エリア99+1 〜最凶メタモンと最弱メタモン〜 作:77493
「や、ヤヨイさん! その……」
点呼を終えて、「今日は全員自宅待機ということで……」なんてあっさり決まった頃。わたしとヨッちゃんのところに、例のキザい生徒会長が寄ってきた。
さっきの騒動の一部始終を見ていたヨッちゃんが、わたしを庇うように前に立つ。うっそーわたし愛されてなーい?
んふふ、なんて頬を緩めていたら照れ隠しなのか手刀が降ってきた。世の中理不尽すぎる。更にプテラもといブルーベリーがニヤァ、って笑ってる気がした。やっぱ世の中理不尽だわ。とりあえずペラペラに見える割に頑丈な翼をペチペチしておく。化石……これがかせきポケモンかぁ……。
「なんの用ですか、会長? あのままあそこにいたら、ヤヨイやわたしたちは……」
「その謝罪をしたかったのだよ! 危ないところだったね、ヤヨイさん。それに生徒の避難を自主的にしてくれるとは、キミは学生の鑑だ! ありがとう」
「……はぁ。そっすか」
こいつヨッちゃんの存在は見えてないわけ?
なんかイラッとしたわたしは、軽い返事をしてからブルーベリーの顎のあたりを撫で撫でした。ブルーベリーはなんとなくわたしの言いたいことを察したらしくて、その場で大きく羽ばたいて宙に浮く。
背中に乗せる、じゃなく両脚で掴むって斬新なスタイルが気になるとこだけど、それがプテラの生態なら仕方ない。わたしは彼にぶら下がって地表を離れた。
「わっ、ヤヨイ! あんた、『そらをとぶ』で帰る気なの!?」
「うん、そーみたいー。ヨッちゃん、また明日ね」
「なっ、ちょっ、ちょっと待ちたまえ、ヤヨイさん! ボクの話はまだ……!」
皆まで聞く気ないんだよなぁー。わたしはヨッちゃんにだけ手を振り返して、そのまま空中に連れられていった。
なんか、他の生徒や先生方もワーワー言ってるっぽいけど構うもんか。頑張ってくれたポケモンを労れない連中と交わす話なんてないもんね。ばーかばーか。
『……!!』
「んー? 大丈夫だよ、ブルーベリー。あんなの相手にしてたら、イラッとするだけだもん」
『同意!!』って感じで鼻息を噴かれる。ちょっとぉ、勢い強すぎてわたしの顔にまで風圧届くんですけど。でも、気分は少しだけ晴れた。
そのままマンションに帰ろうとしたけど、ここでわたしはポケギアが鳴っているのに気がついた。テキトーな建物の屋上に降ろしてもらって番号を確認する。見覚えのある数列だ、更に登録名にも覚えがある。わたしはすぐに画面を立ち上げた。
「もしもしー。ドモです、ヤヨイです。『新しいバイト』っすか? カンナさん」
画面の向こうで、涼しげな表情の大人のおねーさんが苦笑いしている。発信者は四天王のカンナさんだった。
『こんにちは、ヤヨイさん。元気にしていたかしら。バイトの話が出たってことは元気でいてくれているんでしょうけど』
「やー、んふふ。元気ですよー? モチロンです。それで、今日はどうかしたんです?」
『いい返事、という風には聞こえないわね。気のせいかしら? いつものあなたならもっと食い気味にくるでしょう、仕事の話なら特に』
わたしはカンナさんの電話越しの観察眼にうぐぅ、と思わず唸った。さすが四天王……いや四天王関係ないか、これ。
どう返そうか考えていると、画面の向こうで知的な表情が小さく笑った。
『わたしも今、ちょっとした仕事でセキエイの外に出ているの。ヤヨイさんさえよかったら、お茶でもどうかしら?』
少しつきあって欲しいところもあるしね、なんて言いながらシゴデキ四天王が小綺麗に微笑む。
アルバイトの有無も確認したいし……そう思ったわたしは、二つ返事で指定された場所に向かうことにした。
ちょっとした、気分転換にもなるかもしれない。ここ最近は、余震が心配だから、って理由でパパたちに学校と家の往復しかさせてもらえなかったから。心配してくれる二人の気持ちも分かるし、本当なら有難いことなんだけどね……。
「――ああ、こっちよ。ヤヨイさん」
合流地点として挙げられたのはヤマブキシティのすぐ南、港町のクチバシティだった。逆に、カンナさんの職場であるセキエイ高原からは少し距離がある。
街の外で降ろしてもらったわたしは、歩きがてらゴージャスボールをコツコツしてみたけど、案の定ブルーベリーはボールに戻ろうとしなかった。時折披露するミニヤヨイのすがたにへんしんして、あのあざと可愛いメタモンはトコトコ歩いてわたしより先にカンナさんと落ち合う。
頭撫でられてるけど、会う約束してるのわたしなんだよね……なんか悦っぽい顔してるし、別にいいんだけどさぁ……。
「二週間ぶりくらいかしら? 悪いわね、忙しなくて」
「あぁいえ、大丈夫っす! っていうか、ブルーベリー? 仕事の話するからちょっとボールに……」
『……!!』
「あぁそう。入る気ないわけね」
「あははっ! 相変わらずね、あなたたちも。元気そうで安心したわ。とにかく……無事でよかった。リーグの人間として、力になれなくて申し訳ないわ」
なんでカンナさんが謝るんすか、そう言いかけて言葉を呑み込む。
ママが言ってたけど大人には大人の事情っていうものがあって、理不尽なことでも「こらえる」をしなきゃいけないときがあるって。
だからわたしは、そんな大人たちに守ってもらってる立場として高速で頭を左右に振る。カンナさんは最初固まっていたけど、すぐに笑みをこぼしてくれた。
「こんなところで立ち話というのもね。お茶にしましょうか」
「あっ、わ、わたしは先に用事の方からでも!」
「呼び出したのはこっちよ。学生は素直に、おねーさんに奢られておきなさい」
……女神かな?
