奔放で、とらえることができない。
あなたが過ぎ去ったあとに少女がいたことに気付きましたか。
帽子からこぼれた髪があなたという風によって乱される。
あなたは枝を騒がせる困った春風。
奔放で、とらえることができない。
けれど、雪でしなる枝の重荷を吹き飛ばし、やわらかな若葉に陽の光の明るさを教えている。
あなたはあたたかいやさしい春風。
祥子は千尋さんのことを高等部にはいる前から知っている。
彼女は覚えていないだろうけれど、私たちは幼い頃に一度だけ会ったことがある。あれは確か、どこかの日舞の家の発表会だった。祖父の付き添いで訪れた会場で、家族の発表を観に来ていた千尋と出会ったのだ。私は最初、千尋が男の子だと思っていた。
おぼろげな記憶の中でも赤は鮮烈だった。
連獅子のような鮮やかな赤い髪に精悍な顔立ち。凍った湖面のような青みがかったグレーの瞳が子供心に美しいと思っていた。桜色の薄い唇を真一文字に結んでいて、彼女の周りにだけみえない壁があるような近寄りがたさを感じた。
でも、彼と目が合って、冷ややかな表情が照れたようにはにかんだとき。祥子は今まで感じたことの無いような羞恥心が芽生えて、そばにいた祖父の着物を掴んだ。
祖父は私の様子を心配し、やがて視線の先の男の子に気づくと尋ねた。
「祥子、あの子が気になるのかい?」
「いいえ。そんなことはありませんわ。お祖父さま。」
お祖父さまは私の答えに安心すると、そろそろ客席に行こうかと足早にその場を離れた。私はお祖父さまの目を盗んで振り返った。彼は私と目が合うと、小さくバイバイと手を振ってくれた。
その日から、赤は私の好きな色になった。
名前も知らない男の子を好きになるなんて、小笠原家の娘としてはあるまじきこと。だけれど、幼い淡い想いは叶わぬものだと知りながらも長い間、胸の奥深くで燻っていた。
リリアン学園中等部の入学説明会の日。
案内係をしていたら、黒髪の集団の中に際立った髪の色をした少女を見つけて、つい声をあげそうになった。目の前の仕事に集中しなければならないのに、視界の端でちらつく赤に平静になれない。校内見学が終わって体育館に移動するとき、こっそり彼女の名札を盗み見た。
「細田千尋」
初恋の人と同じ髪の色をした人。
もしも、彼女と中等部で再会できたら話しかけよう。そう心に決めた。願いは叶い、壇上で新入生総代として祝辞を読み上げる彼女を見つけたときは嬉しかった。
「総代を務めるなんて優秀なのね。」
優秀な千尋さんとお近づきになりたい人はそれなりにいた。
けれど、すぐに離れていった。
「そんなことはないよ。私の叔母がここのOGで受験対策の相談に有利だっただけ。」
同級生からの賛辞に千尋さん淡々と事実だけを述べる判事のように答える。彼女には愛想も愛嬌もなかった。
そんな冷ややかな千尋さんの態度を気に喰わない方々もいたけれど、祥子は不可侵の美を感じていた。それは触れたら壊れてしまうような繊細な神秘的なもの。雨上がりの野花にのった水滴の、人の手の生み出せない美に感服するような、近づくことを躊躇うような美しさを千尋さんに見出していた。
親しい関係になることはなかった。千尋さんはいつも独りで居たがったし、どんなに話しかけても見えない線を引かれていた。それは一歩間違えれば、谷底に落ちてしまいそうな深淵。その境界線を越えることは祥子にはできなかった。飛び越えるにはしがらみが多かった。
けれど、私の瞳は、ふとしたときに千尋さんの姿を追っていた。
何ものにも染まらない赤を。
だから、一度だけ千尋さんが同級生に呼び出されていたところに遭遇したことがある。
