しかし、聖の瞳には異なる季節が映っている。
春。幼かったゆえに実らなかった想い。
夏。弱かったゆえに激情に流されて選べなかった道。
秋。浅はかだったゆえに愛する人を苦しめた罪。
過ぎ去った日々の、その折々の苦しみや悲しみ、喜びはその時の自分にとって必要なことだったと静かに受け入れたい。そして、あの人との出会いは間違いではなかったのだと、これからも証明していきたい。
白き花びら1
「あー、馬鹿馬鹿しい。」
何に?
「全てに。」
無邪気にじゃれあう同級生たちに。
自分たちの教育は間違っていないと信じている両親に。成績さえよければ何も言わない学校に。そして、それらを見下しながら何も行動しない自分に。
慈愛に満ちた微笑みでリリアンの生徒を見守る白いマリア像に問いかける。
「あなたなら、こんな私を罰する?」
マリア様は何も答えない。
答えたところで私が素直に耳を貸すとは思えないけど。
その日はお姉さまが薔薇の館にいないので行く気になれず、かといって真っ直ぐ家に帰りたくもなく、学園の中をぶらぶらしていた。
「マリアさまの心、それは青空」
幼い頃、さんざん歌わされた一節。どうして思い出したのかというと雲一つない晴天だったから。それだけ。天を見上げて目を閉じると、自分が空気になる気がした。私は風に煽られて空高く舞い上がり、青空にとけて消えていく。
消えてしまいたかった。
佐藤聖という存在を、痕跡を、この世から抹殺したいといつの頃からか願っていた。
同級生、家族、学校。
何もかもうんざりしながらも行動にうつせない。そのくせ不平不満ばかりを口にするズルい自分。こんな私でもマリア様は救ってくださるのだろうか。
世界に迎合できない意固地な私。
清純なことに反発を覚える私。
私はマリア様を信じない。
ずーっと前に死んだ人に何を期待すればいいのか。もし、神様に近い存在だと言うのなら今すぐここに降りてきて迷える魂を救いたまえ。
(なんて。何を馬鹿なことをやってんだか。)
何をしたらいいのかわからない。
何をしたいのかさえもわからない。
そもそも夢や将来への展望もなく、どのように生きればいいのかわからない。
私は御聖堂の外壁の影に突っ立っていた。
いつの間に、こんな所まで来てしまったのか。潜在意識が神に助けを求めていたとでもいうのか。ちょうどいいから、ここで休ませてもらおうと私は重たい扉を開けた。
真っ先に飛び込んでくるのは磔にされた木製のイエスさま。左には聖母像。右には鮮やかなステンドグラスから射し込む光が聖堂の中を明るくしていた。
私は後ろから二番目の列の、壁際の椅子を選んで仰向けになった。天井では裸の天使たちが戯れている。キリスト教を信じていないけれど、この御聖堂は美しいと思う。お寺や神社も好きだから、そのての建築物が好きなのかもしれない。
私は自分の肩を抱いて赤ん坊のように丸くなった。こうしていると、固い殻に護られているような気持ちになる。
誰も私に触れるな。
私のことなんて全員忘れてしまえ。
どのくらいそうしていただろうか。
どこかで物音がした。
「誰?」
聖堂に残る冷気の中で、その人の周りだけ澄んでいるようにみえた。
「......ごきげんよう。」
その人は十字架の前で、ステンドグラスの光を右に受けながら真っすぐ聖をみていた。あまりにも白く、神々しい。彼女は微笑みをたたえながら、ゆっくりと歩いてきた。
「新入生?」
「そうです。今年からリリアンに。」
今年からか。
通りで初めて見る顔だと思った。
「名前は?」
「久保栞です。」
その名前は私の胸の奥深くに刻まれた。
平凡な名前であるのに、彼女のものだと思うだけで特別清楚に感じられるから不思議だ。
「私の名は、」
「存じています。白薔薇のつぼみ、佐藤聖さま。」
「え?」
「新入生歓迎会で、紹介されていらしたから。」
そういって、彼女ははにかむように笑った。
久保栞。
他人に対してほとんど関心を抱かない私が、どうしたことか、この少女にだけは深く関わりたいとおもった。私と栞はあの春の聖堂での出会い以来、少しずつ、けれど確実に親しくなっていった。
この気持ちはなんだろう。
近づきたくて、触れたくて、理解したくて。
おそるおそる伸ばした手を栞は拒まずに受け入れた。
「ごきげんよう。栞。」
