捏造ヘヴィーオブジェクト4.5巻 『前線都市』 作:草花内木蔭
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ヘヴィーオブジェクト4.5巻
『前線都市』
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第一章
『第一の矢は空より来たりて』
>>着弾都市落着撤退戦
戦争の常識が変わったのは、巨大な兵器が生まれたからではない。
核兵器さえ耐える何十層もの装甲。
数十万トンにも及ぶ巨体を時速数百キロで動かす推進装置。
戦車や戦闘機はもちろん、旧時代の軍隊一つを正面から踏み潰す火力。
Object。
それが戦争の主役になったからだ。
だからこそ。
クウェンサー=バーボタージュは、その日まで一つの常識を疑った事がなかった。
Objectとは。
地面か海面の上を走ってくるものだ。
『上』
短い通信だった。
「上?」
クウェンサーは空を見る。
青空。
雲。
その中央に黒い点。
「何だありゃ」
隣のヘイヴィア=ウィンチェルもライフルを下げた。
「航空機?」
『違う』
ベイビーマグナムからミリンダ=ブランティーニの声が届く。
「ミサイル?」
『違う』
「じゃあ何だよ」
『Object』
沈黙。
「…………は?」
点が大きくなる。
落ちてくる。
「おい待て」
ヘイヴィアの顔から血の気が引いた。
「Objectって空飛んだか?」
「俺に聞くな!!」
直後。
『全軍退避!!』
フローレイティア=カピストラーノの怒声が全周波数へ叩き込まれた。
『着弾予測地点を更新! 基地設備は放棄!! 車両を待たず可能な限り離れなさい!!』
「着弾!?」
『あれは輸送中のObjectではありません!!』
空から落ちてくる灰色の塊。
『Objectそのものが投射質量弾です!!』
「ふざけんなああああああああああああああああああっ!!」
二人は走った。
◇
地平線が跳ね上がった。
爆発ではない。
衝突だった。
数十万トン単位の質量。
時速三〇〇〇キロを超える速度。
それが地表へ叩き込まれる。
衝撃波が基地を襲った。
クウェンサーは吹き飛ばされ、何度も地面を転がった。
「がっ……!?」
耳が聞こえない。
肺から空気が抜ける。
視界いっぱいに砂塵。
「クウェンサー!!」
「生きてる!!」
「チッ、生きてたか!!」
「何で残念そうなんだよ!!」
やがて。
砂の向こうから、それが見えた。
灰色の巨大球体。
Object。
だが。
「……何だ?」
周囲の金属片が動いている。
基地の残骸。
鉄骨。
破壊された車両。
装甲材。
それらが灰色のObjectへ集まっていく。
鉄骨が組まれる。
柱が立つ。
レールが敷かれる。
巨大な穴が掘られていく。
フローレイティアから情報が送られてきた。
資本企業。
オーメル・サイエンス社。
正式名称。
クレイドル025。
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【インスタント アーセナル】
INSTANT ARSENAL
全長…約140~3000m(本体50m)
最高速度…時速560~3200キロ
装甲…10cm厚×50層(不純物含まず)+磁力式再生・増設機能
用途…熱圏外投射質量弾兼着弾地点制圧用兵器
分類…長期陸上運営特化型第二世代
運用者…オーメル・サイエンス社(資本企業)
仕様…宙間用ジェット+マイクロマシン操作式
主砲…衛星軌道掃射砲(転用)二門『エーレンベルク』
副砲…大型レーザー砲台『プロキオン』四門
複合レーザー砲台『ネペンテス』
大型子機『FF130-FERMI』二機
小型子機『オジギソウ』散布コンテナ
正式名称…クレイドル025
コードネーム…即席工廠(正当王国)
ジェヴォーダン(信心組織)
メインカラーリング…灰
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「三〇〇〇メートル?」
ヘイヴィアが目を疑った。
「Objectの全長に使う数字じゃねえぞ!!」
「本体は五〇メートルだ」
「じゃあ残り二九五〇メートルは何なんだよ!?」
答えは目の前で作られていた。
建物。
道路。
鉱山。
