今は昔ーー
一つの大きな流れ星が飛来する東京の夜空。
それを見た人々の多くは両手を結び願いを請う。
芸術のように美しく、眩いそれは全ての視線を奪っていく。
それに紛れ、もう一つの青色の流れ星。
『うおおおおっ?!』
ーーではなく、ヒーローが落下していることに誰にも気付かず。
『パラシュート、パラシュート!』
胸部装備左上に描かれる【7】のパネルをタッチし、手元に呼び出した【パラシュートスイッチ】をフォーゼドライバーに対応するスロットに装填、スイッチを起動する。
【Parachute、ON】
左腕にパラシュートが展開され、ゆっくりと町外れの場所に着地する。笠を覆い被ったまま変身を解除し、如月弦太朗は崩れ掛かった自慢のリーゼントを整える。
時代遅れを象徴する昭和の不良を想起させるが、彼は至って真面目にこの格好で学校も通っている。
「とりあえず賢吾に連絡するか」
通信ツールの【NSマグフォン】を使い通話を発信しながら市街地へ向かって歩き始める。しかし、肝心の通話は2コール目の途中で切れてしまった。
電波が悪いかと思ったが、そもそも地球と月を繋ぐレベルの電波があるのに切れることなんてない。もしかしてわざと切られたと疑うが、それはないはずだ。
「にしても暑いな……」
上着を脱ぎもう一度電話を掛けるが、今度は1コールもなく通話が終了してしまう。
流石に怪しさを覚えた弦太朗は他のライダー部メンバーに片っ端から連絡をするも誰にも繋がらなかった。
自分がいる場所もいまいち掴めぬまま、市街地をさ迷うように走り続ける。しかし戦闘後も相まって疲労感が襲いあっという間に体力が底尽きてしまった。
やがて見えたのはまず見ないであろう虹色の強い輝き。変な幻覚でも見ているのではと思い角を曲がると、そこには自分と同い年ぐらいの少女と抱えられる赤ん坊の姿があった。
こちらに気づいた少女は強く否定するように首を横に振るが、弦太朗は何が何だかよく分かっていない。
そんなことをしてる間に強い虹色の光を放っていた電柱は徐々に輝きを失っていく。
「あっ、ちょ、待って待って待って!」
完全に輝きを失った電柱に落胆する少女を見た弦太朗は何となく不憫に思い声を掛けた。
「大丈夫か?」
「見てましたよね、さっきのゲーミング電柱!そこから出てきたんですよ!」
「ゲー……?光なら見たけど、妹とかじゃなくて?」
弦太朗のリーゼントを不思議そうに見ながら指をしゃぶっている。とても愛らしく、子どもは宝と言われる理由がよく分かる。
歳の離れた姉妹と聞くと何か複雑な事情があったりなかったりを想像するが、慌てようを見るに電柱から出てきたのは事実なのかもしれない。
「細かいことは分からねぇけど、お前がそう言うならそうなんだな。捨て子……なのか?」
弦太朗がそう言うとまるで理解してるかのように赤ん坊は泣き始めた。必死にあやす少女は弦太朗に助けの視線を求める。
「どっか入れる場所ないか?」
「ここの2階に住んでます」
階段を駆け上がり部屋に入っても泣き止む様子を見せない。 どうしたもんかと頭を抱える。
ドンッ!