「ごきげんよう。聖」
私は栞に呼び捨てで呼ぶようにお願いした。上級生を呼び捨てだなんて、と戸惑っていたけれど渋々ながら聞いてくれた。
私は栞に、この生きているのか死んでいるのかわからない空虚な日常から救ってもらいたかった。私の精神は常に自分を守っていた心の鎧を脱ぎ捨てて栞の前に跪いていた。栞といれば望んでいたものが手に入ると。わけもなく信じていた。自分をさらけ出してでも得たいものを、彼女の中に見出していた。
だけど薔薇の館に連れて行くことはもちろん、お姉さまや山百合会の幹部に紹介することはなかった。それは二人きりの時間を大切にしたいという思いと、対等でありたいという気持ちから。ロザリオの授受もしなかった。
けれど、外野の目は厳しかった。
「栞さんを妹になさりますか?」
「妹にはしない。」
尋ねてきたのは春にお姉さまが連れてきた一年生。
『細田千尋』
第一印象は野暮ったい子。
分厚い前髪と牛乳瓶の底のような眼鏡をかけていて、誰も素顔を見たことがないという。
聖も日本人離れした容姿をしている自覚はあるが、千尋も外の血が入っていることがわかる見た目をしているので、名前は知らなくても親近感は抱いていた。真っ赤な髪と平均を大幅に越える身長は東京タワーみたい。
紅薔薇様にはその髪をどうにかしなさいと会うたびに怒られていたっけ。聖もよく身だしなみの指導をされないなと思っていたので同感だ。
最初、お姉さまが連れてきたときは使い物になるのか(自分を棚に上げて)心配だったけど、学年1の秀才は伊達でなく事務仕事は令や祥子よりも出来が良かった。
「だから千尋は気にせず、薔薇の館に来なさい。」
「わかりました。」
お姉さまが太鼓判を押しただけあって、人柄はよかった。気遣いはできるし、祥子のヒスも受け止めているし。薔薇の館に寄りつかない聖とは違って、彼女は居心地がよさそうだった。
だから、聖に気にせず、代わりに山百合会で優秀な頭脳を役立てて欲しい。
「もう行っていい?」
「お時間をありがとうございます。」
千尋は賢いから、私が栞を待たせてイライラしているのを察したのだろう。礼をしてすぐに去った。私も栞のもとへ小走りで向かった。
「どうしたの?」
「別に何もないよ。」
校舎の裏で栞は私のことを待っていた。膝の上には詩集があって、まだ開いたばかりなのだろう。菫の紐が白いページに垂れていた。
私は何も言わずに栞を抱きしめた。
「何か、言われた?」
「私たちの味方は誰もいないのかもしれないね。」
「そんな風に言うものではないわ。」
背後に山百合会幹部の影がある私と比べて、風当たりが強いはずなのに、栞は絶対に他人の悪口を言わなかった。心配だったけれど、逆境に負けずに清廉な態度を崩さない彼女の強さにますます惹かれた。
「だめよ。投げやりになったら。」
栞は私の肩に頭を預けて、念押しをするように小さく呟いた。
「細田千尋って知ってる?」
「新入生総代の方ですよね。」
栞は人を覚えるのが得意だ。それは聖と違って人に興味を持ち、博愛の精神を実践しているからだろう。
「彼女には気をつけて。」
「なぜですか?」
「ただ、貴女が心配なだけよ。」
千尋は白薔薇様を慕っていた。
彼女が栞に悪意をもつ可能性は低いが、山百合会のために忠告することはあるかもしれないと思った。いつ見かけても一人で勉強している真面目な優等生。誰とも親しくせず、「公」に尽くす彼女の堅苦しさに危機感を感じていた。
「単刀直入に聞くのだけれど、聖さまの妹になる予定は?」
「申し訳ございません。」
警戒空しく。別の日。栞と千尋が話している所に出くわした。予想通り、聖の妹の件で話しかけた様だった。二人は聖の存在に気づかず、そのまま話しつづけている。もし、千尋が栞に対して酷いことを言ったら、すぐに出て行けるように近くに茂みの裏に隠れた。
「どうして、と理由を聞いてもいい?」
「私、高校を卒業したらシスターになるの。聖さまのことは大切だけれど、これ以上仲良くなるのは......困るわ。」
目の前が真っ暗になった気がした。
突然の告白にショックを受けると同時に、確かに栞にこれ以上似つかわしい職業はないと思った。出会ったとき、聖も栞に救いをもとめたのだから。
「そういうこと。」
「今の説明でわかったの?」
