あの意味不明な出来事が起きてから約1ヶ月が経ち今日は入学式の朝。
俺は既に日課となりつつある朝のランニングをしていた。
あれから俺は限界以上に身体を絞り上げ、勉強、料理等1ヶ月でやれる限りの事はした。そこでわかったのは想像以上に身体のスペックが高いということ。
原作でも灰原夏希は無自覚ハイスペックだったが、おそらくそれ以上のスペックになっていると思う。おそらく俺の意識と融合したことによってスペックが上がったのだろう。スペックの上がり方は足し算だったり乗算だったりと法則はまだわからないがマイナスに作用している感じは無い。まぁスペックが上がるのは良いことだが、そのスペックに胡座をかかないように注意していこう。
いつもの公園で小休憩をしていると目の前に桜の花びらが舞ってきたのでふと上を見上げた。
そういえば桜をゆっくり見るのも久しぶりかもしれない。
「・・・夏希?」
感傷に浸りながら桜を見上げていると声を掛けられたので振り返る。そこにいたのは灰原夏希の幼馴染本宮美織(もとみやみおり)だった。
灰原夏希としては久しぶりな相手であり、俺としては現状の状態に違和感を覚えられないか心配な相手である。
美織は夢でも見ているかの様な驚きの表情をしていた。美織は犬の散歩で立ち寄ったみたいだ。
「・・・久しぶりだな美織。卒業式以来か?」
「本当に夏希だ。・・・夢じゃないよね?」
驚いている美織にふとイタズラ心が芽生えたので少しからかってみよう。
「よく聞け美織。これは実は夢なんだ。お前は入学式という新たな環境を目前として新しい環境でやっていけるかと期待と不安が入り交じった結果幼馴染が痩せるなんて夢を見ている。この夢を覚ますには自分の頬を強く捻るんだ。」
動揺していた美織は俺の言葉を信じて自身の頬を強く捻った。
「痛いって夢じゃないのね。何やらせるのよ夏希!」
「悪い、まさか本当にやるほど動揺してるとは思わなくて」
「それは、1ヶ月前と大きく変わってたから」
「そんなこと言ってるわりによくわかったな」
「それは昔の面影があったから。というか一体どうしたの?すごい変わったよね。」
「春休み暇だったから筋トレしたんだよ」
「そんなレベルじゃ・・・ってまさか高校デビュー?」
「わ、悪いかよ」
「いーえ悪くないわよ、むしろいいと思う。そもそも今までが悪すぎただけなのよね。それと太り過ぎだった」
「真実の刃は人を容赦なく傷つけるぞ」
「ごめんごめん。別に素材は悪くないんだからやれば出来るんだよ。」
「お前だって昔より変わっただろ」
「そう?まぁ中学じゃ一度も同じクラスにはならなかったものね。夏希に友達もいなかったから話しかける機会もなかったし」
「やかましいわ!」
「残念ながらあなたが好きだった頃のカッコいい美織ちゃんはもういませーん。ごめんね?」
「カッコいい?可愛いの間違いないだろ?」
「なっ!!」
今までのテンポの良いやり取りが急に止まる。
「きゅ急にどうしたの!?」
「俺はこれから褒め言葉は素直に相手に伝えるようにしたんだ。」
「確かにあたしが美少女なのは認めるけどあなたから急にそんなこと言われるとびっくりするわ」
ワン!!
それそろ散歩の続きがしたいのか美織の愛犬が飼い主を催促しだした。
「ごめん!そろそろ行かなきゃ。」
美織は愛犬に引っ張られながら公園を後にしようとする。
「そういえば夏希は何処の高校に行くの?」
「涼鳴、涼鳴高校だよ」
「え!あたしと同じところじゃん」
「因みに俺は知ってたぞ。俺らの中学では俺達2人だけだ」
「ちょっとー知ってたなら早く言ってよ!!」
美織はそう言い残して愛犬に先導されながら公園を後にした。
「いや早く言ってもなにも話す機会がなかったじゃん」
俺の呟きは舞い散る花びらと共に空へ消えていった。