トータスに来てから大体2週間が経過した。
この間にも俺たちはきっちり訓練と座学を繰り返した。異世界を楽しむ暇もない。なかなか難儀なものだ。このままここにいても待っているのは命の危険だ。そう考えると、本当に脱走したくなってきた。まあ、そんなことを意識している奴はほとんどいないと思うけど。
この2週間であった出来事は大小様々だ。
図書館で知り得た情報を共有したり、先延ばしにしていた自分の武器を決めたり、南雲や清水と作れそうな道具の案を出し合ったり、実際に作ったりしたぐらいだ。
この2週間で俺のステータスは魔力が体力と同じくらいになった。
規則性のない上がり方だった。レベル連動ではないらしいので、自由時間に魔法を使いまくっていたことで、多少鍛えられたのだろう。体力に魔力が追いつくのは嬉しい誤算である。
ちなみに天之河よりレベルが低いが、体力と魔力は並んでいる。おそらく、俺自身はその二つが伸びやすいんだろう。才能なのか適性なのかは知らんけどなんだろうな?表現が難しいなこれ。狂化暴走のスキルは滅多なことがない限りは封印だ。いつもの四人組が全力を出した上にメルド団長が加わらないと止められない怪物になるのはヤバすぎる。まあ最悪の場合は二刀持ちになってあれで暴れるしかないだろうが。
え?南雲のステータス?
言葉を失ったよね。魔力が一応伸びてきたけど、魔力回復薬をがぶ飲みさせながら錬成させ続けたりした影響だと思われる。
南雲は泣いた。俺が無言で魔力回復薬を差し出したら、普通にポカポカ殴られた。貧弱である。白崎に押し倒されたら、何も抵抗できないだろう。南無三…
ちなみに清水はこんな感じ。
清水幸利 17歳 男 レベル:5
天職:闇術師
筋力:30
体力:50
耐性:40
敏捷:30
魔力:250
魔耐:200
技能:属性適性[闇・火]・属性耐性[闇・火]・複合魔法・高速魔力回復・魔力感知・言語理解
圧倒後衛感。だが、特化型ゆえに、魔法系のステータスは勇者と同等、上回っているものすらある。
闇と火って厨二すぎるだろ…って言ったら、杖で脇腹を突かれた。解せぬ。ダークフレイム!って言っているのを陰から見てたのがバレた時は死ぬかと思った。
という感じで、ただ訓練して勉強して、研究して会議して寝るだけの生活を繰り返していたわけですね。
ちなみにこの2週間では知識面では、魔法や国、7大迷宮について知った。まあ、何割かは南雲が教えてくれたものであるが。
そして、本題の研究成果はこんな感じ。
研究成果 魔法
・ゴーレムの作成は一応可能。ただし、魔力を直接操る技能か、マリオネットのように接続糸が必要
・ゴーレムカーは術式をいじることである程度は可能だとわかった。ただし、岩をそのまま車にすると重すぎて車輪部分が潰れる。あと乗り心地が壊滅
・防音結界は風系統か、結界魔法の応用で可能。
・オリジナル魔法を作るのは容易だが、調整が難しい
・実は陣を刻めば錬成は俺たちも使える。
研究成果 兵器
・現状、精密加工が無理。
・パーツを手作りし、組み立てだけを南雲の錬成を使うと、普通のクロスボウができた。
・硫黄があまり見つからなかったが、一応存在していたので火薬系も意外と作れた。
・火薬系で作れたのは、てつはう、煙玉、マジで使えねえゴミみてえな火縄銃(ぶっちゃけ、作れただけでも俺たちはすごいと思う)
・槍投げ器(アドラトル)
・スリングショット
という感じだ。
火縄銃、てつはうは数体これで倒しても音でかなりの数が寄ってくるからきついな…となった。だが、撤退時とかには良いかもしれない。
クロスボウやアドラトルなどが、現状の物理的な主力になりそう。
一応、俺は装備としてショートスピアとバックラーがあるが、サブ前衛みたいなものなので、あんまり期待しないで欲しい。
え?クロスボウくれんの?ありがとう。
現在、俺と清水は雑談をしながら、刃のないショートスピアと杖で殴り合っていた。清水は教官から「ある程度近接できたほうがいい」と言われたらしく、杖に黒いオーラを纏わせてぶっ叩くとかを練習したりしている。ちなみに団長曰く、数週間でエンチャントに近いことができるのは手放しで褒めてもいいレベルらしい。普通に前代未聞とのこと。
ちなみに俺から見た清水はクソほど厄介の一言に尽きる。俺の状態異常耐性を普通にぶち抜いてくるという、意味不明な強さの闇魔法の練度である。ちなみに敏捷がもう少し高ければ引き打ちでクラスメイトの近接職の完封ができそうらしい。なんだこいつ。カースロードとか名乗らないか?