製錬設備。
砲台。
工場。
そして。
工場を作るための工場。
『ちゃくだんかくにん』
通信網へ、力の抜けた声が入り込む。
『きゅうきちしざい』
『かいしゅうかいし』
次々と鉄骨が引き寄せられる。
『ふへ』
『こうじかいし』
「……誰だ?」
『敵Eliteよ』
フローレイティアが答える。
『識別名、Factory Crafter 021』
「ファクトリークラフター?」
「略してファクラ021ってところか」
クウェンサーは呟く。
何となく引っ掛かった。
CRADLE 025。
Factory Crafter 021。
しかし今は、それを考えている暇などなかった。
『撤退を継続! ベイビーマグナムは殿を!!』
敵は追ってこない。
追う必要がないからだ。
土地を取った。
資源を取った。
基地を取った。
ならば。
そこを利益へ変換すれば良い。
◇
翌朝。
衛星写真を見たヘイヴィアが黙った。
「…………」
「どうした?」
「クウェンサー」
「ん?」
「ここ」
画面を指す。
「昨日まで俺達の基地だったよな?」
「ああ」
「昨日の朝、Objectが落ちたよな?」
「ああ」
「俺達逃げたよな?」
「ああ」
「じゃあ」
画面いっぱいに広がる工場群。
道路。
発電設備。
砲台。
鉱山。
そして居住区画。
「この街はどこから生えてきた!?」
クウェンサーはしばらく写真を見つめた。
「……作ったんだろ」
「一日で!?」
遠く離れたその都市では。
『ふへ』
『じゅんちょう』
ファクラ021が建設進捗を眺めていた。
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第二章
『第二の矢は都市より産まれる』
>>着弾都市内部潜入作戦
最初にそのObjectを発見した時。
正統王国側の分析班には、安堵する者さえいた。
敵ではない。
少なくとも自分達を狙ってはいない。
情報同盟所属。
作戦立案偵察局第三大隊。
幾多のObjectを一方的な狙撃によって沈めてきた、歴戦の第二世代。
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【ピンホールショット】
PINHOLE SHOT
全長…約75m(砲身含む)
最高速度…時速620キロ
装甲…20cm厚×50層(溶接等不純物含む)
用途…超望遠距離狙撃兵器
分類…偵察・超超距離狙撃特化型第二世代
運用者…作戦立案偵察局第三大隊(情報同盟)
仕様…静電気式
主砲…超射程大型レーザー砲一門
副砲…下位安定式プラズマ砲三門
長射程大型レーザー砲台六門
正式名称…
コードネーム…ピンホールショット(正当王国)
ホールインワン(資本企業)
画竜点睛(信心組織)
(全てその射撃精度から)
メインカラーリング…迷彩グレー
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「こいつは強いぞ」
クウェンサーは撃墜記録を眺めた。
「どこが?」
「変なものが何もない」
「それ褒めてる?」
「超遠距離から敵を見つける。狙う。当てる。殺す。それだけを第二世代Objectの規模で突き詰めてる」
特殊能力はない。
敵の砲弾を曲げない。
敵を乗っ取らない。
工場にもならない。
ただ。
恐ろしく遠くから、恐ろしく正確に撃つ。
それだけで歴戦になった。
『交戦するつもりはありません』
フローレイティアが言う。
『放っておきなさい。目標はInstant Arsenalのようです』
「敵同士で潰し合ってくれるなら万々歳だ」
ヘイヴィアが笑った。
「ピンホールショットが勝てば、俺達があの街を取り返せる」
「そう単純かな」
「じゃあ資本企業が勝つ方に賭けるか?」
「いや」
クウェンサーは双眼鏡を覗いた。
「……何で撃たないんだ?」
◇
ピンホールショットは撃たなかった。
一時間。
二時間。
距離を維持しながら、ひたすら観測する。
光学。
赤外線。
電磁波。
推進機構。
砲台配置。
子機。
地下設備。
建設速度。
射撃管制。
情報同盟側には理由があった。
第一報。
《敵Object識別名称:CRADLE 025》
過去記録照合。
該当あり。
古い。
開発中止扱い。
いや。
正確には。
《開発状況不明》
