俺たちはまたオルクス大迷宮に潜っていた。
俺の装備…特にクロスボウ周りの物資は南雲がいなくなり、補給のあてに困ったが、お国の錬成師達が作ってくれた。頭が上がらないものだ。彼らとしては、知識のお礼には足りないと言っているので、遠慮なくもらっている。
ゴーレムカーについては進展があった。
簡潔にいうと、ゴーレムをやめた。
そもそもゴーレムカーなのに、ゴーレムが一番いらない。
というわけで、普通に車を作ることにした。
箱の中に羽根……水車みたいなものを入れて、水で満たす。そこにいくつか魔法陣を組み込んで、水流を作る。その水流で水車を回し、動力にする。水は外から補給するんじゃない。最初から箱の中に入れておいて、循環させる。
これなら魔力の消費もかなり抑えられる。
ちなみにこの機構は馬車に乗ってる時に思いついた。馬がいらないようになればなあ〜って思ってたら閃いた。
あとはブレーキとハンドルの仕組みを作れば試作機としては十分だろう。
南雲がいれば、こういった時にかなり楽だったんだろうが…惜しい友人を亡くしたものだ。
話を迷宮攻略に戻そう。
現在俺たちは、
・勇者パーティ
・小悪党組
・永山組
・伊織&清水
・騎士団
で迷宮攻略に行っている。
他の奴ら?ああ、サロンで腐ってる。
まあ色々あったからね、まあトラウマにもなる。しょうがないだろう。
以前はクラス全員で進んでいた。今は、戦える奴だけが残っている。精神的な意味で。
教会の人たちはいい顔はしなかった。毎日やんわり復帰を促している。俺としては士気が下がるから別に来なくてもいいけどな。
ちなみに南雲の死を聞いて愛子先生が倒れた。
これにより、戦いたくないという生徒を前に出させないために強気の交渉を行った。
教会側は先生の機嫌を損ねたくないらしく、要望を飲むしかなかった。結局、望んだ生徒だけが、戦闘訓練を続けることとなった。
大迷宮攻略六日目。俺たちは、ついに60階層まで到達した。
誰もがここで足を止めた。あの日のことを思い出しているんだろう。…俺も、その1人だ。檜山をチラリと見るが、なんかどんよりしていた。何度も思い返して、気が滅入っているんだろう。そんな様子を中村は横目で見ている。
清水は、奈落をチラリと見て、その後進むべき道を見た。
白崎は底の見えない奈落をじっと見つめていた。
「香織…」
見かねた八重樫が声をかけた。白崎は八重樫に笑顔で返事をしている。その目には強い光が宿っていた。その光は黒いものはなく、ひたむき、というやつだった。
「大丈夫だよ、雫ちゃん」
そんな感じで、南雲の死がほぼ確定しているのに、生存を信じ頑張っているらしい。
よくもまあ、そんなことを信じれるものだ。でもそれを愚かである、と言うのは浅はかなんだろうな。
そんな二人を見た天之河が声をかける。
いつものように天之河が、前に進もう!と語り始めた。八重樫が途中で何度も止めようとしたが、白崎も慣れているらしく、流していた。
…あほくさ。
まあいいや、正しいが正しくないいつもの精神論を右から左に抜いて、頭をクリアに保つ。
そんな香織達に谷口と中村が声をかける。
「香織ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」
「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンの味方だからね!」
…白々しい。
俺と檜山と清水は、誰からともなく中村を見た。
随分と猫をかぶるものだ。
そんな様子を見た小悪党組の中野、近藤、斎藤が怪訝そうな様子を見せた。
「おい、大介?どうかしたのか?」
檜山のこれまで見てきた顔とは違う、まるで仇を見るような強烈な表情に疑問を感じたようだ。
「いや?なんでもない。もうすぐアレが出た階層なのにあいつらがあんな様子で大丈夫か?と思っただけだ」
「心配性だなぁ、大介も」
「そうだぞ大介。これまでのひよっこの俺たちとは違って、随分と強くなったしな」
「にしても、居残り組は根性なさすぎだろ」
「そう言ってやるなよ、土壇場でパニくられたりするよりはマシじゃね?」
「ははっ!たしかに!」
ケラケラと小悪党組は笑う。
魔物相手なら勇者パーティには彼らだけではかなり遅れをとる。
軽戦士、炎術師、風術師、槍術師。前衛三人に中衛一人という脳筋編成だからだ。
だが、俺と清水が支援すれば回復以外の穴はほぼ埋まる。
俺と清水が手を貸すことで大体の問題は解決するし、妙に強くなるのだ。
檜山の成長は驚異的の一言に尽きる。
中村の脅し、英雄願望、力への酔い。全てが重なり、凄まじい力を手にしている。おそらく、殺し合いという条件をつければ、八重樫以外には勝てるだろう。
罪悪感を贖う、罪悪感から逃げる、この二つがぐちゃぐちゃに混ざっているように見えるのが危ういが、今はなりふりかまってられない。
…立ち止まって腐っているよりはずっと良いだろう。
ちなみに檜山からもたらされた情報もえぐいものだった。
中村は対外的には降霊術を不得手としているが、普通に使えるように練習し続けているらしく、その裏で悍ましい死体の山ができそうだ、とのこと。
清水の話を聞いた時に
「死体の軍勢いけそう?」
「いける」
「マジかよ…」
という会話もあった。
いつの間にか、65階層に入った。俺たちの空気がピリつき始めた。
「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」
メルド団長の声に勇者パーティも気を引き締めた。
…おせえよ。って言うのは野暮だろう。
しばらく進んでいくと、広場に出た。
ぞわりと嫌な予感がした。
「警戒しろ、ここはやばいぞ」
俺の声に全員がさらに気を引き締める。
支援職が全員にバフをかけた。
広間に入ると、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がった、その大きさは10メートルほど、間違いなく、アイツの魔法陣だ。
「ヤツだ!ヤツが来るぞ!」
俺が声を張り上げる。
「ま…マジか、アイツなのか!?」
天之河も少し冷や汗を浮かべている。
坂上も驚愕しながら死んだはずじゃ!的なことを叫ぶ。
「迷宮の魔物の発生法則は未解明だ!同じ魔物と何度も遭遇することはある!退路の確保を忘れるな!」
「いえ、メルド団長!俺たちはあの時の弱い俺たちじゃありません!もう負けはしません!勝ってみせます!」
「そう言うと思ったぜ!光輝!リベンジマッチだ!」
天之河の言葉に坂上が乗っかる。メルド団長もやれやれと肩をすくめる。だが、そこまで不安はないのだろう。特に反論しなかった。
「さて、んじゃあ一狩りいきますか」
「だな、因縁の一つを断ち切ってやるぜ!」
「ああ、こんな牛如きに負けてらんねえよ!」
「なんだよ、やる気だな大介」
「たしかに、そんな熱いヤツだったか?」
「白崎にいいとこ見せたいんだろ」
「黙れ伊織、蹴り飛ばすぞ」
「悪い悪い、でもまあ、いいとこ見せるチャンスではあるぞ?」
「それもそうだな…じゃねえよ!」
「いつの間にか月見里とそんなに仲良くなったんだ?大介」
「おいそこ!いつまでべらべら喋ってる!」
『あ!すんません!』
そうして、悪夢すら糧にする戦いが始まった。もっとも、こいつらの中では、すでに自分たちの力を試す相手くらいには思っているだろうけど。
次回はベヒモス戦リベンジになります。