ある日、放課後の校舎で複数の生徒に囲まれている千尋さんを発見した。何を言われているのかは距離が遠くて詳細はわからなかったけれど、一人に多数で向かうのは卑怯なこと。祥子は千尋さんに加勢しようとその場に近づこうとした。
けれど、できなかった。
千尋さんが周りの子たちに耳打ちして、逃がしてしまったからだ。祥子の存在に気づいた同級生たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「人の顔をみて逃げるなんて失礼な方たちね。」
分厚いレンズ越しに青みがかった灰色の瞳と目があった。思い出の男の子に似た美しい瞳に自分が映っていることに、非常時だというのに胸がときめいた。でも、そんなことはおくびにも出さずに尋ねた。
「ねえ、今のは何だったのかしら?」
尋ねながらも祥子は理由を察していた。
「気にしないで。」
そう言って千尋さんは祥子の横を通り過ぎようとした。
しかし、祥子は腕を掴んで引き留めた。振り返った千尋さんの長い髪がふわりと舞い上がったとき、爽やかなベルガモットの香りが漂った。
「どうして庇うの?」
「庇うって何のこと?」
「しらばっくれるつもりなら、それでもいいわ。でも、私はああいう失礼な方々が許せないの。」
いじめのような現場に遭遇して放っておけるほど薄情ではない。ましてや、それが気になっている人なら尚更に。祥子は千尋さんの手を掴んで職員室へ連れて行こうとした。
しかし、できなかった。
「大丈夫だから。」
そう言って千尋さんは祥子の手を振り払った。
「お願いだから、放っておいて。」
「……わかったわ。」
「ありがとう。」
あからさまな作り笑い。引きつった口元は醜くて不快だった。苛立った私はつい余計な一言を言ってしまった。
「素直に助けてと言えばいいのに。」
そう言った瞬間、千尋さんの表情が固まった。そして、下を向いた。私は普段から物言いがきつくて相手を泣かせてしまうことが多いけれど、弱っている人を追い詰めるのは本意ではない。八つ当たりのようなことをして後悔したけれど覆水盆に返らず。吐いた言葉は戻らない。
「祥子さんは優しい人なんだね。」
耳馴染みのよい穏やかな声。春の木漏れ日のようなやわらかい声だった。自分の癇癪じみた言動を褒められたのに戸惑ってしまって、突き放すような返事をした。
「ただ嘘をつかれるのが嫌なだけなの。」
「助けてと言ったら助けてくれるの?」
「ええ、私の手が届くところにいるのなら。」
祥子がそう答えると千尋さんは微笑んだ。
私は彼女の笑顔に一瞬だけ見惚れてしまった。こんなに穏やかな笑い方をするなんて知らなかったのだ。照れてしまった私は見惚れたことを誤魔化すように「帰るわ」といって背を向けた。
後ろから「ごきげんよう、祥子さん」と聞こえても、知らん顔しようかと考えるほど、私は動揺していた。でも、千尋さんが私の名前を知っていたことは嬉しかった。
「ごきげんよう。千尋さん。」
あのとき、どうして千尋さんは私に「優しい」と言ったのか。未だにそれはわからない。
中等部では一度も同じクラスになれなかったし、千尋さんを見かけるのは教室移動のときだけだったから。何人か友人はいたみたいだけど、彼女は相変わらず一人のことが多かった。
その頃になると、私は千尋さんの孤高さを厭うようになった。彼女はあんなに穏やかに笑うことができるのだ。そんな人を一人にすることは、きっとマリア様だって望んでいないはず。
だから、彼女の目に留まるように勉学に励んだ。一回も勝てたことはないけれど、そのおかげで薔薇の館で一緒に過ごすことができるようになったのだから、人生どう転ぶかわからない。
「祥子さん?」
千尋さんの声に意識が過去から現在へ引き戻される。
「少し、ぼうっとしていたわ。」
「疲れているの?」
