黒龍ミラボレアスはアンネの周囲を旋回しながら、その巨大な翼を羽ばたかせた。風圧で彼女の制服が激しく揺れ、髪が乱れる。
「あ、あの...」
アンネは混乱していた。伝説の黒龍が自分を主人と認め、懐いている。これは学院始まって以来の異常事態だ。
「どうなってるんだ...」
教師の一人が呆然と呟いた。黒龍はアンネに害を加えるどころか、むしろ彼女を守るような動きを見せている。その姿はまるで忠実な番犬だ。
突然、儀式の間の扉が開き、数人の魔法騎士たちが飛び込んできた。彼らは黒龍の姿を見ると、即座に武器を構えた。
「黒龍だ! 討伐せよ!」
騎士隊長が叫んだ。黒龍はその声に反応し、アンネを背後に隠すように立ち塞がった。まるで主人を守るかのように。
黒龍ミラボレアスはアンネを背後に庇いながら、騎士たちを睨みつけた。その赤い瞳が危険な光を放ち、喉の奥から低い唸り声が漏れる。
「く、来るな...」
アンネは震える声で言ったが、黒龍は微動だにしない。むしろ威嚇の姿勢を強め、翼を広げて巨大な影を作り出した。
「馬鹿な! 黒龍が人間を守っているぞ!」
騎士隊長は信じられないという表情で叫んだ。黒龍は伝説では破壊と殺戮の象徴。人間を守るなど有り得ないはずだった。
「アンネから離れろ!」
一人の騎士が魔法の槍を投げた。しかし、黒龍は素早く動き、その巨大な爪で槍を掴み取った。そして、槍を粉々に砕いた。
「こ、これは...」
教師たちも困惑していた。黒龍は明らかにアンネを主人と認識し、その命令に従っているようだった。
黒龍ミラボレアスは砕いた槍の破片を床に落とすと、再び騎士たちに向かって威嚇の姿勢を取った。その巨体が威圧感を放ち、騎士たちは思わず後ずさる。
「退却だ!」
騎士隊長が叫んだ。黒龍の力は予想以上だった。伝説では古代文明を滅ぼした存在。騎士団では太刀打ちできないことを悟ったのだ。
騎士たちは慌てて儀式の間から逃げ出し、扉が閉まる音が響いた。
黒龍はアンネに向き直ると、その大きな頭を彼女の胸に押し付けた。まるで「もう安全だ」と言うように。
「あ、あの...ありがとう...」
アンネは混乱しながらも、黒龍の頭を撫でようと手を伸ばした。黒龍は目を細め、気持ちよさそうに顔を擦り付ける。その姿は伝説の恐ろしい黒龍とは思えないほど、愛らしかった。
アンネの手が黒龍の硬い鱗に触れると、不思議な温かさを感じた。伝説の黒龍は冷たい存在と思われていたが、実際は生きている証拠だ。
黒龍はアンネの撫でる手に頭を擦り付け続け、まるで猫のような仕草だ。その巨大な体でありながら、その様子はどこか愛らしくもあった。
「アンネ...」
教師の一人が呆然と呟いた。儀式の間には他の生徒たちも残っており、皆一様に驚愕の表情を浮かべている。
「伝説の黒龍が...アンネに懐いている...」
一人の生徒が信じられないという声で言った。Fランクの魔力しか持たないアンネが、伝説の黒龍を手懐けたという事実は学院の常識を覆すものだった。
黒龍はアンネに甘えるように頭を動かし続け、その瞳はどこか満足げだ。まるで長年待ち続けていた主人を見つけたかのように。