エリア99+1 〜最凶メタモンと最弱メタモン〜 作:77493
前半は弥生視点、後半は別のトレーナーさん視点になります。
カンナさん(※キャラ崩壊済み)に電話越しに「使えないわね」言われたあの方(…)
二十二番道路の謎は前作より引き続き。まだまだ引っ張ります。
「お……おぉ……ゆうしゃよ……しんでしまうとはなさけな……ガフッ」
『……!!』
地震に乱獲、また乱獲。たった一日、されどその一日があまりにも濃すぎた。徹夜明けの体を引きずるようにして、ブルーベリーもろともベッドに倒れ込む。シーツも布団もゴワゴワだしスプリングもミシミシいってるし、寝心地は最悪だ。けど、疲労困憊の身にはありがたかった。
あの後……ポケモンセンターに設置されたパソコンに捕獲しまくったポケモンたちを預けた後、カンナさんは端折った事情をわたしに明かしてくれた。
「ポケセンのデータベースに全部預けて長期休眠、かー……SFモノのコールドスリープみたい」
「ポケモン保護プロジェクト」。前に新たな試みとして登場した環境改善企画「ポケライフ」を参考に立ち上げられた、ポケモンの絶滅を防ぐための打開策。
原因はここ最近の自然災害と環境の急変だけど、要は「人間は宇宙に逃げます」、「ポケモンは連れていけないので封印します」ってことらしい。封印……言い方はマイルドだけど、コールドスリープさせられるのは人間様じゃなくてポケモンたちってことね。なにそれワロエナイ。
だけどカンナさんの目は、口調は、全然冗談めかしてなかった。マジでポケモンたちと別れる覚悟を決めなきゃいけない日がくるんだって、思い知らされた。
「なんだそれ。なんなの、もう……そんなの笑えないじゃん、『みんなで笑ってハッピーエンド』なんて、そんなの映画の中だけの話じゃん……」
モソモソと隣が騒がしくなる。ピタッとくっついていたブルーベリーは、フシギそうな顔をしてわたしにのしかかりをかました。
ちょっとー、重いんすけどー。こっちはただでさえ睡眠不足で、その上こんだけシリアスってるのに、空気読まないで好き勝手するのやめてくれませーん?
じろりと見下ろしてみたけど、ブルーベリーは『なー、腹減ったんだけど』みたいな感じで人の腹の上でモソモソやってる。
なんか……くすぐったいし、微妙に重いし、もう寝ていられる感じじゃなかった。起き出してカバンをあさって、朝方にハナダシティで調達したパンを出す。
「はい、ハナダシティの売店サンドイッチ。どーぞお納めくださーい」
ペンッ。
あー久しぶりに見たわ、きみのその拒否ムーブ。
渡したはずのサンドイッチは、なんでかブルーベリーに弾き返されていた。さすがに威力は調整したのか、具材やパンが飛び散ったりはしていない。押し返される形で受け取り直したわたしは、彼の顔に負けず劣らずのうへぁ顔をかまして歯噛みする。
……なんで。どうしてきみは、そんな風にいつも通りでいられるの? 離れ離れになっても平気なワケ? わたしはこのモヤモヤをどう処理したらいいの?
なんかもう……分かんないよ。
『……! ……!!』
「いや、だから……分かんないってば、きみの言いたいことなんか……」
ブルーベリーは、顔を覆ったわたしの手を無理やり顔面から引き剥がした。なにこれ? 新手のDVか何か?
