俺たちは迷宮攻略を中断し、ハイリヒ王国に戻ってきた。
一つ目は単純に、疲れたからだ。
これまでの階層とは違い、感知持ちが技能をフル活用してマッピングしなければならない。魔物も明確に強くなっている。
本来なら一階層のマッピングだけで数ヶ月かかるのだ。六日でここまで来た俺たちの方がおかしい。
いや、まあそもそも俺1人ならマッピングいらねえんだけどな。
それはそれとして、二つ目の理由だ。
帝国から使者が来るので、王国に帰還してほしいとのこと。
本来であれば、召喚直後に顔合わせがある予定だが、神託と召喚の間の時間がほとんどなく、機会を作れなかったらしい。まあ、帝国は実力主義だ。何の成果もない俺たちなんて、向こうからすればわざわざ会う価値もなかったんだろう。
まあ、ベヒモス討伐の成果は流石に無視できなかったのだろう。帝国側から是非会いたいとの要請が来たらしい。王国と教会もそれを承諾した。
そんな話を帰りの馬車で教えられた。たぶんこの二つの国は仲が悪いと思う。
俺は、居眠りしながら聞いていた。
起きた時にもう一回話してくれた。
すんません。
そんなこんなで王宮に帰ってきた。
一人の少年が走ってきた。こういう時ってメイドさんとかが来るもんじゃないんだね。
あの少年は……王子様か。
ランデル・S・B・ハイリヒ。確か十歳くらいだったはずだ。白崎にえらく懐いている。
まあ、白崎からしたら、小さい子に懐かれてるようなもんだ。猛烈なアプローチも適当に流されている。
…おいたわしやランデル王子。
王子がいつも通り、意訳すると「お前のこと大好きで心配だからそばにいてくれ」の求婚まがいの文言を白崎が受け流し、天之河がなんかを言って王子に睨まれるのがワンセットだ。
なんか王子が喚いているが、ちょっとガキすぎるな…というか、白崎は君から好意を寄せられてることすら気づいてないと思うぞ。
あっ、姫様が歩いてきた。
リリアーナさんが王子を叱り、王子は非を認めず逃げ出す。クソガキである。
姫様が天之河と白崎に謝罪する。
その後、天之河がキザすぎて毎秒プロポーズしてんのか。ってレベルのセリフを言い、顔を赤くした。天之河…欠点に目を瞑れば俺ですら平伏するぐらいいい奴なんだけどな…
俺は遠い目をした。
その後、食事、風呂などでくつろぎ、錬成師の方達にも礼を言い、こっそり持ち帰ったベヒモスの焼け焦げた肉片を渡しておいた。角は献上するらしいので、メルド団長が持っていった。泣けるぜ。
錬成師の人たちには、闇魔法がかなり使いやすいので、闇魔法を内包したボルトとかを作れないかを聞いた。
ちなみに、無言でバリスタみたいなクロスボウを渡された。
そういえば、鉱石か魔石に陣を刻まないといけないんだったな。そりゃボルトも巨大化する。つまり本体もデカくなるというわけだ。
誰が使えんの?
力を込めてみる。
ガチャリ、と動作音がした。
「…動くのかよ」
どうやら俺も、こういう化け物みたいな武器を扱える側になってしまったらしい。
運搬問題が解決したらもらうとしよう。
3日後、遂に帝国の使者が来た。
来るまでの三日間にも、錬成師たちとはいくつか話を進めていた。
まあ、その辺りはまた後でいいだろう。
ちなみに今は召喚されて1ヶ月と18日ぐらいだ。もっというなら、初日を抜いて、戦いを見据えて訓練を始めてから1ヶ月と14日つまり、戦闘訓練を始めてから44日ほどで、俺たちは人類が長年届かなかった領域まで来てしまった。
現在は迷宮攻略メンバーと王国の重鎮、教会の高位階級が勢揃いし、帝国の使者たちを迎えていた。
帝国の使者たちが国王の前に並んで立ち、その脇の列を俺たちが埋めている。
わかりやすくいうと、体育館の校長先生が話す場所に国王、生徒たちが話を聞く場所の中央くらいに帝国使者、先生たちが並んでいる脇の位置ぐらいに俺たちが並んでいる感じだ。
国王と使者の社交辞令の後、天之河が前に出るように促された。
そしてその後、天之河を筆頭として迷宮攻略メンバーが紹介された。
天之河に対して、若い、本当にベヒモスを倒したのか?など、少し侮るような発言をする。護衛の一人がジロジロと毛先から爪先まで値踏みするように視る。お構いなしに、イシュタルが合図をする。
「ならばご自身の目で確認されるがよろしい。メルド!入ってまいれ!」
謁見の間の扉が開き、団長が布に包まれた棒状のものを大事そうに持ち、布をめくった後、使者の前で跪き見せる。
「それが、ベヒモスの切り落とした角じゃ。疑うのなら、試してみよ」
「ふむ…確かに。大法螺を吹いているわけではないらしいですな。ですが、それよりも手っ取り早い方法があります。勇者様、我々の護衛の一人と手合わせ願えませんか?そうすれば実力も一目瞭然でしょう」
