オルクス大迷宮の門前町?のホルアドという街に着いた。この大迷宮に挑戦する冒険者がよく利用するらしい。
今日は馬車疲れもあるだろうということで、挑戦は明日からになった。
俺は夜なべして作った座布団を脇に抱えながら馬車から降りた。
昨日、団長に個人的に話を聞いた。そこで、馬車で行くと尻と腰が結構痛くなると聞いていた。
なので、見様見真似で適当に程よい弾力を生んでくれそうなものを布に詰めて縫い合わせ、座布団を作り出しておいたというわけだ。
クラスメイトは腰と尻をつらそうにしているやつや、腰を叩いているやつが溢れていた。次は湿布でも作るとしよう。
そんなこんなで、いつもの訓練では元気だった奴らも少しぐったりしており、すぐ解散になった。明日の朝は早いから早く寝た方がいいらしい。
ちなみにこの実践訓練についてきている引率は団長と騎士数名だ。20階層くらいまでしか行かないらしく、そこまでならまあ全員カバーし切れるとのこと。その時の騎士やクラスメイトの視線が南雲に集まっていたのは気のせいではないだろう。
話を戻そう。宿では二人一部屋だ。
ちなみに南雲は余りものだった。俺は誰でもいいと言っていたので南雲と相部屋になった。気にすんなよ南雲…
「気にしてないよ…」
「気にしてるなあこれは」
俺はクロスボウをチェックし、南雲は最終護身用のどこぞの海賊が持ってそうな銃を持っていた。
「魔物に銃って効くのか?ヒグマとかは銃ではきついって聞くぞ?」
「効く効かないはあまり気にしてないよ。僕が最低でも行動阻害をできるように銃と錬成をすぐ使える方がましだからね」
「ブラ○のガンパリィを後ろから狙ってるようなもんか」
「そうそう。姿勢が崩れるぐらいの支援ができればいいかなって」
「なるほどな」
そうして雑談をしながら、持っていくものの確認をしていると、突然部屋がノックされた。
「チッ、誰だよ、今何時だと思ってやがる」
ドアに向かって歩いていく。
ノックの主に返事しようとした時にあっちから返事が来た。
「南雲くん、起きてますか?白崎です」
脱兎の如く、俺は窓から屋上に逃げ去った。
「えっ、ちょっと!月見里君!?」
「南雲くん?入るよ?」
ふぃー、厄災からの逃亡成功だ。
月見里伊織はクールに去るぜ。
…にしても、異世界の夜空は綺麗だな。
俺はそうして星空を眺めていた。
眺めようとした…
うん、南雲達がどんな話してるか盗聴しよう!
爆速で部屋の前に戻る。
部屋のドアに筒を当て、会話を聴く。
「私が最初に南雲くんをみた時は土下座してたから私のことが見えていたわけないしね」
「ど、土下座!?」
突然意味不明な話だな。文脈がわからないからマジで意味がわからない。
その後話を聞いていったところ、昔おばあさんと子供が不良に絡まれていたところに割り込んだらしい。そこでとった手法が、土下座で謝り続けること。何をされても土下座を続け、不良を退けたらしい。
白崎は弱くても人のために頭を下げた南雲の姿に惹かれたらしい。
その後、なんか白崎が決意を固めるようなことを口にし、少し雑談したのちに帰っていった。俺は部屋から出ようとした時に廊下を音もなく走り、階段から上がってきた風を装い、欠伸をするフリをしながら部屋に戻った。
ちなみに南雲は寝ていた。
寝るの早すぎだろ。余韻とかないんか?
目が覚めた。大きく伸びをし、起きあがる。布団を蹴り飛ばすことで二度寝の悪魔を退け、軽くストレッチをして靴を履き、身支度を始める。
途中で一応南雲を起こしておく。
「起きろ」
「zzz」
「南雲!遅刻だぞ!」
「うえああ!」
「おはよう」
「おあよう、今何時?」
「異世界に時刻はない」
「あっ、そうだった。え?でも遅刻って」
「夢だよくあるやつだな。夢の中で起きたら大事な日に遅刻して大慌てするやつ。起きたら心臓バクバクのあれ」
「なるほどね…」
布団から這い出す南雲を横目に、今日の荷物をまとめて、この宿に置いておくものも一応確認する。
「じゃあ朝食に行くとするか」
「そうだね」
その後、準備をして宿を出発した。
今、俺たちはオルクス大迷宮の正面入口のある広場に集まっていた。かなり整備された入口で、もはやゲートとすら言ってもいいようなものだった。受付嬢っぽい人もいる。
ちなみに、ここでステータスプレートのチェックをすることで、死者数の管理などもしているらしい。
広場の前には大量の露店が所狭しと並んでいた。残念ながら俺達は手持ちの金がないので、何も買えない。こっそり冒険者登録して依頼でも受けとけばよかったな。採取系で小銭稼ぎぐらいならできただろうに…
俺たちは団長の後ろをついて行って大迷宮に入って行った。
ちなみにフォーメーションは、いつもの四人組のからの白崎を抜いた三人、でかい柔道部のやつ、子悪党組の数名が前衛。
俺と小悪党組の余り、その他サブ火力要因が中衛、清水や白崎あと例外として南雲といった、近接戦が苦手な奴らが後衛になっていた。
まあ清水は中後どっちでも動けるのだが…
大迷宮の中はthe・ダンジョンって感じだった。光る鉱石が内部を照らしており、視覚はある程度問題はない。松明とかで片手が塞がらないのはグッドだ。ちなみに俺は技能 夜目の効果ではっきり見えている。あると便利だ。
進んでいくと、ドームのような部屋に出た。
隙間に魔力、気配の反応あり。
「さまざまな隙間から反応あり、小さめの魔物。数は…100ほどですかね?」
「わかった。お前達!魔物のお出ましだ!光輝達は前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうから準備しておけ!」
隙間という隙間から灰色の毛玉が出てきた。ネズミかな?
「あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが大した魔物じゃない。冷静に行け!」
ラットマンの大群がその全容を明かした。
二足歩行になったムキムキのネズミだった。胸毛がない。どこぞの海外の黄土色のカートゥーンのネズミだ。
ほうれん草が主食ならああなるかもしれない。ちなみに可愛くはない。
天之河達が斬り漏らしたネズミをスピアで突き刺していく。その度、自分の腕に肉を貫き絶命させる感覚が伝わってくる。
背筋が凍るような感覚がした。
それを振り払い、次々と突き刺して殺していく。
たまに石のようなものをゴリッと削るような感覚がする。
俺は手のひらの感覚を、腕の感覚を意識しないようにしながらそれを続けて、ネズミが来なくなったぐらいで団長が声を上げた。
「ああ〜、うん!お前らよくやったぞ!だが、今回は訓練だからいいが、実戦では魔石の回収も視野に入れておくように!」
団長の話が終わると、騎士の一人が近づいてきた。
「魔石を取らないのですか?」
「え?」
「魔石ですよ、魔石。伊織殿の倒したものはかなり状態がいいので、何体かは魔石が取れると思いますよ?」
「えーと?どこにあるんですかね?魔石は」
騎士は解体用のナイフでネズミを解体しながらまさぐり、小さな石を見せてきた。
「大体心臓のあたりです。ラットマンは弱い魔物なので、魔石も素材も少しの価値しかありませんが、露店ではちょっとなんか買えるくらいにはなると思いますよ?
あと、どうせ20層まで行ったら大きい魔石とか素材とかでバッグが詰まるので、その隙間に詰めるのにもいいんです」
「これはご丁寧にありがとうございます」
小さめのナイフでラットマンを解剖するように斬り肉を分けていくとさっき見せてもらった石と似たものを見つけた。
「これですか?」
「そうです」
へぇーいいこと知ったな、と思いながらまた騎士さんに礼を言い、歩みを進め始めた。
肉の感触が何か、これまでの自分を塗りつぶしていくような感覚に襲われた。俺はそれを頭の奥に追いやった。
それから、魔物を殺し、肉を割いて魔石を取るたびに少しずつ言いようのない悍ましい感触に理解が追いついてきたが、それはそれとして置いておく。理解したら本当にダメな気がする。
ちなみにここまで、ずっとショートスピアで突き刺すことと、誰かと協力して魔法を放つ時ぐらいしかすることはなかった。ちなみに自分で仕留めたやつは自分で解体していいらしい。もちろん周囲の安全は確保した上で、だ。
このオルクス大迷宮では、魔物よりもトラップの方が命取りになりやすいらしい。
騎士達が魔道具で罠の有無を確認したところ以外は絶対に行かないように。と釘を刺されている。
そんなこんなで20層に到達した。
団長曰く、ここの攻略で今日の訓練は終了らしい。おいおい、クロスボウも雑貨類も出番なしじゃねえか。何のために用意したんだ?
周囲を警戒しながら歩いていると、何度も危機察知が働いたが、ずっと不発だった。クラスメイトぐらいの周辺にしか効果がないので、南雲と白崎がラブコメしてるらしいので、それに対する怨嗟だろう。異世界でも熱心な祟りなことだ。
周囲を警戒しながら進んでいくと、感知系に何かが引っかかった。あれは…岩か?