小賢しいメタモンは、ベッドから飛び降りてシェルターに設置された簡易キッチンに向かった。ペンペンと何度もガス台を叩いて、何事かを主張している。
わたしは首を傾げながら彼の元に向かった。バラバラ死体になったサンドイッチを一旦まな板に乗せて、ぷるぷるボディを見下ろしてみる。
ブルーベリーは、いつも通りにフンッと鼻を鳴らした。わたしは彼と手元を見比べて「もしかして料理しろってこと?」なんてバカなことを聞き返していた。
『……!!』
答えは『イエス』だ。無残な姿になったサンドイッチを更にバラバラにして、今度は簡易冷蔵庫から固形チーズを出してきてまな板をペシペシする。
何それ……そんなの、ばらけた既製品を挟み直すだけのかんたんなおしごとじゃん。そんなの料理なんて言わないし、手抜き以外の何物でもないでしょーに。
「いいけど……味は、元のサンドイッチまんまだと思うよ? それでもいい?」
『……!』
「あ、いいんだ。そっすかぁ」
思えば、この子は他のポケモンたちなら喜んで食べるポケモンフード――平たく言えばカリカリだね、それさえ口にしない選り好みを見せていた。旅先や日常じゃ苦労させられたけど、こうして考えてみたら……食にうるさいってだけじゃなく、わたしの作る食事も気に入ってくれていたのかもしれない。
いや、思い上がりかもしれないけど。単に舌が肥えてる美食家モドキなのかもしれないけど。
「じゃあ作りまーす。用意するものー、食材各種と調味料少し、調理道具一式。今回は下味ついてるから調味料ナシね。助手はわたし、ヤヨイが勤めまーす」
『……!』
ブルーベリーは得意げにフンッと鼻を鳴らした。これ、もしかして鼻の鳴らし方で気分が分かったりするのかな? いや分からんけど。
とりあえず食べやすいように具材をキモチ刻んで、バランスよくパンに挟む。『チーズ! チーズ!!』って隣のシェフが喧しいのでチーズも足しといた。
テキトーにリメイクしたサンドイッチ。手渡すとブルーベリーは満足そうな顔でがっつき始めた。軽く炙ったチーズがいい感じです、さすがわたし。他の子たちにもポケモンフードにそれぞれの好みの木の実を混ぜたいつものメニューを出して、わたしたちは遅めの朝食を済ませた。
「そういえば……昨日の夜から、なにも食べてなかったんだなぁ」
二重構造の窓越しに仰いだ日差しが眩しい。
カンナさんの話では、これから先災害は深刻になってくるそうだ。今は混乱が広がらないように情報を出し控えてるってことらしい。
今食べてるような、人の手で作られた食事だってそのうちとれなくなる日がくるかもしれない。そのとき、ブルーベリーはどうするんだろう?
さすがに餓死一択ってことはしないと思うけど……見下ろした先で、ブルーベリーはホオズキやフリージアとごちゃごちゃと何事かを話し合っていた。
なんか盛り上がってるし、ブルーベリーの方が腕をぐるぐる回して激しくなにか主張してる……ほんと、ポケモンの言葉が分かるようになればいいのになぁ。
「カンナさん、またアルバイトお願いするわ、って言ってたけど……次も乱獲の仕事になるのかなぁ。体力、温存しておいた方がよさそうだよね」
いつ連絡がくるかも分からない。わたしはポケギアをバッテリーに繋いで、ベッドに寝転び直した。気を利かせてくれたのか、ホオズキやブルーベリーが飛び乗ってくる。ぴたっとくっついてくるのに甘えて、わたしは二匹とも抱き寄せた。
サイドテーブルにはお手入れ用のブラシを突っ込んであるけど、なんとなくそんな気に……いや、フサフサとふわふわを維持するためだ――言い訳は不要!
「……ヤヨイー、いる……?」
「ん? あれっ、ヨッちゃん! 別のシェルターにいたんじゃ――おぶッ!?」
ホオズキのブラッシングが終わって、じゃあ次は同じすがたにへんしんしたブルーベリーを、なんてやってるとき鋼鉄製のドアがノックされた。
返事も待たずに入ってきたのは、ちょっと離れたところに家族連れで避難したって話してたヨッちゃんだった。ちゃんと腰にはボールホルダーがあって……
待った待った、なんか急にヘッドロックされてんだけど。ていうか力強すぎて息が! 死ぬ! オレシス!! オレスシ!?
手を振り回してたらたまたま当たったみたいで、ヨッちゃんはすぐに力を緩めてくれた。見返してみたら、なんでかヨッちゃんは凄い勢いで泣いている。
「どっ、どーしたのヨッちゃん!? もしかして、ポッチャマに何か……」
「うう……どうしよー、ヤヨイ……ヤマブキシティが……」
差し出されたのは、ヨッちゃんのポケパッドだった。前におねだりしまくって買ってもらった、って自慢されたやつだ。
液晶にニュースが映っている。覗き込んだわたしは、わたしたちのヤマブキシティが、例の青色鉱石に更に数十センチ持ち上げられているのを見て固まった。
「どうなってるの? ただの地震だって、すぐ収まる、って聞いてたのに! このままじゃ街がなくなっちゃうよ……」
