どうしてこうなったんですか?
なんで目の前にガハルドが訓練用の大剣構えて立ってるんですか?
なんで俺は戦う羽目になってるんですか?
だれかぁ!助けてぇ!死にたくねえよぉ!
目が覚めた。
大きく伸びをして、ストレッチをし、起き上がる。
いつもの服(異世界でのいつもの服。大迷宮攻略時はこの上に装備をガチガチに着る)が、用意してあるので、メイドさんにありがて〜と思いながら、服を着る。
さて、と今日はたしか…何もない日か。
地球にいた頃なら昼まで寝ただろうが、残念ながらグータラしてると命の危険があるのでいつも通り訓練場に行く。
朝に運動してから朝食を食べるのが習慣になっているからだ。
ん?今日はまだ誰もいないのか。
いつもなら天之河と八重樫が木刀で剣道みたいに撃ち合ったりしているのだが、今日は俺が一番らしい。
ふはは、いろんな詠唱をしながら魔法を試せるぜ!ちょっと遊んじゃお!
「随分と、精が出るんだな。月見里」
「ヒェッ」
あっ、あれぇぇぇ?な、なぜガハルドがここにぃぃ?
あっあっあっ、寝ぼけてた!そうだ、俺は朝が弱いんだった。起きてすぐの俺は、普段の半分も頭が回らない。
や、やばいぞ、まじでやばい。
「あっ、こ、皇帝も朝から修練ですか、あはー、ま、まいったな。よし、今日は図書館に行きますね、はい、そうしますそれでは」
「まぁ待てよ、お前に用があったんだから」
冷や汗が止まらない。あ、あかん、これはあかん。
「へぇーコウテイサンガワタシニヨウネ、ウン、ヨウケンヲオウカガイシマス、デス」
「俺と戦え」
「いやどす」
「お前に拒否権はない」
「いや〜ちょっと装備がなくちゃ戦えないってか、いや武器なしで戦えって言うのは支援職には酷というか、常在戦場はできてないっていうか」
「じゃあ取ってくるまで待っててやるよ」
「メンテナンスに出してます」
「お前の装備のメンテナンスが一昨日終わったのは確認済みだ」
「今日は調子が悪いかもしれない」
「そうか。白崎という回復術師がくるのを待ってやろう」
…だめだ、これは無理だな。逃げの一手だな。
「そういえば、なんで、俺と戦いたいんですか?」
「お前が…そうだな、一番人を殺せそうな奴だったからだな」
「そういうのは、たぶん八重樫とかの方ができるんじゃないですかね?しっかり者ですし」
ガハルドは、少し笑った。
「この世で、人を殺せる奴ってのは何パターンかいる。できるやつと、せざるを得ないやつ、あとその後を考えないやつだ。八重樫は、おそらく『できるやつ』だ。必要なら人を殺せるが、その後のことまで考えた上でやるだろうな」
「へぇーじゃあ俺は該当しなさそうですね」
ガハルドはニヤリと笑い、言った。
「いや、お前は『せざるを得ない』ってなったら、殺せるやつだ」
「何を根拠にそんなことを?」
「俺は知っている、お前の…目をな」
意味がわからない。そういえば昨日もそんなことを言っていたな。
「お前が昨日の話を聞いていた前提で、お前と同じ目をしたやつの話をざっくりするなら…そいつは間違いなく狂っていた。いや、ネジが外れてると言うべきだな。お前も、間違いなくイかれてる側の人間だ」
「全く要領を得ませんね」
「分かる必要はない。俺としては、勇者が本当に一番強いのか、本当に神の使徒はこの程度なのかを知りたいだけだ」
厄介だ。いや、もはやどうしようもないと言うべきか。ここは、俺に有利になる条件を引き出すしかないか。
「はぁー、そもそも俺が戦って、どんな利益が?」
「お前の仲間の名誉挽回とかか?」
「くだらない。その程度のものに命をかけるわけがないでしょ」
「ははっ!だろうな、お前は間違いなく、周りの人間のよりも自分が一番重要だろう。じゃあそうだな…お前が勝てたら、皇帝の椅子を「いらん」…だよなじゃあ、好きに決めていいぞ。まあ、お前がここで生き残れるかもわからんけどな」