「いいえ。」
「次の部活なんだけど部室じゃなくてグラウンドに行けばいいかな?」
「ええ、この時間だと外にいるでしょうね。」
リストによれば次に回収するのは陸上部だ。身を寄せた際に、懐かしい柑橘の香りがした。
「やだ、銀杏並木を通らないといけないの?」
「嫌なの?」
この場所からグラウンドに行く途中、銀杏並木を通らないといけない。春も終わりの今の季節だったらいいのだけど、秋になって実が落ちる光景を思い浮かべると、自然と眉がよった。
「実が嫌いなの。臭くて。」
「まだ春なのに。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってことか。」
「千尋さんは嫌ではないのかしら?」
「別に。むしろ、知り合いの子の好物だから秋になったら拾おうかなって考えていた。」
わざわざ集めるなんて。耳を疑う。
千尋さんがそんな物好きだとは思わなかった。
「そのときは絶対にあなたに近寄らないようにするわ。」
「そうして。あと、この事は他の人に言わないでね。」
「言われなくても、言わないわよ。」
ふと、気兼ねなく軽口を叩けていることに気づいた。今だったら長年の疑問を尋ねることができるかもしれないと思った。
「ねえ。あなたは中等部のときのこと覚えているかしら?」
「中等部?あ、もしかして初対面のときのこと?」
あの日のことは千尋さんも覚えているらしい。私は頷いた。
「そう。あのとき、千尋さんは私に「優しい人だね」と言ったのだけど。あれはどういう意味かしら。」
本心から言ったのか、それとも皮肉としていったのか。何しろ彼女の表情はリリアン一読みづらくて有名だから。
「ああ、言葉のまんまだよ。祥子さんは困っている人をみたら、助ける人なんだなって。それだけで深い意味はないと思う。」
「そうなの?」
「祥子さんって案外気にしい?」
「違うわよ!」
「ふふふ、わかった。」
千尋さんは真面目な顔をしようとするも、こらえきれずに笑う。私が怒ると、「ごめん」と謝りながら息を整え始めた。
「千尋さんがそんなに表情豊かだとは思わなかったわ。」
いつもすました顔をしているのに。
ツンっとそっぽをむくと、千尋さんは穏やかな声で言った。
「こんなに自分が笑い上戸だったなんて、私も驚いているよ。」
「ねえ、千尋さんは日舞の経験はある?」
「少しだけなら。小さいころに辞めたからほとんど覚えていないけどね。」
「そう。」
「どうしてそんなことを聞いたの?」
不思議そうに尋ねる千尋さんに私は答えた。
「昔、どこかの家の発表会で貴女みたいな髪の色をした子を見かけたのよ。」
「ふうん。私みたいな、ねえ。」
千尋さんは悪戯っ子のような表情で呟いた。
「もしかしたら、私たち小さいころに会っていたのかもね。発表会に観に行くことは結構あったから。」
御簾のような前髪の隙間から、初恋の男の子の面影を宿す顔が見えた。
(「かも」ではないのよ。千尋さん。)
祥子は千尋さんのことを高等部にはいる前から知っている。
彼女は覚えていないだろうけれど、私たちは幼い頃に一度だけ会ったことがある。
私も知ったのはつい最近のことだから、わざわざ伝えることはしないけれど。
あの後、お祖父さまはこっそり千尋さんのことを調べていたらしい。
運動会で千尋さんをみたお父様が、そういうことがあったと教えてくれたのだ。もしも、千尋さんが男の子だったら。私の婚約者は優さんではなく......。
「まだ、さっきのことを気にしている?」
黙り込んだ私を怒っていると思ったのだろうか。
千尋さんは遠くにある葉桜を指した。
「私、桜には苦い思い出があるんだ。」
「どういうものかしら?」
