災害の女神になったので異世界巡ります。神話の時代から 作:Revak
二週間が経った。
その結果、ローフェは己の能力を完全に把握し、そしてこの時代についてもある程度把握した。
その結果の判断としては、この世界、あるいはこの時代はある種のユートピアにして──ディストピアであると判断できた。
何せすべてに置いて神の存在が前提になっている。
食事を用意するのは神。汚物を処理するのも神。家を作るのも農具を作るのも神。
そして肝心の仕事だが、これはしてもしなくとも大差ない。
畑を耕したりし、収穫物を神に捧げている者はいるがそのうちから自分の分を取っておくという考えがない。食事は神が用意してくれるからだ。
なんなら畑耕すのに飽きたから編み物すっべかというのも居た。仕事が仕事でない。
全てにおいて神の存在と力を前提にされた世界。これが神話期の世界だ。
ローフェは浮遊し、空からハートの村を見下ろしていた。
飛行も神の持つ権能の一種。音速を超えて飛行することも容易だ。
「ローフェ、どう? この世界は」
その後ろにオーディンが同じように浮遊してきた。
「歪だな、この世界は」
「そう、だね……だけど人は幸せに暮らしている」
「……そうだな」
それは紛れもない事実だった。
モンスターという脅威は神が取り除き、病も怪我も神の力で無くなっているある種の理想郷だ。
だからローフェはこれを否定できない。西暦二千二十年代の日本という歪な世界で暮らしていたローフェは。
「あの空に浮かぶのが神都か」
ローフェはそう空を見上げた。
空には巨大な島があった。
島の中央には汚れなき白で構成された城がある。どこか神聖さを感じさせる城だ。
城の前には街並みが続く。どれも白で構成された純白の街だ。
でかいが、日照権を阻害するような事はない。神の力で対策されているからだ。
「そう……今から神都に行って、原初の神々に会いに行くの……怖い?」
原初の神に会いに行く理由は新しい神として原初の神に認められる必要があるというのと、ローフェ自体が原初の神に興味を持っているからだ。
「まさか。同じ神……怖くなどない」
「そっか……それじゃあ、行こっか」
「あぁ」
そうして二人は飛んで行く。
二人とも音速で飛んで行く。ローフェは封印で弱体化しているが、それでも音速程度は出せる。
そうして五分も飛べば神都に辿り着いた。
広場に二人は着地する。そこには噴水があった。
「お、オーディンじゃないか……そっちが例の新しい神って奴か」
そこには男が居た。軽薄そうな男で雨も降っていないのに傘を差している。
「うん。アメノ。彼女はローフェ、災害を司る神だよ」
「紹介されたローフェだ。そういう其方は?」
「俺は雨を司る神だ。よろしくな、ローフェ」
そうアメノは手を差し出してきた。ローフェはそれを握り返した。
「ついでだ、俺が神都を案内してやろう」
「そうか……それはありがたい。頼む」
「おう、任せろ……つってもあんまり観光名所はないんだがな」
そうアメノは苦笑した。
アメノの案内の元二人は神都を進んで行く。
パン屋や公園などをめぐりつつ奥へ進んで行くとついに神都の中心にある城に辿り着く。
「ここは許可がないと入れないんでな……ここでさよならだ、じゃあなローフェ!」
「ああ、アメノ──また会おう」
そうしてオーディンとローフェは城に入っていった。
入るとそこは真っ白な空間だった。
そして台座が八つあり、その中央には女神が居た。
(……俺よりランクは上だな)
そこに居るのは原初の神。世界を創造した創造主直々に造られた女神の一柱。
緑色の髪に緑色の目。身長は百六十センチ程の美少女だ。
腰まで届く挑発に非常に整った、絶世という言葉がこれ以上無い程に似合う容姿。
白いトーガを纏う姿は神聖なる存在であると強く主張している。
「初めまして、災害を司る女神ローフェ。私は空と風の女神セラと言います」
そう女神──セラは微笑んだ。
「初めまして。知っているようだが余は災害を司る女神ローフェだ。よろしく頼む。女神セラよ」
「えぇ。よろしく……なるほど。これもまた創造主のお遊び、ですね」
はぁ、とセラはため息を吐いた。
「創造主の遊びとは?」
ローフェは気になって問いかけた。
「あなたは元は人でしょう? 魂を見ればわかります……あるいは神々ですらわからぬ偶然の産物か……兎も角、人だった者が神になるとは相当な苦痛があるはずです。人の精神は神の行動に耐えられるようにできていない」
セラはそう断言した。
その言葉にオーディンは驚愕していた。ローフェの中身が人だと知った驚愕である。
「そうかもしれない。だが、今を生きるしかない。人であろうと神であろうと、な」
ローフェはそう苦笑した。
「そうですね……では、あなたの疑問に答えましょう。あなたが最も知りたい事。すなわち……この世界がいつまで持つのか、ですが……我々は後百年で地上を去ります。そしてそのあとは……千年持てばいい方でしょう」
この
しかしながら理由が思い当たらない。神という不老不死の存在を前提にした世界が何故千年ぽっちしか持たないのか。
「何故、たった千年しか持たないので?」
「それは……今いる神々は我々原初の神の余剰エネルギーで生まれました。そして、人々の想いによって形作られ生まれた……だからこそ、その存在は人の想いによって成り立っているのです」
「──なるほどな。人口が増えればその想いとやらも複雑化し分かたれるという事か」
Aという人物が考える正義とBという人物が考える正義は、名称が同じであっても同じ内容とは限らない。