わざわざ視線の高さを合わせて、その上で鼻を突っつかれて、わたしはこのパーフェクトヒューマンに逆らえない。
ブルーベリーまで誘ってもらって近くのカフェに雪崩れ込む。開けたテラス席とログハウス風のデザインが可愛らしい、ライチュウ看板が目印のお店だった。
一冊しかないメニュー表にざっと目を通したカンナさんは、すぐにわたしに回してくれた。ちょっと悩んでアイスティーを注文する。なんかごちゃごちゃうるさかったから、ブルーベリーにはブルーベリーアイスを押しつけることにした。また顔面ベタベタにしちゃえばいーんだ、んふふ!
「それで、えーっと。カンナさんはクチバシティでどんなお仕事を? ポケモンリーグって忙しいんじゃないんです?」
「そうね……あなたになら話しても、問題ないと思うけど」
なんかブルーベリーアイスは二個注文されていた。カンナさんの奢りらしくて、押しつけられるまま口に運ぶ。うん、つめたくてあまくて、うんまー。
「ここ最近の自然災害の弊害なのか、ポケモンを使った暴動が起きていてね。リーグとしては恥になる話だけど、その制あ……片付けを少し、ね」
いま制圧とか言わなかった? とりあえず黙ってアイスをぱくつく。ブルーベリーは両腕を掲げてプルつかせていた。
カンナさんはアイスティーにレモンを搾り入れて攪拌させながら目を細めた。なんか、視線の先はグラスの底を見ているようなのに見ていない感じがする。
アイスティーを一口含んだ直後、グラスが置かれると同時に赤瞳が遠くに投げられて、わたしはつられるように顔を上げた。
「――ラプラス」
「え? カンナさん……?」
彼女の声が聞こえた瞬間には、テラス席に面した海にあの水色のポケモンが浮いている。穏やかな海面を蹴るようにして、カンナさんのラプラスは直進した。
トレーナーの指示も待たず、海に浮上したまま口が開かれた。口腔に水の属性エネルギーが一気に充填されて、即射出される。
「はいぃ!? あれって、確か『みずのはどう』なんじゃ……」
「……野暮な連中ね。ゆっくりお茶も飲めやしない」
カンナさんはすぐ立ち上がった。心配して駆け寄ってきた店員さんに手を挙げて謝罪して、テラス席からラプラスの背に跳び移る。
わたしは慌ててブルーベリーを急かしたけど、アイスに夢中になってるこの小賢しいメタモンは『はい、なんか用スか?』って感じで首を傾げるだけだった。
くっ、くそっ、小賢しい!! だがそこがいい……! わたしも大概だなぁ!!
