エリア99+1 〜最凶メタモンと最弱メタモン〜 作:77493
VSカンナさん決着。実際にほのおタイプで速攻かけようとしたらなみのりorあやしいひかりでボコされた記憶(ジュゴンたんはねむるが過ぎます)
賞金は依頼報酬分も含むので、深くをおツッコミにならないで頂けると… )`ν゚)・;'
「ホオズキ、『かえんほうしゃ』!!」
「させないわよ? ジュゴン、天候を『あられ』に塗り替えて!」
カンナさんとそのポケモン、マジでつよいー。泳ぐ術を持たないわたしのブースターは、専用のボートの上での戦闘を余儀なくされる。カンナさんのジュゴンはそこに容赦なく「なみのり」、続けて「れいとうビーム」を狙い撃ちする。相変わらずフィールドの造りを逆手にとった戦術だ。
ブースターの属性はほのおだから、「なみのり」を直撃させるわけにいかない。回避に専念するしかなくて、ただただもどかしかった。
「……いっちょ、頑張りますかぁ。バイト代のために!」
「――キュイッ!!」
「よーしっ、ホオズキ! こっちも天候を変更するよ、『にほんばれ』、よろしく!!」
ジュゴンが吹き荒れさせる雪景色が一変する。わたしのブースター、ホオズキに覚えさせていた「にほんばれ」だ。
閉ざされていたトキワジムに真っ白な光が差して、視界が一気に晴れ渡る。ホオズキが元気を取り戻したように、ボートの上で大きく伸びをしたのが見えた。
「あら、やるわね! ジュゴン、『なみのり』!」
「させなーいっ!! ブーストかけてくよ、『でんこうせっか』!」
前へ、前へ。貴重なアルバイトの機会……この稼ぎ時、逃すわけにはいかないんだ!
わたしが指示を出すと同時、ホオズキはボートを蹴って宙に躍り出る。足場は、流氷みたいに漂う氷片だけで十分だ。彼の素早さなら全然問題ない。
ジュゴンの頭上に到達した瞬間、狙いを定めていたジュゴンの「なみのり」がぐるっとホオズキを取り囲んだ。うん、そうだよね、普通はそうするよね――
「――と、見せかけてぇ!! ホオズキ、『ほのおのうず』ッ!」
「ジュゴン、そのまま! 『なみのり』で押し切るのよ!」
わたしの指示は、一息に距離を詰める縮地みたいなものだ。攻撃が届く範囲に入れたなら、それで十分。
ブースターの毛が一瞬火花を纏う。赤く鮮烈に燃え上がって、口腔から一気に焔が吐き出された。容赦なくジュゴンを捕まえに行く。同時にジュゴンの「なみのり」もホオズキに届いていた。足場はない、呑まれるしかない。でも彼はカンナさん側のブロック塀に前脚をかけ、なお跳躍した。
「なみのり」ヒット。小さな痛々しい悲鳴が聞こえたけど、わたしは目を懲らして向こう側を観察する。ホオズキは……まだ沈んでない!
「えらいっ、ホオズキ! 『でんこうせっか』!!」
「キュイイ! シャアッ!!」
「ふふふ、わざ構成は変えてあるのね……ジュゴン、決めるわよ! 『なみのり』!!」
見ていて分かった。カンナさんのジュゴンは「あついしぼう」に守られていて、ほのおのわざも本来のダメージ値を発揮してくれない。
だったら、やれるだけやってみよう。ホオズキの体力はかなり削られてるけど、あそこなら彼の手も牙も届く。
諦め悪く吠えたわたしに呼応するように、ホオズキは塀を蹴る。海水に浸されていない僅かなブロックを踏みつけて、軽々と鬼灯色の体がジュゴンに迫る。ホオズキの体が弧を描く。前脚、続けざまに後脚がジュゴンの顔を蹴り飛ばす。ぐるっと更に体をひねって、正面から彼らは対峙した。
「なみのり」が迫る。今度浴びたらきっと、ひとたまりもない。でも、ホオズキの目は沈んでなかった。わたしも身を前に乗り出して、全力で手を伸ばす。
「『にほんばれ』を、信じるぅー! 『かえんほうしゃ』!!」
ジュゴンの体を盾代わりに。「なみのり」が直撃する寸前、ジュゴンが「ほのおのうず」に焼かれ、締め上げられて、苦しげに顔を歪めた隙間が見えた。集中がたまたま切れたんだ――「なみのり」がルートを逸らした。
水上に吸い込まれながら、ホオズキは顔を上げて業火を喚び起こす。彼の口から一斉放射された炎は、ジュゴンの皮膚に食らいついた。やっぱり脂肪が分厚い、中身まで火熱が届いてない。
