ロボットに乗って陰でスパイや裏切り者を始末してますが、幼なじみには筒抜けのようです 作:½夜城
通信が入ったと同時、蒼白い光条が俺とプレイヤー1の間を通過する。
飛来した方向には灰色を基調とし、蒼い装飾が為されたVH————それが数十機。
『……ヘルキーパーよりカスケード1。良い知らせと悪い知らせがあるんだが、どちらから聞きたい』
「…悪い知らせから」
『分かった。……ハンナ皇女が誘拐されたのが皇国に伝わっていた』
「良い知らせは?」
『……今回の騒動は
「………は?」
なんだ、それ。
最初から仕組まれていた?どういう事だ?
『要は掌で踊らされていたんだ。連邦と共和国は』
「待て、事実は分かった。だが肝心の理由は…」
『それは俺も知らん。ただ司令部から撤退命令が降った以上、な』
「…了解」
『あぁそれと、皇女は普通に無事だそうだ』
「……そうか」
正直、分からないことばかりだ。先ず皇国が自国の皇女を誘拐させたように見せかける理由が分からない。それに加えて、今目の前で浮かんでいるプレイヤー隊……共和国も巻き込んで何がしたかったんだ?
っと、シークレットチャンネルでの通信要請……応じてみるか。
-通信回線開きます 対象登録名 PLAYER1-
『……聞こえているか。堕天使のパイロット』
「あぁ、聞こえている」
聞こえてきたのは、レイドより僅かに高い男の声。それにしても悪魔じゃなくて堕天使か……また大仰な名前が付いてるし……
ゲンナリしつつも、ボイスチェンジャーを通して通信機に言葉を発する。
「何の用だ」
『いや、どうやらアンタらも一杯食わされたみたいだったからな。その確認さ』
「…なるほど」
一杯食わされた、か。となるとやはり、共和国も想定外だった訳だな。
思えば、共和国も最初から戦闘する気でこの空域に来たわけでは無さそうだった。十中八九、誘拐したハンナ皇女を回収するためだったのだろう。
しかし結局ハンナ皇女はここには居らず、ただお互い無駄に争う結果に終わったという事か。
いや、寧ろ向こうは俺達カスケード隊の詳細な戦術情報などを入手出来たと考えると、プラスにはなっているのか?
などと思い、俺が思考の迷路に嵌りかけたその時。
『それから、俺達の遊戯に付き合ってくれた礼で教えてやる。……あの
「ッ!………どういう、意味だ?」
『悪いがそれは言えない。こっちの戦略に関わるんでな。ただ、安易な気持ちで関わると碌な事にならないぞ—————ここまでか。んじゃ、また合間見えよう』
それだけ言い残し、敵隊長機、プレイヤー1はスラスターを輝かせて、部下と共に高速で離脱していく。
……まさか、俺の直感と同様のことを言われるとは思いもしなかった。
訓練に出る前、皇女を視界に入れた瞬間の、悪寒。
理由が説明出来ない恐怖と共に、パイロットととしての本能、いや…その更に奥、生存本能が警鐘を鳴らしたと言えるかもしれない。おまけに、敵ネームドであるプレイヤー1からの警告だ。
ハンナ・クルーメル皇女。
彼女は一体————
『隊長、何を話していたんです?』
『シエル…いや、こっちの話だ。今はまだ確証も何もないから……すまん』
『……分かりました。ですが、言えるようになったら必ず教えてくださいね』
『シエルの言う通りだぜ?いくら隊長でも、俺たちにそう長々隠し事が出来ると思うなよ?』
「はっ…それもそう…だな。分かった、いつか必ず話すと誓おう。…よし、カスケード1より全機。帰還するぞ」
『『『了解』』』
◇
「またか」
歩み、震える指先を眺めながら、そんなことを呟く。
ネームドとの戦闘が終わった後は、必ずと言って良いほどこの症状が出る。
極限の集中と、紙一重の操縦。そして一抹の恐怖。これらが心身に与える影響は、一般的な訓練過程を逸脱した俺にしても例外じゃない。