混乱している聖をおいて、2人の会話は先に進む。
「実は知り合いにシスターになりたい子がいるんだ。その子もね、貴女と同じようなことを言うの。」
「同じ?」
「身軽でいたいって。」
栞は「なるほど」と苦笑した。
身軽でいたい。それは指す意味を深く考えてはいけないような気がして、先ほどよりも二人の会話に集中した。一つの共通点が見つかったからか、千尋と栞は先ほどよりも若干砕けた雰囲気になった。
「栞さんのご両親は納得されているの?」
「いいえ。私の両親はすでになくなっているの。今は長崎の叔父の世話になっているわ。」
「ごめんなさい。立ち入ったことを聞いてしまって。」
千尋はしまったという感じで栞に謝っていた。栞は気にしないでと言っているけれど、千尋はそれではアンフェアだと思ったのか、自分の生い立ちも語り始めた。
驚いた。
彼女がそんな境遇にいるとは知らなかった。確かに同年代の子に比べて大人びているけれど、今年の一年生は苦労している子が沢山いる年なのだろうか。隠れて聞いてしまった罪悪感に悶えた。
「千尋さんは中等部からリリアンと伺っていたから。」
「誰にも話していないから。そもそも友達も少ないし。」
千尋は自嘲するように呟いた。
寂しげな声に心臓がキュッとなった。
「私たち似ているわね。」
「いいや、似ていない。」
「え?」
千尋はさらなる爆弾を投下した。
「私はクリスチャンではない。だから、マリアさまにも、イエスさまにも、神さまにも祈らない。」
「仮にもマリアさまのお膝元で。」
栞の言葉に同感だった。
「栞は友情に信仰の一致を求める人?」
千尋は悪戯っぽい笑顔で栞の顔を覗き込んだ。いつもの人を寄せ付けないものとは違って、友好的な声音。それはお姉さまをはじめ、薔薇の館の住人に向けるものと同じだった。
「いいえ、千尋。どんな隣人でも受け入れるわ。」
「ありがとう。」
騒がしい蝉の声と真っ白な入道雲の下で、何十年の知己のように彼女たちは笑いあった。その光景は、とても清らかで美しかった。
二人が去った後、聖はよろよろと茂みの中から出た。
「うわぁー。」
数日前の自分の言動を思い出して穴を掘って埋まりたくなった。
後日、千尋から姉妹の申し出をされたとき、了承してしまったのは、彼女への同情心があったかもしれない。あるいは、仲睦まじく談話する下級生の姿に、絆されたのか。いずれにしろ、千尋だったら悪いようにはならないと思った。
私は千尋の申し出を受けて彼女を妹にした。
お互いに別の方向を向いていることを前提としたロザリオを渡した形だけの政略結婚。千尋でなければあまりにも馬鹿馬鹿しくて成り立たない関係。
でも、私たちは案外うまくやっていた。
手始めの山場は学園祭だった。
今年の山百合会の出し物を決める会合。
薔薇の館には9人が揃っていた。
「今年の山百合会はミュージカルを行います。」
例年、山百合会が何かを企画するのは通例だけれど、ミュージカルというのは初めてだった。
「去年から話していたのだけどね。白薔薇様と花寺の生徒会長が同じ歌の先生の門下なのよ。こんな年は滅多にないのだから、せっかくだからミュージカルをしたら面白いのではないかと思って。」
「作品は何ですか?」
興味津々の江利子の問いに、黄薔薇様は「じゃん」と台本を取り出した。
『オペラ座の怪人』
ガストン・ルルー原作の怪奇小説をもとにしたラブロマンスだ。駅や電車の中吊りに広告が貼られていて日本でも著名度が高い作品。聖も親に連れられて観に行ったことがある。
「素敵ですね。」
「令ちゃん、こういうの好きなの?」
「はい。由乃と、いや従妹の家族と観に行きました。」
江利子の妹の令も観に行ったことがあるらしく、目を輝かせている。彼女は見かけに反してこういうのがお好きらしい。黄薔薇ファミリーの反応は上々だ。
「クリスティーヌを白薔薇様がやるとして、配役はどうなるのですか?」
祥子は役の持ち回りが気になるようだった。
「花寺の会長がラウルを演じる予定よ。」
「では、怪人は?」
「それは、」
お姉さまが意味深に区切って千尋をみる。
「千尋にやってもらおうかと。」
部屋中の視線が集まった。
「え。」
嘘だろう。蕾を差し置いて、1年がしかもつい最近正式に妹になったのがメインをはる?