茶番。こいつら、最初からそのつもりだったな。
天之河は少し気まずそうに承諾した。
国王の方を見て、確認する。
「構わんよ。光輝殿、その実力を存分に示されよ」
「決まりですな、では場所の用意をお願いします」
急遽模擬戦をすることになった。
ちなみに相手は、天之河をジロジロと観察していた男だ。なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。
…待て、おかしい。俺が探知できないなら認めたくないが、理解できる。見失いそうになるのは明らかにおかしい。
「天之河、あいつ間違いなく只者じゃない。おそらく闇魔法で偽装してる。」
「え?」
「清水、どう思う?」
清水は少し考えたのちに言う。
「ほぼ確実だな。だが、闇魔法というのはすこし間違いだ。あれはアーティファクトの効果だな。正確に言うなら、偽装系の闇魔法を込めたアーティファクトだ」
「な、なぜそんなことを?」
「さあ?考えられる線はあっちの事情か、こっちの事情だ」
「どう言うことだ?」
俺と清水は少し考え込むが、パッと来るものはなかった。
「わからない。とにかく、絶対に油断するな。本当にこれは脅しじゃない…あいつは…お前を殺すぞ」
「なっ!そんなわけ!」
「あるわよ」
八重樫が言葉を付け足す。
その目はいつもの苦労人ではなく、戦う前の敵を見据えている目だ。
「光輝。本当に油断しちゃダメよ」
「八重樫…君がそこまで言うほどの相手なのか…」
模擬戦の準備が整った。
護衛の男は、だらんと大型の剣をぶら下げており、構えらしい構えをしていなかった。
その目もだるそうなものにしか見えないが、間違いなく、俺たちの目が妨害効果を受けているからだろう。
明らかなほどの、もはやわざとらしいレベルの脱力。天之河を誘っている。
始めの合図があったと同時に、天之河が動いた。縮地を使ったのだろう、凄まじい勢いで男との距離を詰め、閃光のような突きを繰り出した。
その瞬間、護衛が天之河の剣をカチ上げようと大剣を振り上げた。
だが、ちゃんと警戒していたのだろう、剣が振り上がるよりも先に、見事な抜き胴につなげようとする。
これにはたまらず護衛も、上半身を斜め後ろにし、倒れ込むようにして避ける。片手を着きながら体を捻って距離を取る。
やはり並の身のこなしではない。護衛にしては対人戦に慣れすぎている。
普通の訪問なら、道中の安全のために、魔物相手のスペシャリストを連れてくるはずだ。
「なかなかやるじゃねえか。勇者ってのは伊達じゃねえな」
「ありがとうございます」
「ああ、なら俺も本気を出すとするか。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ? うっかり殺してしまうかもしれんからな」
護衛の言葉に天之河は少し目を見開くが、すぐに目を細め、相手の一挙手一投足を見逃さないように鋭く観察する。これまで見てきた、クラスメイトを鼓舞していた天之河とは違う一面だな。
宣言通り、護衛が動いた。その動きは、天之河と比べると見劣りするものだが、間合い取りがかなりうまい。攻めると隙を晒すことになる嫌な位置どりだ。天之河は姿勢を崩さない程度の技能なしの移動で、隙を見計らっているが、その位置どりが崩れることはない。
天之河はそれを理解しているのだろう。剣を振らず、防御に回れる構えをずっと維持している。護衛は短縮した魔法を打って隙を作ろうとしているのだろうが、天之河に有効打は出せていない。
だが、護衛がかなりのやり手だという俺の見立ては、俺たちにとっては、悪い意味で裏切られた。
「ぐっ!?」
天之河が呻き声をあげ、少し後ずさる。そこには蹴りを放ったのだろう護衛の姿があった。
「おいおい、剣だけが武器じゃねえんだぜ?上半身ばっか観察してても良くねえぞ?」
「…勉強になります」
天之河は歯を噛み締めて締めて立ち上がる。
あいつ…やり手なんて次元じゃない。
「…」
護衛はその様子をじっと観察した。
天之河はふぅー、と息を吐き、聖剣を構え直した。
「全力でいきます」
天之河から凄まじいオーラが漏れ出した。
限界突破だな。
一定時間、全ステータスを三倍にする代わりに、その後に大きな反動を受ける技能だ。
ここを勝負の分かれ目にする気だな。
その気迫に護衛も遂に剣を構えた。
天之河が風を置き去りにするような速度で突撃する。仕掛けるのは読まれやすい突きではなく…逆袈裟か。
護衛は最小限の動きで掠っただけで致命傷になりそうな攻撃を避ける。天之河は絶えず太刀風すら起こる剣閃を煌めかせる。
護衛は目を目まぐるしく動かしながら、それでいて、たまに見失いながらも、戦闘経験の豊富さゆえの直感で避ける。
「…風撃」
