神聖国家ケイジュダリア。世界で最も発展しているといわれる国。二十年程前はそれほど大きな国ではなかったがある日を境に急激に成長を果たした。農業、鍛冶、魔法。全てが発展し続けている。ケイジュダリアから輸出される武器や防具、農作物などは今では世界になくてはならないものであり、今では世界で最も重要な国となっている。
ケイジュダリアの中央にあるイベリス城。そこには多くの騎士が常駐し、日々城の訓練所で鍛練を積んでいる。その訓練所を眺める一人の男がいる。その男は他の騎士と違い、鎧で身を纏っておらず、一本の剣だけを腰に携えている。男は訓練所で鍛練をしている騎士達を物陰に隠れながら見ている。
するとその内の一人がその視線に気付き男のいる物陰に近寄る。男もそれに驚いたりせず、その場で待つ。すると近寄ってきた騎士が話しかける。
「サフラ先輩? なにやってるんですか? こんなところで訓練所を覗いて」
綺麗な銀色の髪を後ろで束ね、胸当て以外鎧を纏っていない少女が男に問いかける。少女に対してサフラと呼ばれた男は話す。
「いや……ここで見てたらラニなら気付いてこっちにくるかもと思ったから」
「……何ですか急に?」
急な信頼にラニと呼ばれた少女は気恥ずかしさよりも、なぜという疑問が浮かぶ。続けてサフラは告げる。
「少しの間ケイジュダリアを離れる事になったから、ラニには挨拶をしとこうと思ってここで見てた」
「ケイジュダリアを? 一人でですか?」
ケイジュダリアの騎士団はその強さから他国からのモンスターの討伐を要請されることがある。しかし、サフラはそうじゃないと口にする。
「いや、今回は俺の個人的なものだ。少しばかりケイジュダリア以外の国を回ろうと思ってる。それと少しの間とは言ったがいつ頃帰るかも決めてないから伝えに来た」
「そうなんですね……ならみんなに伝えて見送りますよ?」
そう言うとサフラは少し顔を下に向けるが、すぐに顔をあげる。
「その気持ちは嬉しいんだが、できればみんなには伝えないでほしい。隠れてたのもラニ以外に伝える気がなかったからだ」
「……私以外誰も知らないんですか?」
「そうだ。ほんとは誰にも伝えず行こうと思ってたが、ラニに伝えないのはよくないと思ったからここに隠れて待ってた」
サフラはラニに文句を言われると思った。急にケイジュダリアを離れる事になることに、そしてその事を伝えなかった事に、ひとつやふたつ文句が出ると思っていた。しかし、サフラの予想に反してラニは下を向いて何かぶつぶつ呟いていた。
「へぇ……私以外には伝えてないんだ……へぇ……そうなんだぁ……」
「どうした? ラニ?」
「いえ? 何もないですよ?」
再び顔をあげたときには顔を下げる前と同じ顔であった。サフラは何か変なことを言ってしまったのかと考えるが、時間がないため、気にしないことにした。
「あと、これ」
「何ですか? ………………これって……!」
サフラがラニに向けて懐から物を取り出す。それは氷の結晶の意匠が彫られたペンダントであった。それを見てラニは目を見開く。
「この前一緒に行った仕事先で買っといた」
「いや買っといたって……これ一個あるだけで一級品の剣何本も買えますよ!? なんで買ってるんですか!? お洒落とかしない人でしょ!?」
「いや間違ってはないが中々に酷いこと言うな……あの時俺が話しかけるまでずっとこれ見てたから欲しいのかなって。だから買った」
「だから買ったって……!? 受け取れませんよこんな高価な物! 大体これからケイジュダリア出るなら持っておいた方がいいですよ!」
こんな高価な物は受け取れないとラニは受け取りを拒否する。しかし、サフラはラニの手を掴み手のひらにのせる。
「持っとくべきも何もこれはお前に買ったもんだ、本当ならお前の誕生日かなんかに渡そうと思ってたが、渡せそうにないから今しかないと思ってな」
「私のためにですか……」
