ありふれた職業で異世界攻略   作:KPC

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今回はいつもの2倍くらい長いです。

あと、途中のダイジェスト形式に関してもこれから多用する予定です。


砂漠を行く

目が覚めた。

飯を食い、忘れ物の確認をして、車に乗って待ち合わせ場所に向かった。

 

そこにはユンケル氏ではなく、特大剣を背負った30代ぐらいの男性が1人だけいた。おっさんとは言えないし、お兄さんとも言えない微妙なラインだ。

 

「おはようございます」

「おはよう。アンタも商隊の1人か?」

「いえ、護衛の冒険者です」

「護衛…?奴隷を連れてる冒険者はたまにいたが、馬のいねえ馬車に乗ってるやつは初めて見たな」

 

冒険者…重戦士の黒冒険者のクレインと言うらしい。なんか強そう。

 

「私は伊織。一応は白冒険者をやらせてもらってます。ユンケル氏からは黒冒険者…あなたの指示に従うよう言われています」

「礼儀正しいな…まあいいか。にしても、その歳で白とはなかなかやるな。この依頼を上手くやれば黒も見えてくるかもな」

「…まあ、死なない程度に頑張りますよ」

「いい心構えだ。長生きするよ、お前」

 

持ち物は、大体に砂塵対策に布を被せている。

爆発物はないことは伝えておいた。

 

…酒?あるわけないでしょ。消毒液でも飲んでてください。

 

お互い、余計な詮索はしないというのが冒険者の暗黙のルールなので、私とクレインさんは他愛のない話をした。アンカジ公国には何があるのか?とかだ。

 

ちなみに中継地としての価値や観光地としての価値がメインらしく、よくは知らないとのこと。エリセンとかの方が、名物名産は多いらしい。農産物はかなり美味しいとは言っていた。

 

その後、続々と冒険者と商人たちが集まって来た。全員が俺の車を4度見くらいした。

 

ユンケル氏は「ほう…」と、間違いなくこの車の価値を頭の中で計算していた。他の奴らが圧倒されている中で、だ。

 

商隊メンバーはこんな感じ。

ユンケル氏筆頭に商人10人。

黒のクレインを筆頭に白冒険者が俺を含めて4人、緑が8人、紫が5人、黄が2人だ。

 

うん…なんか、微妙に不安になるメンツだ。

こいつらが怪我しても、絶対に回復薬は金取って売りつけようと思った。

 

クレインさんが額を押さえていた。

 

「大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えるか?」

「まあ、見えませんよね」

 

大体の理由はわかる。

適性難易度とかなり離れているとかだろう。

 

ぶっちゃけ、依頼っていうのは誰でも受けれる。やろうと思えば、青冒険者がオルクス大迷宮最前線のマッピングとかも受けられる。

 

だがそれは何かあってもそのマヌケが死ぬだけで済むが、護衛依頼は別だ。護衛対象まで壊滅する可能性が出てくる。

 

商人達の顔が、緑冒険者の紹介が終わって、え?ベテランがこんだけっすか?4割くらい、ビギナーまじ?って感じの顔をしていた。

 

うん…俺からしても、その装備はキツイんじゃないかな?と思う装備のやつが結構いる。

まあ、金がないんだろう。

 

俺が思いついた簡単に問題をまとめるとこうだ。

 

経験不足で死ぬ。

装備不足で死ぬ。

逃走。

最悪の場合、錯乱して強盗になる可能性もある

 

うん、クソ。

 

たぶん、考えすぎだと思うが…

 

余談だが、クレインさんは黒冒険者なので、ユンケル氏に荷物を運んでもらえるらしい。

 

彼としては、逃げるなよ?と言われているようなものだが、俺も逃げる気はない。と言っていた。

 

他の冒険者は頼む必要があるらしい。なんなら、人によっては金を取られることもあるとか…

 

そういったことは依頼書に書いてあるらしい。バイトの交通費支給みたいなもんか。

 