だが天之河の連撃の最中、護衛の放った魔法が足に命中し、姿勢を崩す。
「しまっ!」
そう言う頃には護衛の大剣が天之河の鎧の右肩部に叩きつけられていた。
パキンっ!と音を響かせ、護衛の持っていた刃引きした剣が折れた。
天之河は冷や汗をダラダラ流している。さっきのトドメの瞬間の護衛から出た殺気に当てられたのだろう。
「チッ、流石は王国秘蔵のアーティファクト、訓練用の剣じゃ、そりゃこうなるか」
「こ、殺されるかと思いましたよ…」
「あん?殺す気だったに決まったんだろ?お前からは全力は感じられたが、殺す気は感じなかったがな」
「え?」
「はっ、まさか、適当に腕試ししてはい終わりなんて思ってたのか?その程度で死ぬなら、その程度の勇者だったってことだ。お前は力は本物だが、人間の上に立って戦うって自覚あんのか?」
「じ、自覚…?お、俺は戦って、それで世界を救って…」
「傷つけることの本質も理解していないようなお前がか?剣一つに殺気込めらんねえようなやつが、魔人族を殺せるわけねえだろ。まさか、魔物を倒して大喜び!なんてわけじゃねえだろうな?」
護衛が最後の一撃の時と同じような殺気を放ち始める。別の護衛から、新しい別の剣を受け取り、また抜く。天之河の輝きが消える。自発的に解除したのか、無意識に解除したのかはわからないが、少なくともいい理由ではないだろう。
「ほら、あらかじめ言ってやるよ、こっからは殺す気で行くってな!」
護衛が加速を始めようとした瞬間、二人の間に光の障壁が現れた。
「そのあたりにしましょうか。これ以上は本気の殺し合いになってしまいますのでな。ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」
「…バレてたか、相変わらず食えない爺さんだな」
護衛が耳のイヤリングを取ると、護衛の姿が霞のように散る。その中から、銀髪の40歳くらいのおっさん?が現れた。
その体はかなりの筋肉質でありながら無駄な筋肉はない。武勇伝を何個も持っていそうな野生味のある風貌だ。
「ガ、ガハルド殿!?」
「皇帝陛下!?」
周囲の高官達が驚愕する。なるほど、偽装の理由は、『本人がそんなにフットワークの軽い立場ではない』だったか。
国王が真意を問いただすと、皇帝は勇者の見極めを自身で行いたかったと述べた。
予想は違うらしい。こいつ行動力の鬼だ。
その後はなんか色々あったあと、皇帝は客室に案内された。
夜も更けた後、俺はその客室を盗聴していた。
俺が聞き耳を立てていると、いつの間にか別の気配が増えていた。
王国の暗部らしい。
……まあ、同じことを考える奴はいるか。
お?部下が勇者達の評価を聞いているな。
「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。『神の使徒』である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」
「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」
「あぁ? 違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」
どうやらお気に召さなかったらしい。
そう思ったのだが…
「だが、あいつの周りにいた何人か…確か、清水、月見里、八重樫だったか?あーあと、見慣れないガラスみたいなのを顔につけてたチビのガキ」
「中村ですな」
「そうだ。あの四人は間違いなく俺の偽装に気付いてたな。しかもそのうちの3人が勇者に助言しやがったんだろうな。あんな甘っちょろいガキが最初からあんな凶悪な突きをやってくるはずがねえ。危うく串刺しになるところだったぜ」
「なんと…諜報用のアーティファクトを見破ったと…?」
「だろうな。特にあの偵察士のガキ。あの目は、10年ぐらい前に俺を殺しにきたやつと似たような目だ」
俺はそんなやばい目をしてたのか…
「あいつを明日の朝、帰る前に出会えるように仕組め。いや、なんなら今会いに行ってもいいな。ちょうど、そこにいるみたいだしな?」
は?いやいや、隠密使ってんだぞ?気づくわけがねえ。あっ、暗部の人が走り去った。
「今の気配は!?」
「はっはっは!ちょっとした鎌かけだったが、誰かがこの部屋の近くから走り去りやがった!どうやら、本当に聞いていたのかもな?」
暗部の馬鹿野郎!部下と皇帝にバレやがった…
クソッ!このままじゃ明日の朝に皇帝にぶち殺されちまう…
俺は忍び足で自分の工房に行き、秘蔵の兵器を取り出し、確認して寝た。
皇帝と会っても会わなくても、日々の体のコンディションは大事だからな。
戦闘描写はもっと簡略化するべきでしょうか?