エリア99+1 〜最凶メタモンと最弱メタモン〜 作:77493
カントー四天王……よもやこのまま網羅する気でいるのか(こいつ)(こいつ)
カンナさんとのお買い物から、はや数週間。信じられなーい、って愚痴りたくなる話なんだけど、実は学校はまだお休みになっていなかった。
四天王仲間の人たちに相談してみるって言ってたけど、カンナさんやっぱり忙しいんだろうなぁ。しみじみそう思う。
「――ヤヨイさん!! 今日こそ勝負だ、ボクのコノヨザルもいい具合に仕上がって……」
「あーはいー要らないっすー。ヨッちゃーん、食堂行こー」
未だに生徒会長のリベンジマッチの申し入れも続いていて、わたしとわたしを庇ってるヨッちゃんは校内の有名人になりつつあった。
いい加減ブルーベリーに「はかいこうせん」覚えさせよっかなー撃たせていいよねー、なんて考えながら通学していたある日、ひときわ大きな地震があった。
さすがに騒ぎになった。建物の崩壊とかはなかったけど、みんな顔が強張っててフツーじゃなかった。
授業は全面中断。校庭に一斉避難したあとで、わたしたちはそれぞれ自力帰宅か、それが難しい子は先生か両親に家に送ってもらうことになった。
ヨッちゃんは親御さんの都合がついたみたいだったけど、わたしはそうじゃなかった。パパはシルフカンパニーのそこそこの役職者だったから仕事を投げ出せず、かといってママはママで実家とその周辺のカバーで前よりずっと忙しくしていた。
だからわたしはポケモンたちと自力で帰ることを選んだ。いうてマンションが潰れたワケでもないしなんとかなるっしょ、そんな風に思ってたんだ。
「――ブルーベリー!! 止まって!」
家に向かう途中、空中でいつもみたいに宙ぶらりんになりながら。
わたしは、ヤマブキシティとその隣接都市にあたるタマムシシティが今どういう状況にあるのか……思い知ることになる。
「なにこれ……新手の空中都市でーす、みたいな? いやいやいや、全然笑えないんだけど!」
二つの都市は、空中に浮き上がりかけていた。比喩でもなんでもなくて、地中からキラキラ光るヘンな青色の鉱石群がせり上がってて、それに押し上げられている。
あの石は元から埋まっていたもの? 強制的に隆起させられた地盤は、建物や道路ごとそれぞれの都市を本来の位置から数十センチくらい持ち上げていた。
「ちょっと待って、いつからこんな……」
まだ数十センチだ。子供の背丈分くらいしかない。だからまだ、そんなに焦ることじゃない。でも、それが都市の真下全体に広がっていたとしたら? 隙間一つなく、指一本差し込むこともできなかったとしたら……わたしは一瞬息が出来なくなった。
異常事態だ。異常な光景だったし、石が太陽を反射させてキラキラ光るのも普通じゃない。なにより都市も石も光り物って時点で皮肉が効いている。
いや全然嬉しくないけど。こんな、終末どうこういわれてる時期にそんな皮肉なんていらないんだよなぁ。
そもそも「こんな状況ですよー」なんて今まで全く気がつかなかった。ニュースサイトでも見たことがない。なんか、めっちゃ情報操作されてる感じがする。
「ブルーベリー。もーちょっと、あのへんに近づくことって出来る?」
『……!!』
「あー、うん。『きみなら出来る』って分かってるよ、愚問だよねー。けど『危ないんじゃね?』は今更じゃない? ほら、早く!」
プテラもといブルーベリーはふらふらしながら降下した。あとでオヤツあげるから、って言ったらようやく地表近くまで寄ってくれる。足がつくかつかないかのスレスレの地点で青色鉱石を観察してみた。光は透けていくけど、フシギと石の奥や向こう側の景色はよく見えない。
石の表面に映り込んだわたしは、いつの間にかいつかのブルーベリーと同じ「うへぁ」顔になっていた。なにこれ超ブサイクなんすけどー、下がるわぁー。
「昨日今日で出てきた感じじゃないよね。ちょっとずつ上がってきた? そのうち、ほんとに街が空に行っちゃうんじゃ……」
想像した途端、体がぶるっと震えた。じょーだんじゃないよ。そんなエセSF、全人類お呼びじゃないんだってば。
地震の影響で鉱石が現れたとしたら……どうしてもっと情報を出してくれないんだろ? 避難するとか心の準備とか、わたしたちにだって必要なことなのに。
