エリア99+1 〜最凶メタモンと最弱メタモン〜 作:77493
ぽこあ、先日ようやく念願のコーデが手に入りました。無事成仏しました。アリガトウ…有難うございます……(祝いのいっちょうあがり)
前半部分で視点が変わっています。後半で弥生視点に戻ります。
「……例の『六Vメタモン』だけど、わたしたちでは確保することが出来なかったわ。代わりと言ってはなんだけど、一般トレーナーが仲間に加えたようよ」
時刻は深夜。雑務をこなしているうちに就業時間が過ぎてしまっていた。残っていたスタッフが入り口から頭を下げた姿を見て、もうこんな時間かと気づく。
通話を続けたまま作業続行、とはいえ明日はそこまで予定が詰まっていない。少しはのんびり過ごせるでしょう。無意識に安堵の息が漏れた。
……ここ最近は、カントーのポケモンリーグに参加申請してくるトレーナーの数もめっきり減ってしまった。実力者が減ったというよりは他地方もこちらに負けず劣らず賑わいを見せていること、新種のポケモンが発見され続けていることも理由に挙げられるだろう。
そしてなにより。もっともたる理由は、通話機能の向こう側にいる二人連れのトレーナーが原因ではないかと「わたし」は思っている。
『一般トレーナー? ……ああ、制限されてるわけじゃないからな。捕まえられるんなら捕まえときたいだろ、六V個体なんて』
「ふふふ……ずいぶんとアローラ地方を楽しんでいるようね。素が出ているわよ」
『なっ……あー、悪い、いや……これは大変失礼致しました。「カントーリーグ四天王」、カンナ殿』
「わたし」はそこで噴き出した。相手は居心地悪そうに声を詰まらせている。
年相応というか、最近は「彼」の肩の力は抜けてきているように見えた。アローラへの出向依頼、それに同行する旅仲間がそれを可能にしているのでしょう。以前よりつきあいがあった好敵手兼幼馴染み、そんな気の置けない相手とのバトルツリー参加。ちょっとした旅行気分かしらね、と微笑ましくなる。
隠さずに笑っていると、相手がわざとらしく咳払いしたのが聞こえた。案外可愛いところがあるのね、と「わたし」は背筋を正した。
「少しからかいすぎたかしら? それで、どう? アローラのトレーナーは。『レッド』も楽しめているのかしら」
『ああ、悪くないな。センスもあるし、リージョンフォームのポケモンの扱いも上手い奴らが多い。来て良かった。レッドは……相変わらずだけどな』
「相変わらず、ね……任期が長いようだから心配していたけど、問題なさそうで安心したわ。もっとも、あなたたちならなんの心配も要らないでしょうけど」
通話画面の向こうで、相手があからさまに眉間に皺を寄せたのが見える。思わず、若いわね、と声に出しそうになって口を閉じた。
「年相応」。トレーナーとしての腕は一流でありながら、「彼」とその親友にはまだ子供っぽいところが目立つ。
その自然体こそが彼らの強みであり、他を惹きつける要因でもあるのでしょう。なにせ「わたし」はおろか四天王の頂点ですら彼らに勝てなかったのだから。
『それは買い被りすぎだろ。オレたちが今回招かれたのは、エキシビションの要素が強いんだぜ』
「そんなことないわ。本音を言えば、例のメタモンこそ『レッド』に調査して欲しかったのだけどね。各地のジムリーダーにも捕獲できなかった相手だから」
『そんなに強い個体だったのか!? じーさんは何も……』
「ああ、違うのよ。相手を選ぶタイプのポケモンだった、それだけね。関心のない相手だと、バトル開始と同時に逃げ出す有り様だったから」
『捉えきれないパターンか、ずいぶん変わったヤツだな。いや、待てよ……確か、数年前にも二十二番道路に変なメタモンが――』
かつてのカントーリーグでの一戦を思い出していた「わたし」は、ふと「彼」が言葉を濁らせたのを見て首を傾げた。
