ケイジュダリアの首都、ヤブツギから出発して半日程歩くと辿り着く街レリチア。
ケイジュダリアにある街でヤブツギの次に人口が集中していて、またケイジュダリアで最も冒険者業が盛んな街。普段は冒険者が闊歩している。
しかし今、レリチアはその様子を変えていた。普段の騒がしさが嘘のように静まり返っているのだ。その原因は朝に張り出されたとある一枚の紙であった。その紙を見た多くの街の人間は驚きを隠せなかった。そこにはこう書かれていた。
サフラ・ラークス。国の禁書を持ち出した罪により指名手配。生死問わず国に突き出したものに5000万ベリス。
この手配書を見たもの達は様々な反応をする。
あるものはサフラの指名手配を悲しむもの。
あるものはなぜ聖騎士がこのような罪を犯したのかという疑問。
あるものは騎士団である男が国を裏切り、逃走を行い、今まさに近くにいるかもしれない恐怖。
街に住む多くのものがサフラ・ラークスという男に対して様々な考えを示す。そしてそれは冒険者が多く集まるギルドでも同じであった。
そこにいる多くの冒険者が指名手配について話していた。ギルドに配置されたテーブルに二人の冒険者が座り、その者達も同じく手配書について話していた。
「なぁ、朝に張り出された手配書見たか?」
「あぁ、聖騎士のサフラ・ラークスが指名手配されてるやつだろ。朝からみんなその話で持ちきりだよ」
「俺は正直そのサフラ? って奴の事はよく知らねぇ。だがわかってることがある」
大きな剣をその背中に背負った男は、朝に配られた手配書を机において、ある一点を指差す。
「5000万ベリス。こいつ一人国に突き出すだけでこの先の人生がバラ色になる。やるしかねぇだろ。何より……」
その男は指先を動かす。
「こいつの生死は問わねぇって書かれてる。つまり、殺しちまってもこいつの死体を国に出せばいいってことだ」
「確かにこいつ一人突き出すだけで5000万は破格だな。だがどうやって見つけ出すんだ? まさかこの国中を探すつもりか?」
「それを今から二人で考えるんだろ?」
「…………」
男の行き当たりばったりな考えに呆れるが、それでもいないよりマシだと結論付ける。
ギルド内がこの男を見つける方法を議論を始めた頃。不意にギルドの扉が開く。多くの者は気にも止めなかったが、扉の近くに座っていた二人組の男は誰が来たのかと視線を扉に向ける。そこには……。
「ここが冒険者ギルドかぁ……思ったより静かな場所なんだね」
一人は紫の髪に赤色のメッシュの入っているまだ十歳を越えたばかりのように見える少女。彼女はギルドの中を興味深げに見渡す。その少女の端正な顔立ちに二人は目を奪われる。するとその後ろからもう一人誰かが入ってきた。
「いや、いつもならこんな静かじゃないと思うぞ」
その後ろから出てきたのは、入ってきた少女と同じ程の背丈をした少年。白髪に一筋の紫が入った髪を持った少年だった。少年は少女の疑問に答えながら入ってくる。
二人の少年少女はギルドの中を進んでいく。他の者も入ってきた二人に気づき始め、二人を見る。
二人は特にその視線を気にせず。ギルドの受付に向かっていく。ギルドの受付に立っていた女性も二人の存在に気づいたのか。姿勢を正し、用件を問う。
「ギルドへようこそ。どうしたの?」
少年は女性に用件を問われ、口を開く。
「冒険者登録に来た」
レリチアの街並みを二人の男女が歩く。
一人はサフラ・ラークス。酒の失敗から国に追われることになった元騎士。
もう一人はリウム・リネ。サフラが破った禁書から現れた魔族を名乗る少女。
二人はレリチアの街を進む。しかし、誰も二人に目を向けない。いや目を向ける者はいる。しかし、目を向けるだけでそれ以上の事は起きない。その様子にサフラは驚く。
「すごいな……。本当に俺には見えてないんだな」
そうサフラが驚いているとリウムが胸を張りながら言う。
「ふふん、確かに私は昔よりは弱くなったけど、それでもこのくらいはできるよ」
今、サフラ達は周りの人間には違う姿になっている。それはサフラにリウムが初めて見せた人に幻覚をみせる魔法を使っているからだ。
現在サフラの姿は十歳を越えたばかりの子供のように見えている。だからこそ周りの人間は二人に目を向けることはあっても、指名手配の人間だとは気づかないのだ。
サフラがその事に驚いている間、リウムは町を見渡す。そこには町の警備にしては多すぎると言える程の騎士がいた。リウムはその光景を見ながらサフラに話しかける。
「サフラの言う通り、やっぱりもうサフラの事はケイジュダリアに知れ渡ってるんだね」
その問いにサフラは答える。
「あぁ、来る前にも言ったが、国の人間は転移の門が使えるからな。転移の門がなけりゃこんなに早く国中には知れ渡らない」
転移の門。このケイジュダリアを発展させた要因の一つ。用意した門にあらかじめ魔法を組み込んでおくことでヤブツギにある門を介し、別の場所にある門に人や物を転移させる事が出来る。それによりケイジュダリアは数日かかる物の運搬や移動などを一瞬で行え、他国への輸出などを手早く行えるようになっている。
サフラは騎士達を見ながら考える。
(転移の門は確かにとても便利だが、一度使うと一日ヤブツギの門に繋げたその門は使えなくなる。つまり、一日使えなくなるにも関わらず、物の運搬より、俺を捕まえることを優先してる……禁書ってのはケイジュダリアにとって何なんだ?)