不安を抱えながらも、俺たちは出発した。

この砂漠横断の旅は、大体1週間ぐらいの道のりだ。

 

ちなみに先頭は俺である。

偵察士かつ、車を持っているので、安全な道を偵察してほしいとのこと。アホほど危険なので、報酬が5倍ぐらいになった。

この仕事が終わったら、黒冒険者への昇格も夢じゃなさそうだ。

 

 

 

 

1日目

 

クレインさん曰く、最初の1、2日目は魔物よりも盗賊の警戒に主を置いた方がいいらしい。

砂漠で接敵すると死ぬのがサンドワームという、20〜100mのデカすぎるワームなのだが、そいつらは結構砂漠を進んでからじゃないとほぼ出てこないらしい。

それ以外の脅威の中では、盗賊が一番厄介らしい。奴らは、町から比較的近いが、逃げるには遠い距離に出没するらしい。

特に警戒すべきは、今日の夕方から明日の日中とのこと。

 

砂嵐やハゲタカの魔物は普通は個人個人で対応するものなので、気にしないでいいらしい。

 

ごく稀に人の腰ほどの大きさから大の男の背丈ぐらいの色んなサイズがいるサボテンの魔物が走ってくるらしい。

 

攻撃されると間違いなく死ぬが、針を飛ばす以外の攻撃をしない。しかもその針は結構いい値段で売れる。木の盾を大量に持ち込んでその針を盾に受け、持ち帰った頭のネジが吹っ飛んだやつがおり、数年は遊んで暮らせる大金を手に入れたとのこと。

 

…なんかファイナルなファンタジーにいそうな魔物だな。

 

クレインさんが見つけても今回は絶対に追うなよ?と釘を刺してきた。私以外に言うべきやつがいるでしょ…

 

ちなみにクレインさんは俺の馬車に乗っている。主な仕事は警戒すべきポイントを私に教えたり、後続の馬車に合図を送る係などだ。

 

私は気配感知、魔力探知、音響探知で周囲を警戒している。熱源探知は日中はあんまり意味がない。

 

あと、感知及び探知の有効範囲の違いも結構問題になっている。

 

感知はわかりやすく言うと悪寒に近い、第六感タイプだな。

探知は相手が出している何かを私が受け取り、そこからどこにいるかを探る感じだ。

もちろん、探知の方が有効範囲が大きい。 

 

ちなみに、短槍に探知魔法の刻印を施すことで、地面に突き刺して魔法を発動し、さらに効果を増すことを可能にしている。

ただし、広範囲を探知するために強い力でやると、逆にこちらが魔力探知に引っかかる可能性があるという欠点がある。

 

私は固形にした魔力回復薬を飲み込みながら情報精査をしながら、歩(車だけどね)を進めていった。

 

 

 

 

ん?なんか引っかかったな。左前方。

 

「10〜11時の方向に何かいる」

「了解」

 

クレインさんが商隊を止める。

俺も車を止め、槍を砂に刺して数や大きさを探る。

 

数は…うげっ、30近いな。しかもこのサイズ、間違いなく盗賊だな。

 

距離は…大体1.3kmか。

 

周りに魔物の反応はない。右に逸れて進むか?

 

「なんかわかったか?伊織」

「数は30、おそらく盗賊です。避けます?」

「そりゃそうだろ。今回の依頼は盗賊団殲滅じゃねえんだからな」

「ですよね」

 

私はホッとした。

その後は大きく右に逸れたあと、まっすぐ進んでまた左斜め先に進み、盗賊を回避した。

 

 

 

その後何事もなく、夕暮れになった。

砂漠のど真ん中だが、野宿だ。

 

私は日が暮れる前にとっとと魔導車のメンテをしようとしたら、クレインさんに止められた。

 

「火を起こさないと凍え死ぬぞ」

「あっ」

 

そういやそうだったな、砂漠の夜は冷えるんだったな。

 

え〜と、木に弱めの炎撃でいいかな?

