ロボットに乗って陰でスパイや裏切り者を始末してますが、幼なじみには筒抜けのようです 作:½夜城
『やっと、
「…俺もだ。アリサ」
聞こえてくる声に応え、「コウ」は駆り迫り来る敵の大艦隊を見渡す。
途端、「コウ」の横に並んできたのは、白銀の人型兵器。そしてその蒼いツインアイが向けられ…再び通信が入る。
『行きましょう?ふふっ』
「了解した」
楽しげな少女の声に、「コウ」は短く応え—————
◇
薄明かりが照らす歩行要塞、その一区画に整備された学園の廊下を、俺はゆっくりとした足取りで歩いていた。
やがてドア越しに微かなざわめきが聞こえる食堂に辿り着くと、ドアを開けて中に入る。
「アークライトさん、今日も大活躍だったんですよね!」
「本当に見習いたい」
「味方のピンチに颯爽と駆けつける姿とってもカッコよかった!」
途端に聞こえてくる絶賛の渦。見やると、大勢の訓練生に囲まれた銀髪の少女が視界に入った。
「みんなありがとう」
やや困ったような表情を浮かべながらも礼を言う少女は、クラスメイトにして、最強のエースパイロットと謳われる〈アリサ・アークライト〉。
そして、俺こと〈コウ・クルセイダー〉の幼馴染でもある。
「今度操縦教えてくれない?」
「あ、ズルい!」
「おいおいお前ら、アークライトさんから操縦を教わるのは俺だぜ?」
相も変わらず凄まじい人気だ。
…などと思いながらカウンターから今日の食事をトレーに盛り、集団に近づきつつ息を入れ…俺は声をあげる。
「はいはい下がれ、アリサが落ち着いて食事取れないだろ」
一瞬で静まり返る食堂。周囲からはなんだコイツといった視線が向けられ、明らかにヘイトを買っている。
毎度のことではあるが、中々心に来るな。
ただ幸い俺の言葉にも一理あると判断したのか、訓練生達は各々の席に戻り食事に戻っていく。
「アリサ、大丈夫か?」
「えぇ…最初は驚いたけど、もう慣れたし」
「なら良かった」
明らかにホッとした表情を浮かべるアリサ。その隣に腰を下ろすと、周囲の生徒からこんな言葉が聞こえてきた。
「なにアイツ、幼馴染だからって偉そうに」
「空気読めよ」
「万年C級の分際でアークライトさんに擦り寄りやがって」
おーおー聞こえてないと思ってめちゃくちゃに言うなおい。てか万年C級って言ったヤツ、お前もC級だろうが。
一応説明しておくと、このシーシア連邦軍養成学園では成績順に下からD、C、B、A、Sのランク付がなされる。
そして、俺のランクはC。落ちこぼれでこそ無いが、普通の成績を獲得していればBは硬い上、隣でサンドイッチを頬張り幸せそうな顔をしている英雄殿に引っ付いてるせいで、かなり蔑まれているし、嫌われてる。
ん?なんでわざわざこんな役回りをしてるかって?…
アリサは英雄として讃えられてはいるが、カリスマ性があるとは言い難い。となると、訓練生の中には嫉妬を募らせ、変なコトをしでかす奴が出てこないとも限らない。
そこで俺だ。俺が周囲からヘイトを買うことで、必然的にアリサに向けられるのは尊敬等と言ったポジティブな感情の割合が高くなる。少なくとも、日々のストレスによる軽い悪意程度ならば殆ど俺が引き受けられるはずだ。
だが何より、
もちろん、俺への嫌がらせはかなり多い。だが、アリサが英雄として立つためならこの程度どうってことは……
「そういや聞いたぜ。誰とは言わないが、この中に下学年のD級に負けた奴が居るらしい」
「えぇ…ヤバ」
「流石に弱すぎるでしょ」
……茶髪の男子生徒〈カムラ・ルーダ〉の発言で、途端に視線が集まってしまった。
これだけの注目を集めるのは流石に想定外だ。
引き攣りそうになる表情を抑え、俺は横で2個目のサンドイッチに手を出したアリサに話しかける。
「今日はやけに人が多いな」
「そうだね。私たちのクラスだけじゃなくて、他の歩行要塞からも人が来てるみたい。1週間後の合同演習のためじゃないかな」
