗りつぶされたかのようにわからない。
だが、新しい名が浮かんできた。
「余はローフェだ。よろしく頼む。オーディン」
そう女──ローフェはオーディンの手を握り返した。