俺は考えようとして、やめた。
「今は考えるのやめときます。そのうちなんかお願いを一個聞いてください」
「いいぞ」
「そうですか…わかった戦いをお受けしましょう。ですが準備をしますので少々お待ちください。大体…15分くらいです」
俺は逃げたいなあー、と思いながらも準備をしに部屋と工房を巡って帰ってきた。
そして、現在に至る
…訓練中(?)に死ぬ避けたいものだな。
やはり、ガハルドを殺しに行くしかない。
俺たちは正面で向き合っている。場所は昨日天之河がガハルドと戦った場所と同じだ。
全く同じ構えをガハルドはとった。
お手並み拝見ということだろう。
俺はもちろん、その隙をつく。
「どっからでもかかってきな」
「じゃあ遠慮なく」
俺は海賊ピストルを抜き、引き金を引いた。
皇帝の右肩から鮮血が咲く。
空になった銃を投げつけ、右手に短槍、左手には毒、麻痺、その他色々の効果を持つ小型の煙爆弾をいくつも持つ。
皇帝はチラリと撃ち抜かれた傷を見るが、死ぬほどじゃないなと思ったのか、大剣を両手で握り、駆けてくる。
お手並み拝見という感じで眠りと麻痺の麻酔玉を撒く。
「『風壁』」
ぶらりと吹いた風に煙は散らされた。
まあ、流石にそうなるよな。
持っていた煙玉すべてを上に投げる。
これは近接戦で時間を稼ぎ、落下してきた位置での影響範囲に皇帝を収めるためだ。
左手にはバックラーを持ち近接戦に対応しようとする。
だが、流石は皇帝、柔と剛の合わさったような連撃を繰り出してくる。
バックラーでパリィを狙うのは困難だ。振り抜いた瞬間に、緩急をつけられて大きな隙を晒すことになるだろう。
バックラーは流す程度を意識し、短槍で、胴体を狙う。頭だと上手いやつなら簡単に避けられるが、胴への攻撃はかなり体を捻るか、位置どりを変えるかしないといけないからだ。
その瞬間に、もちろん俺は妨害を挟む。
「我ここに闇を望む『闇撃』」
早口言葉のような速度で詠唱を行い、槍と魔法で2点を狙う。
皇帝は槍を剣で弾き、闇魔法を体を逸らして避ける。そこを蹴りで追撃しようとするが、体を逸らした勢いのままさらに蹴りから逃れる。
その時、煙玉が落ちてきた。
散らされる前に自分の周囲をずっと漂わせるための魔法を発動する。
「轟く風よ、我を包みこめ『風纏』」
毒、麻痺、その他もろもろを含んだ空気の鎧を纏う。もちろん自分にもダメージが入るが、毒や麻痺に対する俺の耐性は高い。だからこそ、自分ごと毒霧に巻き込むという馬鹿げた戦法が成立するのだ。ここからはインファイトを仕掛けに行く。
別の瓶を左手に持ち、別の魔法を詠唱しながら接近する。
「鋼鉄の如き守りをここに『金剛』、我ここに水を望む『水撃』」
防御力を上げる魔法である金剛。
それと同時に左手の近くに水球だし、瓶の蓋を開け、水球に流し込み発射する。
もちろん、皇帝に避けるだろう。だが、避けるであろう先から槍を振り抜き、回避先を制限する。
「弾けろ、『風壁』」
その瞬間、水球は弾かれ、飛沫が飛びちった。
少しだけ皮膚にかかった部分がジュウゥぅと音をたてる。
「これは…酸か。なかなかえげつない攻撃だな」
「バフ盛ってるのにクソ痛え…」
ヒリヒリなんてぬるい痛みじゃない、風があたるたび染み込むような痛みがある。
だが、相手にも当たっているなら、悪くない。
毒を傷口から染み込ませてやる。
「轟く風よ、我が敵を包み、吹き荒べ『風渦』」
三節からなる強めの風系魔法を発動する。本来は敵を風で吹き飛ばすものだが、相手を包み続ける持続時間をあげ、切り裂くような勢いを無くしている。
「っ!ゲホッ!てめぇ…」
皇帝が恨めしそうに見てくる。
ここからは皇帝に風を散らしたり、毒を消されたりしないように立ち回ればいい。
