ありふれた職業で異世界攻略   作:KPC

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ここから一章の終盤です。



当てのない戦い、何がための研究。そして…

いつも通り、錬成師と研究し、騎士団と訓練し、クラスメイトと話し、清水や檜山と話し、また大迷宮に潜って、それでまた王都に帰ってきた。

 

研究は楽しい。訓練も必要だ。クラスメイトと話すのだって嫌いじゃない。

 

……なのに、全部が同じ日に見える。

 

研究して…訓練して…話…て………

また大迷宮に潜らないといけないのか。

 

疲れた。

 

ただ、それだけだった。

 

以前なら新しい魔物の素材を見れば、何に使えるか考えた。新しい魔法を覚えれば試したくなった。

 

今は違う。

 

「…また、行くのか」

 

…本当に?

なんで俺は大迷宮に行かなくちゃいけないんだ?

なんで俺は戦ってるんだ?

なんで俺は戦争に参加するなんて言ってないのに戦争のための力をつけてるんだ?

 

死にたくないから。戦わなくちゃいけない時に、殺されたくないから。

 

あの時は、まだ王国にいる意味があると思っていた。研究もしたかった。人間関係もあった。大迷宮から得られるものもあった。

 

でも、今は?

 

馬車を改造した結果、魔導車とも言えるものの試作機ができた。

 

それが動いた時、大喜びしたんじゃない、妙な安心感があった。

 

 

 

これで、どこへでも行けるって。

 

 

 

 

クロスボウは中型、大型どちらも完成した。

 

大型のクロスボウは、再遭遇したベヒモスの前足を岩に縫い付けるほどだった。

魔法内包型ボルトなら、そのまま足を凍らせ次のボルトで砕くことすらできた。

 

 

 

俺はもう、強めの魔物にも負けはしないだろう。

 

 

 

清水は魔法で魔物を洗脳し、支配する術を俺に教えてくれた。

 

魔人族と戦争になったとしても、清水一人いれば魔物による数の不利も同じ方法でひっくり返せるだろう。

 

 

檜山は中村が完全に狂っていると確信した。

 

あいつはいずれ俺たちを殺すだろうということもわかった。

 

清水が中村に従うふりをして騎士を洗脳手駒化するフリをして騙す計画を立てた。

 

もう、俺が助けなくても、檜山達は大丈夫だろう。

 

 

だが、そもそもそんな義理もないと気付いた

 

 

索敵能力そのものは悪くない。でも、俺がいなくても他に担当できる奴はいる。

 

…俺じゃなければできない仕事ではない。

 

 

俺は、近接戦が自衛がやっとなレベルしかなかった。後衛としても中途半端だ。

 

俺ができることは多くても、俺にしかできないことはなかった。

 

 

誰も彼もがもはや南雲の話題を口にしない。

 

ある時、こんな会話があった。

 

「そういえば南雲って今どうしてんだろうな」

「さあな?」

「まあ、俺たちには関係ないだろ」

「それより次の攻略だけど――」

 

俺はそこでずっと黙っていた。

 

…本当に、それでいいのか?そう思った。

 

 

 

でも、口には出さなかった。

 

もう、誰も彼にも、南雲の話題は、する価値のない話題になっている。

 

誰も彼もが目先の大迷宮に囚われていて、後々戦争があることを忘れている

 

今回の攻略の前にこんな会話をした。

 

「月見里、次の攻略どうする?」

「……え?」

「いや、次の階層。お前も来るだろ?」

「ああ……まあ」

 

当たり前のように言われた。

俺が行くことは、もう誰にとっても前提になっている。俺自身がどうしたいかなんて、誰も聞かない。

 

…いや。

 

 

 

俺自身も、考えていなかった。いつの間にか戦うのが当たり前になっていた。

 

 

 

研究に必要な設備も全て魔動車に詰め込めるレベルになった。

研究に欲しいものは少し不便だが、ここじゃなくても手に入るとわかった。

 

刃物を扱っていると、ふと皇帝の大剣が頭をよぎった。

 

……あれ、訓練だったんだよな。

それでも俺は血を流した。

 

「……やっぱり、嫌だな」

 

死ぬのは嫌だ。当たり前のことだと思っていた。そんなこと、別に考えるまでもないと思っていた。

 

…あの日までは、死なないのが当たり前だと思っていた。

 

けれど、この世界では、その当たり前を守るために、毎日のように危険な場所へ行かなければならない。

 

俺は…本当にここにいるべきなのか?

 

…

 

…じゃあ、逃げても、ここから去っても、誰も困らないんじゃないか?

 

逃げる手段も、方法も、転がり込む先もある。皇帝の話は最悪の場合に切れるチケットだ。

 

金を稼ぐ手段もある。冒険者資格も暇な時に取っておいた。大迷宮の探索のおかげで、ランク分けの9段階のうちの6段階目まで上がっている。

 

金も、売り捌いた魔物の素材のおかげで、熟練の冒険者が5年かけても集められない金も集めた。

 

今のステータスを確認する。

 

月見里伊織 17歳 男 レベル:51

天職:偵察士 職業:冒険者  ランク:白

筋力:360

体力:800

耐性:580

敏捷:580

魔力:650

魔耐:150

技能:適応[+痛覚耐性]・属性適正[闇・水・風]・属性耐性[闇・水・風]・複合魔法・状態異常耐性・夜目・気配感知・魔力探知・熱源探知・音響探知・気配遮断・先読・追跡・狂化暴走・言語理解

 