たかが数十センチだ。でも、昨日わたしが見た時点でも「そう」だった。ということは、雑に計算してももうとっくに一メートル弱、平地から浮き上がってるってことになる。
わたしはヨッちゃんに返せる言葉を持ち合わせない。
「ヤヨイ。ヤヨイって、ポケモンリーグの人たちと知り合いになったんだよね? なにか聞いてないの? どれくらいで落ち着くのか、とか……」
「ヨッちゃん、それは」
「分かってる。分かってるよ、こんなこと聞くなんておかしいって。ヤヨイだってバイトしてるだけだし。でもさ……!」
ヨッちゃんに胸元を握り込まれる。わたしは一瞬、自分がどうやって息をしていたのか忘れそうになった。
そのとき、充電していたはずのポケギアが鳴る。反射で手に取ってから、わたしはヨッちゃんを振りきるようにしてベッドから素早く飛び降りた。異常を察したのか、ホオズキは自分からボールに戻って、ブルーベリーもミニヤヨイにへんしんし直してわたしの後についてくる。
シェルターを出る直前、わたしは涙で顔をぐしゅぐしゅにしたヨシノちゃんに振り向いた。
「ヨッちゃん。あのね、危ないからシェルターから出来るだけ出ちゃダメ、だって。わたしが聞かされてるのは、それくらいかな」
じゃあヤヨイはどうなるの、きりさくような叫び声が追ってくる。わたしはそれを聞き終わるより早く、分厚いドアを閉めていた。
眼前、点々と散らばるシェルターにはそれぞれ明かりが点いてるけど……昨日から妙に息苦しい生ぬるい風が吹くようになったからか、人の気配はなかった。むっとする土の臭いにうんざりしながら、わたしは預かったままだったショルダーバッグも自前のリュックと一緒に身につける。
「……カンナさんだ。よかった、このバッグ返さなきゃって思ってたんだよね」
『……!』
「はいはい、そーだねバイトだねお仕事ですねーブルーベリー。うーん、状態異常用の変化わざでも構成組めばよかったかなー?」
ポケギアを立ち上げて、相手の番号がカンナさんであることを確認してから走り出した。
ブルーベリーはヨッちゃんには結構懐いてたはずだったんだけど、最後まで、さっきのシェルターに振り返ろうとはしなかった。
「――カイリュー! 穿て、『はかいこうせん』!」
「リザードン、『ほのおのうず』!」
日が沈んだ頃、夜明けが訪れたのかと見紛うばかりの閃光が場を満たす。それぞれの相棒が放ったわざは、寸分も狂うことなく目標に噛みついた。
眼下、元……旧と言うべきか、セキエイ高原に続く二十二番道路は今となっては見る影もない。度重なる地震の影響で形そのものが変わってしまったからだ。
我々がここを訪れたのは、地震の調査はもちろん……リーグ、センター両方から通報があった異常なポケモンの存在を確認するためだった。
実際に到着するや否や、対象のポケモンは我々が空中に留まっていることも構わずに対空わざを放ってみせた。精度と威力……特攻の値が低いことから掠りもしなかったが。当初、同行する協力者ともどもおれたちは無意識に顔を見合わせていた。
「さて、隠れる場所はなくなったぞ。大人しく投降するなら、それでよし」
「……」
「だが、まだ抵抗するというのならおれのカイリューが容赦しないだろう。それとも……尻尾巻いて逃げるかい!」
見下ろした先、怒りに身を震わせるのは一匹のポケモンだった。鍛え抜かれた筋肉と逆立つ白毛、怒気と疲労で血走った眼。両の手首に枷がつけられているのも特徴的だ。
間違いない。保護対象かつ、近年になって進化分岐が示された「コノヨザル」だ。リーグに勤める同僚シバが、レポートを読みふけっていたのを覚えている。
ゴーストの生態をもつ故に、おれの相棒……ドラゴンポケモン、カイリューのわざの一部は奴に通じない。先のはかいこうせんがいい例だ。
しかし、今回の同行者は頼りになるトレーナーだ。おれたちが地形をねじ曲げ、視野と攻撃範囲を拡大することで遺憾なくその実力を発揮してくれるだろう。
「……グ、ゴゴ……!!」
コノヨザルは、同行者の相棒リザードンが振るった「ほのおのうず」に捕らわれた。身動きがとれず怒りという怒りを全身に滲ませている。
上出来だ、ダメージもそれなりに与えられている。取り巻きのマンキーやオコリザルたちの姿が見えないことが気になるが、迅速に確保した方がいいだろう。
なにより、おれたちは奴に恨みがあるわけではない。できる限り怪我も軽微に留めてやりたいんだ、それは隣の同行者も同じだろう。
「『レッド』。おれが捕獲を試みる、万が一のサポートを頼む」
「……、わかった」
同行者は、いつものようにキャップの鍔を摘まんで目深に被り直した。眼光だけが鋭いのも常のことだ。
おれたちは一息に地上へと距離を詰めた。コノヨザルの表情までもが視認できるようになったとき、奴は赤眼を見開いて大きく咆哮した。
「くっ、なに……!?」
「……! ワタル、『あなぬけのひも』だ!」
「なっ、あなぬけのひもだって!? そんなバカな、トレーナーでもあるまいし……!」
あと僅か。ハイパーボールの到達範囲に入る直前で、コノヨザルは胸付近から何かしらの道具を引きずり出した。普通なら考えられないことだ。