 

「木は持ち寄るんだよ」

 

なんか…私、結構損してるのでは?

索敵はほぼ私専業、木の運搬量も多い、危険な先頭。まさかそれ込みで報酬5倍なのか?

 

泣けるぜ…

 

まあいいや。

とりあえずパッパと魔導車のメンテをしよう。

 

よくわかんねーがちゃがちゃするやつで車体を浮かせて、車輪を取り外し、砂を取って油を差してオッケー!(約30分?)

 

異常なし、ヨシ!

 

あーあと、動力内の水も抜いて、エンジンが錆びないようにこれまた油を塗っといてと。

うん、問題なし。

 

さて、いつ買ったかも覚えていない鉄鍋に水と火の複合魔法でお湯をポンっとな。

そこに適当な干し肉と一応食える草を入れまして。

はい、クソ硬いパンを食えるようにする塩っけの強いスープですね。

男飯ならぬ冒険者メシ。砂漠でスープが飲めるだけマシなんだ…

え?昼間?…乾パンっすね。

仕方がないじゃないか、料理なんか車で作れるわけねえだろ。

 

クソ…牛乳があれば車の車輪に容器をくくりつけてバターにするのに…

 

そんなこんなで俺たちは寝た。

ちなみに焚き火を焚べる役が寝ると、全員仲良く凍死だそうだ。ふざけんな。

 

結局、2、3人で1組になって寝るのを回すことになった。

 

個人用結界は、温存した。

 

 

 

 

 

二日目

 

 

ズビっという鼻を啜る音が聞こえてくる。

まだ出発の時間ではない。

 

薪をくべる番のために起きただけだ。

ちなみに相方はクレインさん…と言うわけではなく、紫冒険者2人だ。

彼ら2人は友人らしく、元々は狩人をやっていたが、海の幸を食べてみたくなり、冒険者登録をしてやってきたらしい。うん、行動力の鬼。

 

弓、短剣、罠がどちらも得意らしく、私とは通じるものがありそうだ。年も近そうだし。

 

だがまあ、少なくとも、ランク通りの実力ではないだろう。白相当が2人増えた、やったぜ。

 

てか、お前らも探知手伝ってくれよ。的な話をすると、技能が多くないので、手の内を明かすわけにはいかないとのこと。

 

まぁ、見ず知らずのやつに自分の力を誇示するのはマヌケみたいなものだしな。

 

あれ?私探知系めっちゃ持ってるのを公言してるな…

 

…私はマヌケじゃない…!

 

彼らが技能に関して一つ教えてくれたのは、弓術の技能を持っているとのこと。

私も魔法適性以外の戦闘技能が欲しいよ…

 

彼は普通に優秀だった。少なくとも、サバイバルという面では彼らの方が知恵があるだろう。

 

乾燥してるから継ぎ足すのは意外と少なくてもいいとか、乾燥してるからよく燃えるとか、火に風を吹き込んだ時に方向を考えないと火事になるとか、武器じゃなくてもナイフは持っておくべきとかだ。

 

そうやって話していると、夜が明けた。

他の冒険者たちを起こすため、私たちは立ち上がった。

…彼らは二人で一つの布に包まっているのに器用に立ち上がった。

 

毛布からチラッと見えた手はガッチリ組まれていた。

うん、まあ男女の友情がその歳であるとは思ってなかったけど、ちょっとは自重しろよ。

 

リア充爆h…この世界だと本当に爆ぜそうだな。末永く爆発しろ。

 

 

 

 

 

今日も今日とて、人間探知機として頑張ってます。誰か労わってくれ。

 

いやまあ、仕事だからね、しょうがないよね…

 

これで町に着いた時に散財すると金が貯まらないんだろうな。めっちゃすごい装備とかないかな。

 

そんなことを考えながら、ショボショボした顔で運転しているとクレインさんが何かを見つけた。

 