「ほら、サクランボってあるじゃない?小さい頃はあれが桜の実のことだと思っていて。」
「もしかして、食べたの?」
「Exactly」
「ふっ、それは災難だったわね。」
優等生な彼女らしからぬ、かわいらしい失敗談だった。
「私も桜が嫌いよ。花の味が苦手だから。春になるとあちらこちらで咲くから憂鬱になるの。」
結婚式の時にのむ桜湯の味が嫌いで、花をみるとその味を思い出してしまう。
「私はそこまで嫌ってはいないよ。春は好きだし。」
「そうなの?あなたはお花見が好きな人なのかしら?」
「そうだよ。といっても花見をするのは桜ではないけれど。」
「何かしら?」
「山吹。」
意外だと思った。
「好きなの?」
「春の花と言われたら桜よりも山吹を思い浮かべるぐらい。」
千尋さんはリリアンの敷地にも山吹が植えてあると教えてくれた。
「薔薇の館に戻る途中でよる?」
時間があるとはいえ、外回りの途中で仕事の時間だ。だから、終わったら速やかに報告することが一番だろう。
「咲けりとも、知らずしあらば。」
でも、少しだけ真っ直ぐ帰るのが残念だと思った。だから、この返事が千尋さんにつうじるかに賭けてみた。
「わかったよ。」
「本当かしら?」
「大伴家持でしょ?この場合は聞かせつつになるのかな?」
病床の家持が、手紙に添えられた山吹の花をみて、見に行きたいと嘆いた歌。千尋さんは祥子の思いを汲み取ってくれた。
「さすが、お嬢様だね。咄嗟に和歌が出てくるなんて。」
「それがわかるあなたも同じよ。」
「私は育ちが悪いから。」
「リリアンに通っている時点でそれは嘘よ。」
「そうかな?」
「そうよ。」
また軽口を叩きながら千尋さんのあとをついていく。銀杏並木の中に1本紛れた桜の横を通ってさらに奥にいくと、それはあった。
八重咲の山吹が咲いていた。
「もう終わりだね。」
千尋さんは残念そうに言った。細い枝に黄金色の花がひとつふたつと咲いているだけで散りかけたものもある。盛りの頃に比べたら淋しくうつるのだろう。
でも、祥子は風情があって綺麗だと思った。
「私は桜が嫌いなの。だから春になると憂鬱になるのだけど今度から山吹の花を思い浮かべようかしら。」
「いいんじゃない。嫌いな物より好きな物を思い出すほうが楽しそう。」
そう言って千尋さんは微笑んだ、と感じた。何しろ彼女の表情はリリアン一読みづらくて有名だから。
(山吹のことを思い出したら千尋さんのことも思い出してしまうのかしら)
そうしたら、来年もまた千尋さんにつれてきてもらおう。憂鬱な春に新しい楽しみが生まれた。
「戻ろうか。」
「ええ。」
千尋さんは、白薔薇様の推薦でお手伝いとして薔薇の館で仕事をしている。正式な妹にならない限り、いつまでもいるわけにはいかないだろうけれど、暫くはこのまま一緒に働きたいと思った。
その願いは叶い、千尋は聖さまの正式な妹になった。
ある日、廊下を歩いていると窓を外を眺めている白薔薇様に出会った。ごきげんよう、と挨拶をしようとすると、白薔薇様は人差し指を唇の前でたて、静かに手で祥子に近づいてくるように促す。
不思議に思いながら近づくと、窓の外からギターの音が聞こえてきた。
窓から顔をだすと、校舎裏の日陰に見慣れた赤い髪をみつけた。
「上手でしょう。」
白薔薇様の言葉に祥子は頷いた。
千尋が弾いていたのはシューベルトのアヴェマリア。リリアンはミッション系の学校だから、幼稚舎から通っている祥子も何回も聞いたことがある。
「シューベルトのアヴェマリアはね。大切な人の無事をマリア様に祈る歌なの。」
「そうなんですか。」
軽やかなギターの音色はささやかに切々と胸に響くものがある。祥子の心を風のように通り抜けて、そのまま天に昇っていきそうなほど澄んだ音。
