エリア99+1 〜最凶メタモンと最弱メタモン〜   作:77493

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引き続きトキワシティにて。
ぽこポケ時間軸へ向けて動き出しました。今後自然災害描写が増えてきますので、苦手な方、刺激を受けやすいという方は十分に御注意願います。
今話の視点は弥生のみ。



7話:灯台下暗しとかいうけれど

 

 

日曜日、爽やかな朝、きもちいー! ……そう思えていたのは最初だけだった。

カンナさんとの勝負を終えて口座への振込金額が二とゼロ五個という大台に乗ってることを確認したわたしは、興奮を抑えきれずにトキワシティに宿泊した。たまの贅沢も許されるでしょ! 両親には一報を入れたし――パパは泣きながらジムリーダーに怨嗟を向けてたけど――ゆっくり過ごせたなーって思う。

リフレッシュしたわたしは、メンテナンスだか清掃だかで未だ再開されてないトキワジムを朝一番にスルーして、周囲のカフェ巡りに移行する。

トキワ新名物、抹茶スイーツ回廊! トキワジムを起点にした複数のカフェや商店巡りのことなんだけど、最近ではわたしの故郷でも話題になるほどだった。

っていうか、実際にどれもおいしー! わたしは抹茶のお菓子って美味しくないやつは苦手なんだけど、この街のはどれも当たりだ。パッケージは可愛いし、お値段も良心的、味も絶品。重ねた層や小豆との色合いも綺麗だし、言うことなかった。

行き交う人の話を聞いてると、プレゼンだか考案だかにジムリーダーが関わっているらしい。けどまあ、ジムテストが受けられないなら縁のない人だしね。

 

「うーん。やっぱり、一番美味しかったのはトキワジムすぐ近くのお店だなぁ。ジム監修ってすごいんだねー」

『……!』

 

どーしてか。なんでなのか全く分かんないけど、今日は朝からブルーベリーがボールから出てきていた。

当たり前のようにスイーツを要求されて、仕方なくトールサイズのクリームマシマシ抹茶ラテを与えておく。この子、食欲すごすぎるでしょ……。

 

「って、あれぇー? あははは! 口の周り、すごいことになってるよ!」

 

とはいえ、ブルーベリーはポケモンだから……人間みたいに綺麗にスイーツを楽しめるワケもなく、いつの間にか口の周りがクリームだらけになっていた。

自分でなんとかしようとしていたけど、何回やっても上手く拭き取れなかったから、ハンカチを出して拭き取っておく。ついでにベタベタの顔も撮っておいた。不服だったのかフンッて鼻を鳴らされたけど、そのあと胸を張ってたから拭いて良かったんだと思う。

相変わらず小賢しいなぁ。反応が可愛かったから頭に手を乗せてドリブルみたいに連打してみたら、気持ちいい弾力が返ってくるからしばらく続けておいた。抵抗しないあたり、連打したり撫でたりするのはブルーベリー的には問題ないみたい。

可愛いじゃん、って思ったから多めにぽむぽむしておく。

 

「あれっ? ……一周しちゃったかー。あとはジム内のカフェしか残ってないみたいだけど」

 

店の雰囲気やお客さんが並んでるかどうかで立ち寄る場所を厳選してたら、いつの間にかスイーツ回廊を回り終わっていた。ちらっとブルーベリーを見下ろしてみたら、『まだ自分イケます!』みたいな感じで鼻を鳴らされる。これは行かないとダメっぽいかも。

それでわたしたちは最後のカフェに向かったんだけど、ここでブルーベリーのやつは暴挙に出た。

 

「……ん? なに、まだ食べたいの?」

『……!!』

「えぇー? そのバッジ偽物だよ? 本物のグリーンバッジじゃないからね。こんな所でもらえるわけないでしょ?」

 

店に着くや否や、ブルーベリーはガラスケースに釘付けになった。よく分かんないけど、グリーンバッジモチーフのチョコプレートに異様に食いついている。何度も高速でプレートを指差して――その伸ばしたやつが指なのか腕なのかは分からないけど、『コレ欲しい今すぐ欲しい!』なんて主張してる。

器用なことするなぁと思ったけど、チョコはチョコでしかないからわたしは彼のアピールを若干スルーした。そういえば、最初のお店の抹茶ラテのプレートにも反応してたっけ――そうしてぼーっとしてたわたしは、あの子の興奮ぶりに気づけなかったんだ。

ビタン!! そんな音がした。はっとして振り向いたときには、ブルーベリーはレジ横のショーウインドーにべったり貼りついている。

 

「ちょ、何してっ……ちょっとぉ! やめ……はッ、はず、恥ずかしいってば!!」

 

一気に顔に熱が上った。すごい、すごい注目されてる。かわいーなんて言ってくれる人もいたけど、そんなの今は全然嬉しくない!!

