ロボットに乗って陰でスパイや裏切り者を始末してますが、幼なじみには筒抜けのようです 作:½夜城
『タイタンコントロールよりブレード5、着陸を許可する。訓練ご苦労だった』
「労いどうも。…ブレード5了解。着陸する」
-着陸経路 表示-
眼前に広がる広大な甲板———航空基地の滑走路が如きそこへ。俺は機体を降下させていく。
オート操作に機体を任せふと視線を上げれば、幾つもの機械脚が伸びた巨大な基礎の上に、学園校舎や司令棟、格納庫など様々な構造物が
歩行要塞〈タイタン〉
シーシア連邦が運用する全長10km超の巨大歩行要塞、その内の1基だ。
周囲はVHやヘリコプター、空力戦闘機が護衛し、更にその下、要塞本体にも無数の火器が搭載されている。まさにシーシア連邦の防衛の要と言えるだろう。
だからこそ、これら歩行要塞が一堂に介する軍事演習は貴重な機会となる。…そのせいで演習に出ない各地のネームドや防衛基地の負担が増加するのは玉に瑕だ。
それに、今の時期は各地から集結する部隊や輸送機で上空がかなり騒がしい。甲板上も混雑しているし、事故が起きなければ良いんだが。
と思った途端、タイタンコントロールから新たに通信が入る。
『おっと、ブレード5。すまないが着陸中止だ……帰還する部隊がある』
「帰還する部隊?」
瞬間、レーダーに友軍機の反応が映る……4時の方向か。
思い見やると、煙を噴きながら接近してくるVHと空力戦闘機の混成編隊が視界に映った。
『タイタンコントロールよりスコーピオン1。3番ゲートに着陸しろ。あいにく他のゲートは空いていない』
『こちらスコーピオン1。先に損傷が著しい空力機体から下ろす。重力制御コアが破損した機体が滑走できるだけのスペースを開けといてくれ』
『了解した』
通信の後、脚元のG3と大きく描かれた甲板の上で動きがあった。
先ず乱雑に置かれた自走コンテナやVHの武装が格納庫の中へとハイペースで飲み込まれ、元からあった滑走経路をさらに拡大。
次いで、緊急着陸用のネットが展開される。
『タイタンコントロールよりスコーピオン1。受け入れ準備完了だ』
『了解。感謝する』
編隊を崩し、1機の空力戦闘機が着陸体制に入る。よく見ると右エンジンが脱落、胴体からも火を噴いていて損傷が甚大なのは明らかだ。
『スコーピオン7よりタイタンコントロール。これより着陸する』
ランディングギア———空力戦闘機が用いる着陸装置を展開した機体は、スピードを落としつつ徐々に甲板へと接近していく。
『クソ、速度が……』
しかし、減速装置も故障していたのか、最終的に安全速度の1.5倍以上の速度で戦闘機は甲板に接触。そして………
『ぐっ…止まれ止まれ止ま…なッ!?』
炸裂音。
同時に戦闘機の機体が右に大きく傾き、滑走経路を逸脱し始める。
『ッマズイ!G3ゲート付近の全乗員に告ぐ!緊急事態発生!緊急事態発生!スコーピオン7の右タイヤが
タイタンコントロールの言葉は、もはや耳に入っていなかった。
「ッ…!」
スラスター全開。
-全スラスター一斉噴射-
慣性制御システムをオフにしていた影響で、シートに体が押しつけられる…けど…
歯を食いしばりつつ、俺は一直線に着陸事故を起こした戦闘機へ向かう。
『スコーピオン7!脱出しろ!』
『ダメだ、今の衝撃でイカれやがった!』
火花を散らして甲板を滑る戦闘機は、今にも落下しようとしている。地面までの高さは100m超、もし地面に叩きつけられればパイロットは確実に死ぬ!
『クソがッ…!!』
「予測落下速度問題無し。スラスター5番から8番の推力を3、4番スラスターに回せッ!」
-了解 スラスター推力比 変更-
眼前で戦闘機が甲板から滑り落ちる…だが!