「特別なメタモン」に思い当たる節があるのか、口内で何事かを呟いている。「彼」がこうして対面中に考えごとに耽るのを見るのは初めてだ。よほどの出来事だったのか、あるいは、それとも。
「――ひとつ補足しておくわ。例のメタモンを捕まえたのは、あなたのジムに挑戦しようとして出端を挫かれた女子高生よ」
『は? なに……』
「今度、データ収集も兼ねて軽く手合わせすることになったの。対戦場所にトキワジムを借りるから、戻ったらメンテナンスをお願いするわ。『グリーン』」
おいちょっと待てどういう――そこまで聞き流しながら通話を切った。
通話相手の名はオーキド=グリーン。現トキワジムのジムリーダーにして、かつて我々カントーリーグの四天王を撃破してチャンピオンの座についた男。
「そしてその直後に、腕を競い合っていたライバル『レッド』に敗れた男。……まさかそんな二人が、今では仲良くアローラ観光とはね」
実際には観光ではなく、トレーナー修業の一環なワケだけど。実態としては似たようなものでしょう。
今となっては平和なつきあいが出来ている彼らだけど、オーキド博士の話によればリーグ当時のグリーンはレッドとの勝負に固執していた一面があったとか。
若いわね、ついぽつりと言葉が漏れて、「わたし」は苦く笑った。「わたし」にとってはリーグで対峙したトレーナーのひとりに過ぎない相手だけど、彼は親友「レッド」ともども今でもリーグに貢献してくれている。
そんな彼が思い浮かべる「特別なメタモン」とは――今回たまたま発見された、野生の六V個体のような特殊な遭遇状況だったのか。
「そろそろアローラでの任期は切れる頃だったかしら? 話を聞いてみるのも、悪くないかもしれないわね」
いずれにせよ、件のメタモンはリーグにおいては「最強のポケモン」にカテゴライズされる部類。ヤヨイがそれを手持ちとして出してくるかは分からないけど、それでもバッジ七個を所有するトレーナーとあれば他であれある程度技量を測ることができる。
久方ぶりに胸が躍っているわね、自覚と同時にパソコンの電源を落とした。対戦期日まで、あと一週間。
というわけで、あっという間に一週間が経った。今日はトキワジムで、ポケモンリーグのおねーさんとポケモンバトルをする約束の日だ。
連れていけるのは二匹まで、的なことを言われた気がするんだけど、メールには特になにも書かれていない。パーティ構成に悩んだわたしは、結局いつも通りのメンバーと……あのマフィアのボス、もとい未だに戦闘経験皆無のブルーベリーを連れていくことにした。
残してって後から文句を言われたり、余計ボイコットされたりしたんじゃたまったもんじゃないからなぁ。ほんと、よく分からないメタモンだ。
「――こんにちは、ヤヨイさん。来てくれて嬉しいわ」
ジムに着くと、おねーさんはすでに準備万端って感じで……えっと……本来ならジムリーダーが控えてるハズの席で待っていた。
わたしはトキワのジムリーダーに会ったことないんだけど、いいのかなアレ? まあリーグの人なわけだから、きっと了承でももらってるんだろう。たぶん。
「すいませんー、ちょっと遅くなりましたぁー! お待たせしちゃいましたよね?」
「大丈夫、わたしも今しがた来たばかりよ。早速はじめましょう」
おねーさんの、このこうかばつぐんクラスのやる気はなんなんだろう? わたしとしてはバイト代が弾むだけだから全然イイんだけど。
とにかく、わたしも急いで挑戦者の指定席に向かった。腰の高さくらいまであるブロック柵の中央、ちょうど正面から対峙する地点で向かい合う格好になる。
……これ、こういうベーシックなジムの造り。本音を言うと見世物みたいに見えるから苦手なんだよなぁ。ジムによっては、リーダーの手持ちの属性の関係でステージデザインが変わってるときもあるから……そっちはそれなりに見応えあるんだけど。
「では、これより特別ルールでのシングルバトルを開始します。わたしは手持ちの二匹のみ参加可能、あなたは六匹全て使ってくれて構わないわ」
