伊織の冒険を皆様どうか温かい目でお見守りください。
逃亡者、あるいは流浪者
とりあえず、朝日が昇るまで、魔導車を走らせた。速度は…大体時速20kmくらいだな。
夕暮れから祭り、いろんな奴との話、先生との話とあってそこから…6時間ぐらいは走らせてたんじゃないかな?大体120㎞。まあ、そもそも俺の行き先なんて知らないだろうし大丈夫だろ。
さっきの町、あるいは王国から追手が来たとしても、早馬とかに乗らないと追いつけないだろう。
理想としては、砂漠に明日には入れることだが、正確な距離がわからない以上、日数の断定はできない。
少なくとも、今日で、何かしらの町にはつき、その上で、砂漠入りの用意を始めたい。
そんなことを考えながら、進んでいた。
…暇だな、一人旅は。
ああ、よく考えたら、研究とかを考えるのは今やってもいいんだよな…
魔力回復薬を飲みながら、そう思った。
というか、これも面倒なもんだよな。
粉にしたやつをわざわざ水に溶かして飲む必要なんかないよな。
作る時は、すり潰したものを練り固めて、また粉砕して粉にしたけど、あの時キューブに切り分けとけば良かったかもな。
一部を別の容器に移し、水を少し入れ、某知育菓子のように練り、形を整えてその辺に置いておいた。そのうち、固形になった魔力回復薬が出来るだろう。
そういえば、クロスボウのボルトも、毒とかつけれないかな?
気づけば、俺はレバーを足で操作していた。
また今度、ペダルに変えようと思った。
…?気配感知に反応あり。
数は…8かな?魔力感知の反応はまちまち、熱源は…うわ、これ人型だな。
ファンタジーの定番、盗賊襲来だな。
先の茂みに潜んで弓で狙っているらしい。
俺はクロスボウで狙い、撃つ。
「ぐあぁ!」
「クソが!感知系技能持ちか…だが、護衛がいないのは不用心もいいとこだぜぇ!野郎ども!かかれ!」
魔導車の前に火魔法が着弾した。
笑い声を上げながら、茂みから走ってきたやつの表情は驚愕に染まった。
「なっ!こいつの馬車…馬がいねえ!」
あー、なるほどね?さっきの火魔法で馬を止めるつもりだったのか。
にしても、隙だらけだな、轢くか。
片方のレバーの倒しを緩め、グイッと車体が曲がる。
「馬がいねえのに曲がりやがった…!」
「狼狽えんじゃねえ!おそらくアーティファクトだ!奪えば遊んで暮らせるぞ!」
操作法も知らねえのにどう動かす気だ?って思ったが、まあ捕まえた後に私に吐かせればいいだけのことか。
不要な思考を頭から追い出し、敵に集中する。
轢こうとした盗賊は間一髪回避したらしい。
ちょこまかと面倒なやつだ。
とりあえず、さっきボルトを撃ち込んだ方に風の刃を出す魔法を撃ち込んでおき、殺しておく。
茂みから血と共に断末魔が響き渡る。
脊椎を氷水につけられたような感覚がしたが、それも無視して、次の敵を狙う。
残り7人。
そんなことを考えていると、盗賊が一人、後ろから乗り込んできた。
「うっひょー!宝の山じゃねえか!オラッ!さっs」
最後まで言わせる必要もない。
脳天にボルトが突き刺さった盗賊は落ちて地面を転がった。まあ、死んだかな?
