の割には短いですが、よろしくお願いします。
「納得いかん!」
「ふぉ!?じゃが、彼は一般生徒じゃからあまり、お主が絡むとのう……」
時は少しさかのぼり、学園長室ではエヴァンジェリンと学園長が囲碁を打ちながら世間話をしていた。
しかし、盤面も佳境になったところで学園長が持ち出した話題がエヴァンジェリンをいらだたせ、そしてそれが冒頭の会話につながっていく。
その話題が今エヴァンジェリン家の間でもっとも注目されているとある生徒、まあ真なのだが、に対するエヴァンジェリンの表立った接触の制限だった。
茶々丸のこともあり、どのように接触するかを考えていた彼女にとって、学園長の提案は納得できるようなものではなかったが、それと同時に自分が関わりすぎれば茶々丸の恩人でもある人物に迷惑がかかる可能性があることも、エヴァンジェリンは理解していた。
「ふん、今度までに馬鹿どもに話をつけておけよ、じじい」
「うむ、ま、お主もあまり無理はせんようにな」
結果として二人の間には妥協点で結ばれた契約が一つ交わされることとなり、片方はつまらなそうに、もう片方はやれやれといった表情を浮かべながら契約書にサインをする。
「それではな、爺。約束を違えるなよ」
そういうとエヴァンジェリンは部屋を出ていく。
学園長はその姿を見送り、溜息を一つつくと机の上の契約書を執務机の中にしまい、疲れたように席に座る。
「これで、よかったのかの?」
「はい、無理を言ってすいませんでした」
学園長以外は誰もいない部屋で呟かれたその言葉にこたえるものがあった。
先ほどまで息をひそめるようにして隣の部屋にいたその人物はエヴァンジェリンが退室したと同時に部屋の中に入ってきて学園長に頭を下げる。
「彼にはなるべく裏の世界から離れて生きてほしい。そうすることが彼を両親から引 き離してここに連れてきてしまった僕の責任ですから」
そう言って部屋を出るその人物の表情は普段の彼を知っている人物が見ると驚くほど曇っていた。
彼はそのまま校舎を出たところで懐から煙草を取り出し口にくわえる。
彼の脳裏には幼き日の真との出会いが浮かび、そして後悔するように顔をしかめる。
「あの日の、正義の味方気取りの僕の傲慢さが君から家族を奪ってしまった」
彼の独白はともに吐き出した紫煙とともに茜色の空に溶けていく。
「あー、えっとだな」
そう言いながら真はあたりを見回す。
少女、長谷川千雨の大声に二人の周りには大勢の野次馬が集まり始めていた。
(ちょっと前にも同じことがあったような)
そんなことを真が考えている間にもあたりには人だかりができ始めるが少女はそれに気づかずに真をにらむような強さで見つめ続けている。
人は窮地に陥ると行動がワンパターン化するのだろうか、自らの言葉を聞かれたことの焦りと、詰め寄る少女、周囲の人の輪に追い詰められた真はいつかの時のように千雨を伴ってその輪をぬけだそうとした。
しかし真の冷静な部分が話の特殊性から人に聞かれるとまずいとあまり人のいない場所を逃げ場に選択する。
「ちょっと来てくれ」
「あ、おい!」
黙り込んでいた真が突然千雨の手をつかみ歩き出したことに対する驚きと手を掴まれた恥ずかしさから千雨は目を白黒させながら戸惑った声を上げる。
しかし真はその声が聞こえなかったかのように勢いよく歩いていく。
千雨も何度か抗議の声を上げようとするが、真の歩く速さが早く、転ばないように歩いていくために抗議の声は中断させられてしまう。
振り切ろうと思えば振り切れたのかもしれないが、彼女の中の葛藤をわかってくれる人がいるかもしれないというその希望が千雨にその行動を起こさせず、結果として彼女は手を引かれるまま人の輪を抜けて走って行ってしまった。
「おい!いい加減離してくれ!」
「お、おう。悪い」
走り始めてどれくらい経ったろうか、千雨の声に真は必要以上に強く握っていた千雨の手を離す。
千雨は少し赤くなった手を撫でながら警戒するように真から距離を取ってあたりを見回す。
あたりは人もまばらに、麻帆良の外れに近づいており、千雨としてもかすかな希望より身の安全が気になり始め、改めて名も知らぬ男子生徒に手を引かれていくという状況に危機を覚えての行動だった。
「なんなんだよ突然……」
「確かに突然なのは悪かったけど、あまり大勢の前でする話でもないだろう」
「っ!じゃああんたはやっぱり」
真の言葉に驚いたように彼の顔を見つめる千雨に溜息をつきながら真は肯定を返す。
「確かに俺は君の言う通り、この街が外の世界の常識とずれていることがわかる。だ からこそあまり人前ではそういうことは言わない方がいいぞ」
人は自分と違うものを排斥しようとするから、その言葉は真が思った以上に落ち着いた音色で真の口から零れ落ちた。
その言葉は真の過去の経験からくるもので、彼のトラウマともいえるものだったが、麻帆良に来てからのやさしい出会いが、真が思った以上に彼に落ち着いて過去を想い返すことを可能とした。
千雨は真が話している間彼女はうつむきぶつぶつと独り言をつぶやくようにしていたが、話が終わった瞬間それが合図であるかのように彼女の中にたまっていたものが爆発した。
「そうだよ!あいつらはいつもそうだった!」
そう言いながら顔を上げた千雨の目には涙があふれていた!
「あいつらはいつも私がおかしいって、何を言っても、笑って!叱って!!」
彼女の一言一言が質量を持ったかのように真を襲う。
「おかしいのはあいつらだった!やっぱりそうだ、私は間違ってなかったんだ!」
その言葉はだんだんと真にとって鋭い刃へ変わっていく。
彼の大切なものを否定し傷つける鋭い刃に変わっていく。
「おかしいんだよ!あの樹も!人も!この街も!」
千雨の言葉に真の中には大切なものを否定された怒りがあふれ、そして彼女の否定の言葉に過去の記憶がフラッシュバックする。
怖いよ
不気味
あっちいけ
千雨の言葉に重なるように真の記憶の中から聞こえてくるその声についに真の我慢も限界を迎える。
「この街の何もかも、全部おかし「うるさいっ!!」」
突然、真は千雨の言葉を遮るように叫ぶ。
黙っていた真の突然の叫びに千雨は驚いたように体を震わせる。
驚きとともにその顔に恐怖を浮かべる千雨を見て真は若干ではあるが正気を取り戻す。
そして若干正気に戻った真は中学生に怒鳴りつけるという暴挙を行ったことによる罪悪感といまだ鳴りやまない過去の声にその足を若干ふらつかせる。
その真の肩を支える人物がいた。
「っ……。大丈夫ですか、清水さん」
「絡……繰……?」
「絡繰さん?」
ふらついた真を支えたのはいつの間にか真の横に姿を現していた茶々丸だった。
麻帆良に救われた真と麻帆良に傷つけられた千雨が出会えばこうなると思います。
これからもよろしくお願いします。