めちゃくちゃ目立ってる、めちゃくちゃ人が集まってる……「なんかの撮影?」、「メタモンキャンペーン?」なんて言われてるけど、そんなんじゃないよ!

わたしはブルーベリーを剥がそうとした。けど、あいつは一切合切ガラスから離れてくれない。どこか意地になってる感もある。

 

「……!! わっ、分か、分かったぁー! 買う、買うから!! 買うからだからっ、離れてぇえええー!!」

 

なりふり構わず絶叫。それを聞いた途端、『言質はとった』とばかりにブルーベリーは満足げにペロンと剥がれてくれた。

こ、こいつ……こやつ……! まさかの確信犯でござったか……!!

 

「うひぇ……こんな金額、スイーツのお会計で見たことないよ……抹茶ティラミスなんか大っきいのに二個買わされるし……」

 

ブルーベリーの要求はしつこかった。ここからここまで、なんてわたしでもやったことないふざけたことをやってくれるし、ティラミスは二個以下略。

やっぱりグリーンバッジチョコが気になって仕方ないらしくて、ジムを出てすぐ近くに置かれたベンチに座った瞬間、ティラミスのプレートを取り外してた。

目……めっちゃ輝いてる……。なに? そんなにグリーンバッジが気に入ったの? 言っとくけどバッジを持てるのトレーナーだけだからね? けど、そんな野暮なわたしの心のツッコミには気づかないままブルーベリーは空にプレートをかざして口角を上げている。

そんなに好きならバッジを取りに行くのも一応考えておこうかな――そうして可愛い挙動を傍観していたわたしは、はっとして彼の手を取った。

 

「うわっ、ブルーベリー!? これチョコプレートだから……もー。ほら、溶けちゃってるよー」

 

あの子の手は、チョコプレートのせいでチョコレートまみれになっていた。あーあ、高級チョコらしいのにもったいない。

最初『?』って首を傾げていたブルーベリーは、自分の手の惨状にはたと気づいた。そのままナチュラルに残ったプレートを食べて、片方の空いた手は――

 

「……、……はあっ!? ちょっと、わたしで拭かないでよー!!」

 

――無遠慮かつ不躾に、わたしのスカートに汚れを塗ったくりなさる。一瞬で服がチョコ塗れにされてしまった。気に入ってたやつなのに……わたしは涙目になりながら指でこすってみるけど、逆にチョコがびろーんと広がって思わず「うぐぅっ」と苦鳴を漏らしていた。

ブルーベリーはというと、わたしを無視してティラミスをバカ食いしている。ちょっと、それ四人前なんすけど? 買ったのわたしなんすけど?

さすがにちょっと「手ぇ出るよ」しとくか……そうして拳を構えた瞬間、目の前が急に暗くなった。

 

「――よお、大丈夫か? 使えよ」

 

いつの間にか、ベンチの前に人が立っている。逆光で顔がよく見えない。

差し出されたのはハンカチだった。わざわざ水で濡らしてきたみたいで、わたしはビックリしつつも有難く厚意にあやかることにする。

 

「どっ、どうも……って、うわっ、ごめんなさい! 結構汚しちゃったみたい……」

「いいっていいって。チョコレートなんてそんなもんだろ」

 

汚れはそこそこ落ちたけど、相手のハンカチはなんかすごい色になってしまった。

ここでわたしは、例のチョコプレートは表面だけが抹茶でコーティングされたホワイトチョコ製だったことを知る。すごいこだわりだなぁ、なんて思わず声に出していたら、ハンカチを受け取ったその人が、ふと小さく笑い声を漏らしたのに気がついた。

 

「そーだろ。もっと褒めてくれたっていいんだぜ」

 

……、な、なんか、すごい偉そうなことを言われた気がしたんだけど聞き間違いかな?

ちらと見上げた先で、相手が男性であること、セリフまんまに自信ありげに口角を上げているのが分かった。

せめてお礼を、なんてまごついていたわたしは、相手にトントンと指で膝上のケースを突っつかれて反射的に顔を上げる。

 

「いいのか? このスイーツの山、きみが買ったやつなんだろ。そいつ一匹で食べきりそうな勢いだぞ」

「はぇ……えっ、あれっ? ブルーベリー!? ちょちょちょ、ちょっとぉ! なに全部食べる感じになってるの、わたしにものーこーしーてーよ!!」

 

ぐぎぃ、なんて唸りながらマフィアのボスカッコカリのほっぺを引っ張る。ブルーベリーは、ニヤニヤといつも以上にわざとらしく口角を上げて嘲笑した。

こ、こいつ……こやつ……絶対わざとだし最初っからスイーツ独占するつもりだったな? ゆ、許せん……ッ!