ブルリとした。悪寒にも似たものが私の体を這い回る感覚がする。
危険を察知したとかではない。よくわからなかった。
後、6人。
全員、感知スキルを併用し、補足できている。
近いやつを轢こうと方向転換をする。
「なっ!まだガキじゃねえか!こんなやつに翻弄されてんのかよ!」
「止まんな!脚を動かせ!口動かすなら魔法でも詠唱しろ!」
正面に立ったやつをクロスボウで撃ち抜く、だが狙いが逸れて、足に刺さった。
「クソッ!妙な武器を使いやがる!」
「風撃」
盗賊の姿勢が完全に崩れる。その後の末路はお察しだ。飛び散ったものは、風壁で逸らした。
残り5人。
魔法を使えるやつが、仲間に速度強化の魔法をかけたのか、上に乗られた。
上から剣やら槍やらが突き出される。
丸見えだ、槍の刺さる位置には、クロスボウ、剣の先には短槍を突き刺した。
手応えはあったが、死んではなさそうだ。だが、車から落ちたダメージと私が与えた傷によって、治療しないと動くのは難しいだろう。
車を後退させ、ダウンさせた片方を潰す。もう一人は横に落ちたので、魔法でとどめを刺しておく。
絶叫と断末魔が耳に残る。
残りは3人。
一人が車を後退させた時に減速した際、正面から飛び込んできた。
俺に剣を突き出してくる。頬を裂いたが、それだけだ。
「邪纏」
私の放った闇魔法によって、盗賊の動きが固まる。
その隙に、心臓を突いて、突き落とした。
肉の感触と盗賊の目が頭に焼き付く。
残りは2人。
1人は逃げ出そうとしたが、そんなことを許すわけがない。隙だらけの背中に魔法を撃って、転ばせる。命乞いを無視して、飛び込み、短槍を突き刺す。
なぜか泣きそうになるが最後の1人を殺しに行く。
魔法を何発も撃ってくるが、風と水の複合魔法で打ち消し、相手の元に辿り着く。相手の詠唱がもつれた瞬間、攻撃するための魔法を発動する。
「風撃」
魔法使いは吹っ飛び、ゴロゴロと転がる。
顔を上げる前に頭を踏み潰そうとするが、集めた略奪品をやるとか言って来た。いいことを聞いたなと思いながら、頭を踏み潰す。
踏む。踏み躙る。
…
私は、何度も地面を踏みつけていた。
辺りを見回した。切り裂かれた死体。頭にボルトが突き刺さり、それが頭にめり込んだ死体。ぐちゃぐちゃになった死体。体の潰れた死体。胴体に穴が空いた死体。心臓の位置に穴が空いた死体。頭に穴が空いた死体。頭が潰れた死体。
それを私が作ったんだ。
ゾクり、とまた、体が冷える感覚がする。
俺は、盗賊の武器と、盗賊のステータスプレートを回収し、車に積んだ。懸賞金を貰えることを期待したためだ。
その後、盗賊の痕跡を追跡し、アジトへ行った。ちなみに、車は森にカモフラージュした。
アジトにはまあ、悪くないくらいの品物があった。
車にもギリギリ積める程度を積んでおき、旅路を急いだ。
死体もそのままに、俺は逃げるように去った。
その後、町に着いた。
当たり前だが、関所で止められた。
盗賊に襲われ、返り討ちにしたということを、奴らのプレートを見せながら話した。
若いのに災難だったなと同情された。
自分のプレートもステータスや技能は見せずに渡した。冒険者なら普通のことらしいので、そこでは問題はなかった。
冒険者ギルドでは、奴らの武器と略奪品とプレートを渡すと、悪くない金額の報酬がもらえた。もうすぐ、黒にもなれると言われた。
宿を取り、食事をした。
海産物があった。王都のものよりも新鮮で、かなり美味しかった。
…
食事中に、私は突然口を押さえた。
自分でもなぜそんな行動をしたのかわからなかった。店員が大丈夫か聞いてくるが、問題はないと返した。
俺はその時、自分の口が笑みを浮かべていると気付いた。
…ああ、そうか。
今、俺は人を殺した金で飯を食っているのか。
そう思った瞬間、吐き気がするほど気持ち悪くなった。なのに、口元は、まだ笑っていた。
「……」
また慌てて口を押さえる。
なんで笑ってた?
