伊織は、周りが強すぎたせいで自分の強さをかなり見誤っています。
ですが、無自覚無双や勘違いものにはなりません。
目が覚めた。
少し体が痛い。
治癒魔法をかけておく。
…便利だな、治癒魔法。
井戸から水を汲み、顔を洗い、口を濯ぐ。
この時に水を飲み込まないように注意する。
朝食は、町長の飯炊き係が作ってくれた。
うむ、うまい。
王都での飯になれたら大体の飯がショボく感じるのか?と言われるとそんなことはない。
こっちでは、結構新鮮な肉が手に入るのでワイルドな飯が多い。
猪の肉と猪型の魔物の肉の見分けとかつかないんじゃねえかな。
いや…たしか魔物の肉は食ったら死ぬんだっけ?面倒な話だ。
昨日の今日で、巣の破壊及びグラウルの殲滅が行われることとなった。
冒険者にしてみれば、大して強くもなく、そして戦うだけ、なんなら逃走を阻止できれば良いだけの仕事なんて美味しすぎるのだろう。
ちなみに金は一人当たり五千ルタだ。
素材は集めたら、各々持ち帰ってよしのルールだ。それを見越しての価格設定である。
…まあ、この街には高位の冒険者はいないので、こういったばら撒き依頼が収入らしい。命大事に、だ。
あっちなみに今この町での最高ランクは俺になっている。白(9段あるランクの上から4番目)で最高かぁ、人材不足だな。
打ち合わせのためにギルドにいった。
集まったのは…
ん、なんか多くね?
そこには20人ぐらいの人がいた。
俺が入って来た時は、若いのが来たな…って感じだったが、神の使徒の一人、そして白ランクということもあって、舐められたりはなかった。
少し待っていると、クラスメイトや町長、騎士達が来た。
「おはようございます。みなさん」
町長が挨拶をする。
「本日集まっていただいたのは、ご存知の通りグラウル狩りのためです」
…この話を俺が真面目に聞いてる必要はないな。
そう思い、聞き流していた。
「〜では、伊織殿。説明をよろしくお願いします」
「了解しました」
俺は、冒険者などの色んな人の注目を浴びながら説明する。
俺は簡単な地図を机の上に広げた。
「まず、昨日確認した巣の位置がここです。グラウルは少なくとも二十数匹。外で見張っていた個体もいたので、巣の中にいる数だけで判断しないでください」
冒険者達が地図を覗き込む。
「今回の目的は、単純に巣の中のグラウルを全部殺すことです。ただし、一匹でも逃がすと、後でまた被害が出る可能性があり、面倒なことになります」
地図の巣を指で囲む。
「そこで、巣を中心に包囲します」
俺はその周囲にUの字を描いた。
「クラスメイトと騎士団の方々には、この外周を担当してもらいます。ただし、間隔はかなり広めに取ります」
「それで大丈夫なのか?」
冒険者の一人が尋ねる。
「大丈夫です。皆さんにグラウルを倒してもらうつもりはありません」
俺は冒険者達を見る。
「逃げてきたグラウルを、皆さんが倒してください」
次に、冒険者達の配置を書き込んでいく。
「冒険者の方々は、外周より内側。巣から逃げてきた個体を処理する主戦力です」
「そして、ここ」
冒険者達の後方を指差す。
「ここには火を入れます」
「火?」
「はい。もしもグラウルが逃げようとしたとき、火の中に突っ込ませる必要はありません。むしろ、そんなことはしないでください」
少しだけ冒険者達の間にざわめきが起こる。
「火を見れば、大抵の個体はそちらを避けます。そうすると、逃げられる方向が自然と限定されます」
俺は冒険者達の配置を指でなぞる。
「つまり、グラウル自身に逃げ道を選ばせます。そして、その先にいるのが皆さんです」
「なるほど……」
「もし火を越えようとする個体がいたら?」
誰かが尋ねる。
「無理に追いかけないでください。逃げた個体を追って隊列を崩す方が危険です」
一拍置く。
「冒険者の皆さんは、配置を維持して目の前の個体を処理してください。外周の人員は、包囲を突破した個体を追跡し、討伐します」
「分かった」
俺はさらに巣の位置を指差した。
「次に、巣そのものにも火を入れます」
「巣にいる奴らを追い出すためか?」
「そうです。ただし、これも急いで突入する必要はありません」
俺は外周、冒険者、巣の順番に指を動かす。
「巣から出る。逃げる。火を避ける。冒険者のいる方向へ来る」
「その流れを作ります」
「俺たちはどうする?」
クラスメイトの一人が聞く。
「基本的には外周の監視です。俺が気配感知と追跡で状況を確認します。逃げた個体がいれば、その方向を伝えます」
「つまり…」
別のクラスメイトが呟く。
「俺たちはグラウルを追いかけるんじゃなくて、逃げた方向を塞ぐ係?」
「そういうこと」
俺は頷く。
「グラウルは単体ならそこまで強くありません。ただ、足が速い。だから追いかけっこをする必要はないです」
「逃げる方向を限定して、待ち構える」
「それが一番楽です」
俺は地図を見渡す。
