魔法先生ネギま!描かれる物語   作:びーびー

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第四話 再び、森の中で

 

 

 

 

「そうだ、猫、描こう」

「え?突然何?京都、行く?」

「いや、CMの話じゃなくて、ほらこの間教えてもらったあの広場だよ」

 放課後の雑談中に突然始まった真の某旅行会社のキャッチコピーをもじった宣言に一緒に話していた浩輔は目を白黒させながらもその真意を問いただす。

 真が言う広場とは以前浩輔が真に教えた森の中の広場で、わかりやすく言えば真と茶々丸が出会った広場のことだった。

 そもそもこの広場を真に紹介した浩輔の言葉では、飼われているもの、野良猫を問わず多くの猫が森の中の広場に集まっており、そのほとんどが人なれをしており近づいても逃げないというものだった。

 広場自体の美しさや茶々丸と出会ったことでいろいろと忘れていた真ではあるが、あの広場に行った目的には生の猫を間近で描くことも入っていた。

 実際の所は、近づいてくる茶々丸の気配に気づいた猫がそちらの方にむかってしまっていたため真が広場に着いた時そこには文字通り猫の子一匹もいなかったわけだった。

 「やっぱりそうだ、そうしよう」

 「あぁ、あそこの広場ね。確かに絵を見たときに猫がいないなと思ったんだよ」

 「というわけだから、今日はもう行くわ」

 そう言いながら真は鞄の横にかけていた鞄を手にする。

 「へーへー。まぁ俺もこの後女子チア部を見学に行かないといけないからちょうどい い」

 「……まぁ、捕まらない程度にしとけよ」

 いやらしい顔でにやつく浩輔に最低限の忠告をして見捨てて、真は教室を後にする。

 あの顔の浩輔に何を言っても無駄なのは経験上知っており、不本意だが浩輔の一番の親友と周囲に認識されているため、後で自分にまで追求の手が伸びてこないように「俺は注意しました」と言えるように予防線をはる。

 余談だがこの後、チアリーディング部から通報され生徒指導の教師に連行されながら、「俺は悪くない」と連呼する一人の学生がいたことは言うまでもないだろう。

 「いやー、いい天気だ」

 来る未来に思いをはせながら降り注ぐ日差しに目を細める真だった。

 

 

 

 

 森の中を歩きながら真は数日前に出会った一人の少女を思い出していた。

 絡繰茶々丸と名乗り全身に猫を乗せた少女。

 自らを機械と言い、しかし猫の扱いに困る少女。

 真が広場を目指す理由の一つに彼女の存在があった。

 と言ってもそれは色恋といった艶っぽい理由ではなく、茶々丸との別れ際に真の行動が原因であった。

「もしこれで猫に怪我でもさせてたら笑えんしなぁ」

別れ際に猫をつかむ力加減と言って彼女の手を包んだことは咄嗟の思い付きであり、その後、「どこの少女漫画だ」と悶絶したのだがしばらくするともし茶々丸が猫をつかむことに挑戦し、怪我をさせていたらという不安が真を襲った。

普通ならそこまで考えないのかもしれないが、昔の事件のせいで物事の最悪な事態を想定する癖がついている真は、茶々丸が猫を傷つけ、そのことで彼女の心に傷ができたらと考えここ数日もんもんとしていた。

それなら確認しに行けばよかったのだが、真も思春期なのか、気障なセリフを言って別れことで茶々丸に気持ち悪いと思われていたらなどという考えが真の足を広場に向けないでいて、板挟みになっていたのだが、ついに覚悟を決めた真が発した言葉が冒頭のそれだった。

「あー」

もう少しで広場というところに真はいた。そしてそこから10分ほど動いていない。

いくら覚悟を決めたといっても実際に会うかもしれないとなるとその足は止まり、口からは悩むような声しか出てこない。

このままでは少なくとも日が暮れるくらいまでは悩んでいそうなものだったが、幸か不幸か真の立ち尽くしている場所は広場からつながる道の近くだった。

つまり、

「清水さん?」

広場を利用する人も通るということで、

「よ、よお絡繰。奇遇だな。」

一度出会ってしまえばそこから逃げ出すほど真は臆病ではなかった。

 

 

 

