初撃は天之河と俺だった。
「万翔羽ばたき、天へと至れ、天翔閃!」
「射撃開始」
光の斬撃が飛翔する。かつては天翔閃の上位技たる神威でも無傷だったが、宣言通り、成長を感じさせる成果を出した。
ベヒモスの胸にくっきりと赤い斜線が刻まれ、赤黒い血が漏れ出す。
それと同時に、毒を仕込んだボルトがベヒモスの首筋に突き刺さる。これは体力をじわじわ削っていくためだ。弱らせるために毒は最初から効かせた方がいい。
「いける!俺達は確実に強くなってる! 永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級を頼む!」
天之河の指示が飛ぶ。メルド団長のお墨付きもある良い指示だ。
檜山達は機動力を活かして背後へ回り、永山達と騎士団は左右から牽制する。俺は後衛から支援に回る。
ちなみに俺は対大ボス戦の扱いとしては、後衛に分類されており、魔法、支援、妨害がメインになる。
今は状態異常系のボルトを装填、発射しながら、魔法の詠唱を行っている。
前衛職がベヒモスを後衛のところまで行かせないために、全力で足止め、防衛を行う。
「グルァァァアアア!!!」
ベヒモスの凄まじい咆哮が響き渡り、突進を始める。
その瞬間、坂上と永山が自身に膂力強化のバフをかけ、彼らも咆哮しながら、ベヒモスの突進を地を削りながら止める。
その瞬間、俺も詠唱を続けながら、右目周辺に目潰し用のボルトを打ち出す。
「ガァァァアアア!!!」
目に染みたのか、大暴れをする。
それを見越していた前衛達はすでに退避済みだ。
「「邪纏」」
闇属性の魔法で、脳から体へ発せられる命令を阻害する魔法だ。
ベヒモスが完全に止まるわけじゃない。せいぜい、一瞬のぼせたみたいにクラっとする感じだろう。
だが、あいつらからすれば、十分すぎる隙だ。
それを見過ごさず、八重樫が角に斬りかかる。
「全てを切り裂く至上の一閃、絶断!」
その凄まじい抜刀術が大角に叩き込まれる。だが…
「相変わらず堅い…!」
ベヒモスから見て左側の大角を、八重樫は半ばまで切り裂いた。だが、あのままだと大きな隙を晒すことになる。その時、団長が援護する。
「まかせろ!粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ、豪撃!」
八重樫の剣の背に自らの剣を叩きつけ、そのまま大角を切断した。
「ガァアアアア!?」
角を切られたのがかなり痛かったのか、さっきとは比べ物にならない大暴れをベヒモスが行う。
それによってベヒモスに近づいていた八重樫と団長、そして後ろから攻撃し続けていた檜山達が弾き飛ばされる。
檜山が声を張り上げる。
「こっちは気にすんな!」
檜山達は各々の得意の魔法や技で姿勢制御を行い、安全に着地する。
というか檜山、他人を気遣えるようなってやがる。
力ってのは、人を悪い方にだけ変えるわけじゃないらしい。
白崎はその声を聞いたおかげで、八重樫と団長の支援に集中できたのだろう。
「優しき光は全てを抱く、光輪!」
光の輪でできた網が、二人を包み、衝撃を殺した。そのまま矢継ぎ早に回復を行い。すぐさま立て直す。
その傍ら、フリーになったベヒモスに射撃を続けていたが、天之河が突撃し始めたのを見て、魔法の詠唱に集中する。
天之河が傷口に聖剣を突き刺し、大きな爆発を起こして、大きく傷口を抉る。
だが、ベヒモスもやられっぱなしではない、技の出した後の硬直を大爪を振るい、天之河を弾き飛ばす。
「暗き闇は、全てを飲み込む、黒泥」
清水が一瞬で詠唱を終え、黒い泥を生み出す闇属性の防御魔法で、天之河が叩きつけられるのを防いだ。
「助かった、清水」
「お安いご用だ」
白崎が天之河にすぐさま回復魔法をかけ、引っ掻かれた際の衝撃によるダメージを回復する。
天之河が飛ばされたあいだ前線を支えていた他のメンバーを咆哮と衝撃波で吹き飛ばし、かつてのように頭を赤熱化させる。
「角が折れて魔法の制御が緩むのはモンハンだけか…叩きつけが来るぞ!気をつけろ!」
俺の警告の後、ベヒモスが跳躍する。だが、その飛距離は大橋の時とは大違いだった。こっちに飛んでくる。
「やべっ!」
俺は大急ぎで使い捨てのスクロールを取り出し、結界を張る。教会と王国に後衛用のもの作ってくれってお願いしててよかった!