プロトタイプは、火砲を持たない。
多数の子機を展開する特殊Objectとして設計されていた。
しかし開発部隊からの進捗報告は徐々に減少。
査察部隊が現地へ到着した時には。
Objectそのものが消えていた。
開発陣も。
買収。
産業スパイ。
計画的離反。
詳細不明。
そして今。
資本企業の戦場に。
CRADLE 025がいる。
さらに。
《敵Elite識別:FACTORY CRAFTER 021》
二つの名称。
数字。
情報同盟式。
それだけで十分だった。
これは偶然ではない。
だからピンホールショットは撃たない。
調べる。
かつて自分達の手元から消えたObjectが。
何になって帰ってきたのか。
◇
「また増えた」
「何が?」
クウェンサーが二枚の写真を並べる。
一時間前。
現在。
「……砲台?」
「こっちにも」
「工場も増えてるぞ」
「だからピンホールショットが調べる」
「そりゃ偵察機だからな」
「その間にまた増える」
「…………」
ヘイヴィアが黙った。
「なあ」
「うん」
「これ、いつ調査終わるんだ?」
「多分」
クウェンサーは双眼鏡を下ろした。
「終わらない。」
◇
ピンホールショットは優秀だった。
だからこそ。
知らないものを見つけるたびに、情報を集めた。
旧設計には存在しなかった大型レーザー砲台。
記録する。
複合レーザー砲台。
記録する。
大型子機。
記録する。
衛星軌道掃射砲転用品。
記録する。
情報を一つ得る間に。
新しい設備が一つ完成する。
また調べる。
また増える。
それでもEliteは待った。
これはただの敵ではない。
失踪した自陣営の開発計画かもしれない。
破壊する前に。
知る必要がある。
そして。
『てきおぶじぇくと』
ファクラ021の声が響いた。
『みつけた』
◇
着弾都市が動いた。
Objectではない。
都市が。
砲台が旋回する。
プロキオン。
ネペンテス。
FF130-FERMI。
『ふぁーみくん』
『おねがい』
歴戦の狙撃手も即座に切り替えた。
偵察終了。
戦闘開始。
超射程大型レーザー砲。
発射。
一閃。
都市の端が爆発した。
プロキオン一基が沈黙。
「当てた!!」
ヘイヴィアが叫ぶ。
第二射。
長距離から射撃管制施設を正確に貫く。
大型レーザー六門。
プラズマ砲。
弾幕を抜けながら、一つずつ着弾都市の目と牙を潰していく。
「強え!!」
「ああ!!」
「だったら最初から撃てよ!!」
クウェンサーは答えなかった。
答えを知らなかったからだ。
だが。
もう遅い。
偵察開始時点には存在しなかった砲台がある。
存在しなかった射線がある。
存在しなかった生産設備がある。
ピンホールショットは敵の情報を集めた。
Instant Arsenalはその時間で。
敵を殺すための都市を完成させた。
ピンホールショットのレーザーがFF130-FERMIの一機を捉える。
大型子機が姿勢を崩す。
それでも別方向から光が走る。
回避。
さらに別方向。
回避。
逃げ道が削られていく。
そして。
遥か遠方。
エーレンベルク。
発射。
迷彩グレーの狙撃手を、白い閃光が呑み込んだ。
◇
「…………」
ヘイヴィアが双眼鏡を下ろした。
「歴戦なんだよな」
「ああ」
「何機もObjectを殺してきた」
「ああ」
「最初から殴ってれば?」
「善戦したと思う」
「勝てた?」
「分からない」
クウェンサーは都市を見る。
「でも、あんな負け方はしなかった」
遠く。
『こうじさいかい』
『ふぁーみくん』
『しゅうりする』
「……Object一機殺して工事に戻りやがった」
◇
その日の夜。
クウェンサーはフローレイティアの前にいた。
「潜入します」
『却下』
「まだ説明してません」
『あなたが説明すると採用したくなるので聞きません』
「Objectなら見つかる」
『却下』
「人間二人なら」
『却下』
「内部構造を――」
『却下!!』
ヘイヴィアが横から口を挟んだ。
「少佐、今日の俺は全面的にあんたの味方です」
『ならウィンチェル軍曹』
「はい」
『彼を一人で行かせるの?』
「…………」
二時間後。
「何で俺もいるんだよ!!」
ヘイヴィアは着弾都市の排水路を這っていた。
「友達だから」
「今この瞬間だけ絶交していい!?」
◇
