ロボットに乗って陰でスパイや裏切り者を始末してますが、幼なじみには筒抜けのようです 作:½夜城
翌日。
俺は自分のVHが駐機してある格納庫にて、出撃を待っていた。
ヘルメットを脇に抱え、整備士から渡された栄養ドリンクを飲みながら眼前の巨人を見上げる。
灰褐色の装甲に身を包んだ量産型VH、SVH-522〈ラプトル〉。
俺達訓練生に与えられるやや器用貧乏な性能のVHだ。尤も、訓練には十分すぎるけどな。
ひとまず今は、飛行訓練前の機体チェックが終わるのを待たなきゃいけないし、軽く体操でも…
「あれ、コウじゃねぇか。訓練か?」
「よう〈アルト〉。見ての通り、訓練前の機体チェック待ちだよ」
「なるほど、俺も同じだぜ」
背後から陽気な声で話しかけてきたのは、俺の数少ない友人〈アルト・コンベルタ〉だ。
絵に描いたような陽キャで、普段は訓練生達の中心にいるが、何を思ったのか入学式の時に絡んできたのだ。
普通に話が合うせいで、今日までなんだかんだ関係を続けてきている。あと、俺が蔑まれているのにキレてくれたことで、信頼度はそこそこ高い。
……せっかくの演技が台無しになるので慌てて止めたけど。
「そういや聞いたか?今この要塞に〈クルーメル皇国〉の皇女が来てるらしいぞ」
「へぇ、演習の観戦にでも来たのか?」
「多分な、にしてもよく来たもんだぜ。シーシア連邦は絶賛2つの国と戦争中だっていうのに」
その点は同意だ。現在シーシア連邦は〈クリテロス共和国〉及び〈ブルムネル連合国〉と戦争状態にある。要因はよくある領土獲得競争によるものだ。
ただし、この2国も決して仲が良いわけではなく、そもそもとして世界情勢自体が群雄割拠の様相を呈している。
こんな状況下で他国に行くのは、中々肝の据わった皇女様らしい。
「お、おい、噂をすれば…」
アルトに無理やり顔の向きを変えられる。何すんだと文句を言おうとした瞬間…ソイツが視界に入った。
「スッゲェ美人だ…」
「………」
ふわりと広がる金色の髪。透き通るような蒼い瞳。そして、天使と見紛うほど端正な顔立ち。
クルーメル皇国第一皇女〈ハンナ・クルーメル〉
周囲を圧倒する雰囲気を醸し出す彼女。だが俺は、
「話しかけてみよっかな…って急に黙ってどうしたコウ? もしかして見惚れたか?」
「……嫌な予感がする」
「そうかそうかコウも……えなんて?」
「いや、言葉にし辛いんだけど…彼女には関わらない方が良い気がする」
護衛に囲まれ、格納庫の奥に歩いていくその背中を見ながら、俺はそんなことを言うのだった。
◇
『ブレードリーダーより各機、速度を
『『『了解』』』
「……暇だ」
1時間後、すっかり動悸もおさまった俺の体は、機体と共に空の上にあった。とは言っても、先導する教官機に付き従い、あらかじめ提示された飛行ルートをなぞるだけ。流石にこの程度で下手くそを演じる必要性もなく、ただただ体が覚えている操作を行う。
演じる時の方が逆に気を張ってるせいで、凄まじく暇なのが少しアレだけど。
そして昨日は結局、アリサの言っていた言葉の意味が分からず言い間違えただけだろうと結論づけ、あまり気にしないまま眠りについた。多分、「自分が活躍するからそれを楽しみにしててね」とかだろう。
あ、説明するのを忘れてた。一応演習の内容としては、各歩行要塞や軍事基地から集められた兵士達がランダムに3つの大きな勢力として組み合わせられ、演習エリアの各所に配置されたチェックポイントを占領していき、支配領域の拡大を目指すというもの。
制限時間は3日間で、終了時に占領したポイントの数が最も多い勢力の勝利。という訳だ。
「まぁ、最近はアリサとかいうバランスブレイカーが荒らしまくっているけど…」
『コウ、さっきからボソボソ何言ってんだ?』
「気にすんな」
……前回、前々回の演習でアリサは全兵士トップの撃破スコアを叩き出し、特に前々回の演習では初参加にも関わらず敵勢力の本陣を単独で制圧してのけた。