この世界では規格外のステータス。だが、実のところ、実数値ほど強くはないのが現状だ。

ほとんどのやつが戦闘に特化した技能を持っているが、俺の場合は戦闘時、特に近接戦に非常に弱いのが痛い。もうゼロ距離でも魔法撃った方がマシなレベルで武器の適性がない。もう拳と魔法や道具で戦った方がいいまであるレベルだ。

 

魔法職なら持っている高速魔力回復など補助的な技能はない。

近接職ならある○術や縮地、金剛などの有利に戦いを運ぶ技能もない。

役割の定まってきた現状、俺は器用貧乏になってしまったらしい。

 

ちなみに、魔法の適性もわかった。

水と風、闇、土と付与、火、光と治癒。この順番だり

分かりやすくランク分けするなら、S+ S A B Cという順に分けられる。

 

ちなみに天之河のステータスはこんな感じだ。

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:55

天職:勇者

筋力:650

体力:650

耐性:650

敏捷:650

魔力:650

魔耐:650

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読み

高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

派生技能の数を入れようが入れなかろうが、技能数は天之河を大幅に上回っている。だが、もちろんそれが強さをひっくり返すに至るわけではない。

 

何度も言うが、俺は本当に必要がないのかもしれない。

前衛はキツい、中衛としては普通、後衛としては道具がなければ劣る。

 

なんか自分で考えて悲しくなってきたな。

 

…

 

結局何がしたいんだっけ?

別に特別になりたいわけでも、英雄になりたいとかでもない。

楽しく生きれるのが一番いいことだ。

なのに…

 

何度も堂々巡りだ。

迷宮に行かなければいい、もっと言えば天之河達について行く必要はない…

 

じゃあ…行かなければいいじゃないか…

 

だが、それは俺がこうはなりたくないと思った居残り組と同じだ。

 

いや、そもそも、神の使徒なんて不相応な立場がそうさせているんだ。

 

いっそ…逃げ出すというのは?

王国にいてはダメだ、いつまでもこの身分が付き纏う。

帝国に行くのは?ダメだ、まだ俺はガハルドに使われる側の人間でしかない。

魔人族に亡命でもするか?ダメだろ、敵対勢力だぞ?

無所属?まあ冒険者資格があるからある程度は可能だが、ずっと命の危険に晒すことになる。まあ大迷宮や戦争よりはマシだろうが…

 

俺は…どうすればいいんだ?

 

本を読む手も、道具をいじる手も止まり、どのくらいの間ボーッとしていたのだろうか。

 

ほぼ無意識で行動していたのだろう。

突然誰かが、話しかけてきた。

 

「月見里くん?」

 

ハッとして声の方を振り返る。

 

「愛子先生?どうかしましたか?」

「…月見里くん、自分の顔に気づいてないんですか?」

 

自分の顔をペタペタ触る。…よくわからない。

先生が、元の世界から持ち込んだのだろう、手鏡を見せてくる。

そこに写っていた俺は、ありとあらゆる気力のない顔をしていた。リラックスとは違う疲れ果てた人間の顔だった。

 

「…どうやら気付いてなかったようですね。少し、休んだ方がいいのでは?別に戦い続ける必要はないんですよ?」

 

その言葉は妙に私の内にするりと入ってきた。

 

「そう…ですね。こういう時は気分転換でもした方が良さそうですね」

「じゃあさ月見里、お前も愛子先生の護衛について行かねえか?」

「護衛?騎士さん達がいるのでは?」

「月見里、お前が愛ちゃん先生の護衛騎士の顔を見たときの反応が楽しみだぜ」

「あっ、ついて行くのは確定なんですね。まあ、ちょうどいい機会だったので行きますけど」

 

俺の頭は再稼働し、フル回転し始めた。そして、心苦しいがこれが離反に一番いい機会だと理解した。行く場所は帝国や魔人族の国から遠い西方だ。

 

間違いなく、そしてこれ以上ないほどの機会だ。

 

「いつ出発ですか?色々実験したいものもあったので、明日ならば今から準備しておきます」

「わかった。明日の朝集合だな!遅れんなよ!」

「了解です」

 

俺は食事を終えたのち、さまざまな準備をした。

 

旅の用意と、ここに置いて行くあいつらへの警告と報告の手紙だ。

 

内容はそんな大したことは書いていない。

 

だが、中村と仲の良い谷口、後は…団長と、一応姫様と…うーんこんぐらいでいいや。

…やっぱ清水たちにも渡しとくか。

 

書き出しは…単刀直入に、俺は逃げさせてもらう。

 

…内容はまあ、知っていることを書いただけだ。谷口は信じないだろうな。

 

でもな、それで損をするのはあいつだ。あいつらが死のうが、生きようが、それが俺のせいだろうが、俺のおかげだろうが、それは俺には関係ない。

 

…本当に心苦しいな、まあでも生きるためだ。仕方がない。

 

いや、違うな。俺は最高に楽しみになってる。

 

ここから先がどんな旅があっても、

誰かに与えられた名誉で死ぬより、自分で選んだ場所で誉がなくとも楽しく生きれればいい。

 

そう思った。

 

 

 

 

いつしか、罪悪感は消えていた。

 

「…楽しみだな…」

 

俺はいつの間にか、また笑っていた。




伊織は正直なことを言うと、薄っぺらいです。

檜山たちに接近したのは清水と2人だけのあぶれ者枠にならないためです。

ぶっちゃけ言うと、檜山が南雲を殺していようが、殺していなかろうが、どうでもいいことでした。

ちなみに、南雲が奈落に落ちたときの絶叫は、実は伊織ではありません。
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