「止まれ」

「どうしましたか?」

 

クレインさんが遠くを見つめている。

俺も目を凝らすが、あまり見えない。

 

「あれは…砂嵐だな。隊列を止めるぞ」

 

クレインさんが指示を出し始めた。

俺はなんかよくわかんねえけど、とりあえず地面に車を固定するために予備パーツを地面にブッ刺し、ロープで車と棒をくくりつける。

クレインさんが、他の馬車ともガチガチに結べ!と言ったので急いで結ぶ。

 

作業が終わった時、馬車で周囲を囲い、その中に人と馬が入った円形になった。その上に分厚い布を掛け、馬車の下を通して上を覆う。

遠くから見たら、モンゴルのゲルみたいになっているかもしれない。

 

そんなことを考えていると、轟音が近づいてきた。

ほとんどの砂は馬車とかで阻まれているが、一部、馬車の下から入ってくる。

だがそれは許容範囲らしいので、じっと待つ。ちなみに一応全員馬車を押さえている。

 

数十分ほどすると砂嵐は過ぎ去った。

 

その後は片付けと、念のため全ての馬車のメンテナンスをして、私たちはまた歩を進め始めた。

 

昼も過ぎた頃、狩人組が何かに気づいた。

屋根の上で会話をしている。

 

「なに…あれ?サボテンが走ってる…」

「ん?あれは…たぶんサボテンダーだな」

 

アウトじゃね?その名前。

 

「なんか、子供が描いた絵みたいな顔をしたサボテンが、爆速で砂煙上げながら走ってるんですけど、あれが?」

「間違いなくサボテンダーだな。対策なしに近づくと死ぬ危険があるから通り過ぎるのを待つか」

「あいつの針ってめっちゃ高値で売れるんですよね?追っちゃダメですか?」

「マジで死ぬからやめとけ。防具をなぜか貫通して針の筵になって死ぬぞ」

「怖…見た目はちょっと可愛いのに」

「あれが…か?」

 

 

まあ、うん。サボテンダーは俺も可愛いと思う。命の危険がないなら、な?

 

この世界のサボテンダーはやべえんだな。いやまあ、大体の魔物はやばいけどさ。

ってか本当に足早いな、あいつ。

時速60km以上あるんじゃねえか?

砂漠の上をその速度で走れるってすげえな。

 

俺たちはサボテンダーが水平線に消えていくのを見届けて、先へ進んだ。

 

狩人組はサボテンダーハントの罠の案を練っていた。墓の予約はしといてやるよ。共同墓地な。

 

 

 

三日目

 

へっくし!

くそぅ、風邪ひきそうだ。健康のために梅干しが欲しくなってくる。兵糧丸を一個食うか。

 

 

今日は、特に何もなかった。

魔物が減ってきた。感知にも、探知にも引っかからない。いても、小型のフェネックみたいな魔物ぐらいだ。

 

「……減ったな」

 

クレインさんがぽつりと言った。

 

「何がです?」

「魔物だよ。昨日までは、そこそこいたんだがな」

「砂漠の環境が変わったとか?」

「…そういうこともある。だが、覚えておけ。砂漠じゃ、何もいないってのも立派な情報だ」

「?」

「まあ、今は気にするな。まだ先は長い」

 

何人かの冒険者が外を見ずに輪になって談笑していた。クレインさんと他の白が、あいつらをサンドワームが出てきた時は囮にしようと言っていた。

 

「……冗談ですよね?」

「半分な」

「半分なんだ……」

「砂漠で気を抜く奴を守る余裕なんざ、こっちにはねえからな」

 

働かざるもの食われてろとな、エグすぎて草。あっ砂漠だから草生えねえわ、サボテンだな。

 

ちなみにその後もマジで何もなかった。

クレインさんから、明日から、遅くとも明後日からはマジで気を引き締めた方がいいと言われた。

 

 

 

 

四日目

 

 

へっくし!ズビっ。

 