「確かに、もうそんな時期か」
シーシア連邦軍が半年に一回開催する合同演習…国境付近を闊歩する歩行要塞5基が一堂に会する大イベントだ。まぁ、今回もアリサが無双して終わる気がするが…
「今回は〈カスケード隊〉も出てくるのかなぁ?」
「ッ!」
「連邦最凶とか悪魔とか、色々言われてるけど、実際に戦ってみないと分かんないし」
「あぁ……そう、だな」
いきなり
ただ、この程度ならアリサに悟られることはないだろう。彼女は中々マイペースの気質があるし、今もカスケード隊の他に出てくるかもしれないエース部隊の名前をぶつぶつ呟いている。
「んー、でも味方殺しの悪魔なんて仰々しい異名ついてるから、やっぱ一番気になるなー」
「ま、まぁ督戦隊じみたことやってるからな、そんな異名付くのも仕方ないんじゃないか?」
「でもさ、コウも興味ない?噂されてるカスケード隊の強さがどれだけなのか」
〈カスケード隊〉
シーシア連邦軍において、トップクラスの練度を誇るとされる部隊の名前。
最強ではなく最凶と呼ばれる、恐れられる所以は、通常の任務の他に脱走兵などの追跡、撃墜を担う部隊であるからだ。
あるメディア曰く、カスケード隊は冷酷で残虐。仮に降伏しても笑いながら惨たらしく殺す悪魔の部隊、らしい。
………実際はそんな事ないけどな!全く失礼な。
不必要に痛めつけたり、降伏した兵士を殺した事なんか無いし、別に殺しを楽しんでる訳でもない。
確かに俺達は司令部から与えられた任務を遂行している過程で、味方を殺すこともある。あるけど、それはこちらの降伏勧告に従わなかったりした場合だけだ。ただまぁ、事情を知らない一般兵からしたら恐怖の対象になるもの分からんでもない。
だから、結果として味方殺しの悪魔と呼ばれるのはまだ納得出来る。でも、だ。残虐やの加虐性やのはどっから湧いてきたんだよ。
(…改めて考えると、表では蔑まれ、裏では怖がられる。中々刺激的な立場だよな)
「急に黙ってどうしたの?」
「いや、少し考え事をしてただけだ」
「? そう」
首を傾げる彼女の様子を見て、アリサには、この立場のことをバラしてしまおうか。と、一瞬邪魔な思考が首をもたげる。
…だが、これは俺が決めた事だ。
それに、連邦最強とされる彼女も中身は18歳の少女。自惚れるつもりはないが、幼馴染である俺が味方殺しをしていると知れば、パフォーマンスに影響が出かねない。
少なくとも彼女が精神的に成熟し、英雄として完成されるまで明かすべきではないだろう。
せっかく
◇
廊下を遠ざかるその背中を、私は黙って眺めていた。
物心ついた時からの幼馴染、コウ・クルセイダー。そして私を支えてくれてる、私だけの英雄。
「ねぇコウ、気付いてないと思った?これでも私は特務少佐…大抵の情報にはアクセスできるし、軍の上層部には贔屓してくれる人もたくさん居るんだよ?」
もちろん最初に知った時はすごく驚いたし、何で自分から傷つきにいくのとも思った。今日も、私がクラスの皆んなに囲まれてる時に助けてくれたよね、内心で反論しながら、だろうけど。
「ホントにすごいよね、コウは。
———普通、幼馴染がこんな事をしてたら止めるべきなんだろう。だけど、私はしない。
もちろん幼馴染が馬鹿にされて不快じゃない訳がない。けど、コウは私を守るという覚悟を持って振る舞っているのに、それを踏み躙ることは出来ないし、それに、今の私程度じゃ一切コウに守られる必要が無いなんてとても言えない。
だから、待っててね。
もっと強くなって、私を守る必要が無いって思わせてあげる。
そしたら、貴方から言ってくれるでしょ?
胸の内に灯る昏い炎を感じながら、私はそんなことを思うのだった。
もし面白そう!続きが気になる!など思って頂けたら、ぜひお気に入りと高評価よろしくお願いします