まあ、俺が皇帝に切られないことが大前提だが、中距離からデバフの煙、クロスボウ、短槍を扱い続ければ十分可能だろう。
……理論上は、これでいける。
問題は、あの皇帝がそんな都合よく付き合ってくれるかどうかだ。
もちろん、皇帝は突っ込んでくる。
ここで距離を取ろうとしながら煙玉を撒きまくる。
クロスボウは狙う暇がないなと思い、適当に1発撃ち、巻き込まないところに置いておく。そしてバフをかけ直す。
「猛り地を割る力をここに『剛力』、鋼鉄の如き守りをここに『金剛』」
息を大きく吸い込み、全てのいらない装備を外し、狂化暴走を起動する。
「ガァァァアアア!!!」
魔力の黒いオーラを放出しながら、ビリビリと空気を震わせる咆哮を上げ、直剣とバックラーを持ち突撃する。
「ただのビビリじゃねえんだな!」
皇帝は、渾身の力で、大剣を振り抜き、周囲の毒を含んだ風を吹き飛ばしながら、迎撃しようとする。
それに対して、俺はバックラーで、剣をぶん殴り、その剣を逸らす。だが、皇帝は剣を弾かれた凄まじい力をそのままに、体をくるりと回して、後ろ回し蹴りを繰り出してきた。
その蹴りが俺の右腕にぶち当たる。
蹴りの衝撃によって横にズサーっと滑った。
腕は…動く。素のステータス、バフ、狂化の影響で、戦闘には対して支障はない。
一瞬でその判断を行い再び突撃する。
今度は横に切り払うような大ぶりの攻撃を行う。だが、パワー、スピードは凄まじくても、剣を持って1ヶ月程度の人間の斬撃は受け流される。
そのまま皇帝は、剣の柄を捩じ込んでくる。だが防御にものを言わせて肉で受けようとした時、凄まじい嘔吐感が這い上がってきた。
胸焼けと痛みと吐き気が混ざったような感覚が俺を後ろによろめかせる。
「ステータス、特に防御力が高い相手には、急所への攻撃がよーく効く」
俺は悶絶するような痛みを怒りと凶暴性に変え、再び突撃する。
「あの勇者とは違うな、理性が緩んでいる。暴走に近い技能だな」
皇帝は余裕が戻ってきたのか、よく口が回るようになる。
「長い時間使用すると、周りの敵がいなくなる、あるいは脅威がいなくなるまで暴れる、あるいは無理やり正気に戻されるまでは自分で解除できなくなる」
「ダメージに鈍くなり、ステータスを3倍、ダメージを受けるほど、効果時間が伸びていく」
皇帝は、完全に防御に回っており、攻められなくなっている。だが、本人としては攻める理由がないのだろう。
ダメージを与えないことで効果時間をどんどん削っていく。
「動きが鈍くなってきたな。そろそろ終わりか」
やがて、俺の体から黒いオーラの噴出が終わる。
その瞬間、激痛が体を駆け巡り、唸り声を上げることしかできなかった。膝をついたが、倒れるのは阻止した。
回復薬を飲む。
だが、体力が戻った感覚はない。
…狂化の反動は、普通の回復ではどうにもならないらしい。
足を震わせ、立ち上がったが、その瞬間、皇帝を全く視界に入れていなかったことに気づいた。
ハッと前を見ると、皇帝が袈裟に大剣を振るったような姿勢で止まっていた。
その瞬間、俺の体から血が吹き出した。
いくつかの骨も砕かれた気がする。
「あぐぅぅぅ!?な、血が、ゲホッ、おぇ」
俺は敵の前で咳き込み、血を吐き、痛みに苦しんでいる。
「喋らねえ方がいいぞ。ああ、安心しろ、殺しはしない」
俺は、四つん這いで這いつくばっている。
その状態から見上げることも、体を動かすこともできなかった。
周囲にいたのだろう。皇帝の部下たちが、俺を治療してくれた。
「にしても…お前ビビリすぎだな。
正気の時は遠距離主体、近距離の時は狂化しないとまともに打ち合わない。槍と盾持ってるときだけ正気」
「昨日の天之河との戦いと昨日の俺たちの会話でビビっただけじゃねえ」
「戦い、というよりも、お前は痛みを恐れてるんだな」
「だが、他のやつにその被害を押し付けれるなら、何がなんでも押し付ける、いや、押し付けられるやつだ」