あー、やべえわこれ。汗臭えし、調子もヤバくなってきたかもしれない。

 

こっそりでかい空樽をだし、一瞬で、湯をドバドバと出し、朝の夜明けを見ながらダイブする。

 

「ふぃ〜」

 

悪くないね。

湯をばっちゃばっちゃと出しては補充して体を洗っていく。

髪も、ぬるめの湯をビチャビチャと出して洗う。

 

さっさと樽から出て、風属性の結界を張り、体をさっさと乾かして早着替えを行い、水を静かに捨て、樽を乾かし、荷台に戻した。

 

替えの服に着替えて、元の服も一応洗っておいた。砂がつかないようにして、おいておく。

 

俺は他の冒険者が起きてくるのを見ながら、朝ご飯の干し肉を食っていた。

 

 

 

その日の昼頃、緩い傾斜の大きな砂丘を登った。

そして、ついに、地平線の先に結界の光のようなものが見えた。

 

「あれが、アンカジ公国ですな。あと1〜2日と言ったところ、もう一踏ん張りお願いしますぞ」

 

俺たちは、その日の夕方、いつもより念入りにメンテナンスをした。

 

 

 

 

五日目

 

 

 

俺たちは、ほんの少し浮き足立っていたのかもしれない。

もちろん、俺は探知、感知をサボっていない。

誰もが、意図してサボっていたとかではない。

ほんの少し、心の底に、緩みがきていたのかもしれない。

 

 

 

昼の近づいてきた頃、俺たちは正面の結構先…大体5km?ぐらい先に、砂丘が見えた。

 

「あれ?」

「…伊織。もしかして、お前も疑問に思ったか?隊列を止めろ!かなりやばいかもしれない!」

 

昨日は、あんなところに砂丘はなかった。

 

砂丘の周りに砂が舞っている。

違う、砂嵐?いや、砂丘が砂を巻き上げているのか…?

 

狩人どうやったのか、遠くを見たらしい。その瞬間、彼は叫んだ。

 

「サンドワームの大群だ!こっちに来てるぞ!」

「やっぱりかよっクソ!」

「おい!あいつらはどっちに向かってる!?」

「こっちに真っ直ぐ!結構速い!」

「とりあえず右に進みまくれ!気付かれたら死ぬぞ!」

 

私たちは全速力で、右に進んだ。

 

俺は冷や汗ダラダラで、魔力回復薬を飲んでいた。死ぬかと思った。

 

…?あれ?

魔力探知に反応あり?

 

「なんか反応あります!」

「は?おいおいウソだろ!?」

 

俺は槍を刺し探知する。

デカいし速い何かがこっちに来てる!?

 

「デカいのがこっちにかなりの速度で向かってきてます!」

「クソッ!群れから逸れたはぐれのサンドワームだ!戦闘準備!」

 

 

ワームの反応を追っていると下に行った。

 

「反応が下にいきました!」

「やばいぞ!下からの丸呑みだ!誰が狙われるかわかんねえ!気をつけろ」

 

マジか、誰を狙うかわからない…?

 

いや、ここは誘導できるかもしれない!

 

「クレインさん!私の魔導車に誘導したら、なんかできることはありますか?」

「わからん。だが…死ぬぞ?」

「私が人のために死ぬ人間に見えますか?」

「見えるな」

「そこは否定して欲しかったよね!とりあえず、車を起動して、その振動で釣れるか試してみます。狩れるなら頼みます」

 

私は車を急発進させる。だが、砂に足を取られないようある程度の速度から加速だ。

 

やつが足元に近づいてきた時にさらに加速して回避、これしか方法はない。

 

「脱出の準備はしておけ!」

 

クレインさんがそう叫ぶ。

 

俺は、来翔という風属性の空に浮かぶ魔法の詠唱をしながら、レバーとエンジンに流す魔力を調整する。魔力回復薬もいくつか噛み潰しておく。

 