内部へ入って分かった。
これは基地ではない。
工場でもない。
工場を作る工場だ。
地下鉱山。
資材搬送。
精錬。
組立。
発電。
製造。
防衛。
それら全てが相互に接続されている。
「待て」
クウェンサーが止まった。
「今度は何だ」
「この搬送ライン」
「資材だろ」
「どこへ入ってる?」
端末を見る。
線を追う。
行き先。
Object本体。
「……専用精錬炉じゃない」
「は?」
「まだ完成してないんだ」
九時間目。
精密組成分析。
十時間目。
専用精錬設備完成。
その間。
採掘された資源はObject内部を通過する。
炉心近傍の熱を利用して精錬。
金属を取り出す。
不純物は粉砕。
着弾地点周辺の空隙を埋める充填材へ。
「一時間」
「何が」
「穴がある」
クウェンサーが笑った。
「九時間目の分析が終わってから、十時間目の専用炉完成まで」
「……何ができる?」
「次に落ちてきたら分かる」
《未登録人員を検出》
「…………」
「…………」
『ふへ』
聞き覚えのある声。
『なんかいる』
「逃げるぞ!!」
「お前いっつもそれだな!!」
◇
二人が都市圏外へ逃げ切った直後。
工場の動きが変わった。
完成。
作戦終了。
中心部から灰色の本体が切り離される。
推進器点火。
「……嘘だろ」
ヘイヴィアが見上げる。
クレイドル025が空へ上がる。
雲を突き抜け。
さらに上へ。
熱圏へ帰っていく。
「…………」
「…………」
「なあ」
「何だ」
「俺ら何のためにここまでやったんだ」
クウェンサーは奪ったデータを見る。
組成分析。
内部搬送。
精錬。
建設工程。
九時間目から十時間目。
たった一時間。
「収穫はあった」
「そうかよ……」
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第三章
『第三の矢を埋め戻せ』
>>着弾都市再落着阻止戦
空に黒い点が現れた。
二度目だった。
「来た」
クウェンサーが見上げる。
「嬉しそうに言うな!!」
ヘイヴィアが怒鳴る。
第一の矢。
再び。
クレイドル025が地上へ突き刺さる。
◇
三時間。
旧基地資材回収。
地下鉱山建設。
さらに五時間。
八時間目。
本格採掘開始。
そして。
九時間。
「分析が終わった」
クウェンサーは時計を見る。
「次は?」
「一時間後」
「それまでに?」
「こいつが知ってる地面と、実際の地面を別物にする。」
◇
海水。
地下水。
塩分を含んだ砂。
瓦礫。
混ぜる。
流す。
搬送ラインへ。
クレイドル025は分析結果に従って処理を続ける。
だが。
分析した地質と。
流れ込んでくる物質は。
もう違う。
《資材組成異常》
「来た!」
《精錬効率低下》
《建設工程遅延》
工場の音が変わる。
《施設建設続行不能》
停止。
ベルトコンベアが止まる。
砲台が止まる。
製造ラインが止まる。
都市全体が。
静かになる。
ヘイヴィアが笑った。
「やったか!?」
クウェンサーが振り向いた。
「お前それ――」
《施設建設への重大な妨害を検知》
「…………」
《機動躯体をロード》
「…………は?」
《都市部民間人は至急待避してください》
ロック解除。
巨大な配管が切り離される。
電力系統が分断。
工場中央。
クレイドル025の一部が持ち上がる。
「おい」
「俺も知らない」
「まだ何も聞いてねえぞ」
「俺も知らない!!」
巨大な機動躯体。
工場に接続されていた戦闘設備。
主砲。
副砲。
推進装置。
それらが一つのObjectとして立ち上がる。
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【ファクトリー チェック】
FACT ORY CHECK
全長…約140m(本体50m)
最高速度…時速560キロ
装甲…10cm厚×50層(不純物含まず)+磁力式再生・増設機能
用途…着弾地点二次制圧用兵器
分類…陸上運営円滑化特化型第二世代
運用者…オーメル・サイエンス社(資本企業)
仕様…宙間用ジェット+マイクロマシン操作式
主砲…衛星軌道掃射砲(転用)二門『エーレンベルク』
副砲…大型レーザー砲台『プロキオン』四門
複合レーザー砲台『ネペンテス』
大型子機『FF130-FERMI』二機
小型子機『オジギソウ』散布コンテナ
