ロボットに乗って陰でスパイや裏切り者を始末してますが、幼なじみには筒抜けのようです 作:½夜城
コウとアリサが食堂で話す、数時間前。
無数の星が瞬く、夜の山岳地帯。
…その美しい星々を遮るように、人工的な光を放つ人型が機動する。
『くそッ…何だってこんな…!』
灰色に燻んだ緑を添えられた人型機動兵器〈
…しかし銃口から放たれた蒼い光条は、
『……チッ!』
踵を返し、再びスラスターを全開にする灰色のVH。背後から迫るVH部隊から逃れるべく、複雑な機動を織り交ぜながら逃走を図る。…無論、それが誘導された逃走であることをパイロットは知る由もなかった。
なお、この機体を操縦しているのは敵に情報を流すことで利益を得ていたやや名のある軍人である。
故に、連邦軍司令部は彼らを派遣する事を決定し、捕縛に当たらせたのだ。
「カスケード1より各機。目標エリアに誘導完了…始めるぞ」
『『『了解』』』
通信が走り、4機のVHは散開。各個の紅いバイザーが光を強め、灰色のVHを絡め取らんと急速に距離を詰める。
『この…ッ!』
「逃がさん」
短く呟き、自らのビームライフルを放つコウ。またの名を、〈カスケード1〉。
ビームを脚に被弾し、慌てて姿勢を立て直すVHを見据えて、ビームセイバーを抜き放った彼は、通信を目の前の敵機に繋げ、告げる。
「聞こえているか、こちらはシーシア連邦政府直轄軍所属、カスケード。貴官は防衛法コード3第2号により禁止されている行為、作戦情報の意図的な流出を行った。加えて武装したVHを奪取し、自軍基地からの逃走行為…恐らく死刑判決が下されるだろう」
「…だが、裁判は未だ開かれておらず、受ける権利が貴官にはある。我々も無力化に努めるが、殺害に至らない保証は出来ない。故に問おう…投降する気はあるか」
コウ·クルセイダーである時とは全く異なる口調にて話す間、散開したカスケード隊3機が灰色のVHを包囲し、逃走経路を完全に潰した。
しかし、取り囲まれてなお灰色のVH…〈ロング・ヘルダン少佐〉は抵抗を試みる。
『黙れ。連邦の上層部どもにも、貴様ら
「いや、死刑が確定した訳ではないんだが………投降の意思はないと判断して宜しいか?」
『あぁそれで良い、では墜としてみろ————この
叫び、ビームセイバーを抜刀すると共にカスケード1へ突撃するヘルダン。その脳裏にはカスケード1へと接近すれば同士討ちを恐れ、残りの3機は射撃しない…といった
しかし刹那、3機のカスケード機から放たれたビームがヘルダンの機体を、脚を、頭部を貫く。
一瞬の硬直。
任務は果たされた———と判断する間も無く、ヘルダンの機体が再度駆動。
各部を貫かれてなお、目の前の敵を討ち果たさんとする意思が、機体に僅かに残ったエネルギーを消費し、ビームセイバーをカスケード1へと振るう。
「…残念だ」
…その一撃はカスケード1に容易に受け止められ、逆に胴体を両断される結果となった。
『…………この悪魔ども、が』
——————閃光。
胴体を断たれた灰色のVHが爆発し、カスケード隊を明るく照らし出す。
「任務完了。帰投する」
◇
「やれやれ、まさかアリサがあそこまで俺達に興味を持ってるとは思わなかった」
食堂を離れた俺は、一般に立ち入ることが出来るのが特務部隊の兵士などごく限られた人間だけの、最重要区画に足を運んでいた。
-生体認証完了-
センサーに手を添えると、人工音声が響き目の前のハッチが開放され————
「隊長、あの女はなんですか」
凛とした少女の声と共に、紫色の視線が俺を貫いた。
「よう〈シエル〉、義体の調子が良さそうで何よりだ」
「誤魔化さないでください。返答によっては隊長に対する接し方を変える必要があるので」
言いながら距離を詰めてくる紫髪の少女…否、少女の形をしたAI、〈
「いや、なんだも何も俺の幼馴染だ。てか知ってるだろ」
「えぇ存じ上げています。ですが監視カメラで挙動や脳の動きを観測していた限りでは、隊長とアークライト特務大佐は双方に強い感情を抱いていると結論が出ました」