「千尋ちゃんも歌が上手いの?」
「彼女、技術はそこまででもないけれど声がいいのよ。」
「へー、いいじゃない。」
薔薇様方がどんどん話を進めていく。ここで止めないとあれよあれよという間に本決まりになってしまう。
「お待ちください。それはあまりにも千尋に荷が重いです。」
上級生の話を遮るのはいけないことだけど、背に腹は代えられない。というか、黙ってるけど、千尋はなんとも思わないの?
「なら聖か令ちゃんにやってもらおうかしら。」
「私も!?」
「こら、はしたないわよ。令。」
急に候補に挙げられて令が勢いよく立ち上がった。「すみません」と萎れる姿は実に哀れ。
「いえ、白薔薇様の云う通り、千尋ちゃんにやってもらいましょう。未だに煩い外野を黙らせるのに丁度いいわ。」
紅薔薇様がいった。
煩い外野というのは、千尋が私の妹になったことを心よく思わない人のこと。あとは学園を背負っていく幹部としての資質を疑う声が薔薇様方の耳にもはいっているらしい。
「手始めに見た目を変えることね。顔にかかっている髪を整えて、舞台の間はコンタクトにしなさい。」
「千尋ちゃんの素顔がいよいよ公開されるのか。」
「隠されたベールがいよいよあげられるのね。」
三薔薇様は楽しそうに今後の予定をたてていく。確かに千尋の素顔は気になるけれども、今はどちらかと言えば心配の気持ちが勝る。
蓉子や江利子も憐れみの目で千尋をみている。
(あの子、とんだ貧乏くじを引かされたわね)
練習は前途多難だった。
『どうしてそんなことを云うの?私は貴女に歌を捧げて疲れて果ててしまったというのに。』
舞台の上でクリスティーヌが悲しそうに呟いている。重々しい声が舞台に響いた。
『お、お前の魂はとても美しいよ。こんなに、素晴らしい贈り物は、どこの国の王様も受け取ったことがないだろう。今夜はミューズたちも涙を流した。』
「カァッットォ!!!!」
紅薔薇様の怒号が響く。
「何よ!その演技!ダメダメじゃない!!」
客席にいた手伝いに来てくれている生徒も紅薔薇様の迫力に慄いている。離れたところにいた聖だって思わず肩を揺らしてしまった。
「今の棒読み具合は酷いわ。」
黄薔薇様も舞台に向かって声を張り上げる。
「申し訳ございません。」
千尋が舞台袖から姿を表して謝る。先ほどから怪人の場面で何度も練習が止まっている。台詞は頭に入っているらしいのだけど、残念すぎるくらい棒読みなのだ。
演出兼舞台監督を務める紅薔薇様が怒鳴るのも仕方ないと思えるほど酷い有様だった。
「お姉さま方。まだ日が浅いですし、千尋は一年生ですから。」
見かねた蓉子が千尋を庇う。隣で祥子が爆発しそうだから、代表して物申したのだと思う。
「いえ、蓉子ちゃん。ここで甘やかしたら駄目だわ。紅薔薇様の言うとおりよ。千尋、もっと本気でやりなさい。」
「はい!」
「あなたならもっとできるわ。」
「はい!!」
「ほら、同じところからやるわよ。」
「はい!!!」
お姉さまも紅薔薇様に負けないくらいの迫力で千尋に発破をかける。山百合会はいつから運動部になったのだろうか。千尋は元気よく返事をすると「お願いします」と頭を下げて真っ赤な髪を翻して、舞台に戻っていった。