もちろん、戦闘中にこの症状が出ることはないが……今日は一段と震えが強い気がする。
原因は、皇女に対する疑念か、或いは皇国そのものへの———。
-生体認証完了-
「お待ちしておりました」
部屋の中に入ると、既にシエルが軍服姿で待機していた。レイドとクリスはまだのようだ。
「シエル、お疲れさま。援護助かった」
「こちらこそ、私の進言を聞き入れてくださって感謝します」
「あぁ、それは俺の方が礼を言わないとだから。明らかに冷静さを失っていた」
「時間制限と強敵に挟まれて常時冷静にいられる人間は、さほど多くないと思います。ましてや隊長はまだ若いのですから。あまり自分を責めないでくださいね」
「……ありがとう」
「と、このような事を言えば慰められると学習しています」
「台無しだよ」
本当に変わらないなコイツは。
人間の感情を学習する限りなく人間に近いAI。それがシエルだ。
故にこそ時々突飛な行動をしたり、今みたいに一個前の発言を台無しにしてしまう。
「おーし、飲むぞー!」
「まだデブリーフィング終わってないでしょう…!?」
……残りの2人も到着した。
片や左手に酒瓶を持っている気がしないでもないけど、まぁデブリーフィング中に飲むことはしないだろ。多分、きっと、maybe。
「隊長、よろしいので?」
「うん、まぁ…大丈夫だろ」
実際、作戦行動中の喫煙も褒められたものじゃないけど、戦闘に支障が出たことはないし。
精々コックピット内が煙草臭くなって整備員に仕返しされる程度だし。カスケード隊専用区画で飲酒するくらいなら……なんかだいぶ感覚が麻痺してる気がするけど。
『揃ったか』
「あぁ…カスケード1以下4名。帰還した」
『ご苦労だった。大変なことになったな』
投影された手錠を咥えた山猫のエンブレム———ヘルキーパーがため息を吐きつつ労ってくる。
俺達カスケード隊をサポートしてくれる管制官にして、優秀な司令補佐官でもある彼がこんな様子を見せるのも珍しい。
司令部の上でも、今回の件は中々に面倒なことになっているようだ。
『一先ず、各機体に搭載されたガンカメラの映像から算出した任務報酬は既に支払った。まさか共和国のネームドが出張ってくるとは予想出来なかった…が、その交戦データ及び撃墜報酬も加算してある』
「感謝する……それで、現状分かっていることを教えて欲しい。一体なぜ皇国はこのような事をした?」
『あーそれなんだが……ハンナ皇女及びその護衛や担当官に聴取を行ったが、どうにも意図が分からない要求を飲んだ場合、事情を話すと』
「要求?」
『アリサ・アークライト……〈
その言葉を聞いた瞬間、俺の全身の皮膚が泡立ち、手に持っていたボトルが音を立てて握り潰される。
なぜアリサと話す必要があるのか。なぜアリサと話をした後に事情を……いや、ここで考えても仕方ないか。
深呼吸をし、俺は言葉を続ける。
「その意図は、聞き出せていないんだな?」
『あぁ、仮にも我々を騙してお前らを危険に晒したんだから、多少は強引に聞き出そうという意見もあったんだが、司令官によって却下された』
それはまぁ、当然だろう。他国の皇女から強引に情報を聞き出すのは普通に国際問題になる。
意図は不明だが、皇国は皇女が誘拐されたという誤情報を表沙汰にもしていないし、下手に策を弄すればシーシアが手痛い目に遭いかねない。
『加えて軍事演習が迫ってきていて、今すぐ対処すべき事案とはシーシア本部が判断しなかった。よって一旦はこの件は保留。演習の準備に注力せよ、だそうだ』
「…了解した」
『……お前の気持ちも分かるが、アークライトは強い。心配性すぎるのも良くないぞ』
「…分かった」
『通達は以上だ。では解散』