弱者に手を差し伸べる正義と弱者を踏みにじる正義。その他幾つもの考え方がある。
神はそう言った思念、思考、想いを受けて容易く変わり果てるあいまいな存在なのだ。
無論原初の神々──創造主たる神が直接創造した神々はそんなことはない。変わることなどありえない。
だがオーディンの様な神々は飛沫の様な淡い存在。容易く変わってしまうのである。
言わば無垢なる者ともいえるかもしれない。
「ただ……ローフェ。あなたは違う。人の魂に神の肉体を持つあなただけは変わることなく存在し続けられる」
そうセラは言った。
「まぁ、中身が違えばそうもなろうな」
そうローフェはくつくつと笑った。
「だからこその願いです。我々は百年後には神界に帰ってしまう。故に……地上に残る狂ってしまう神々を殺すことを、お願いしたいのです……同じ神として、辛いことですが……」
その願いにローフェは即答できなかった。
戦闘能力で言えば問題ないだろう。災害という恐ろしい物を司る己にとって他の……それこそ正義を司るオーディンだろうと本気ならば容易く打ち取れる相手に過ぎない。
だが、同族を殺して回る。それはとても辛い事だ。
そもそも人どころか小動物を殺したことも無いローフェ──■■■■には不可能に近い。
「何故、百年後には帰るんだ?」
当然の疑問をローフェは投げかけた。
「……人は、自分の足で立って歩ける種族のはずです。神々が付きっきりで介護しなければならないような物ではなく……家畜でもない。だから、今のこの世界はあるべき姿ではない。我々が去ることで本来の形に戻すのです」
セラはそう微笑んだ。
それは人を信じているからこその言葉だった。
「わかった。やろう」
だがらこそローフェは覚悟を決め、そう言った。
考えなしに言った訳ではない。
不本意とはいえこの世界で暮らしていく者として、責務を負おうと思ったのだ。
「……感謝を。それでは、今日のところはここで……そして、僅かな間ですが、どうかこの世界を楽しんでくださいね」
そうセラが微笑むと、二人は城の前に転移していた。
「それじゃあ……村に戻るか」
■
五十年の時が経った。
ローフェはハートの村に数年ぶりに訪れていた。
五十年間、ローフェはこの世界を巡っていた。
今居るこの世界は大地を司る神の力によって創られた世界だ。
この世界の外は別の世界が広がっている。
この箱庭世界には人間種が住まう。
オーソドックスで特にこれと言った能力を持たないが弱点も特にない人間。
クラフト系の能力に長けたドワーフ。
弓、あるいは魔法に関する能力を持つエルフ。
女しか生まれない狩猟民族アマゾネスなどだ。
そして、箱庭の外には異形種と亜人種が蔓延る。
亜人種は人間から少し外れた者たちの事だ。人より少し能力に優れ何かしらの特技を持つが欠点も持つ。
茶色い肌に二メートルほどの大きさを持つオーガ。
人の子供程度の背丈に緑色の肌に子供程度の知能のゴブリン。
猫がそのまま二足歩行しているようなバステル。
上半身は人間。下半身は蛇のナーガなど。
異形種は人ではない姿の者、もしくは寿命の概念がない者たちの事を言う。
不定形の蠢く粘液スライム。
死者が死者のまま動くアンデッド。
世界を羽ばたくドラゴン。
四つ腕に顔が二つのドゥルガンなどだ。
余談だが神も異形種に分類される。
人類種だけがこの閉ざされた楽園に囚われている。
と言っても、外の世界に神がいない……という訳ではない。彼ら亜人種や異形種が信じる事で生まれた神々が存在する。
それらの神も、原初の神が居無くなれば狂い堕ちるだろうが。
「老いたな、ハンス」
ローフェはそうハンスを見て言った。
公園のベンチにハンスが座っている。
金色の髪は白髪に変わり、体にはしわが多くでき、皮膚も紫外線によって劣化している。
「そういうねーちゃんは変わんねぇな」
しわがれた声でハンスはそう言いながらニッと笑みを見せた。
それを見てローフェはもの悲しい気持ちになる。
自分が神だという自覚はあるが、それでも現実を直視してしまうと自分が人外なのだと強く認識させられる。
五十年の月日が経ったが、ローフェは微塵も老いていない。寿命の概念がない神であるがゆえに老いなどないのだ。
人ならばあるはずの老化がない。そのことを最初の内は喜んでいたが、こうして知っている者が自分より先に老いて行くのを見ると悲しくなってくる。
「この村も変わっていないようだ」
悪い意味で、とローフェは村を見渡した。
ハートの村はあの時から何も変わっていない。
村人はやる意味のない仕事をし、子供はハートの寺子屋で遊んでいる。
何も変わらない……停滞だけの日々がそこにはあった。
「しかしこうしてみると、ねーちゃんかっけぇな」
そうハンスは笑った。
ローフェの格好は前と変わっていない。
上はクロップトップ。下はジーンズ。靴は革靴。
顔つきはボーイッシュ系。髪型はウルフカットに近いが肩までかかる長髪。
俗にいう王子様系女子に近い姿である。
神は不変なので髪を切ったり伸ばす事は出来ない。だからこの姿で固定されたままだ。
ローフェは自分の容姿を褒められ良い気になる。前世の姿とはかけ離れた姿ではあるが。
「まぁ、な……そういう其方も良い歳の取り方をしている……それが少し羨ましいよ」
自分も祖父のように老いてみたかった、と内心愚痴を零した。
「はは、まぁねーちゃん神様だからなぁ……そうだ、家に来てくれよ。御馳走するぜ」
「そうか……ならありがたくご相伴にあずかるとしようか」
そうローフェは微笑んだ。