正式名称…クレイドル025
コードネーム…即席工廠(正当王国)
ジェヴォーダン(信心組織)
スコルミル(信心組織・並大抵の事では起きない神話の巨人から)
メインカラーリング…灰
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『ふへ』
通信。
『こうじのじゃま』
砲塔が旋回する。
『げんばかくにん』
「安全帽被って指差し確認だけしてろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ヘイヴィアの叫びを。
エーレンベルクの砲撃が吹き飛ばした。
◇
「同じだ!!」
走りながらクウェンサーは叫ぶ。
「何がだよ!!」
「武装!!」
「だから何だ!!」
「新しい武器を隠してたんじゃない! Instant Arsenalに付いてた装備を、そのまま機動躯体へ持ってきてる!!」
なら。
設計思想も分かる。
戦闘専用ではない。
工事を再開するための現場確認機。
異常原因を排除。
現場へ戻る。
接続。
迅速な復旧。
「トップヘビー……」
「何!?」
「あいつ上が重い!」
「見れば分かる!!」
クウェンサーの視線が。
止まった工場へ移る。
建設途中の専用精錬炉。
完成前。
まだ密封されていない。
そして。
「……赤い」
「何が」
「中」
溶融物。
停止したばかり。
まだ液体。
クウェンサーの視線がFACT ORY CHECKへ戻る。
「ヘイヴィア」
「その顔やめろ」
「こいつを倒す必要はない」
「じゃあ逃げるぞ」
「違う」
「嫌な予感しかしねえぞ」
「こいつに、俺達を倒したと思わせる。」
◇
FACT ORY CHECKの目的は。
人間二人を殺す事ではない。
工事を再開する事。
なら。
異常原因が消えたと判断すれば。
戦闘を続ける理由はない。
「本当に騙せるんだろうな!?」
「多分!」
「お前その単語好きだな!!」
爆薬。
瓦礫。
熱源。
破壊された装備。
最後に一発。
FACT ORY CHECKの射線へ、クウェンサー達のいた場所を残す。
閃光。
爆発。
土煙。
二人はその直前に地下の空隙へ飛び込んだ。
静寂。
『…………』
巨大な灰色の躯体が止まる。
『いじょうげんいん』
短い間。
『はいじょ』
ヘイヴィアが息を止める。
FACT ORY CHECKの砲塔が下がる。
こちらを探さない。
追わない。
旋回。
都市の方へ向く。
「……戻る」
クウェンサーが小声で言った。
「マジか」
「やっぱりだ」
FACT ORY CHECKは。
勝ったから帰るのではない。
仕事が終わったから戻る。
◇
『ふっきゅう』
灰色の巨体が都市側へ進む。
停止した工場。
中央の接続部。
FACT ORY CHECKが位置を合わせていく。
「今じゃない」
クウェンサーが呟く。
「まだ待つのかよ」
「接続位置まで行かせる」
「何で」
「移動中なら姿勢を立て直せる」
トップヘビー。
だがObject。
ただ横から爆破した程度で転ぶほど甘くはない。
なら。
自分から自由を捨てる瞬間を狙う。
接続。
規定位置。
規定角度。
左右の余裕。
ほぼゼロ。
まるで巨大な機械部品が。
ぴたりと元の場所へ嵌まり込むように。
『せつぞく』
FACT ORY CHECKが速度を落とした。
「まだ」
数十センチ。
接続アームが伸びる。
「まだ」
固定機構が展開。
巨体がわずかに沈む。
ヘイヴィアが爆破装置を握る。
「今か?」
「まだ」
都市側と機体側。
凹凸。
ガイド。
接続姿勢。
完全に噛み合う。
『ふっきゅうじゅんび』
「――今!!」
爆破。
◇
破壊するための爆薬ではなかった。
FACT ORY CHECKの装甲を抜くには。
あまりに小さい。
ただ。
接続姿勢に入った巨体へ。
横から一押し。
それだけで良い。
『――?』
わずかに傾く。
通常なら補正できた。
推進器を吹かす。
脚をずらす。
位置を取り直す。
だが。
接続ガイドが片側を拘束している。
固定機構が半端に噛み合っている。
逃げられない。
「傾け!!」
トップヘビー。
重心が越える。
都市側の構造材が軋む。
ガイドが破断。
FACT ORY CHECKが。
横へ倒れ始める。
その先に。
未完成。
未密封。
