ありふれた職業で異世界攻略   作:KPC

7 / 8
死地

心臓が少しずつ締め上げられるような感覚がする。

 

息が詰まっていく。

 

橋の反対側に見える怪物のせいで、近くまで迫っているスケルトンども(本来はトラウムソルジャーという名前)に集中できない。

 

今は何も考えず、とにかくスケルトンに殺されないように、後ろに下がりながらでも、おぼつかなくても、槍を、クロスボウを、爆弾をガタガタと震える手で使わないと、使わないといけないのに…

 

思考がまとまらない。

 

持ってきていた飲み物を今じゃないと思いながらも中身の大半を溢しながら口に入れ、飲む。

 

少しだけ落ち着いた。

 

バックラーをしまい、クロスボウの装填と発射を可能な限り早く繰り返す。クラスメイト達は恐慌に陥っている。これに対処していると、スケルトンに背中から切られて死ぬ。クラスメイトが元に戻らないと、ずっとジリ貧だ。何なら、こいつらが気が狂って暴れた拍子に俺の姿勢が崩れたり、橋の外に吹っ飛ばされたら終わりだ。

 

噛みながらも何度も魔法を詠唱し直し、放ち続ける。狙いも何もあったものじゃない。クロスボウも敵の方に狙いはつけているが、当たっているのを確認していられない。

 

ふと、放ったボルトがスケルトンの頭を砕いた。

スケルトンは頭を粉砕されると即死するらしい。

 

だが、頭をクロスボウで一点狙いするよりは、胴体のどこかに当てて、のけぞらせ、うまいことこけさせた方がマシだ。

 

さっきの騎士の一人が声をかけてきた。

 

「ハジメ!伊織!手を貸してくれ!」

 

いつのまにか南雲も戦っていた。地面を隆起させ、スケルトンを押し出したり、滑らせたりしていた。

 

「何ですか!」

「こいつらが立ち直す、あるいは立ち直るまでの時間稼ぎ及び、ヤバくなったやつの救出だ!」

「元からそのつもりです!」

「上等!」

 

他のクラスメイト達は完全なパニックだ。自分勝手に前に進もうとしている。

 

「おい!清水!いねえのか!」

「なんだよぉ!月見里ぃ!」

 

半分錯乱状態だが俺に声をかけられたことで少し意識が戻ったらしい。

 

「全員パニックだから、闇魔法に精神を落ち着かせる魔法とかねえの!」

「無茶言うなぁ!それは回復魔法だろ!」

「じゃああれだ!とりあえず、隊列の最前のちょい先のスケルトンの意識飛ばしてそれになんか魔法当ててこけさせろ!」

「わかったよぉ!」

「後、最悪時間稼ぎでもいいから!」

「別に倒してしまってもかまわんのだろう!」

「やれるならな!」

 

クロスボウの装填発射を繰り返しながら、先走りそうになったクラスメイト達を自陣に引き戻す。

ふと手が空を切った。マジかよ、ボルトが無くなりやがった…!大事に打つべきだったか…

 

悔やんでいても仕方がないので短槍とバックラーに持ち替える。

近接戦になったので、側面から突き出してきた剣を寸前で回避しながら、周りを見渡しながら、そして後ろにジリジリ下がりながら戦う。

 

槍でスケルトンをこかし、頭を踏み潰し、奈落に蹴り落とす。払うようにぶっ叩いて、敵同士をぶつけて進行を遅くする。

 

ふと、女子が一人が横に倒れてきた。

後ろから押し出されたのだろう。目の前にはスケルトンが剣を振り上げている。俺が助けるのは無理だ、でもこういう時にこいつがいるんだ。

 

「南雲!」

「大丈夫!見えてる!」

 

スケルトンの足元ぐにゃりと歪み、スケルトンが倒れる。そのまま中央から広がった波打つ地面に押し出され、何体かは奈落に消えていった。

 

「早く前へ!大丈夫、冷静に行けばあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いてチートなんだからさ!」

 

それ言ってて悲しくねえか?

まあいいや、南雲や騎士の鼓舞も相まって、パニックが治ってきたようにも感じる。

 

だが、騎士と俺と清水はかなり限界だ。

騎士は傷だらけ、俺は致命傷はないが、もう詠唱ができなくなっている。

清水は魔力には余裕がありそうだが、疲労のせいか、杖のエンチャントが切れている。

下がりながら杖でスケルトンを突き、そこに撃ち込むという着実とも言えるが、殲滅力がない戦い方だ。

もう詠唱がキツくなっていることから一、二節の魔法を詠唱省略で戦っているのだろう。

 

ジリジリと、どうしても後ろに下がらざるを得ない。倒せる数と増える量の差が徐々に大きくなっていく。

 