ホオズキが落水した瞬間、ジュゴンが大きく苦鳴を漏らしたのが聞こえた。わたしはカンナさんがポーチから「げんきのかけら」らしきものを出すのを見る。
「……あ」
でも、それだけだ。ジュゴンはぐったりし始めて、ホオズキは海中から上がってこない。
そのとき、ポンとモンスターボールが開く音がした。わたしが止める間もなく、飛び出してきたラプラス……「スズラン」がホオズキを助けに向かう。
わたしは、フィールドの向こうの出来事を呆けて見守るしかなかった。スズランは素早く潜行すると、すぐさまホオズキを拾って浮上する。
「あっ、ありがとー……ラプラス……スズラン」
「クゥ……クォオオ……」
ホオズキは戦闘不能に陥っていた。「なみのり」の余波までは避けきれなかったんだと思う。
スズランからホオズキを受け取って、焔の気配が失せた体をぎゅっと抱きしめた。その間、カンナさんは黙ってジュゴンをボールに呼び戻していた。
「ヤヨイさん、今ので決着はついたわ。わたしのジュゴンも戦闘続行不可能よ。おめでとう……あなたの勝ちね」
ブースター、そしてラプラスを撫でていたわたしは、カンナさんの言っていることの意味が一瞬分からなかった。首を傾げたところで、ラプラスに頭をすり寄せられる。そこで我に返った。
はっとして急いでモニターの表示に視線を走らせると、カンナさんのジュゴンもわたしのブースターも、体力残量がゼロになっていた。
「あ、あれっ? ……いつの間に」
「レベル差が物を言ったわね。わたしのジュゴンはレベル五十二、あなたのブースター……ホオズキくんは六十七だもの。手痛い『ほのおのうず』だったわ」
そう言って、カンナさんは手近なパネルを叩いて何かしらの指示を出す。大きな物音と震動がして、トキワジムから海水が少しずつ引いていった。
「おおぅ……すごーい。こうやって、毎回管理されてるんですねー……」
「あなたと勝負するために貸し切りにしたけど、普段はジムテストに使う場所だからね。熱くなりすぎて壊しでもしたら、本来の管理人に泣かれてしまうわ」
本当に泣いたりはしないんでしょうけど、謎の補足をしながらカンナさんは満足そうに笑った。
ジムのメンテナンスは続いている。今度は泡が出てきて床を洗浄し始めた。自動でお手入れしてくれるなんて、公認のジムってすごい設備なんだなぁ。この辺はみずのポケモンの力を応用したシステムらしい。エコですね、って言ったら、そうでしょうとも、なんて満更でもなさそうな返事があった。
……カンナさんとトキワジムのジムリーダーって知り合いなのかな? リーグが関わってるならおかしくない話だけど、それにしては妙に距離が近いような。
「驚かされることばかりだったわ。ヤヨイさん、あなた、本当にポケモンリーグに挑むつもりはないのかしら」
「ええ……ジムバッジも揃ってないですしー。それにわたし、勉強とバイトで忙しくて。ポケモンたちは可愛いからトレーナーは続けるつもりですけどぉ」
「そう……残念ね。あなたが本気を出せば、リーグの上を目指すことも出来ると思うのだけど。なんならわたしから推薦してもいいんだし」
何言ってんの、何言っちゃってんのこの人!? ……わたしは、ギリッギリのところでそう漏らさずに済んだ。こっちの考えなんてお見通しなのか、カンナさんは意味深にニッコリと笑っている。
じょーだんじゃないってんですよ。ポケモンリーグへの挑戦なんて絶対今まで以上に努力を強いられるし、なによりバイトの時間がなくなる。しかも目立つ。悪目立ちして、資金繰り……要は野良トレーナー狩りだけど、その辺が上手く回らなくなるのは困るんだ。
ふと手を差し出されて、わたしはなんの気もなしに握り返した。握手……なんだろうけど、顔を上げた先、カンナさんの眼鏡の奥から異様な「圧」を感じた。
怯んだところで気づいた――手が、離れない。なんかすごい力で握り込まれてて逃げられない。わたしは嫌な汗を滴らせる。
「えっと、あの、カンナさん? な、なんか近いっていうか……他になにか気になることでも……?」
「あなたが仲間にしたメタモン。ブルーベリー、だったかしら? 見事な『なみのり』だったわ、健闘を称えさせてちょうだい」
いきなりブルーベリーの話になった。ちょっと待って……なんかもう、イヤな予感しかしない。タスケテー、スズラン、ホオズキ……!