わたしとブルーベリーの攻防を、ハンカチを貸してくれたイケメンさんカッコカリは微笑ましいものを見る目で見下ろしていた。

なんでそんなまじまじと見られてるのか分からなかったけど、なんとか抹茶クッキー一袋分を奪還したわたしは戦利品を食べることに専念する。

 

「ン! おいしーっ! このクッキーは当たりだなぁ、他のとこより全然美味しい!」

「それはよかった。『あいつら』にも好評だったやつだからな、ハズレなんて言われたらガッカリしちまうところだぜ」

「……? あの、ハンカチのことは有難かったんですけどなにか用事ですか? っていうかおにーさん、どこかで会ったことありましたっけ」

 

相手は、思わずって感じで小さく噴き出した。わたしはワケが分からなくて、クッキーを取り返そうとそーっと指を伸ばしてきたブルーベリーを弾いてやる。

不服そうに腕を振り回して何事か訴えてるけど、ぶすくれた顔がそれなりに可愛かったから、一枚だけクッキーを口に突っ込んでおいた。

 

「……きみ、グリーンバッジを取りに来たんだろ? そのうちジムも再開するらしいけど、ジムテストを受ける気はあるのか?」

 

一瞬、言われたことが分からなかった。

どうしてこの人、わたしがトキワシティに来た理由を知ってるんだろう? ちょっと考えてみたけど背格好にも声にも覚えがないし、首を傾げるしかない。

 

「いやぁ……急ぎじゃないんで。いつ再開するか分かんないなら、焦んなくてもいいかなーって」

 

だからわたしは、バカ正直にそう答えていた。今度は相手の方が目を丸くして固まっている。

 

「それは……確かにいつテストを受けるかはきみ次第だろうけどさ。ここに来たならバッジが欲しいってことじゃないのか?」

『……! ……!!』

「はいはい、うるさいよー持っててもあげないよーダメですよーブルーベリー。うーん、でもほんとに急ぎじゃないんで。無理しなくてもいいかなぁ、って」

「他は集め終わっているんだろ。わざわざ寄ったのに、再訪するつもりなら二度手間にならないか?」

「ソーナンス、けど……スイーツ買って、おこづかい無くなっちゃったんですよー。なので今日はモチベなくなりました。もーやる気出ないっす」

 

なんか、いかにもテスト受けに行った方がいいんじゃないですかーって流れだなぁ。もしかしてこの人、ポケモンリーグの関係者だったりするのかな? カンナさんみたいに……彼女からなにか聞かされてる、とか? それならこんなにしつこいのも分かるけど。

でも、わたしはジム巡りもポケモン育成の旅も自分のペースでやるってずっと前から決めていたから。どれだけ推されても、曲げるつもりはないんだよねー。

ふと陽光が和らいで、イケメンさんの顔が見えるようになった。今気づいたけどめちゃくちゃ整った顔をしてる。しかも気遣いまでできるっていうんだから、イケメンってやっぱ正義なんだよなぁ……わたしはそんな感じで、呑気に呆けていた。

 

「――そうか。マジで急ぎじゃないんだな」

 

イケメンさんの声が低くなった……気がした。え、って聞き返そうとした瞬間、彼が何か続けようと口を開いた、その刹那。

 

「……え、う、わあっ!?」

 

トキワシティを、地震が襲った。

まともに座ってられなくてベンチから転がり落ちたわたしは、目の前がまた暗くなって身を竦ませる。

抹茶ラテが、音を立てて目と鼻の先に落ちてきた。甘くて気分転換にピッタリだったのに、手が込んでるやつなのに、あっけなく地面に落ちてシミを作る。

悲鳴、震動、落下音。こわい……自覚しちゃったけど凄くこわい。なんにも出来ずに、わたしはその場にうずくまることしかできなかった。

 

「――い、おい! 大丈夫か?」

「え……あれ……?」

 

どれくらい時間が経ったのか分からない。けど、しばらくしたら揺れは収まった。

おっかなびっくりに目を動かしていたら、ふと声をかけられる。見上げた先で、さっきの人がわたしを見下ろしているのが見えた。

 

「こ、腰が……抜けちゃっ……あ、ブルーベリーは」

「心配すんな、ブルーベリーならそこにいる。にしても、酷ぇ揺れだったな。立てそうか」

 