「そうだ。でも本当にいらないなら無理には渡さないが」
「私の、ために……」
手に置かれたペンダントをラニは見つめる。下を向いて一言呟くと、そのペンダントを握りしめ、サフラに向けてその握りこんだペンダントをつき出す。
「……そうか。まぁ無理に受け取らせるわけにはいかないしな。わかったそれは「…………ください」…………?」
ラニが言葉を絞り出すがサフラには聞こえておらず、サフラは聞き返す。
「ラニ、もう一回言ってくれ」
「だから……て……ください」
「ラニ、顔をさげていると声が届かない。顔をあげてくれ」
するとラニはしばらく固まり、そして意を決して顔をあげる。そこには。
「だから……かけて、ください。サフラ先輩」
そこには顔を真っ赤に染めたラニの顔があった。サフラは数秒固まり、しかし状況を理解した。するとラニに近づき、その手にあるペンダントを受け取り、その首にかけた。するとラニは一歩下がり、サフラに問う。
「どう、ですか?」
震えた声で確認するラニ。その問いにサフラは。
「……よく似合ってる。お前以上に似合うやつはいないと思う」
それを聞いてラニは嬉しそうに顔を綻ばせた。サフラも受け取ってもらえないと思っていたため、ホッと息をついた。するとラニは再びサフラに近づき、サフラを見上げながら言う。
「ありがとうございます、このペンダントは一生大事にします」
その言葉を聞き、サフラも今まで買えなかった表情を変え、その口角が上がる。そんな彼にラニは言葉をかける。
「サフラ先輩も、楽しんできてください。先輩が帰ってくるまでに私もっと剣術を磨きます。次戦うときは先輩には一勝もさせませんからね?」
それは宣言であった。サフラが帰ってくるまで待っていると。もっともっと強くなり、驚かせて見せると、そしてなにより、ラ二からの祝福の言葉であった。その言葉を聞きサフラは、その上がっていた口角を一瞬戻すが、すぐにまた口角を上げる。
「……楽しんでくるよ。俺だって剣術をサボるつもりはない。次戦う時だって俺が勝つけど」
「……では次に戦った時、勝った方が負けた方に何でも言うことを聞かせれる、というのはどうですか?」
「いいぞ、勝つのは俺だからな」
「ふふっ、その言葉覚えておいてくださいね? 私が勝ったとき、先輩にどんな命令を出そうと受け入れてもらいますからね?」
「あぁ、言葉に二言はない。どんな命令でも受ける」
「はい、約束ですよ?」
二人は約束を交わす。二人は負けるつもりはないと、メラメラと闘志を燃やす。すると訓練所の方の音が小さくなっていく。どうやらそろそろ昼食のようで皆が食堂へと向かっていく。その光景を見て、改めてラニにサフラは伝える。
「ラニ、俺はもうそろそろ行く。出発の準備もあるからな。あと、本当に俺と会ってた事は誰にも言うなよ?」
「そんなに言われなくても言わないですよ。私と先輩だけの秘密、ですから」
その返事を聞いたサフラは背を向けてラニに聞こえないような小さな声で呟く。
「……じゃあな、元気にやれよ」
サフラは城の中に入っていく。その小さくなっていく背中を見えなくなるまで、ラニはその場で見ていた。
サフラがケイジュダリアを出発した夜。ケイジュダリア中にとあるお触書が出た。その内容にケイジュダリア中が震撼した。その内容は。
王国聖騎士団
サフラ・ラークス
指名手配
罪状
国家反逆罪
国の保管していた禁書の封印を破壊し、後に逃亡。 生死問わず。捕えるもしくは死体を持ってきたものに5000万ベリスの報酬。
「…………嘘」
サフラ・ラークス 21
16の時までケイジュダリアの下町で過ごす。先代の騎士団長に見初められて聖騎士団へと入る。騎士団内の反発を実力で黙らせる。本人が望んでいなく、また聖騎士に必要な要素を満たしていないため、昇格する事はなかった。剣の実力のみを見れば先代の騎士団長以上と言われている。