サフラは歩くのを止め思考を深くしていく。その様子を見て、リウムはサフラに話しかける。
「……大丈夫? まだ二日酔い治ってない?」
「ん……いや、少し考え事をしてた。二日酔いならとっくに治ってる。もう迷惑はかけない」
半日でたどり着くレリチアに一日かけた原因が自身の二日酔いのせいであるため、その事で心配させるのは良くないとサフラは再び歩き出す。リウムはサフラの様子が戻ったと分かり、今後の動きについて確認する。
「この後はギルドに行って冒険者登録をするんだよね?」
「あぁ、冒険者登録をして、クエストを受けて冒険者のランクを上げる。そしてランクがシルバーまで上がったら国境を超える」
サフラが今後のプランを話している最中にリウムには一つの疑問が浮かんだ。
「ねぇ、どうして冒険者のランクを上げる必要があるの?」
その疑問にサフラは答える。
「それは国と国の間にいるモンスターが原因だ」
「国と国の間にいるモンスター?」
首をかしげるリウムにサフラは説明を続ける。
「国と国とをつなぐ国境に現れたあるモンスターがいてな。そのモンスターは五年前に国境付近に現れた。そいつに対処するには最低でもシルバー相当の力がないと無理ってことで国境を渡るにはシルバー以上のランクが必要になったんだ。おそらく俺達が国を渡るときも出会うと思う」
「へぇ、そんなモンスターがいるんだ」
「まぁ、そいつ以外にも世界各地のモンスターがここ5年で強力になったからそれもあるんだと思う」
「なるほどねぇ」
サフラがそう言うとリウムは納得したように頷いた。サフラは中断された話を再開した。
「まぁだから俺達がシルバーランクに上がるまでクエスト受けて、昇格のための指定クエストを受けることになる。おおよそ一ヶ月から3ヶ月ぐらいか?」
「えっ!? サフラがいるのにそんなにかかるの!?」
リウムはシルバーランクに上がるのにそこまで時間がかかると思ってなかったのか。驚愕に目を見開く。
「まぁ、クエストを全部片っ端から俺がやれば一週間も経たずシルバーには上がれるだろうが、クエストを受けるのは俺達だけじゃない。あまり多くのクエストを俺達だけが占領するのはあまり良くないからな。それに……」
「それに?」
サフラはリウムから顔を背け。伝える。
「お前にとってはかなり久し振りの外だろ。記憶を取り戻すのも大事だが、まずは外をゆっくり楽しんでもいいと思う。」
「……へぇ」
そのサフラの言葉にリウムは驚いた。サフラは酒に酔っていたとはいえ、国に保管されている禁書を躊躇いなく破く男なため、あまり周りのことなど気にしない男だと思っていたからだ。その様に思われているなど微塵も思っていないサフラはその視線に気づくことなく目的地に向かう。
「ヤブツギから持ってきたのはこの剣とレリチアまでの金しか持ってきてない。次の街に行くための金も集めなきゃならないし、なにより俺だけならまだしもリウムまでずっと野宿させるわけにはいかない」
「野宿も楽しかったけどね」
「……そりゃ禁書の中にずっといる時よりはいいだろうが……」
リウムは封印されていた頃よりはずっと良かったと語っている。サフラはいつかこの考えをリウムから離す事を決めた。
その様に二人で話していると目的の場所にたどり着いた。そこは周りの民家などよりも一回りほど大きな建物であり、その建物には【冒険者ギルド】と書かれていた。
サフラはリウムに事前に伝えておいた注意事項を再度リウムに共有する。
「いいか? 街に来る前に伝えたが。念のためもう一度言う。リウムにとっては初めて訪れる場所で気分が高揚するかも知れないが騒ぎは起こさないように。いくら魔法でバレないとはいえ騒ぎを起こせば騎士団に目をつけられる。それだけは避けるんだ」
「うん。絶対に騒ぎを起こして目をつけられないようにするよ」
「……よし、ならいい。」
「あっ。私から入っていい? 何とか抑えてるけど早く中に入りたくて」
「別にいいぞ。どっちが先に入っても変わらないし」
そうサフラが言うとリウムは中に入っていく。サフラはこの少女が騒ぎを起こさないように俺がしっかりしなければと決意を固め、中に入る。ここから本当に俺の新たな一歩は始まるのだと。
「お前のその仏頂面を苦痛に歪ませてやる……! 二度と俺にそんな目を向けることが出来ないようにしてやる……!」
二人の男が向かい合う。
一人は首からに銀色のプレートをかけ、日の光で輝く鉄の剣を持つ青年。
もう一人は片手に木の剣を持った周囲には少年に見えている男。サフラ・ラークス。
二人はレリチアの広場で剣を向け合う。その周りには街の住人やギルドに所属している冒険者などが多く集まっている。そこにはリウムの姿もある。リウムはサフラに向けて激を飛ばす。
「頑張れー! 勝てるよー!」
その声援を受けたサフラの胸中は。
(くそ……あんなにリウムに注意してたのに俺が騒ぎを起こすのかよ……)
リウムにさんざん注意していた自身が騒ぎを起こしてしまった事への羞恥であった。
サフラ・ラークスとリウム・リネのメモ
自身をストッパー役だと考えているが、実際はストッパーをかけられる側。(騎士団所属中はラニがストッパーだった。)
逆にリウムは好奇心のままに動くが、本当に肝心なときにはそれを抑え、ストッパーになる。