「ええ……そっ、そうですか? ドモです。なんか、気まぐれに出てきたようにしか見えなかったですけど」
「そうね……彼はね、セキチクシティ近くの草原である市民に発見されたの。妙にレベルとステータスが高い子で、早速捕まえようとしたそうなんだけど」
「あのぉ……か、カンナさん? なんの話、っていうか、そろそろ手、離してもらえたらなー、って……」
離れない離れない。ていうか、めちゃくちゃしっかり握られてて捕獲された感が凄まじい。カンナさんは笑っている。
「何人か、腕に覚えのあるトレーナーが挑んだそうなのよ。気持ちは分かるわ、『野生の六V個体』なんてそうそうお目にかかれないもの」
「あのッ、か、かん、カンナさぁーん……?」
「でも全員ダメだった。高速で逃げられるか、運良くバトルすることが叶っても六タテされるだけだったそうなの。バトル出来る条件も分からずじまいだし」
「カンナさん! カンナさぁーん!! あのっ、お話の最中悪いんですけどっ、おててちょっと痛いかなー……っす!!」
「住民や通行人には害がなかったそうだけど、噂を聞きつけた輩がうろつくのも悪いでしょう。だからわたしたちポケモンリーグが調査を始めたわけだけど」
「……」
「調査結果は芳しくなかった。第一に逃げられてしまうからね。そしてもう一つ。あのメタモンは相手を見てどう応じるか、考える知恵があった」
あ、これ話が終わるまで解放されないやつだ。ボスケテー、とか言ったらダメなやつ。なんだよぅ、もう……。
わたしは諦めて手の力を緩めた。そうしたら、ようやくカンナさんも握力を少しだけ……ほんのキモチ程度にだけ、緩めてくれた。ちょっとだけ痛みが引く。
「あのメタモンは各地のジムリーダーでも捕獲できなかった個体なのよ。あなたが捕まえたと聞いたとき、それはそれは驚いたわ」
「……いや……捕まえたっていうか、捕まえられた? ボール盗られた? っていうか……狙ったわけじゃなくて」
「どちらでもいいのよ。大事なのは、ブルーベリーがどれだけ貴重で珍しい個体かという事実だからね。今後、用心するに越したことはないわ。ヤヨイさん」
それってつまり、どういうことなんだろう? 顔に出ていたのか、カンナさんはようやくふっと柔らかい笑みを表情に滲ませた。
「世の中にはね、自然界に生きるポケモンを身勝手な理由で乱獲するやつや、他人のポケモンを強奪しようとするやつもいるのよ。全員凍らせてやりたいわ」
このとき、わたしはぞっと背筋を凍らせた。カンナさんは、わたしにブルーベリーを手持ちに加えることの危険性を訴えてるんだ。
つまりは警告だ。わたしはどうしてかブルーベリーに気に入られて(?)あの子を仲間にしたわけだけど、それを良しとしないやつもいるんだって……。
でも、正直そんなのくそ食らえだ。ブルーベリーの気分なんてあの子次第だし、他人の事情なんて知ったことじゃない。カンナさんの気持ちは有難いけど、ポケモンたちと一緒にいる、いないを選択できるのは、トレーナーであるわたしだけの権利だし……わたしは押し黙った。
「さて、難しい話はこれでおしまい。報酬の件だけど、前回と同じようにオンライン口座に振り込ませてもらうわね。あとで確認してちょうだい」
「あ……りょ、です。ありがとうございます」
「そんなに警戒しないでほしいわね。一応、念のためということよ」
たぶん、あの警告はカンナさんの独断と人の好さによるものだ。手を解放されてわたしはたたらを踏む。
カンナさんは、少しだけ、ちょっとだけ寂しそうな顔をして笑った。別に、わたしだってお世話になった人にそんな顔をさせたかったわけじゃない。えっと、とか、その、とか、言葉を探していると、カンナさんは胸ポケットから手帳を取り出して、手早く何事かを書き込んだ。
「渡しておくわ、わたし個人の番号よ。なにかあったら……なにもないのが一番だけど、気兼ねなく連絡してちょうだい」
「へっ、あ……待ってください、わたしの番号も転送しときます。今後もバイト、あるかもですしっ」
わたしがポケギアを立ち上げたとき、カンナさんは目を見開いて固まっていた。
番号を転送しようとして目を合わせた瞬間、彼女がつい声に出ちゃってた……ってな感じで、急に笑い出したのを見てぽかんとする。
「ふふふ……そう、そうね。またあなたに、アルバイトをお願いすることもあるかもしれないのよね」
「えっと……カンナさん?」
「そうね。『レッド』は捕まらないときがあるし、あなたほどの実力者がお手伝いをしてくれるなら助かるわ。今後ともよろしくね、ヤヨイさん」
もう一度、手を差し出される。わたしは今度は躊躇せず、きゅっと線の細い指を握り返した。
カンナさんは「こおり使いだ」って自称していたけど、彼女の手そのものは柔らかくて、あったかい。クールな印象なんて当てになんないなぁ、なんて思う。
それぞれの番号を控えあったわたしたちは、別の機会にまた再会することを約束しあって静かに別れた。
ビックリする話だけど、この日のバイト代は十万円なんかじゃ済まなくて……しばらくは励まなくてもいいかもなぁ、なんてわたしは呑気に構えたんだった。
サイト掲載日:2026/09/02