「3人とも!僕に案がある!1分持ち堪えられる?」

 

俺たちの返事は決まっている。

 

「「「まかせろ!行け!」」」

 

南雲が走っていった。

 

南雲がどこかにいったことでさらにスケルトンの進行が早くなったが時間稼ぎの甲斐もあり、数名が冷静さをとりもどしたことでギリギリ崩れはしなかった。

 

生徒達の連携が多少戻り、またジリ貧程度まで戻せた頃、ついにいつもの四人組が戻ってきた。

 

「天翔閃!!」

 

ド派手な一撃がスケルトンを切り裂き、衝撃波が端にいたやつを橋の外にに叩き落としながら突き進んだ。

 

「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!」

 

やっときたか。

少し後ろに下がり、体力と魔力の回復薬を飲み一息つく。

 

清水も顔から汗と冷や汗をダラダラ流して呼吸が荒くなっていた。

清水も立て直した前衛組の後ろに下がり、一息つきながら薬を飲んでいる。

 

騎士さんも薬を飲みながら治癒を受けている。

 

「お前達!よく持ち堪えた!拙いが…緊急時にも関わらずいい連携だ!」

 

団長が天之河の一撃にも勝るとも劣らない一撃を繰り出し、敵を粉砕する。

 

拙かった連携も、冷静でなかった生徒も本調子を取り戻していき、陣形も整った。

 

騎士達、生徒達の絶え間ない攻撃はスケルトンが湧いてくる速度を上回り、特に天之河、坂上、八重樫が、包囲網を貫き、スケルトンの突破に成功した。

 

性格を補って有り余る強さがあるのは少しムッとするが、助かったので良しとしよう。

 

遂に全員が包囲網を突破し、階段前にたどり着いた。意気揚々と階段を登ろうとした瞬間、天之河が再召喚されたスケルトンを魔法で蹴散らした。

 

白崎が南雲が後ろの怪物を抑えたまま残っていると言った。

 

俺は驚愕と共に辺りを見渡した。

 

確かに南雲は見当たらない。

 

遠くのベヒーモス(ベヒモス)をみると、頭が地面に埋まっていた。

 

「なんだ…ありゃ」

 

これは誰の言葉だったのだろうか。

 

だが、誰もがそう思っただろう。

 

俺ですら、天之河達を呼びにいくのが作戦かと思ったぐらいだ。

 

よく考えれば、天之河達がこっちにきたら、誰がベヒモスを止めるというのか。

 

その答えがあれだ。

 

「すげぇぞ南雲!」

「汚名返上どころか、英雄じゃねえか!」

 

俺と清水が盛り上がる。

 

その後、団長が言うには、これから南雲を逃すために全力で遠距離攻撃をし続けるらしい。

俺も水系の詠唱を用意しておく。

 

数十秒後、南雲が駆け出した。

 

「今だ!総員魔法を放て!」

 

団長の勇ましい掛け声と共に雨のような量の魔法が発射される。

 

南雲が必死の形相で走る。

いける!間違いなく離脱できる。

まさかあの状況から誰一人欠けずに生きて帰れるのか…

その安堵が俺の緊張をほぐした。

魔法の制御も安定して、ベヒモスの赤熱した頭部に水魔法を当てることを容易にした。

 

そのくらい、余裕があった。

 

火球の一つが、南雲の方へ飛んでいった。

 

その瞬間

 

南雲が、ベヒモスの前まで吹き飛ばされる。

 

「やばいぞ!おい!」

 

誰の声だったのかはわからない。だが、何人かは同じようなことを言ったのは間違いない。

 

ベヒモスが凄まじい咆哮をしながら頭を橋に叩きつけた。

その威力が高すぎたせいか、橋が崩落を始めた。

 

「おいおいおい!マジでやばいぞ!」

 

武器を捨て、駆け出そうとするが、誰かが俺の手を掴み、そのまま何人かの手が俺を抑えた。

 

「何しやがる!離せ!」

「やめろ月見里!減ったとはいえスケルトンの中に突っ込む気か!?死ぬぞ!」

「ふざけんな!そんなことが認められるかぁ!」

 

狂化暴走を発動する。

 

全ての手を引き剥がし、スケルトンを地魔法で出した岩石を盾にしたタックルで吹き飛ばす。

 

橋の上を全力疾走する。

 

途中で狂化暴走を止め、精細な動きを取り戻す。

ベヒモスが奈落に落ち、南雲のいる場所も崩れ始める。

 

「南雲!こっちだ!手ぇ伸ばせ!」

 

南雲が青ざめ、恐怖に体が強張っているのか、這いずるようにしか動けていない。

 

ついに南雲のいる場所が崩れ、奈落へと消えていった。

 

誰かの絶叫が響き渡った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。