「えっ? ちょ、ちょっとおねーさん! それはさすがに……」
「先にルールを提示しなかったのはわたしの方よ。どうしても気になると言うなら、あなたも二匹のみ参加させるといいわ」
「ええ……うーん? 考えときます……」
とりあえず、この時点でおねーさんがすごーく強いトレーナーだってことは分かった。自信がなかったらあんなこと言えないもんね。
バチン、と物々しい音が鳴る。照明の雰囲気がガラッと変わって、目の前のバトルフィールドに大量の水が注がれた。おねーさんはみずタイプのポケモンを使うのかな? わたしは一瞬考え込んで、伸ばした指先に触れたモンスターボールを手早く腰から取り外した。
「では、よろしくね! ヤヨイさん!」
「ううっ、バイト! 頑張るます! こちらこそよろしくお願いしまーす!!」
「あははっ……いい返事!!」
わたしたちは同時にポケモンを呼ぶ。
おねーさんが先鋒に選んだのは、よりによってラプラスだった。場慣れしているのか、ものすごく堂々とした雰囲気だ。
一方で、わたしが呼び出したのもラプラスだった。ニックネームは一応つけてあるんだけど、賢い子だからなんとなくそのままラプラス呼びで統一している。
どちらのラプラスも、自信たっぷりといった感じで睨み合った。満たされた水面に悠々と乗り出して、互いの出方を窺っている。
「いくわよ、ラプラス。『なみのり』!」
「ひえっ、いきなり……ッラプラス!! こっちも『なみのり』で!」
水が荒れ狂う。渦が生まれ、激しく波打ち、水飛沫が視界を霞ませる。わたしは片目をつぶりながら、懸命にラプラスの動きを見送った。
二匹のラプラス。レベルはほんの少し、わたし側の方が上。でもおねーさんはリーグの人なんだし、あのラプラスは一筋縄じゃ落ちてくれない予感がした。
案の定、どちらのラプラスもすごく上手に波に乗る。流れを読み、相手を凝視し、大波で叩き潰す機会を探り合っている。
先に動いたのはおねーさんのラプラスだった。大きくたわむようにひしゃげた海水が、直進するラプラスに追従するように盛り上がる。まるで津波みたいだ。
「――ラプラス!!」
わたしが身を乗り出したときには、わたしのラプラスは大波に呑まれていた。飛ばされた水飛沫を思いきり吸い込んで、びっくりするほどの塩気に咽せる。海水だ、わざわざ用意させていたんだ――激しく咳き込みながら、それでもわたしは前を見た。
あれほどの波を叩きつけられたラプラスは、気丈にもまた海面に浮上してくる。ぐるんと体を回転させて、同じように「なみのり」をお返しした。
「ふふふ、定跡! ……ラプラス、『れいとうビーム』!」
「ラプラス、避けてっ!!」
塩気の合間、ひやりとした感覚が肌を刺す。なんか……すっごくイヤな予感がする!
わたしのラプラスの「なみのり」の直撃を受けていながら、相手のラプラスは悠然と海面を乗りこなす。指示と同時に首が回って、強烈な冷気が宙を撃った。
わたしのラプラスはビームの軌道を読み切った。器用に波間を駆けて、薙ぎ払う暴威の冷気を回避する。
やった、避けた! ……わたしはそう思ってた。でも、目の前にひらりと雪の結晶が降ったのを見て、頭の中が一瞬真っ白になる。
「ラプラス! 上がって……海から離れて!!」
「気づくのが遅いわ。そう、『ラプラスは凍らなくとも』……周りを固められれば、どうかしらね!」
空気が軋む音がする。まるで、ラプラスとわたしの悲鳴を代弁しているみたいだ。
おねーさんのラプラスが放った「れいとうビーム」は、わたしのポケモンを直接狙わない。宙に漂う水飛沫や水蒸気……そういうものから先に凍てつかせる。
肺に冷たい空気が流れ込んで、わたしは盛大に咳き込んだ。顔を上げた先で、わたしの可愛いラプラスが氷霜に取り囲まれているのが見えた。どうしよう――彼女はみずとこおりの複合属性持ちだから凍らされはしないけど、足場が固定されて身動きがとれなくなってる!