ワームの地中からの突進が加速したぐらいで、魔法を発動する。

 

「来翔!」

 

本来は人を浮かしたり飛行するための魔法だ。だが、大量に魔力を使えば、数秒なら馬車ごと浮かせられる。

 

「ミスったら」は考えない。

 

加速した時に方向転換してからジャンプしたので、隊列の近くに戻ってきた。

 

「前方30メートル地点に出てきます!」

 

俺は空中でそう伝えた。魔法を制御し、衝撃を抑えることに全力を注ぐ。

 

着地したぐらいで、隊列の正面の地面が吹っ飛んだ。

 

とんでもない大きさのワームが天に向かって伸びていった。

 

「今だ!撃ちまくれ!」

 

冒険者たちに指示を出していたのだろう、色んな属性の魔法や、矢が飛んでいった。

 

クレインさんがその弾幕の下を走るようにしてワームに近づき、弾幕に入らない程度に飛び上がって大剣を振り下ろした。

 

縦に5メートル近くの裂傷が刻まれ、大量の血が吹き出し、ワームが不快な唸り声を上げた。

 

「ギィィィィィ!!」

 

クレインさんは大剣を背負い直し、高速で移動する。あの動き、間違いなく縮地の技能を持っているな。

 

「これで退いてくれれば一番いいんだがな…」

 

ワームは、少し、唸り声と、怯んでいるような動作をしたあと、こちらに向き直り、向かってきた。

 

「マジかよ!?クソッ!」

 

クレインさんが、ワームに轢かれそうになるが、なんとか回避する。

 

私は、矢尻を魔石に変えて、魔法を刻み込んだボルトに魔力を込めて撃ち出す。

 

ボルトは飛翔中に風を纏い、ワームに突き刺さった。

 

その数秒後、ワームは大量の血を吐き出した。

 

「ギィィィィィッ!?」

 

あれは可能な限りの風魔法を刻み込んだボルトだ。体の中で鎌鼬が渦巻いてズタズタになったはずだが、かなり肉厚なのだろう、まだ死ぬほどではないらしい。

 

「タフネスすぎる…デカいってのは純粋に厄介だな…」

 

その時、狩人の2人が声をかけてきた。

 

「今のそれ、弓に使えるやつない?あったら頭狙って狩れるかも」

「頭…?あと、弓に使えるやつはないですけど、即席で作るのはできます。どのくらいの大きさがいいですか?」

 

狩人たちが、大体こんくらいの大きさ、と手で表現しているのを見て、車から木材を取り出し、簡易錬成で、ボルトを解体しながら矢に作り直した。それを男の狩人が受け取る。

 

「外すなよ?」

「言われなくても、だな」

 

ワームが私のボルトで怯んだ時に、クレインさんがもう一回、今度は横に切り裂いたりしたらしい、その甲斐もあって、ワームはこっちにはきていない。

 

だが、ワームは暴れ散らかしており、急所を狙うのは至難の業だ。

 

「魔力を込めておきます、3秒以内に撃ってください」

「まかせろ。狙い澄ました一点を穿つ 絶射!」

 

弓から放たれた矢は空を切る音を出しながら凄まじい勢いで、ワームに突き刺さった。

 

口から5メートルほど離れた位置だが、狩人の見立てがあっていたのか、そこを射抜かれて魔法が発生した数秒後、サンドワームは静かに地面に倒れ伏した。

 

「……気配感知に反応がなくなりました」

 

槍を砂に刺し、しばらく反応を探る。

 

「討伐成功……か」

 

クレインさんが、ようやく大剣を背負い直した。

 

「狩人さん、アンタすげえよ」

 

遠距離攻撃をまともに扱えなかった冒険者たちから、狩人の二人へ次々と声が飛ぶ。

 

「いや、あれを最後に仕留めるとかヤバすぎだろ」

「よくあんな暴れてるところに当てられたな」

「流石に俺には無理だわ」

 