「この稽古を千尋さんを羨む人たちに見せてやりたいわ。」
後ろから見学者の声が聞こえてきた。
皆、千尋のあまりの絞られ具合に同情的だ。もしかして、薔薇様方はこれが狙いだったのだろうか。講堂での稽古に人が出入りするようになってから、千尋を悪く言う人は徐々にだが減っている。
だけど、聖は千尋が本番を迎える前につぶれてしまうのではないかとハラハラして落ち着かなかった。もう少しだけ手心を加えてやってほしい。紅薔薇様は骨のある千尋のことを気にいったらしく、自分のところの「祥子ちゃん」と、黄薔薇のところの「令ちゃん」とは異なる角度から可愛がっている。
ただ、鞭が厳しすぎるんじゃないか、もうちょっと飴をあげても千尋なら、つけあがらないと思う。
『彼を放して!』
『スマナイ、クリスティーヌ。』
舞台の上では、怪人がラウルを捕まえる場面に移っていた。花寺の会長の代わりに令が縛られている。休み時間に練習していたそうで、演技はぎこちないのに妙に縄を扱う手際がいい。当人たちは真剣なのだけど、千尋の怪しげな格好や令の緊張した顔もあいまってドリフのコントみたい。
ただ、ここまではまだいい。
問題は演技の他にもう一つあった。
「千尋、表情が見えないわ。そろそろ顔を出してもらえる?」
「本番だけでは駄目ですか?」
千尋が顔を晒すのに抵抗するのだ。
「駄目よ。相手役のことも気遣いなさい。男をみせるのよ。」
「紅薔薇様、千尋は女の子です。」
思わずといった風に江利子が突っ込んだ。
「わかりました。コンタクトを準備するまで待ってください。」
そのまま稽古は一旦休憩になり、聖は1人離れたところにいる千尋に近づいた。栞に気にかけてあげてと言われたからじゃないけれど、仮にも妹なのだから。
「千尋はどうして顔を見せたくないの?」
水筒片手に休憩している千尋に疑問に思って尋ねた。涼しくなったとはいえ、長い髪をそのままにしている姿は、暑苦しくて紅薔薇様ほどでないにしろ、確かに髪をまとめたら?といいたくなる。
「自分の顔があまり好きではないからです。」
「そうなの?」
「日本人らしくない形で。」
「私と同じだ。」
私も日本人離れのバタ臭い容姿に注目されるのは好きではなかったので気持ちはわかる。よく見ると、髪の隙間から見える顎や鼻の形が綺麗だと思った。
「聖さまもですか?」
「ええ、よく外人と言われるから。生粋の日本人なのに。」
「私はハーフです。」
「どこの国?」
「フランスです。」
正直似合わないと思った。千尋が纏う空気は木々が繁る森林のような静謐なもの、洒落た都会的なものではない。
「聖様、私に気を遣わなくても大丈夫ですよ。私は薔薇の館の住人になるために、貴女を利用しているのですから。」
千尋は居心地悪そうに言った。
「あんなに絞られているのに?」
「はい。」
「へー、じゃ、不服はないの?」
「微塵も。全てを受け入れます。」
可愛くない妹だと思った。
でも、気が楽になった。
「ねえ、その聖様っていうのをやめてくれない。」
「と、言うと。」
「お姉さまと呼びなさい。」
千尋は顔をしかめた。髪と眼鏡で見えなかったけれど、なんとなくそんな感じがした。
私の妹は案外分かりやすいと思った。
「そう呼ばないと返事しないわよ。」