「カンナさん! ちょ、ちょっと待ってぇえ!?」
一旦カフェを飛び出して、石造りの淡黄色の道路を蹴って西に向かう。この際ブルーベリーは放置しておくことにした。多分、あとからついてくるだろうし。
わたしはボールホルダーから自分のラプラスを呼び出した。察してくれたのか、海に向かってジャンプしたわたしをすぐ背中に拾ってくれる。
「――そこ! 二度目はないと、言ったはずよ!」
わたしが道路と道路の間、路地水路から上がった頃には、カンナさんはとある民家の前でラプラスともども戦闘態勢に入っていた。彼女の視線の先、民家の先に建つフレンドリィショップの近くで、いかにもな怪しい二人連れがまごついている。
手持ち鞄やリュックの中に、溢れんばかりのポケモングッズやぬいぐるみが詰め込まれていた。何事、なんてわたしが聞くより早くカンナさんの手が閃いた。二回目の「みずのはどう」だ。ただレベル差やガチ勝負じゃないことが関係してるのか、かなり威力を落としてあるように見える。
案の定、二人組は盛大に水流を受けて吹っ飛ばされていった。わたしが「おぉーっ」って感嘆してる横で、カンナさんはラプラスを労りながら苦笑している。
「すごーい、わざ構成変えたんですか? っていうかあの人たち、なんかコソ泥っぽい格好のような」
「見ての通りよ。片付け、と言ったでしょう?」
「へぁ? じゃ、じゃああの人たち見たまんまのドロボーってことですか!? うわぁ、信じらんないっ!」
抵抗する元気はないっぽいけど、逃げられないようにとりあえずバッグの類は先に没収させてもらった。ついでにやっと追いついてきたブルーベリーに頼んで頭を取り押さえてもらう。見た目はそうでもないけどあの子レベル高いし、うん、なんとかなるでしょ。
カンナさんとバッグの中身を改めてみたら、バトルグッズや未使用のモンボ、ポケモンのぬいぐるみなんかがわんさと見つかった。
なんでも、地震がたまに起きるようになってから、こうやってフレンドリィショップやポケセンあたりで盗みを働く人が増え始めているんだって。
「転売ヤーってやつっすか? うわぁ、いい歳した大人が情けなーい」
『……? ……!!』
「はいはい、千切んなくていいよーもぎらなくていいよーブルーベリー。カンナさん、この人たちどうするんです?」
「順応が早いわね。さすがブルーベリーのトレーナーといったところかしら? そうね、このまま警察に引き渡しましょう。わたしの仕事はここまでだから」
男の人たちはカンナさんからモンボを没収されて、駆けつけた警察の人に連れられて行った。ちゃんと更生しなはれよー、とは言わずにおく。
「彼らが盗みに入るは、これで二度目なの。一度目は別のリーグ関係者がみっちり絞ってくれたそうなんだけど、どうやら彼は詰めが甘かったみたいね」
「彼? えーと……もしかしてトキワジムの人ですか? カンナさん、知り合いなんですよね?」
「よく知っているわね? でもそっちじゃないわ、わたしが言っているのは同僚の方よ。妙なところで甘さが出るんだから」
言うが早いか、カンナさんはポケギアとは別の端末を取り出してどこかに電話をかけ始めた。
最新式のスマホだ、さすがカンナさんって感じ。わたしも欲しいんだけど、本体価格とか料金とかが大変そうだから見送ったんだよねー。生産量も落ちてるって噂だし……。
「こちら、カンナよ。そっちの首尾はどうかしら」
『……、……』
「ええ、もちろん。今は例のメタモンのトレーナーと一緒にいるわ。他は見当たらないから、今日はここで調査を切るつもり」
『……? ……!』
「心配しなくても、わたしはあなたのようにいきなり『はかいこうせん』を撃たせたりしないわ。報告は追ってする、とキクコさんに伝えてもらえるかしら」
なんか……いいのかな? スマホの向こうで、ちょっと若さが混じった感じの渋いイケメン声がなんか喚いてるんだけど。
でもカンナさんは容赦なく通話を切った。途中、どうしてかわたしのことも報告されたような気もするけど……笑顔を見てたらなにも言えなくなっちゃった。
「ごめんなさいね、ヤヨイさん。せっかくのアイスだったのに、今頃きっと溶けているわ」
「へぁ? そっちっすか!? いやぁー……多分、ブルーベリーが全部食べてきちゃったと思いますよ。だからもー、いいんです」
そこまで聞いてやっとカンナさんは笑った。わたしは、八つ当たりされた同僚さんカワイソス、なんてことをぼんやりと思う。
「仕方ないわね。この品物を返すついでに、わたしの私用につきあってもらえるかしら? 用があるのはフレンドリィショップなのよ」
フレンドリィショップ。名前の通り、トレーナーが使う道具類やポケモングッズが揃えられた公式ショップだ。カントー以外の地方だと、ポケセンに併設されてることもあるらしい。
カンナさんみたいな四天王とかでも使うことってあるんだぁ、なんて思ってたら、眼鏡の奥で赤い瞳がうろたえ始めた。
ちょっとだけ、顔が赤くなってるようにも見える。ブルーベリーがわたしの横で意味深にニヤァ……って笑い始めたから、とりあえず頭を連打しておいた。
「欲しいものがあるんだけど……四天王ともなると直接店に行くと目立つのよ。今なら騒動もあったことだし、人目も少ないと思うから」
「ソーナノ? カンナさんがいいなら、わたしは別に大丈夫ですけど」
「ソーナンス、って……ありがとう。じゃあ、四の五の言わないで早速行きましょうか」
わたしたちはコソ泥が残していったカバンを抱えて、青いモンスターボールの看板が目印のお店に入っていった。
心なしかカンナさんが浮き足立っているように見えて……この日、わたしは初めて彼女のプライベートな秘密をひとつ、知ることになる。
サイト掲載日:2026/09/14