「なんだ?」
「壁ドン初めてされた……あー、早く泣き止んで……」
少女の言葉から赤ん坊の泣き声がうるさくて叩いたのかと察すると、弦太朗の怒りが込み上がった。思わず壁の前に立つが今はそれどころじゃないと振り返る。
「そうだ、子守唄とかどうだ?」
「子守唄?えーと……」
少女が優しく歌を歌い始めると赤ん坊の泣き声は少しずつ小さくなっていく。それを見てとりあえず安堵し警察への連絡をし始める。捨て子を拾って……電柱から出てきたで納得しないよな。
泣き声がやがて寝息に変わり、それを見た弦太朗は近くにあった布団を敷き、少女はゆっくりと寝かせた。
「とりあえず一段落か」
「すいません、ご迷惑を……」
「気にすんなよ。いきなり子ども拾ったら誰でもパニックになる。俺は如月弦太朗。あんたは?」
「酒寄彩葉です」
「彩葉か。しかし隣の奴も薄情だな。子どもの泣き声くらい仕方ないだろ」
改めて壁ドンしてきた奴の方向を見ると同時に掛けられたカレンダーが目に入る。2030年7月ーー
「今って2012年の11月だよな?」
「いえ、2030年の7月ですけど……」
証明するように彩葉はスマートフォンを取り出し画面を見せる。どうやら2030年は事実らしいし、さっき上着を脱いだのは7月の気温を考えるなら当然だ。
自身が置かれている状況を理解し、脱力感が一気に襲いかかる。蓄積されていた疲労もあってかその場で膝から崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?」
「ちょっとな。それよりもこの子を先に何とかしないと」
まだ踏ん張ろうとする弦太朗の肩を取り抑える彩葉。自分も日々体調を誤魔化しているせいか、違和感はすぐに見抜けた。
「もうこの子も寝てますし、明日にしませんか?」
「……それもそうだな。騒がしくしてまた起こすのも可哀想だ」
弦太朗は机にあったペンと紙を拝借し、自身の電話番号を書き始める。
「なんかあったらまた連絡してくれ。出来ることなら手伝うから」
そう言って彩葉の家を出ていく。単純に考えれば家にご両親がいるのは当たり前だ。
東京に出てきて3年も経過するけど、見知らぬ自分にここまで真摯になってくれたのは初めての経験だった。
色々なことが起こりすぎて彩葉もまた眠い目を擦りながら着替えだけ済ませると力尽きるように赤ん坊の隣で眠り始めた。
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ーー多元宇宙A0073
銀河連邦警察の資料課に所属する怒城怜慈こと【宇宙刑事ギャバン・インフィニティ】は今日もエモルギア犯罪の取り締まりを終え帰還していた。
「お帰り怜慈。早速で悪いけど上官から連絡がある」
「カレムから?繋いでくれ」
サポートアンドロイドのアギがディスプレイを繋げカレム上官の通信が繋がる。
「エモルギア犯罪の取り締まり、今日もご苦労だった。急な用事で申し訳ないが、今度は別の多元宇宙に行ってもらいたい」
「それは構わねぇけど、そこのギャバンじゃ手に負えないのか?」
「その宇宙にギャバンは存在しない。エモルギア犯罪も横行していない比較的安全な次元宇宙で、末端の管轄が管理している。今回は調査依頼だ」
「調査?わざわざ俺にか?」
「まだ詳しい情報が入っていないが、どうやらその多元地球に隕石か何かが落下し、それと同時に高次元のエネルギーを有した物体が不時着したと速報が来た」
「悪意ある何者かが故意的に持ち込んだとするなら、その力を使って何をするか不明なうえ、そうなった場合後々犯罪者の根城になりかねない」
怜慈は特殊体質の持ち主であり、多元宇宙を行き来する能力を得ている。その力を使い様々な多元宇宙を訪れ各地球のギャバンに助力をしている。
「つまり、その不審人物を捕まえてこいって話だな」
「将来的にはそうなる可能性が高いが、まずは目的を知るために泳がせろ。やむを得ない場合は蒸着を許可する」
「支給品が揃い次第即時出発してもらう。それまでは待機しているように」
怜慈からの了解の言葉を聞き届け通信は切られた。
「アギ、座標はもう出てんのか?」
「【次元宇宙γ8000】という名称です。上官が仰っていた通り犯罪は見かけませんが、過去にワームホールが発生した痕跡があります」
「ワームホールか……ともかく行けば分かることだな。俺も準備してくる」
ストレッチをしながら資料課を退室する怜慈。その姿を見ることなく、大佐は考えていた。
「どうされました?」
「過去の事例で隕石の襲来とともに時空の歪みが発生した次元宇宙があると聞いたことがあってね。最悪の予想だけど、もしその隕石が同様の効果があることを知っていたとするなら……」
「隕石を自在に操り、ワームホールを使用して次元を移動する手段を持つ、ということですか?そんな力あり得ません」
アギがきっぱりと言い放ち、自分も何を言ってるんだと頭を振る。警戒は必要だが、マイナスに考えすぎるのもダメだ。
今は怜慈の調査のサポートに徹して報告を待とう。