「ここは聖域なりて、神敵を通さず、聖絶!」
本来四節の魔法を低い適性の俺が二節で使ったのだ、最高級のスクロールとはいえ、数秒しか持たないだろう。
だが、その数秒を見逃さない者がいた。
「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、聖絶!」
結界師の谷口が、完全な詠唱で、障壁を張った。
その障壁はベヒモスの勢いを完全に止める。
「流石はムードメーカー!流れも作りやがったな!」
「へへんだ!この鈴ちゃんにお任せあれ!」
「っしゃあ!そのまま支えてろ!解体の時間だあ!」
誰かのヤジの後に、檜山達が超速でベヒモスの背後に追いつき、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。
「グモォォォォオオオ!!?」
ベヒモスもたまらず苦悶の声を上げる。
それと同時に谷口の障壁への圧力も下がる。
ベヒモスの圧力が弱まるにつれて、谷口の歯を食いしばっていた顔も少しずつ緩んでいった。檜山達が上手く注意を引いてくれたらしい。
清水がベヒモスをさらに鈍らせる魔法を詠唱する。
「暗き闇よ、かの者の自由を奪え、縛肢」
ベヒモスの四肢に黒いモヤがまとわりつき、爪の力が弱まる。それと同じくらいに徐々にベヒモスの赤熱化も消えていった。
「よく凌いだ!後衛は後退しろ!」
光輝の指示に後衛が離れていく。
ベヒモスは追撃しようとしたが、脱力の影響と前衛の妨害によってほとんど動けなかった。
その後、前衛が、バテてきたベヒモスをヒットアンドアウェイで翻弄し続け、後衛の詠唱が完了した。
「下がって!」
一応、中村が後衛の代表らしいので、中村が合図を出す。上手い位置に入り込んだものだと感心するよ。
「「「「「「「炎天」」」」」」」
術者7人によって詠唱された炎系上級魔法は莫大な熱量を内包し、さながら太陽のように顕現した。
その熱球は膨張し、直下のベヒモスに降り注ぐ。あまりの火力に前衛にもダメージがいきそうになったが、メルド団長の指示で、防御魔法を使える者たちが一斉に結界を張る。
炎は味方を焼くことなく、ベヒモスだけを飲み込んだ。
「グゥルァガァアアアア!!!!」
飲み込まれたベヒモスの凄まじい断末魔が響き渡る。これまでの咆哮を大きく上回る、鼓膜が破れそうなほどだ。
次第にその叫びも炎に飲まれて消えていった。
炎天の消えた跡には、燃え滓と、ベヒモスの左の大角の一部と思わしきものしか残っていなかった。
「か、勝ったのか?」
「勝ったんだろ……」
「勝っちまったよ……」
「マジか?」
「マジで?」
ポツリポツリといろんな奴らが呟く。
天之河は少しハッとして聖剣を掲げた。
「そうだ!俺たちの勝ちだ!」
その瞬間、皆から歓声が上がった。
悪夢は、ついに醒めた。
俺も、もちろん大喜びだ。こういう倒せなかった敵が倒せるようになるのは普通に嬉しい。
今まではゲームの中だけだったが、現実でも凄まじい達成感がある。脳汁だな。
少し落ち着いた。
辺りを見回してみると、白崎と八重樫と天之河が話していた。
「これで、南雲も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」
天之河よ、白崎と八重樫にそれはバッドコミュニケーションだろ…
うわ、二人の顔が気まずそうな顔になってる…
あいつらは南雲の生存信じてるから、そういうことは言わないほうがいいだろ…
あと、突き落としたのは誰か(?)の魔法だっただろ…
少し、ため息がでた。
八重樫もため息をついた。あいつは地球でも、異世界でも苦労人はやめられないらしい。
白崎は口をもごもごさせている。
そんな中に谷口が飛び込んできた。
その後は、なんかわちゃわちゃしてた。
知ってるか?これまだ65階層なんだぜ?
…マジかよ…
ちなみにそろそろ独自路線に入ります。