狩人組は少し照れ臭そうにしながら、倒れたサンドワームを眺めていた。

 

「……俺たち、あれ殺したんだよな?」

「たぶん……」

 

そこへクレインさんが戻ってくる。

 

「まさか、サンドワームを狩れるとはな……」

「やっぱ、すごいんですか?」

「金冒険者でも普通に全滅するくらいの魔物だからな。そりゃあ凄いさ」

「やったぜ」

 

狩人組が小さく拳を握った。

 

「まあ、俺たちだけの力じゃないけどな」

「そうそう。あの変な矢がなかったら、たぶん無理だった」

 

そう言って、二人が俺を見る。

 

「……ああ」

 

なんとなく視線を下げる。

 

「元々は私のボルトですからね」

「それを矢に作り直してくれたのも伊織だろ?」

「まあ、それはそうですけど」

 

俺たちは、緊張が解け、少し談笑した。

 

「じゃあ剥ぎ取りといくか。魔石は……伊織、貰っとくか?」

「え?いいんですか?」

「いいぞ」

「わーい」

 

普通に喜んでいると、後ろから声が飛んできた。

 

「にしても、今回はなかなか波乱の砂漠横断になったな」

「ああ」

「伊織がアレで囮になってなかったら、俺たちがあのワームと戦うことすらできてなかっただろうな」

「だな」

「それにあの馬車、最後には空まで飛んでなかったか?」

「……」

「馬車って飛ぶもんだったっけ?」

「私は知らないですねぇ」

「俺もそんな馬車は知らないな」

 

クレインさんが倒れたサンドワームを見る。

 

「まあ、全員の仕事が噛み合った結果だろ」

「全員?」

「俺一人じゃ殺せてねえ。狩人の二人も、あの矢がなきゃ最後の一撃は通せたかわからん。伊織が囮にならなきゃ、そもそも隊列ごと食われてた可能性もある」

「……」

「お前らも魔法を撃って援護してた。決定打じゃなくても、あれがなきゃ俺が近づくのも難しかっただろ」

 

クレインさんは周囲を見渡した。

 

「だから討伐に関わったのは全員だ。誰が一番とか、そういう話じゃねえよ」

 

俺は改めて倒れたサンドワームを見る。

…全員の力を合わせて、ようやく倒した。

そう考えると、さっきまでの恐怖がまた蘇ってきた。

 

「…生き残った…」

「何か言ったか?」

「いえ。なんでもないです」

「じゃあ、剥ぎ取るか」

 

俺は魔石を回収するため、サンドワームの巨体へ近づいていった。

 

…そういや魔物の肉って食えないのに何に使うんだろう…

 

魔物の肉の中にある魔力を取り除く魔法があれば食えるかもしれない。

 

俺は魔石と、牙、皮をもらいながらそう思った。

 

 

 

 

 

6日目

 

その日は何事もなく、昼ごろに目的地に着いた。

 

アンカジの巨大な光り輝く門の近くに俺たちはいた。ずいぶん立派な門だ。

砂を弾いていることから、結界の魔法に覆われているのだろう。

 

ユンケル氏が入場手続きを済ませる。俺たちも護衛の冒険者であることを示すためにプレートを見せて、中に入れてもらう。

 

アンカジの入場門は何故か高台にあるらしい。

 

面倒だと思っていたが、すぐにそんな考えは消えた。

 

凄まじい街だ。圧倒されたと言ってもいいだろう。

 

右側には光り輝き緑に囲われたオアシス、左側には真っ白な宮殿と乳白色の町並み、その間を幾多もの流れるオアシスを源流にした小川。

砂漠のど真ん中の街に小舟が浮かんでいるとは、なかなか面白いものだ。

 

北側は農業地帯らしい。狩人たちが、どうにかして見たのを教えてくれた。さまざまな作物などが育てられており壮観らしい。

 

通りには人がかなりいて、活気に溢れていた。

西の海から運ばれてくる海産物と、この街の新鮮な作物が取引されるのだろう。

 