自分でもわからない。
…いや。わからないんじゃない。
わかりたくないだけだ。
俺は、この金をすぐに手放したくなった。
市場に繰り出し、砂漠を超えるのに必要なありとあらゆる装備を買い集め、余った金は、高いアーティファクトに変え、全て使った。
その後、適当に腐ったり、虫が湧かないように車を清掃して、俺は宿で寝ようとした。
一睡もできないので、自分で自分に闇魔法をかけるハメになった。
目を覚ました。
あまり良くない目覚めだ。
昨日のことは踏ん切りがついたわけではない。だけど、逃げる必要性の方が高い。
昨日の自分が何を買ったのかを整理した。
* 水樽
* 保存食
* 日除け
* 布
* 砂漠用の服
* 魔導車の予備部品(金属の棒や骨組みっぽい形のものを適当に集めた)
* 修理道具(工具に近い)
* 木
* 小規模結界アーティファクト
…意外とまともなものを買ってた。
ナイスだ、昨日の俺。
今日の私に任せろ。
小規模結界アーティファクトの詳細だが、持続時間は高いが、あくまで個人用。高ランクの魔物の侵入は防げない。
メインの効果は、魔物に近寄りたくないと思わせる効果だと思われる。
ちなみに燃費は魔石を結構消費する。
大体三日起動し続けるだけで、ベヒモスの魔石分ぐらい魔力を食う。自分から魔力を供給することも可能だが、あまりしたくはない。夜寝る時だけ使うのが、いい使い方だろう。
水樽を買っているのは、緊急時のためだろう。
使ったら魔法で継ぎ足すのを徹底する。
とりあえず今日は砂漠目前の町まで移動し、情報を集めたい。
…特に何もなく、昼過ぎには砂漠目前の町まで来れた。
魔物数匹と遭遇したが、さっさと倒して解体した。魔物を倒すのにはもうなんとも思わなくなった。
とりあえず、砂漠を横断するための情報を集めようと、冒険者ギルドに行った。
砂漠を横断したいと言うと、エリセンにでも向かうのか?と聞かれた。とりあえず頷いておいた。
どうやら砂漠のオアシスにあるアンカジ公国行きの商隊があるらしい。
護衛を募集しているらしく、白冒険者なら、歓迎されると言われた。出発は明日らしい。
渡りに船とはこのことだと思い、同行したいと言うと、商隊のまとめ役に挨拶に行くといいと言われた。依頼書をもらって、会いに行った。
依頼主はいい宿に泊まっているらしい。まあ、商売道具のためにも、防犯設備の整った施設に泊まるのは当たり前だろう。
宿の受付に、依頼主…モットー・ユンケルに挨拶に来たと言うと、相談室で待つよう言われた。
私は、武器を宿のカウンターで預けておき、丸腰で相談室で待った。
…ナイフ一本ぐらい持ってても良かったかも。
そんな物騒なことを考えていたら、気配感知に反応があった。
ノックの後、誰かが入って来た。
ここで、よくある小汚いおっさんとかだったら個人で渡ろうと思っていたが、そんな心配はなかった。
私は立ち上がり一礼する。
「初めまして、あなたがユンケルさんですか?」
「いかにも、商隊のまとめ役を担っているモットー・ユンケルだ。よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
…にしても、挨拶って何話せばいいんだろうか…
「ふむ、随分と若いのが来たな…ランクは?」
「白です。こちらがプレートです」
ユンケル氏の値踏みするような視線に少し緊張するが、私はプレートを渡し、ユンケル氏に向き直った。
「この歳で白…か。ずいぶんとやり手なようだね?」
「まあ、一応天職持ちですからね」
「ふむ…」
ユンケル氏は何か悩み始めた。
白なら歓迎されるんじゃなかったのかい?なんかまずったか?
「君、人を殺したことはあるかい?」
少し肩が跳ねた。
「…ええ、ありますよ」
「何人くらいかね?」
「8人…ですね」
「ふむ…」
ユンケル氏は少し悩んだ後、こう答えた。
「君、あまり人を殺すのに慣れていないね?なんなら、その8人を殺したのは最近だと考えたんだが…違うかね?」
…なんてやろうだ。そこまでわかるものかよ。私は少し冷や汗をかきながらユンケル氏を見た。
「当たりですが、なぜそう考えたんですか?」
「…商人の勘とでも回答させてもらおうか」
余計な詮索は不要…か。
「わかりました。こちらも、余計な詮索はしません」
「物分かりのいい冒険者は長生きするよ」
そんな感じの話をして、本題に入った。
聞かれたのは、俺の持ち物、基本的な役割、いくつかの特技などだ。
魔法で動くようにした馬車は伝えた。流石に荷物なんて次元ではないからだ。隊列が一つ増えるレベルである。
ユンケル氏は驚いていたが、少し商人の顔をした後、別に良いと言った。
そんな感じで挨拶と思っていたら、打ち合わせが終わり、お開きになった。
ちなみに俺以外に冒険者は19人ほどいるらしい。
黒(白の一個上)が1人いるので、仕事中はそいつの指示に従って欲しいとのことだ。
俺は宿に帰って、風呂に入り、寝た。
今日は普通に寝れた。
なぜかは知らない。
感想、評価、ここ好き等お待ちしています。