皇帝は剣を鞘に戻し、部下から変えの服を受け取りながら話す。
「さっきの人を殺せる奴の話の続きだが、お前はあと先考えない方だな。それは目の前の敵から逃げたい、いなくなってほしい、だから殺す。そういう奴だ」
俺は体を起こした。
「お前は、帝国に向いてる。だが、首輪付きというよりもお抱えの人間の一人として持っておきたい奴だ。鍛え上げれば俺の懐刀、利刃の内の一本になれる。なあ、神の使徒をやめて、俺の国に来ねえか?」
俺は少し驚いた。
「…今のは、悪い評価をしていると思っていましたよ」
皇帝はニヤリと笑った。
「いや?悪い評価だ。だが、あのお子様勇者と違って戦えば戦うほど、強みになっていく悪さだ。で、どうだ?悪い話じゃねえと思うがな」
俺はかなり悩んだ。その上で一つの答えを出した。
「もし、俺の言うことが一つ聞き入れてもらえる権利があるなら、こうしてください。
『俺が、いつか帝国に訪れて、あなたの元を訪ねた時、いつでもその時の強さに見合った地位をいただける権利』とね」
皇帝は意外そうに俺を見た。
「意外だな、それはいつか仲間を見捨てる時に後ろ盾になって欲しいと言ってるようなもんだぞ?」
「ええ、その認識であってます。実は、神の使徒もかなり不味いことになってまして、まあ誰とは言いませんが、国家転覆級の裏切り者がいるんですよ。なので、そのうち神の使徒から抜けて、どこかに逃げようと思ってたんですよね」
「なるほど、それで帝国で別の身分が欲しい。ということか」
皇帝は悩まずに即答した。
「その条件を受け入れようじゃねえか」
「ありがとうございます」
俺は少し安心した。
「裏切るやつにしてはずいぶん晴々とした笑顔だな」
「まあ、ここにいたら命がそこそこ危ないですからね。大迷宮とかいう危険地帯に送られ、いずれ戦争に送られる。ならせめて自分で選んだ危険に飛び込むぐらいは自由が欲しいんですよね」
王城の辺りが騒がしくなってきた。
皇帝はその報告を部下から受けて、そろそろトンズラするか、となった。
「んじゃあ、俺たちはそろそろ帰るか、あとお前は問い詰められないように気絶させとくぜ」
「えっ?」
疑問を抱いた時には頭に鞘に入った大剣が振り下ろされていた。
そういえば、刃引きされた大剣で、なんで俺は出血したんだろう?と思いながら意識を手放した。
俺は目を覚ました。
「…知らない天井だな」
クソが、あのおっさん突然頭をぶん殴りやがって…次会ったらビール瓶で殴りつけてやる。
舌打ちをしながら、現状を確認する。
俺は真っ白なベットで寝かされていた。服は…着替えさせられてるな。
体に異常は…ないな。
起き上がり、近くに置いてあった靴を履いて移動し始める。
職員の人に、荷物がどこにあるかを聞くが、本当に大丈夫なのかを何度も確認された。
とりあえず俺は装備を工房に持って帰り、どこかでご飯が食べれないかな?と思いほっつき歩いていると、メイドさんと出会った。
「使徒様、起きられたのですね」
「はい」
「気絶する直前の記憶はありますか?」
「皇帝に頭をかち割られかけたぐらいですね」
「そうですか、お体に異常がないのでしたら、昼食を取られるといいでしょう。時間はたっているので冷めているかもですが、一応置いてありますので」
メイドさんはそう言うと去っていった。
なんかさ、塩対応じゃないっすか?
まあいいや。
俺はお昼ご飯を食べて、自由時間を満喫した。
まあ、研究ばかりしていたのだけどね。
というわけで、帝国への逃げ道(伝手)を確保しました。
…まぁ、使わないに越したことはありませんがね。
ちなみに次回から伊織の物語…つまり独自路線に移り変わっていきます。
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