「いつ見ても、この景色は壮観ですな」 

 

ユンケル氏が顎に手を当てながらそう言った。

 

 

 

 

 

街に入り、広場で俺たちは話していた。

 

「これで今回の依頼は終わりです。皆様、お疲れ様でした。それと、ちょっとした提案なのですが、我々にサンドワームの素材を売りませんか?」

 

ユンケル氏がそう、全員に持ちかけてきた。

 

ぶっちゃけ、俺としてはこのサイズの魔石は今のところ使い道がないので、別に売ってもいいかなと思った。ああ、牙と革、筋とかは使いそうだから取っておく。でも、多すぎても困るな…と思い、ある程度は売った。

 

今回の依頼は普通の報酬が30万ルタ、それを5倍にして150万ルタ、そこに素材売却の金も入れて、全部で180万ルタだ。

元から持っていたルタと合わせて大体980万ルタである。

 

小金持ち。もはや成金。

 

ユンケル氏に依頼達成の印をもらったあと、俺達は全員でギルドに行った。

 

全員で、サンドワームの討伐の証として、一部(牙など)を受付に渡し、依頼の達成書も一緒に渡した。

 

この功績によって数名が昇進した。

 

私は黒に、狩人組は緑に、クレインさんはなんと銀に昇進した。他にも黄が紫になったとか、紫から白になったとかもあった。

 

荷物を整理しに戻ると、ユンケル氏と出会った。

 

「どうかしましたか?」

 

ユンケル氏は、少し黙った後、こう言った。

 

「この馬のいらない馬車、そして弓のような武器についてお伺いしたいことがありましてな」

「…お聞きしましょう」

「単刀直入に言いましょう。この2点を譲っていただきたい」

 

…なるほどな。

 

「まあ、無理ですね。少なくとも、金では解決できない理由がいくつかあるためです」

「その理由というのは?」

「この馬車に関することからお話ししましょう。

一つ目、私は馬に頼らない大量の荷物を保持できる移動手段を手放すわけにはいかないこと。

二つ目、現状私がこれをもう一度作ることは不可能であること。

この二つが馬車をお譲りできない理由です」

 

「なるほど。かなりの訳アリなのですな」

 

「…否定はしませんよ。それでこのクロスボウ…ああ、あなたが弓のようなものといったこれですね」

「これの理由は一つだけです。簡潔に言ってしまえば友人の遺品だからです」

「ああ、剥ぎ取ったわけではなく、私に作ってくれたものですよ?」

 

「なんと…」

「そんなに悲観する必要はないです。あと、この二つが欲しいなら、王都の錬成師の職人に頼めば普通に作ってくれると思いますよ?」

 

そんな感じで、この車とクロスボウの話をして、私たちは別れた。

 

…情報料を取っても良かったかもな。

 

その後、私の奢りで宴会をし、解散になった。

ちなみにクレインさんと狩人たちは遠慮したが、他の冒険者たちに押しきられて、結局参加した。

 

20万ルタぐらい吹っ飛んだが、誤差である。

気にしたら負けだ。これは散財ではない、必要な出費だ。

 

…奢るのはもうやめにしよう。感情の振れ幅が小さいせいで、強烈な記憶にはならないや。

 

酒も飲まなかったし、出来上がった酔っ払いどもと一緒にいるのは意外と面倒だった。

 

…こういうことを後から思っちゃうのは良くないよなあ…

 

何やっても後悔してる気がする。

 

俺は宿をとってベッドに横になった。

明日からのことをなんも考えてねえや。

 

まあ、このやべー砂漠なんざ早々には渡って来れない…面倒だな、逃亡者だからビクビクするなんざかえって不自然だ。流れで生きるのが1番いい。

 

私は、すぐに眠った。




大規模な攻略系の回は人数が増えると思われます。

伊織一人でなんでもできる感じにはしません。
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