そして前回、名のあるエースパイロット…いわゆる〈ネームド〉が敵にいた状況で、結局勝利をもぎ取ってしまった。カスケード隊が今回呼ばれたのもこれが理由だろう。
ただ、俺達は一応どの勢力にも所属しない完全独立した部隊として演習を荒らしまわる事になる。となるとほぼ確実に……
「アリサとかち合うだろうなぁ…」
アリサ・アークライトとカスケード隊。どちらが強いのかという論争は、多くのメディアだけでなく、軍人やある程度軍に親しみのある市民達の間でも行われてきた。
公表されている実績だけ見れば文句なしに最強のアリサと、実際の戦果が公にはされてないカスケード隊だからこそ成立している議論でもある。
もちろん、この国に存在するネームド達も決してアリサに劣るパイロットじゃない。しかし、最強議論を行う上で実績に差があり過ぎるのだ。
そして肝心の議論の傾向だが…7割方はアリサの方が強いと思っているらしい。
まぁ当然だな。噂や二つ名だけが一人歩きしている俺達と、明確に英雄として活躍しているアリサじゃ後者の方を強いと思うだろう。
俺達自身もアリサとどっちが強いかと言われたら、アリサと答えると思う。レイドは否定しそうだけど。
場合によるとは言え、そもそもカスケード隊は4機で行動、奇襲するのが基本だ。トップエースと正面切って戦闘するのは本来の運用方法じゃないし、相手がアリサなら奇襲も通用しない。
となると連携でアリサを落とすしかなくなるんだが…正直どうなるか俺には予想できない。全く通用しないってことはないけど、撃墜まで持っていけるかと言われたらかなり厳しいだろう。
ちょうど今やってる
『タイタンコントロールよりブレードリーダー。現在当空域ではアークライト特務少佐による模擬戦が行われている。現在のグループ終了まで待機しろ。すぐに終わるはずだ』
『ブレードリーダー了解。各機聞こえたな。模擬戦終了までこの場で待機する』
教官の言葉で、訓練生達が乗るラプトルが編隊を組んだまま空中で停止する。そしてその前方に見える空域では、白銀のVHとラプトル達によって複雑な軌道が描かれていた。
『まだまだここからだよ』
白銀のVHはアリサの操る、XVH-002〈スターイーグル〉。巨大な翼を広げたようなシルエットで蒼白いスラスターの光跡を残しながらラプトル達を翻弄している。対するラプトル達は必死に射撃をしたり、接近してくるスターライナーへビームセイバーを振るったりしているが…当たらない。
『速すぎるッ…!』
『何で当たらないんだ!?』
『目で追えない!』
通信機から聞こえてくる数々の悲鳴。
機体の性能差もあるだろうけど、認識能力と操縦技能の力押しの時点で訓練生達には厳しい戦いになっている。
格上と戦う経験自体は重要だし、積極的に行うべき訓練ではあるけど……こういう時は容赦ないんだよな、アリサ。
『あッ!』
『全機被撃墜判定。Cグループ終了』
言ってる間に終わってしまった、まさに秒殺という言葉が相応しい。
ただ、訓練生の段階では仕方なくもある。
実戦経験のある一般的なパイロットの部隊ですら、アリサ相手に攻撃を当てることは極めて困難なのだから。
『終わったようだな、よし全機帰還するぞ』
『タイタンコントロールよりブレードリーダー、3番ゲートに着陸せよ』
通信の後、教官がスラスターを吹かせ再び移動を開始する。それに追従し、俺達も移動を開始。
途中で空中待機をしているアリサ達とすれ違ったが、殆どのラプトルには低出力ビームライフルによる弾痕やビームセイバーにより焼かれた痕があったのに、アリサのスターライナーはその白銀の装甲に一切の曇りはない。
『おいブレード5、編隊から離れるな』
「はっ…戻ります」
おっと、アリサの方ばかり見過ぎた。目線を戻すと既に編隊は数十m前方に移動している。追いつかないと……
『…ふふっ』
「?」
なんか笑われた気がする。