あっ、闇火混合でぶん殴るのヤメテェ普通に効くから…
そんなこんなでもうそろそろ訓練の時間だ。あっ、南雲が焦りながらきた。異世界でも遅れ癖は治らないのかよ…
あ、檜山達に絡まれて連れていかれた。
ちょっと教官役の騎士の人の近くにつくか。清水にはここで切り上げの目配せをし、二人でチラリと南雲が連れて行かれた方を見る。
俺の耳にははっきりと南雲に対する罵倒や暴力が聞こえてきた。
「教官、あっちから変な音と魔力の流れを感じます」
「ふむ?行ってみよう」
そう言って教官は訓練場の隅に向かって歩き出した。俺はその後ろをついていく。
南雲が1発魔法を喰らったのが感知に引っかかる。だが、2発目を喰らう瞬間に煙が一気に広がった。
「なっ!?」
「おわ!?」
教官と煙の中の誰かが驚きの声を上げた。教官と俺は煙に駆け寄る。
「南雲テメェ!舐めてんのか!」
中から怒号が聞こえてくる、それと同時に煙の中から、怪我と土汚れのついた南雲が転がり出てきた。
「ハジメ殿!?」
「南雲、大丈夫か?」
「大丈夫ではないね…」
「軽口が言えるなら大丈夫だな。ちょうどいい、ここに実験のしていないオリジナルブレンドの回復薬があるけど飲むか?」
「流石に飲まないよ…」
「残念、またの機会だな。えーと、天の息吹、満ち足りて?なんちゃら〜、天恵?」
だめだな、思い出せねえ。
まあ、ほっといても白崎が治すだろ。
「水球」
手のひらの上に水の塊を作り出し、布をその中に浸して南雲に渡す。
「ありがとう、月見里君」
「気にするな、それよりも…風壁」
煙が晴れる。そこにはいつもの四人組がいた。
「よ、よお月見里…それに教官も…」
「教官さん、よろしく」
「まかせろ。今日はメルド団長から特に厳しくいけと言われているから、その性根を叩き直してやる」
小悪党四人組は教官に拳骨を受け、むんずと足を掴まれて訓練場の方に運ばれていった。市中引き回しの刑(笑)だな。
そのくらいで、白崎や天之河とかのいつもの奴らが清水に連れられてやってきた。
「南雲君!?大丈夫!?怪我してる…今直すね」
「何があったんだ?月見里」
白崎が治している時に天之河に何があったかを聞かれたので一応話したが、俺の胃がジリジリし始めたので適当な話に変えて打ち切ってやった。
ちなみにこいつの頭の中ではあれらが南雲の特訓に付き合っていたことになった。しかも悪気なしで。しかも、南雲が弱いのにかまけて本を読んでいるのがよくないらしい。
「言っとくが、南雲と俺と清水で結構色々道具作ってんだ。別に怠けてるんじゃない。なんなら魔法系のステータスの訓練にもなってる。さっきの煙幕もその道具の一つだ」
とだけ、言い返しておいた。
そのとき訓練が始まるという合図があったのでお開きになった。正直あそこからはめんどくさくなりそうだったし、ちょうどよかった。
訓練後、団長から明日からは実践訓練の一環としてオルクス大迷宮に行くことが告げられた。
今日の夜は準備に大忙しだな。これは眠れないぞ。
喧騒に包まれるクラスメイトたちをそっちのけで、どの道具を持っていくかを考え始めた。
次回から大迷宮です。