おれたちが制止するより早く、奴はひも状のそれで輪を作り背後にそそり立つ崖――地震の前はただの陸地だったが、隆起したんだ――に円形を叩きつけた。自ら作成したワープホールに、奴は躊躇なく飛び込んだ。焔で焼かれた傷にも構わずに、この場から遁走することを選んだんだ。
「……まさか。そんな、本当に?」
「……」
おれたちは、奴が消え失せた崖の麓に降り立った。何度岩肌をさすってみても、岩は岩でしかない。
あなぬけのひもは、ダンジョンから即離脱することができるトレーナー御用達の道具のひとつだ。知識があったとしてポケモンに使いこなせるとは思えない。だが、あのコノヨザルは……それはつまり――
「――よお、レッド! ワタル! どうなんだ、ターゲットはちゃんと捕獲できたのかよ!?」
「……グリーン」
「やあ、きみも来たか。生憎、たった今逃げられてしまったところだ」
思考中断。同行者のよき理解者が応援に駆けつけてくれたようだ。とはいえ、コノヨザルには逃げられてしまったが。
状況を説明すると、現れたジムリーダーは一瞬渋い顔をした。情けないが呆れられても何も言えないな、おれはそう思ったが、どうやらそうではないらしい。
一翼であるピジョットをボールに戻しながら、相手は同行者、レッドとほぼ同時に頷き合う。おれは、彼らの真剣な表情に二の句を呑んだ。
「ワタル。前に、オレとレッドがここで妙なメタモンと会ったって報告をしたことがあったよな。覚えてるか」
「ああ……四年前のことだったかな? それがどうかしたのかい」
「このあたりはオニスズメと統轄役のオニドリルの縄張りになってたはずだ。リーグにも報告が行ってるだろ。ちょうどグレン島が消失した頃からだってな」
「……今日は、どっちもいない」
レッドの言葉に、おれははっとしてあたりを見渡した。
リーグからも通達があったはずだ――大量のオニスズメ、オニドリルのつがいによる二十二番道路の占拠問題。しかし、今日はその片鱗さえ見えない。
事前調査でかなりの数が報告され、オニドリルのうち一匹も捕獲された。ところが今は一匹も見当たらない。逃げ出したということなんだろうか、それとも。
「オレとじーさんは、あいつらはグレン島から逃げてきたヤツらだと考えてる。攻撃的なのも、命の危機に直面した経験があったからこそだってな」
「……なるほど。では、あのコノヨザルも何かしら関係があると言いたいのかい」
「グレン島関連ではねーだろうな。気がかりなのは人間の道具を使いこなせること、それにここ最近、この近辺を頻繁に探索していた学生がいたってことだ」
「……、あのコノヨザル……人間に、その学生に捨てられたポケモンかもしれない」
おれとトキワシティのジムリーダー、グリーンは、レッドの静かな声に言葉を詰まらせる。
可能性としては十分に有り得ることだ。コノヨザルは特定のわざを使用し続けることで進化を果たすポケモン。ましてや、強さを求めるあの気質。強さを求めて進化させたものの、一定の成果を見出せなかった場合は……その一点のみに価値を見出すトレーナーならそうしたとしてもおかしくない。
おれたちとしては到底許せる話ではないんだが、事実トレーナーの中にはそういった効率のみを重視する者もいる。そしてそれを止める術は現状存在しない。
「だとしたら厄介だぜ。レベリングと鬱憤晴らし、トレーナーとそのポケモン。両方の視点でオニスズメたちに暴力を振るったって話になるからな」
「恨みという恨みが無関係のゴーストタイプを引き寄せる可能性も……もちろん、コノヨザル自身も傷ついているだろうね」
世界規模で発生している自然災害、環境変化。いずれも調査を進めている最中だが、問題は山積みだ。
その中でも表面化していない問題がコレだ。トレーナーとポケモン、その関係の急変……身勝手な理由で手放されるポケモンの数が、ここ最近急増している。
誰しも不安を抱えるなか、その矛先が最も身近なはずのポケモンたちに向けられているというものだ。リーグでも度々話題にあがっている。
「時間が許す限り……ぼくは、あのコノヨザルを追ってみる。グリーン、ナナミさんは……」
「ああ。ねえちゃんなら無事だ、おまえのとこのおばさんもな。だからオレも手伝いに来られるようになったんだよ、これからは頼りにしてくれよな」
「グリーン、きみもサポートに回ってくれるか。それは心強いな。……捕獲作戦の方も進行させなければならないから、きみたちが揃っているのは有難いな」
十四年前、ポケモンリーグで対峙した二人の少年。激闘を交わした彼らと今こうして行動を共にすることが出来るとは、なんともフシギな話だ。
おれたちは改めて状況を報告し合い、引き続きポケモンリーグからの依頼の遂行と、コノヨザルならびにオニスズメの群れの追跡調査を続行することにした。
やらなければならないことは山のようにある。一息つく間もないな、と、おれはカイリューと頬を寄せ合った。
サイト掲載日:2026/09/26