建設途中の専用精錬炉。
停止してからまだ時間は経っていない。
中身は。
液体のまま。
炉の縁が砕けた。
灰色の巨体が落ちる。
赤熱した溶融物が噴き上がる。
『…………』
警告。
《姿勢制御不能》
《外部機構異常》
《接続機構損傷》
《推進系異常》
《機動躯体復旧不能》
《建設工程――》
停止。
FACT ORY CHECKは。
そこで初めて。
そして一度だけ。
倒れた。
◇
「…………」
「…………」
ヘイヴィアが口を開く。
「やったか?」
「今度は言っていい」
「本当だな?」
「ああ」
「立ち上がらない?」
「ああ」
「第二形態」
「ない」
「本体が工場側からもう一個――」
「一回しか出てきてねえし一回しか倒してねえよ!!」
◇
後日。
資本企業。
オーメル・サイエンス社。
《クレイドル025損傷評価》
《修復可能》
《継戦時期待収益再計算》
《対象戦域における作戦継続》
不採算。
『ふへ』
ファクラ021は表示を見る。
『じゃあ』
『てったい』
さらに。
《人的侵入者による建設工程妨害対策》
《GREY LOTUS再配備》
却下。
《PEEKABOO再配備》
却下。
《小型子機『オジギソウ』散布コンテナ増設》
数秒。
承認。
『ふへ』
『つぎはだいじょうぶ』
◇
正統王国。
ヘイヴィアは報告書を睨んでいた。
「なあクウェンサー」
「何だよ」
「今回の戦果」
「うん」
「歴戦の情報同盟Objectが都市に撃ち殺されました」
「うん」
「俺達がその都市に侵入しました」
「うん」
「都市が空へ帰りました」
「うん」
「もう一回落ちてきました」
「うん」
「工事を邪魔したら都市からObjectが出てきました」
「うん」
「そいつに俺達を殺したと思わせました」
「うん」
「工事再開しようと戻ったところを」
「うん」
「接続中に横から蹴っ飛ばして」
「うん」
「作りかけの溶鉱炉に落としました」
「うん」
「勝ちました」
「うん」
沈黙。
「軍の正式記録だぞこれ!?」
「事実だから仕方ないだろ」
「俺達ドラゴンキラーだぞ!! もうちょっと伝説に相応しい撃破方法があるだろ!!」
「じゃあ何て書くんだよ」
「敵超大型兵器の自動復旧機構を逆利用した構造的撃破」
「工事現場の接続事故」
「言い換えろっつってんだろ!!」
◇
戦場から遠く離れた情報同盟。
一つの報告書が閉じられる。
CRADLE 025。
旧開発資料との部分一致。
火砲構成、不一致。
子機運用思想、一致。
現行武装の大部分について、資本企業移管後に再設計された可能性。
開発陣の所在。
不明。
技術移転経路。
不明。
当初からの産業スパイ活動の可能性。
否定できず。
買収による集団離反の可能性。
否定できず。
そして。
作戦立案偵察局第三大隊所属。
PINHOLE SHOT。
喪失。
最後に一文。
《CRADLE 025と旧試作計画の同一性について、確定には至らず》
情報を集めるために送り込んだObjectを失い。
それでも。
情報同盟は。
最後まで答えを得られなかった。
◇
一方。
クレイドル025が作り上げ。
その本体だけが空へ帰るはずだった場所には。
道路が残った。
工場が残った。
発電設備が残った。
建物が残った。
戦場だった場所に。
街が残った。
通常ならば。
都市は安全国にある。
戦争は戦場国で行われる。
二つは分けられる。
分けなければならない。
しかし。
資本企業の一社は。
その境界線へObjectを叩き込み。
戦争をしながら土地を取り。
土地を取りながら工場を建て。
工場を建てながら街を作った。
だから。
そんな矛盾した場所を指す言葉が必要になった。
前線であり。
都市でもある場所。
誰が最初に呼んだのかは分からない。
ただ。
いつしかその場所は。
こう呼ばれるようになった。
――前線都市。
◇
『ふへ』
別の戦場。
別の土地。
熱圏から地上を見下ろして。
ファクラ021は次の予定地点を確認する。
『つぎ』
表示。
《着弾地点承認》
『じゃあ』
『しごとする』
クレイドル025が。
再び空から落ちていく。
『ヘヴィーオブジェクト4.5巻 前線都市』
――了。
設定を投げて本文生成してもらって訂正して……を繰り返して作ってもらいました
やっぱ最近のAIやべーわ