よく見たら、イケメンさんは片腕でわたしを落下物からガードしながら周囲を警戒してくれていた。イケメンって何やらせてもイケメンなんだなぁ……。

わたしは差し出された手を取ってなんとか立ち上がった。見渡してみたけど、トキワシティはさっきの地震で惨状と混乱に陥っている。

一気に顔から血の気が引いた。なにこれ、さっきまでなんでもなかったじゃん……ぐっと手を握りしめてると、不意に頭上から甲高い音が響いて肩が跳ねる。

 

「……ギィーッ!!」

「え……あれっ、ポケモン? いつの間に」

 

いつからそこにいたんだろう? 視線の先、ちょうどベンチの真上あたりに見覚えのないポケモンが浮いている。

くすんだ紫色の、大きな翼を持ったポケモンだった。その子は、なにかを訴えるみたいに翼を打ち鳴らしてもう一度甲高く鳴いてみせる。

 

「悪い。助かったぜ、プテラ。サンキューな」

「ギィイイイー!!」

「へっ、あ、……この子、おにーさんのポケモンなんですか?」

「ああ、かせきポケモンのプテラだ。『いわなだれ』で咄嗟に瓦礫は避けといたが……よかった、おまえも怪我はしてねーみたいだな」

 

口調が崩れてる、どうやらこっちが素みたい。

怪我の有無を聞かれて、わたしは頷き返した。「いわなだれ」? わざを使って、あの一瞬で落下物を弾いたってこと? そんなこと……出来るものなの?

ここでわたしは、隣のブルーベリーがシュッシュと忙しなくシャドーボクシングをしているのに気がついた。なにそれ……『そんなことしてくれなくても平気でしたけど!?』感が凄まじいんだけど。なんか恥ずかしくなって、わたしはちっさい声でお礼を口にする。

 

「ふ……はッは! おまえのメタモン、マジで変わってるな。よかったじゃねえか、無事で」

「う、うぅ……すんません、生意気で小賢しくて食欲魔神で」

「いや、怪我がねーならなによりさ。それで、おまえ一人で帰れそうか? タクシー乗り場は混んでると思うけど」

 

振り向いた先、確かに街全体が人の流れで大変なことになってる。でも、空飛ぶタクシーが使えるだけでも有難い話だ。わたしは小さく頷いた。

 

「そっか。もし乗りそびれたら、この番号にかけてみな。優先してもらえるハズだぜ」

 

おにーさんはそう言って、手帳に走り書きするとわたしに托してくれた。たぶん、リーグの優先権とかそんなだと思うんだけど。

 

「あ、大丈夫っす。でも、ありがとうございます」

「おう、気をつけて帰れよ。オレは向こうに行かなきゃいけねーからな」

 

そう言って、おにーさんは腰から全てのボールを一斉に解放した。出てきたのはみずポケモンのカメックスを筆頭に、フーディン、ウインディ、ピジョットと……どれも最終進化を終えたベテランの顔触れだ。

わたしは思わずさっきのプテラと彼らを見比べて、目を瞬かせた。

 

「じゃあな! バイビー!!」

「はっ? ば、バイビー? ……ファンサ的な? あっ、ちょっと、おにーさん!」

 

止める間もない。イケメンさんは敬礼っぽいハンドサインをキメて行ってしまった。なんだったんだろ今の、トキワで流行ってるのかな?

つられて「バイビー!」の真似をしてみるけど、なんとなく決まらない。あのおにーさん――もしや残念なイケメンなのでは? いや……そんなことは……!

そうこうしているうち、おにーさんは街の中心に着くとすぐにポケモンに指示を出していく。さっきの気さくさが嘘みたいな切り替えの早さだ。

真っ先にエスパータイプのフーディンの姿が消えて、カメックスが鎮火活動を開始。その間おにーさんはカイリキー、ウインディと瓦礫の山へ向かっていく。

なんか手慣れてるし女性と子供優先で救助してるし、イイ仕事しかしていない。イケメンは何やらせてもイケメンなんだぁ、なんて改めて思った。

 

「……あ、そうだね。帰らないと。ここにいても邪魔になっちゃうし、危ないもんね」

 

腰を突っつかれる感覚に視線を落とした。いつもの間の抜けた顔で、ブルーベリーがこっちを見ている。なんか得意げにしてるけど、きみ、救助活動の心得とかないでしょーに。とりあえずさっきみたいにドリブルしてやってからゴージャスボールに呼び戻した。

……余震もあるかもしれないし自分の家だって気がかりだ。わたしはおにーさんからもらったメモ片手に、タクシー乗り場へ急いだ。

 

 





サイト掲載日:2026/09/07

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