「……」

「……」

猫の鳴き声や風が葉を揺らす音はするがそこに人の声は混ざっていない。

広場の近くで出会い、特に会話をすることもなくそれぞれが広場のベンチに座りそれぞれのやることに手を付ける。

そもそも茶々丸は起動してからあまり時間がたっていないということもあり人と積極的に会話を使用とする性質ではなかったし、真は真で人と話すことは苦手ではないが以前のことやそもそも年頃の女性と気軽に会話をこなすという経験値が圧倒的に不足しており結果としてお互い無言で作業をするといった状態が続いていた。

茶々丸は持ってきたキャットフードを開封し、真は鞄からスケッチブックを取り出す。

偶然にも数日前と同じ状況であったが、それぞれに数日前とは違っている状況があった。

茶々丸には猫は乗っておらず、真は描くことが始められないでいた。

猫がほぼ茶々丸の方に言ってしまっているといったこともあったのだが、ちらほらと真の近くにいる猫も真が近づこうとしたり、手を伸ばしたりするとするりと逃げて行ってしまうのだった。

遠くから描くのでも構わないのかもしれないが、浩輔が言っていた「逃げない」という言葉もあり、若干意地になったように猫に近づこうとするが成果はなく力なくベンチに腰を下ろす。

「話が違うぜ、浩輔」

口からは友への愚痴がこぼれる。

以前も同じようなことがあったことを思い出しもしかしたら自分が猫に嫌われているだけなのかもしれないという考えを思考の片隅に追いやる。

自分が何かに嫌われているという考えはだいぶ落ち込むものだ。

それは相手が人間だろうと動物だろうと変わりはしない。

絵に集中していれば何とかなるかと考え、茶々丸の後に続いて広場にやってきたが、こうなってしまうと真は手持無沙汰になってしまう。

この場を去るという選択肢もあるのだが、この広場に来てまだ数分しか経っていないのに立ち去るというのは茶々丸を避けているようで真がその選択肢を取ることはなかった。

結果、やることがなくなった真の目は自然と猫が作り出す円の中心部にいる茶々丸に吸い寄せられる。

正確にはその手にだが、その手はキャットフードに殺到する猫に隠され真からは見えなかった。

しばらくそのまま時間は過ぎ去っていく。

「あの後も猫に餌やりに来てるのか?」

穏やかに過ぎていく時間が真の緊張感を奪い去ったのかもしれない。

そう思えるほど言葉は自然に真の口から零れ落ちた。

言った本人も茶々丸が言葉に反応して真の方向を向いてから自分が話しかけたことに気づくくらいにそれは自然だった。

「はい、帰り道からは少し離れていますがマスターが放課後は自由にしていいと許可をいただきましたので」

「へぇ、前も思ったがすごいな、猫」

そう言って笑っている真を見て茶々丸は少し首をかしげる。

「清水さんは絵を描かれないのですか?」

「あぁ、いや、まあな」

真は軽く足元を見渡し次に茶々丸の足元を見て、降参という風に両手を上げる。

「猫を描こうかな、と思ってきたんだけどどうにも、な」

その真の言葉に少し考えるようにした後、茶々丸は足元の猫から白い子猫を抱き上げ、真の方へ歩いてくる。

茶々丸の一歩一歩に猫たちは道を開け、その後ろに続いていく。

そして茶々丸は真の前まで来ると軽く頭を下げる。

「先日はありがとうございました、清水さん」

そう言いながら茶々丸は抱いた猫を真に差し出してくる。

驚いたといったように口をぽかんとあけながら真は差し出された子猫を無意識に受け取る。

アドバイスは役に立ったか、その後どうなったかといった心配をしていて、それをどう切り出すかを悩んでいた真だったが、いざ来てみれば茶々丸本人は猫に群がられて困っていた先日とは別人のように真の心配を簡単に打ち消してしまった。

「こ、こいつは近くで描いても大丈夫かな?」

考えていた言葉が消し飛び、そして真の口から出てきたのは何ともらしい言葉だった。

「はい」

「そっか、ありがとな。」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

いやこっちこそ、いえこちらこそといったお礼の言い合いにあきれたように真の腕に抱かれた子猫はあくびをして、まだ?というように一つ「なー」とないた。

その鳴き声に真は苦笑を漏らす。

「主役がお待ちかねだ」

そう言って子猫をおろし準備を始める。

茶々丸はその様子を見てゆっくりと先ほどまで座っていたベンチまで戻り腰を下ろした。

それを視界の片隅で捉え、真はゆっくりと静かに線を重ね始める。

 

 

この空気を壊さないように、慎重に。

 

 

この空気を絵にあらわせるように   やさしく。

 


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