そう疑問に思っていると団長からこのような声掛けがあった。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
やはり、変な反応を感じる。
「前衛達、しゃがんで」
「わかった」
前衛達は怪訝な顔をしながらしゃがむ。
反応したところにクロスボウを放つと、見事突き刺さった。
「よく見破った!あれはロックマウントだ。二本の腕に注意しろ、かなりの剛腕だ!」
見た目はゴリラって感じだな。皮膚がカメレオンみたいに変わる特性を持っているらしい。あいつに不意打ちを喰らうとかなりの致命傷になりそうだ、気をつけるべきだな。
ボルトの刺さったロックマウントは前に出てきた前衛達に阻まれていた。だが、あちらは前衛の壁を越えられず、こちらは地形のせいで追い込みずらい。
そんな膠着が続いた後、ロックマウントが特大の咆哮で、前衛達を一瞬動きを止めた後、近くのお手頃な岩を後衛に向けてぶん投げてきた。質量攻撃である。
と、思ったら岩がロックマウントになった!?いや、投げた岩にロックマウントが擬態してたのか!?
飛んできたゴリラは空中で一回転を決め、白崎の方に飛び込んできた。両腕を広げて、組みつきを狙っているのか。あの程度後衛なら対応できるはずだが、なぜか動きが止まっている。何なら顔が引き攣っている。
まずいな、直撃するぞ…
そう思った時、乾いた破裂音が聞こえ、ゴリラは撃ち落とされた。
地に落ちたゴリラは頭を押さえ暴れている。どうやらうまく立てないらしい。その隙に、槍を逆手持ちにし、頭を庇っている腕ごと貫き通す。ピクリと動いたので、念入りにえぐり、絶命させた。
「こらこら、戦闘中は体の硬直が命取りだぞ!」
「す、すみません…」
カバーに入ろうとしてくれたのだろう。メルド団長がすぐそこまで来ていた。
にしても今の銃声、南雲のあれはちゃんと動いたらしい。しかも飛んでるやつに当てるとは、お見事の一言に尽きる。
そんな思考に沈んでいると、突然、天之河が聖剣を光り輝かせながら「天翔閃!」とか言いながら上段から振り下ろした。
壁をぶち壊しながら、光波が飛んでいった。なにあいつ…怖。
その後、白崎達に向けて爽やかスマイルをしていたが、メルド団長に拳骨を喰らい怒られていた。その理由は崩落の危険を考えろというものだった。妥当な理由である。白崎達に慰められていた。そこは甘やかすなよ。
ふと、白崎がぶち抜かれた壁の先を見てこんなことを言った。
「あれ…何かな…キラキラしてる」
俺たち全員はそっちをみた。
メルド団長もそれを見た。
団長曰く、あれはグランツ鉱石といい、簡潔に言うと宝石の原石らしい。
ちなみに、特別な効能はない。ゴミである。
ちなみに求婚の際に選ばれる宝石のトップ3に入るらしい。やっぱすごいかも。
「素敵…」
白崎がそう漏らした。
俺はその鉱石を眺めてみた。俺は背筋が凍るような感覚に襲われた。
「だったら、俺たちで回収しようぜ!」
檜山が飛び出した。
メルド団長は怒った。
俺は無意識で後退りした。
あいつが鉱石のある壁に近づいた。俺も近寄ってみることにした。
騎士の一人が魔道具で罠を確認した。俺は魔力感知でグランツ鉱石を見てみた。
何の効果もないはずのグランツ鉱石には魔力反応があった。
「罠だ!やめろ!」「団長!トラップです!」
俺と騎士は叫んだ。
その時には、すでに檜山は鉱石に手を触れていた。
俺と騎士は顔を見合わせた。
お互い、真っ青になっていた。
檜山が鉱石に触れた手を中心に魔法陣が現れ、光が漏れ出した。その光はすぐさま部屋中を埋め尽くし、輝きはさらに増していった。
メルド団長が叫ぶが、誰もが呆気に取られている。
完全に光に包まれ、少しの浮遊感の後、地面に落ちる。俺はこけるように着地した。すぐに立ち上がり、周りを見回すと、どうやらとても大きな橋の上にいるらしかった。
横幅はおおよそ10メートル、全長は…100メートルほどか。天井までもかなり高い。橋の下は、俺の感知では何も感じれない。少なくとも、落ちたら死ぬだろう。
俺たちはその橋の真ん中にいた。
両端には上に上がる階段が見えた。
メルド団長が片方の階段に全力で走り、撤退するよう指示を出した。
だが、おそらく最速で駆け抜けた俺の前に魔法陣が現れ、バカみたいな量の剣持ちの骸骨が現れた。
急いで、集団の方に戻り、孤立を避ける。
おそらく反対側も何かしらいるだろう。
俺は何気なく、後ろを振り向いた。振り返ってしまった。
FFシリーズをやったことがある人なら、皆ご存知だろう。
ベヒーモス。
そんな名前が、走馬灯のように頭をよぎった。
この世界ではベヒモスと呼ばれている怪物が出現した。
メルド団長が呻くようにその名を言ったのを俺は聞き逃したかった。