とりあえず写真だけ撮っとくか、そうしてポケモン図鑑を起動させようとした瞬間、突然サイレンが鳴り響いた。びくっとして図鑑を落としそうになったけど、ブルーベリーが器用に空気を吸い込んで腹の中に引き戻してくれる。ナイス、あとでアイスも足してあげよう。
「っていうか、なに? 今までこんな……」
『……こちらは、ヤマブキシティ市役所です。現在、長引く地震の影響で建築物の安全確保が厳しい状況となっております。市民の皆さまは――』
え? そんな声が出ちゃってた。
突然のアナウンスは、地震が続きそうなこと、できるだけ早く家族連れで設置済みのシェルターに転居すること、あと他にも……色々言われた。
話の内容が入ってこない。いや、マジで意味が分かんなかった。今日だっていつも通り学校に行ったのに。また明日、ってヨッちゃんと別れたばっかなのに。何をどうして、いきなりシェルター生活を推奨されるハメになるんだろ? だって……現実味なんか、この鉱石くらい半透明状態なのに。
『……!』
「ブルーベリー?」
『……、……!!』
ブルーベリーは、大きく旋回してからゆっくりとシルフカンパニーの屋上――よくよく考えたら、街の中で一番高い建物ってここだったわ――に降り立った。
着陸と同時、『心配すんな! オレがいるだろ!?』みたいな感じで胸を張りながらフンッと鼻を鳴らしてみせる。なんか、妙に自信満々で得意げな様子を見ていたら笑いが込み上げてきた。声を出して笑って、気がついたら、少しだけほっぺが濡れはじめてた。
「だっ、だいじょーぶ、大丈夫だよ。きみのアクションが面白かっただけだって!」
手早く頬を拭って、目を瞬かせる小賢しいメタモンの頭を撫でる。いつもながらのぷにっとした感触が、なんとも言えない。
だいじょーぶ……別に、わたしだって嘘はついてない。
心臓が凄いバクバクいってるけど、これからの想像をして意識が飛びかけるけど、それでもわたしは五体満足だ。やろうと思えばバイトにだってすぐ行ける。
だから、まだ大丈夫。シェルターがどんなもんか知らんけど、出来が悪かったらパパにおねだりしてグレード上げてもらうんだから。
「……だいじょーぶだよ」
わたしは、ミニヤヨイのすがたにへんしんしたブルーベリーを連れて裏階段から地上へ向かった。途中、非常ドアの窓から社員食堂も兼ねるカフェの様子を覗いてみたけど、残念ながらパパの姿は見つからない。もう昼過ぎなのにまだ仕事をしてるみたい。
誰にも見られないよう慌てて階段を駆け下りた。ブルーベリーが重役出勤顔で堂々と降りてくるから、めんどうになって途中で引っ張りにいく。
「まったく、なんできみはそんな偉そーにしてるの!?」
『……!!』
「はいはい、そーですねー天下のブルーベリー様ですもんねー! って……ブルーベリー、ちょっと止まって!」
シルフカンパニーを出たあと、街が大騒ぎになっているのを見てわたしたちは信号待ちがてら足を止めた。面白い話だけど、パニックの最中なのに徒歩の人たちの一部は赤信号できちんと止まっている。習慣ってそうそう変えられないんだなぁ、なんてふと思った。
けど、中には必死の形相で猛ダッシュしていく家族連れの姿もあったんだ。モトトカゲ乗りの男性が一グループを轢きそうになって怒鳴り散らしていた。
『……? ……!』
「そうだよね、意味分かんないよね。でも……わたしたちも行かないと。一応、バッテリーとか取りに戻んないとだわ」
『なんでこいつら走ってんの?』みたいな顔でブルーベリーが見上げてくる。手を繋いだまま、わたしは無言で視線を流すしかなかった。
タクシー乗り場だけじゃなく数百メートル先のリニア発着駅も渋滞してるっぽいから、仕方なしに徒歩で家に向かう。
何度か人にぶつかりそうになったし、ブルーベリーも押しのけられそうになったけど――っていうかぶつかってきた人丸呑みにしようとすんのはやめなされ。
なんとか、わたしたちはマンションに戻ることが出来ていた。急いで自室に入って、着替えとか通帳とか思い出せる限りの荷物を集めて回る。
バッグを肩から提げてふと鏡に映った自分の姿を見て、酷いなぁ、なんてことをぼんやり思った。髪は揺るんでるし、制服もヨレヨレだし、顔だって疲れ切ってるし。隣のブルーベリーの方が、まだ小綺麗なすがたを維持してる。
「へんしんかー。いいなぁ」
『……!!』
思わずぽろっとこぼした瞬間、ブルーベリーがまたフンッと鼻を鳴らしながら胸を張った。わたしの顔でそれやられても、なんか……なんだかなぁ?