「それと、絶対に単独で追わないでください」
「そこまで?」
「そこまでです」
俺は真顔で答えた。
「昨日の時点で、こいつらは群れを分散させて動いていました。こちらが一つの集団を追っている間に、別方向から逃げる可能性があります」
「そっちを誰かが追ってしまうと、もちろん穴ができます。二兎を追うもの一兎も得ず。慎重にいきましょう」
昨日見たグラウルを思い出す。
「それに、グラウルは逃げる時に連携しますが、仲間が殺された時に復讐しに戻ってくる魔物ではありません」
「つまり、逃げるときは普通に逃げる?」
「だからこそ厄介なんですよねぇ」
俺は最後に、巣を指差した。
「今回、一番重要なのはここです」
「巣から逃がさないこと。そして、逃げた個体を追いかけないこと。」
「外周で監視する人。逃げてきた個体を倒す人。全員が自分の役割だけをやってください」
俺は地図から顔を上げる。
「そうすれば、昨日確認した群れは今日中に潰せます」
俺はそう言って質問がないかを聞いた。
誰も手を挙げなかったが、考えがまとまったのか、一人の冒険者が手を挙げた。
「一つだけ」
「どうぞ」
「これ、本当に兄ちゃん…白ランクのあんたが考えた作戦なのか?」
「そうですけど」
「……なんか、冒険者というより軍人みたいだな」
「もう何週間かしたら、脱走兵として指名手配されるかもですけどね」
「そこは否定しろよ!」
周囲から笑い声が上がる。
俺も苦笑しながら、もう一度地図を見る。
「まあ、冗談はさておき」
「今日の目的は、グラウルを一匹残らず逃がさないことです」
「それだけ覚えておいてください」
まとめると、まず巣の周囲をU字型に燃やす。Uの口部分に冒険者を配置。
そして、全体を覆うように、クラスメイト、騎士団を配置するという感じだ。
火を突っ切って出ようとしたやつは、火の内側の時点では俺が狙撃。
狙えなくなったら、外のやつが追う。
騎士団は、まず、冒険者の後方に間隔をとって5名ほど。
U地型の炎の周囲をクラスメイトと残りの騎士団(5名)が混合で囲む。
え?森が火事になるだろって?
知らねえよ。水属性魔法で鎮火を頑張れ。
…まあ、やるのは後の自分なんだが。
そんなこんなで移動した。まずは俺が確認する。
数は前と変わらず大体20以上だな。
見張も入れると28ぐらいか?
ん?増えてね?
まあいいや。
人員を呼び、周囲を炎で囲む。その後、十分に燃え上がってから冒険者たちが、火魔法や松明を巣に投げ込んでいく。
「キャウン!」
犬みたいな叫びをあげて、グラウルが次々と出てくる。
冒険者たちが向かってきたやつを横一列に並んでに壁を作り、倒していく。足が止まったグラウルは俺が狙撃していく。
外で待機していた人達が、暇だったからか、炎の中に火魔法を撃っていった。
まあ、そのくらいの独断行動ならいいか。
あ、ダメだわ追い立てられて一気に来た。
魔法は風…だと燃焼するか?じゃあ水…だと消火しちゃうな…
いや、水を上手いこと調整すればいいか。
分散を狙って縦に破断を放つ。
直線上にいたグラウルは切断された。すぐ横を走っていたやつは飛び退き、ある程度散開した。これなら各個撃破も容易だろう。
炎の外側から飛んでくる魔法と、正面の冒険者、そして俺の支援攻撃に晒されたグラウルの群れはあっという間に壊滅した。
冒険者たちが、うおー!とか言っている間に、俺は水を撒きまくって消火していた。ボヤ騒ぎは洒落にならん。
その後、巣に気配感知を使用し、残っていないことがわかった。
一応、巣を風魔法と火魔法の併用で爆発させ、崩しておいた。
俺たちは冒険者たちの剥ぎ取りとかが終わるのを待ち、その後帰還した。
出口では町長が待っていた。
「おお!おかえりなさいませ」
別に門で待ってる必要はないと思うが、それを言うのは野暮だろう。
「ただいま町長さん。とりあえず、逃したやつはなし、巣は爆破しておいた」
「おお!そうでしたかそうでしたか!にしても助かりましたな、これでようやく農地の広大化に取り掛かれますぞ!」
一件落着だな。俺たちは、話をした後、冒険者達と別れた。
…あれ?そういえば俺たちこっからの農地改革がメインじゃなかったっけ?
まあいいか、そんなこともある。
俺達は町長達と一緒に、愛子先生と農民達が会議をしている場所に一緒に向かった。
ぶっちゃけ、こっからの話は興味がなかったのでほとんど聞いていなかった。
興味がなさすぎて、畑仕事の手伝いをしていた。水やりが死ぬほどめんどくさかった。
めんどすぎて、樽を簡易錬成して水を溜め、木でシャワー型のジョウロを作った。崇め奉られた。
川を引いたら楽なんだけどね、めんどいからね。
ため池もないの?どうやって作物を作ってんの?
雨?干からびねえか?
でもまあ、枯れてないしな…
じゃあいいか。
数日後、別の畑が荒らされた。犬のような足跡が大量に残っていた。
次回で1章は終わりです。