これで1章は終わりです。グラウルは強敵でした。
ふぅー、ホーリーシットだな、俗に言う。
マジかあ…これは明らかグラウルの足跡だな。
おいおい、マジでどうなってる?
焼いて斬って、抹殺したじゃん…
「おかしい…絶対なんかおかしい…」
「月見里…そんなに策の失敗が効いてるのか?」
「ちげえよ。昨日の巣は完全にグラウルも住処も消した。失敗なら、昨日の時点で逃したやつが黙ってたことになる」
「確かにそうだな、すまん」
「別に気にしてない。そういう考えになるのはわかるからな」
この辺り一体の地図と睨めっこしたのち、荒らされた畑を追跡で調べてみた。
「グラウルってことと、数が15ぐらいってことしかわからん。食事のローテ回してるのは相変わらずか」
「別の群れがもうやってきたとかでしょうか?」
「オオカミとかって縄張り意識がありそうだから、普通は踏み込んでこない気がしますけどね…」
みんながうんうん唸る。
とりあえず、今回のグラウルの行方を追うことにした。
今回の荒らされた畑から東に足跡は延びている。別の群れの可能性が大きいな。
辿っていくと、また巣があった。
「なんてこった…」
「こんな近くに、別の巣が…」
「この前の巣壊滅から三日ぐらいしか経っていない。そして…」
俺は気配感知を使用した。
前の巣よりも反応は多かった。
「数は…36ぐらいか、多いな」
「前の群れの一部が、事前に分かれてたとかも考えたけど、これじゃその線もなさそうだな」
クラスメイトの考えもあり得ない話ではない。餌場を共有している可能性すらあるのだ、元々同じ群れだったが、生存戦略で分かれたというのはいい推理だと思う。
…だが、同じ群れだろうが別の群れだろうが、餌場の共有の可能性、縄張り意識の薄さ、という習性があるのは間違いない。これは気づいてよかった情報だな。
この習性によって群れが二つ以上、町の周辺には存在しているわけだ、グラウルの討伐依頼が成功するわけがない。
「さて、どうするか…」
「全部の巣を壊滅させればいいんじゃねえの?」
「まあ、それはそうだな」
クラスメイトの意見はもっともだ。というか、ぶっちゃけそうせざるを得ないっていうのが普通だろう。
「そういえば…倒すことだけ考えてましたけど、地球みたいにずっと追い払ったり、住みづらくして餌場にはよくないって学習させるとかはどうでしょう」
愛子先生が言った。
…
…なんか、一理どころか百理ぐらいある提言が出てきたな。すげえよ先生、年の功だな。あっまだ25歳だったわ。
「愛ちゃん先生…天才すぎます!」
クラスメイトの一人がそう反応した。
ここでうるさくなると困るので先んじて止める。
「騒ぐのは後にしてください。それで、愛子先生の提案ですけど、かなりいいと思いますよ」
作物の被害低下はもちろん、毎回巣を壊滅させる労力、リスクの削減。そして何より、手段さえ確立すれば、俺たちがいなくても、少数の冒険者や、駐屯している騎士だけで出来る。
とりあえず、俺たちは詳細を詰めるために、町へ戻った。
その後は、色々な人を頼りながら問題解決に奔走した。
今回発見した巣は壊滅させず、痕跡を残しやすいように数匹にマーキングをして、火魔法を数発打ち込んで散らした。
そして、グラウルよりも強い魔物の痕跡を撒き、他のやつの縄張りと誤認させるための工作を行った。以前壊したグラウルの巣と今回、中の個体を追い出した巣はこれでしばらくは使われない…と思いたい。
その後も、荒らされた畑を調査して追跡し、巣から追い出す作業を何度か繰り返した。
すると、1週間ほど経っても、荒らされなくなった。
「やっと終わった?」
「そうだと思いたい…!」
「みなさんお疲れ様です」
愛子先生が俺たちに声をかけてくる。
「いえいえ、愛子先生こそお疲れ様です。巣に細工したとはいえ、まさかグラウルという低ランクの魔物も入れないように結界をいじって、全てを解決してしまうとは…」
町長が言っているのは、愛子先生の技能の一つ、農場結界。
これは魔物の侵入や、外敵からの攻撃を防ぐ結界なのだが、なんとびっくり、グラウルはほとんど野生のオオカミと変わらないレベルの強さ及び魔力反応であり、この結界をすり抜けてきたのだ。
いやクソすぎて草。なんなん?この魔物。
まあよくある、強い魔物は通さないぜ!系の結界だったやつを、これまたチーターの愛子先生、[+対象指定]なんていう派生技能を習得しまして、この問題を解決しました。
まあ、これを発動するのにグラウルの魔石大量と、十分な観察が必要だったから、俺たちの頑張りも一応無駄ではなかったのだが。
まあ、魔力を供給しなければ耐久値にも限度はあるし?なんなら襲撃が減った、ほぼなくなったことで余裕ができたし?普通に仕事したことにもなったし?ええ、ええ、別に俺いるんか?ってまたなったわけじゃないし?