「俺からならともかくアリサから?そんな訳…」
「…なるほど。概ね理解しました。質問を撤回します。また、アークライト特務少佐をあの女呼ばわりした事に謝罪を。不適切な呼称でした」
「お、おう…」
だが困惑している間もなく、ブリーフィングルームの奥から声が響く。
「おいシエル、コウをあまり困らすなよ…おッと、今はクルセイダー特務大佐か」
全然慣れねェな。と部屋の奥でソファに腰掛けながら低い声で笑う紺色髪の男は、〈
軍服を着崩しくつろぐその様子はいつ見ても余裕を感じさせる。
「別に困ってないから構わないけどね」
「いえ、私は隊長の部下ですので。部下が隊長の手を煩わせる訳にはいきません」
「相変わらず硬ェなシエルは。ならお前はどう思う〈クリス〉?」
「そこで僕に振るんですか…」
いきなりレイドから話を振られ顔を顰める金髪の少年は、〈
彼を横目に、俺は部屋の中へ歩みを進める。そして中央まで移動すると、駆動音と共にホログラムディスプレイが立ち上がった。
『全員揃ったか、カスケード隊』
投影された〈手錠を咥えた山猫〉のエンブレムから、レイドとはまた雰囲気の異なる男の声が響く。
『先ず、ヘルダンへの対応ご苦労。残骸の処理や手続きはこちらで行う。そして本題だが…新たな命令が下った』
「…内容は」
命令という単語を聞いた瞬間、己の思考が芯から冷えていくのが分かった。無論、先の任務から然程時間は経過していない事は認識している。だが、それは任務受託を拒否する理由にはならない。
『1週間後に大規模合同軍事演習があるのは知っているな。貴官らには、その演習で
「ディスラプター、か」
『そうだ。理由は分かるな?』
「もちろんだ」
『なら良い。…任務直後に時間を取らせてすまなかった。通達は以上。解散』
その言葉を最後に、手錠を咥えた山猫のエンブレムが消える。
「…ふーん。中々、おもしれェことになりそうだな」
「楽しみにしてるのはあなただけですよ」
「何だと!?」
「………」
「……隊長、どうされました?」
「いや、何でもない。ただ少しな」
◇
今から1000年以上前、この世界…いや、人類は繁栄を極めていたという。
無数のVHが宇宙を駆け、巨大な戦艦が大艦隊を構成し、数多の星系を手中に収める。もはや人類の勢いは、止まるところを知らなかった。
——————なのに、崩壊した。
理由は未だ解明されていない。強力な巨大兵器が滅ぼしたとも、ウイルスが蔓延したとも言われ、結局分からずに終わる。
…この星は、そんな人類が遺した残骸と、僅かな生き残りが復興した残り火に過ぎない。それでも、残り火は着々と勢いを取り戻し始めている。
シーシア連邦始め幾つもの国家が興り、人口は増加に転じ、軌道エレベーターが復旧され…今は、惑星の至る所で巨大な戦火が上がるほどまでに回復した。
良い事ばかりではないのは分かっている。だが、こんな世界でも俺はアリサを、英雄を————。
「あれコウ? こんなとこで何してるの?」
「夜風に当たってただけ」
「なるほどね。じゃあお隣失礼」
少し肌寒い夜。学園の一区画に備えられたテラスにてフェンスに寄りかかっていると、アリサに声を掛けられた。やや薄汚れた作業服を纏っているという事は、自分の機体の整備でもしていたのだろうか。
「珍しいね、コウがここに居るの」
「そう?」
「だってコウ、暇な時間は自室で本読んでるかシミュレータで訓練してるかのどっちかじゃん」
「あー…まぁ確かに」
実際はカスケード隊のブリーフィングルームに居たり、任務に出ていたりするけど、概ね暇な時間はアリサの言った通りだ。てかよく知ってんな。
「あ、そうだ。ホントは明日聞こうと思ってたんだけどさ。コウって今回の合同軍事演習…出る?」
「いや、今回もパス。俺程度が出たからって何にもならないし」
「そっか、分かった。
「おう……ん? 何を?」
「あぁ気にしないで……もう私行くね。おやすみ」
「おやすみ……?」
行ってしまった。楽しみにしてるってなんだ?