「綺麗ですね。」
もう一度、聞きたいと思ったけれど不思議なことに千尋がギターを弾いているところに遭遇することはできなかった。頼めば演奏してくれたかもしれないけれど、そうするには私たちの距離は遠かったから。
薔薇様方がご卒業されてはや一か月。
桜の花と一緒に入学した新入生も学園になじみ始めたころ。私は薔薇の館に行く前に千尋を捕まえて花見に誘った。
「ほら、あなたの好きな山吹を観に行くわよ。」
「山吹が好きって言ったっけ?」
「あなたが此処に山吹が咲いていると教えてくれたのに、お忘れかしら。」
「ああ」と思い出したような千尋を引っ張って、並木の外れに行く。
千尋が足をとめた。
視線の先を辿ると一人の生徒が桜を見上げていた。その桜は銀杏の中に一本だけ紛れていて、桜も銀杏も嫌いな私からすればよくあんな場所に居られると思う。
「何をみているの?」
「桜だよ。」
そう言って千尋は歩きだした。
「嘘、あの子を見ていたのでしょう。」
波打つ亜麻色の髪と整った顔が西洋人形のような少女。
祥子は彼女の名前を知っていた。
「確か藤堂志摩子さんという方よ。品行方正でお姉さまが山百合会のお手伝いとして目をつけているみたい。」
「そうなんだ。」
「一目惚れでもしたのかしら?」
「まさか。ただ桜が綺麗だと思っただけだよ。」
千尋はあまり本心を明かしてはくれない。クリスマスの日に聖様と何かあったようだけど、私にも令にも話さなかった。
(バレていないと思っているのかしら)
髪の間からのぞく白いうなじを横目でみる。
千尋はロザリオをかけていない。祥子と令は一度尋ねたことがあるが、そのときは「失くしたくないから家に置いてる」とはぐらかされてしまった。
姉からもらったロザリオは常に身につけておくのがリリアンでの仕来り。だから、白薔薇の蕾である千尋がつけていないのはスキャンダルに結びつきかねない。実際、聖様と千尋の関係を政略結婚だと陰口を叩く輩は、それを根拠にしていた。
「きゃっ」
考え事をして足元が疎かになったせいか。木の根に躓いた私を千尋が支えてくれた。頬が千尋の胸にふれ、意図せず密着する。彼女の鼓動は祥子よりもずっと遅かった。
「お姫様。ぼんやりしていると転びますよ。」
「知ってるわよ!」
私が叫ぶと千尋は「失礼しました」と言って、前を指さした。
「今年は満開だ。」
千尋は木に近づくと嬉しそうに山吹の枝を揺らした。柳のようにしなやかな枝には鞠のような蕾もついている。緑の葉に黄色い花びらがよく映えた。
「綺麗ね。」
確かに春が来るのが楽しみになるような美しい光景だった。
「山吹の花の盛りにかくのごと、君を見まくは千年にもがも」
花を見ながら千尋が呟いた。その歌は大伴家持が詠んだもの。山吹の盛りにこうして会うことが千年も続きますようにと願う歌だった。
「忘れていたのに調子がいいわね。」
「忘れていないよ。次にみる時はこの歌を送ろうと思っていた。」
「私が誘わなかったらどうするつもりだったのかしら?」
「この歌は実際に詠みあげられなかったそうだよ。」
「薄情ね。」
冗談ではなく祥子が声をかけなかったら千尋は山吹をみに行こうと誘うことはしなかっただろう。彼女は優しい人だけど、いつも一歩離れたところに立っている。
祥子はそんな千尋を好ましく思いながらも、遁世的な気質を憎んでもいる。それはもう、ずっと前から。
「来年はあなたから誘うのよ。」
「覚えていたらね。」
そう答える千尋に腹が立って皮肉のひとつでも返そうかと思ったけれど、山吹を眺める横顔がどこか寂しそうに見えたのでやめた。忘れたのなら、また私から誘えばいい。
小笠原家の庭にも山吹が植えてある。
リリアンを卒業しても千尋と一緒に見ようと思った。