しー、しー、しー
…泣けるぜ。
やめてくれ、肩をポンポンしないでくれ、惨めになってくるから。いやまあ、実際本当に役に立ってたとは思う。うん、偵察士が縁の下の力持ちで、根本を解決するのは別のやつって現実に直面しただけ…
はぁ…
というわけで報酬とかをもらいながら今日は農地改革完了のお祝いをして、お開きになった。
明日にはすぐに王都に戻るらしい。
…じゃあ、俺もそろそろ行きますか。
ああ…長い…本当に長い寄り道だった。
愛子先生には一応話しとくか。
先生の部屋をノックする。
「月見里です。重要すぎる話があって来ました」
「重要すぎる話!?大丈夫です!入って問題ないですよ!」
「じゃあ失礼します」
ガチャリとドアを開け、入る。
いつも通りちみっとした愛子先生が地球にもあるパジャマみたいな服でベッドに座っていた。
「夜遅くにすみません。どうしても伝えておかないといけないことがあるんです」
「大丈夫ですよ、月見里君。先生に話してみてください」
俺は、中村以外のことを話した。もちろん、檜山の一件も話したが、俺からもフォローしておき、先生が檜山を危険視せず、気にかけてくれるように誘導する。中村が裏切り者という話は、ぼかして、自分のこれからの話を正当化するダシに使う。
「ここからが本題です。簡潔に言うと、私は本当に脱走します」
先生は驚かなかった。
「本気だったんですね…」
「ええ、本来であればちょっと旅に出てくるようなものですが、この世界に、この立場、私は全てを捨て去り、逃亡します」
愛子先生は少し考え込んだ。
「…どうして、そうしようと思ったんですか?やっぱり、南雲君の一件ですか?」
私はすぐに答えた。
「大きくひとまとめにするとそうですね。南雲が落ちた件そのものは、まあ色々あったと言うことで一旦置いておきます。問題は、『その後』なんですよ」
愛子先生は、真剣な眼差しでこちらを見ている。
「先生も見ていたでしょう?あの後の王国や教会の対応、天之河を持ち上げる風潮、本当に善かも怪しい善を突き進む天之河、そして何より、誰もが俺たちに戦うことを望んでるんです。ええ、死地に向かうことを…ね」
俺は言葉を続ける。
「挙げ句の果てには、クラスの中には、どうやら裏切り者もいるみたいでね、檜山のことを故意かどうかに関わらず、事実を言うぞと脅して、悍ましいことをやらせているという話も聞いています。まあ、簡潔に言うとですね…居られないんですよ。あんなところ」
先生は裏切り者がいるあたりの話で、少しずつ、俯いていった。
「と、まあここまでいろんなことを言いましたが、本音は別です」
「え?じゃあさっきまでのは?」
「他のやつに書き残した手紙に書いておいた内容と同じです。メルド団長、姫様、谷口には裏切り者が誰かを書いておきました」
「…私には言えませんか?」
「谷口から聞くべきである。とだけ、言わせていただきます。これは信頼とかの問題ではなく、私がそうした方がいいかもしれないと思ったからです」
先生は納得したらしい。
「…わかりました。それで、本音というのはなんですか?」
俺は何度か手を握っては組み直すのを何度か行って話し始めた。
「…死にたくないから…と言うのは正しい表現ではありませんね。…そうですね、言うなれば、他人に流されて飛び込んだ死地で死んだら、俺は死ぬ瞬間に後悔し続ける気がしたんです。顔も知らない他人のために戦って、無駄に死を美化されて、それで終わりだなんて嫌すぎるんですよ。だったら、今逃げ出して、この世界を一人で旅して、逃げられるなら逃げて…とにかく犬死にしたくないんです…うまく言えてますかね?」
先生は、目を閉じ、考え込んで、目を開けてこっちを見た。俺の手は少し震えていた。
「生徒が一人でどこかに行くのを見過ごすのは、教師としては大間違いなんでしょう。ですが、こんな世界に来てしまった以上、何が最適解かはわかりません…ですが、君が、月見里君がやりたいと思ったことなら、否定する理由もありませんね」
「…ありがとうございます」
俺は絞り出したような声でそう答えた。
俺は泣き出しそうになったが、その前にすぐに立ち去ろうとした。
「言いたいことはそれだけです。それでは先生『さようなら』」
ドアから出ようとしたら、先生が声を張り上げていった。
「月見里君!あなたは…私の生徒です!困ったらいつでも戻って来てください!どんな時でも、あなたの味方です!」
俺は去り際に、ひらひらと手を振り、去った。
私は、後ろ髪を引かれる感覚を振り払い、魔導車に乗り込み、ランタンに火を灯し、道なりに進んで行った。
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2章では伊織視点の話しか描写されません(26話執筆時点)。