「クォォ……」
「ラプラス! えっと、どうし……っ」
「やはり動かないわね。ラプラス、『のしかかり』! 叩き潰すのよ!」
みずかこおり属性相手なら、そんなに深刻な痛手にならない。でも、相手が次に繰り出したのはノーマルタイプのわざだった。海に揉まれながら、ラプラスの体は簡単に相手に捕らわれ潰されていく。波に飲まれ、次の瞬間には苦し紛れに海面に再浮上していた。
レベル差はそうでもないのに、ダメージ値が大きい……相手のラプラスの技量が「上」なんだ。わたしはほとんど反射で、モンスターボールを掲げていた。
「ラプラス……っもどって!」
「あら、次鋒の出番? この状況、この『こおり使いのカンナ』に限りなく有利ね。さあ、どう魅せてくれるのかしら!」
「こおり使いのカンナ」……なんだろう、やっぱりどこかで聞いたことがあるような、ないような。
でも正直、わたしにはそんなことを考えていられる余裕はなかった。ラプラス……わたしのラプラス。可愛いだけじゃなく、長いつきあいになる賢い子。
この子がこんなに苦戦するのを見るのは初めてだ。逃げ場を失って畳みかけられたとき、この子が苦しそうに……ううん、心底悔しんでいたのがよく見えた。
「分かる、分かるよ。悔しいよね……」
でも、どうしたらいいんだろう。
ラプラスの体力残量は今まで見たことがない数値を叩き出してる。このままバトルに続投するなんてこと、普通に出来ない。なにせ、八割以上削られてるし。
おねーさん、もといカンナさんのラプラスは未だに余裕たっぷりだった。この状況をカンナさんともども楽しんでいるように見える。
どうする、どうしよう? 考えろ、考えるんだ……ラプラスが戻されたボールをぎゅっと握りしめたとき、わたしは視界の端になんらかの変化を見出した。
「……え? え、うぇえっ!?」
ゴージャスボールだ。閉ざされていた黒地のボールが開いて、中からポケモンが自分から進んで飛び出してくる。
そいつは、小賢しい感じでわざとらしく腕――らしき部位を伸ばして、頭のてっぺんに添えて見せた。まるで『お困りですか?』って言ってるみたいに。
呆然としたままのわたしの前で、ブルーベリーは『ヤレヤレ、仕方ないなー』とばかりに前に進み始めた。止める暇もない。気づけばその紫色は、バトルフィールドに向かって体を乗り出している。
「えっ、ちょ、ちょっとぉ!?」
わたしが一拍遅れて腕を伸ばした瞬間、ぷにぷにした全身がフィールドに落ちていった。手が空振った瞬間、ぐにゃりと目の前の世界が変化する。
「……! そう、そう来るのね。面白くなってきたじゃない」
「なっ……ブルーベリー!? きみ、なんで……」
ブルーベリーは、バトルフィールドに落ちると同時に「へんしん」した。
体表の細かい傷や、賢さが宿る目、大きなヒレと淡い青色――その姿は、まさにたった今、控えに戻されたばかりのわたしのラプラスそのものだった。
『……!!』
フンッ、と得意げに鼻が鳴らされる。ブルーベリーは、ラプラスのすがたを維持したまま勢いよく海面に乗り出した。
サイト掲載日:2026/09/02