ほどよく気が抜けていく。小賢しいメタモンの頭をもう一度撫でて、わたしは予備のバッテリーを小脇に抱えて部屋を出た。
「もう二度とここには戻ってこられない」。そんなこと、微塵のカケラも予想しないまま。
避難場所、つまりシェルターが設置されている仮設住宅までの道のりは平坦じゃなかった。さっき見つけた、青色鉱石が原因だと思う。
だからといって空中に取り残されるよりかはマシだ。ブルーベリーがいるからわたしは「そらをとぶ」でどうとでも出来るけど、パパたちはそうもいかない。ましてやパパの性格じゃ、わたし一人でどうにか、なんて言おうものなら錯乱しそうだし。うーん、過保護なんだよなぁ。
一旦リセット。三枚目の案内看板の前で場所を確認しようとしたとき、ポケギアの通知欄が点灯しているのに気がついた。そういえば音量切ってたんだっけ。
……知らない番号だ、立て続けに二件きてる。でもこんな状況でイタズラ電話は考えにくい。わたしは思い切って、相手に電話をかけてみた。
『――はいよ。あたしだ……おや、出たね? こんな状況で度胸があるじゃないか』
相手は、掠れた声の女の人だった。知らない顔だ。もしかしたらうんと年上かもしれない。
わたしは小さく喉を鳴らして、見上げてくるブルーベリーに返事をする代わりに彼と繋いだ手に力を込めた。
「えっと……どなたっすか? かける相手、間違えてません?」
『おや、間違えちゃいないさ。あんたヤヨイっていうんだろう? カンナから話は聞いてるよ、変わったメタモンを連れ歩いてるんだってね』
ハキハキした物言いに、カンナさんからのご紹介。相手は紫色の品のいい服を着たおばあちゃんだった。
ブルーベリーのことも知ってるなんて。ってことは、この人もポケモンリーグの四天王なんじゃなかろうか。わたしは思わず「うへぁ」顔を浮かべていた。一応、気取られないようにカメラから体を離して顔を逸らしてやっといたんだけど……途端におばあちゃんは失笑した。
『おやおや、どんな顔をしてるんだい。カワイイ顔が台無しだよ!』
反射で振り返る。誰もいない。強いて言うなら、崩れた家屋に落ちる影や、曇り空が広がっているだけだ。ほとんどの人が避難し終わったのか、周りには誰の気配もない。たまにコラッタやココガラ、小さいポケモンが逃げ惑う姿が見えたけど……それだけだった。
もしかしてどこかから見てるのかな、って思ったんだけど。画面の向こうでおばあちゃんはカラカラと笑っている。
やっぱりこっちのこと見えてる!? ブルーベリーを見下ろしてみたけど、ニヤァ笑いが返ってくるだけだった。いや、何が言いたいのかさっぱり分からん。
『後ろに気をつけな、これから数時間もすれば夜の生き物の時間さね。……さて、お喋りはこのへんにしておこう。あんたに頼みたいことがあってね』
メールが飛んでくる。添付されていたのはタウンマップの画像で、ここからうんと北、ハナダシティ付近の海岸に印が付けられていた。
『詳しい話は現地でしてあげよう。あたしは別の場所で仕事をしてるから、あんたは現場にいるカンナに話を聞いてみな。せいぜい励むんだよ』
「へぁ、ちょ、ちょっと! 仕事ってどういう? ああっ、おばあちゃん!?」
通話は一方的に切られちゃった。どうやらカンナさんとおんなじで、わたしにアルバイトを依頼したいってことみたい。やり方の説明もなにも、あったもんじゃない。わたしはやっぱりうへぁ顔をしたまま、ポケギアを閉じた。
……今は、気配を感じる。振り向いてみるけど、何回見ても背後には誰も立ってない。あのおばあちゃん、一体どうやってわたしの様子が分かったんだろう。
「うーん。なんか……変わったおばあちゃんだったねぇ」
生ぬるい風が吹く。湿った土の匂いがして、わたしは何故か悪寒を感じた。なんだろう、この感覚……やけに視線を感じるなぁ。
ぶるっと身震いして、わたしはブルーベリーにまたプテラのすがたにへんしんしてもらう。こういうときは、考えるより動いた方が早いって決まってるんだ。
すぐさま北に飛んでもらった。新しいバイトらしいけど、こんな状況でどんな仕事をさせようっていうんだろう? けどお金は大事だし。通帳は潤ってた方がいいよね!
――わたしは離れた看板の下、広がった影の中に二つの眼が赤く光っていたのに気がつかなかった。ベロン、と大きな舌がイタズラめいた舌なめずりをして、赤い眼もろとも静かに影の奥に潜っていく。
サイト掲載日:2026/09/20