「相対速度、スラスター緊急噴射準備よし……間に合え————!!!」
数瞬の、後。
「はぁ…はぁ…っぶねぇ…」
俺の機体は、戦闘機を空中で抱えて浮かんでいた。もちろんパイロットは無事…どうにかなったか。
『なんだ今の機動』
『すげぇ…』
「ッ…」
マズイな。下手に注目を集めた。いや後悔はしてないが……
『あー、タイタンコントロールよりブレード5。スコーピオン7を抱えて甲板に戻ってくれ。消火班が待機している』
「ッヤバい…!」
すぐに手元を見ると、スコーピオン7の機体後方からは未だ炎が上がったまま。
慌てて上昇、甲板上に衝撃を抑えて降ろす。
『あとブレード5……司令官がお呼びらしい』
「……了解」
そして通信で為された指示に、俺は従うのだった。
◇
歩行要塞タイタン 総司令室
その中央に立つ司令棟の最上階に、俺は足を運んでいた。
正面には白髪を短く刈り込んだ、タイタン総司令官〈クルド・ケラウノス〉。その他、俺の正体を知る人員のみが詰めており、全員が険しい表情を浮かべている。
当然と言えば当然だろう。何故なら俺が呼ばれた理由は先ほど事故機を救ったからではなく————
「…今なんと?」
「言った通りだ…
「もちろんです」
他国の皇女が自国の、それも軍事施設内から誘拐された。
シーシア連邦軍の沽券に関わる上、もし表沙汰になれば最悪、クルーメル皇国との戦争にまで発展するだろう。無論、クリテロス共和国の狙いもこれのはずだ。
幾ら友好条約を結ぶか検討してくれている国家と言えど、いや、むしろそんな国家だからこそ秘密裏に処理する必要がある。
それに、大規模軍事演習直前にこの様なトラブル。既に大量の人間や装備が動き混沌としている状況に、更に余計な種を放り込むわけにはいかない。
「して、実行犯はその内通者のみ…では無いですよね」
「あぁ、忌々しいことだが〈ゴースト〉の連中も、かなりの確率で関わっていると警備課から伝えられた。システムに入り込んだ手口が同じらしい」
ゴースト————このシーシア連邦軍内部に潜んでいる所属不明の諜報組織だ。名称も便宜上そう呼んでいるだけであり、正式名は不明。
彼等は高度な諜報、情報技術、とりわけシステムのハッキング等に長け、内側からシーシア連邦軍を攻撃し続けている。
脱走兵や裏切り者が出た際、高確率で俺達の出番が来る1番の要因でもある。
「ひとまず要塞内部の捜査は進んでいる。故に、君達には秘密裏に逃走を図っている機体を拿捕してもらいたい。細かい指示は追って出す」
「了解しました」
敬礼と共に短く返事を返し、司令室を出たその足で秘匿格納庫へと向かう。一般兵や訓練生に見られないように、だ。
格納庫に到着すると、既にレイド達は機体の準備を終えており、最奥に佇む
「お待ちしておりました。クルセイダー特務大佐」
「準備感謝する。左腕のコンディションは」
「左腕駆動部の状態は既に万全に戻しました。…これを」
言いながら整備士長が渡してくるのは、黒を基調に紅い装飾が為されたパイロットスーツ。
特注のこれは制服の上からでも着れる優れ物————すぐに身に纏い、俺は促されるまま眼前に佇む愛機の前へと歩みを進める。
生物的とすら言えるほど滑らかで漆黒の体躯に、スーツと同様紅い装飾が施されている愛機の名は、SVH-628CC。
—————通称〈ボルテックス〉
高速迎撃機であるSVH-628〈サンダースター〉に、CC…カスケードチューンが施された俺達カスケード隊専用の機体だ。
細身のシルエットに備えられた多数のスラスターに、シンプルな武装構成を持つ一見量産型のハイエンド機にも思えるが……実際は空力戦闘機に匹敵、或いは上回るほどの速度、航続性能と、それ故に劣悪な操作性を併せ持つじゃじゃ馬である。
特に最高速度、及び航続距離はアリサのスターライナーすら上回るため、逃走する機体を追跡、拿捕するにはうってつけという訳だ。
-メインシステム起動 機体各部チェック開始-
-システム:クリア センサー:クリア フレーム:クリア リアクター:クリア 装甲:クリア スラスター:クリア 武装:クリア チェック終了-
-全システム オールグリーン-
コックピットに乗り込みメインシステムを立ち上げると、自動で機体各部のチェックが行われる。並行して、足元の固定装置ごと俺は発進口に移動させられた。
そして、発進口に辿り着くと同時、コックピット直下に配置されたリアクターから甲高い音が鳴り始め———
「カスケード1、発進準備良し」
『タイタンコントロールよりカスケード1。発進を許可します。ご武運を』
「了解—————カスケード1、〈サーヴァント〉。出る」
————己のTACネームを宣言し、俺は愛機と共に夕闇の空へと舞い上がった。