「どうするべきか……顔を見られたかもしれない以上このまま帰す訳にも……だが……」
「ううん……何?誰ぇ?」
リウムはベットから身を起こす。先程から部屋の中からなにやら独り言の様なものが聞こえ、目を覚ました。リウムは寝ぼけた目を擦ると目の前に背中を向け、小声で独り言を話しているサフラがいた。
「サフラぁ?どうしたの?もう朝なの?」
リウムは外の様子を見るとまだその空は真っ暗であった。
「あれ? まだお日様も出てないけど……やっぱり野宿じゃなくてベットで寝たかったの? いいよ、今からでも一緒に寝ようよ」
リウムはサフラにそう声をかける。するとサフラは顔だけをリウムの方へと向ける。
「いや……そういう訳じゃない。こんなに早くここに来たのはリウム。お前に聞きたいことが出来たからだ」
「聞きたいこと?」
「あぁ、本当なら朝にこれからのことを話し合う時に聞こうと思っていた事だが、緊急事態が起きてしまってな。だからこんなに早く戻ってきた」
「それは分かったけど……何を聞きに来たの?」
「それはだな……」
そう言うとサフラは自身の前にある物が見えるように位置を変える。そこにあるものにリウムは目を見開く。
「…………」
そこにあったのは首から銀色のプレートを下げ、背中に弓を背負った青年が倒れていた。青年は壁に寄りかかるようにして気を失っている。上下する胸から命に別状はないと分かる。その青年を見てリウムはサフラへと視線を向けると、サフラは口を開く。
「すまない……これは俺の確認不足だった……もう夜も遅くなってきたから明日にでも聞けばいいと思った俺の責任だ……本当にすまない……」
「え……いや、何でサフラが謝ってるのか訳が分からないんだけど……とりあえずこの人は……?」
リウムが気を失っている青年へと視線を向け、そう聞く。するとサフラは眉間にすこしばかり皺を寄せると答える。
「俺は野宿出来る場所を探しながら考え事をしてた」
「考え事?」
「俺達はこれから先サフラ・ラークスやリウム・リネという名前は出せない。だから俺達の偽名を考えていた」
「……そういえばそうじゃん!私今日ずっとサフラって呼んじゃってた!……ていうかまたサフラ一人で何とかしようとしてたってこと…?」
「まぁ、正直リウムの魔法があるならあまり必要ないかもしれないし、別に二人で考えるようなことではないと思った。……まぁ、俺は何も思い付かなかったんだが……」
「……後で一緒に考えようね」
「……そうだな」
そう言うとサフラは視線を下に向ける。自分は思ったよりも一人では何も出来ない人間なのだとこの旅で発覚した。しかし、今は落ち込む時間はないと視線を戻し、話を続ける。
「そんな風に考えていた時だ。突然俺の背後から矢が飛んできた」
「えっ!?大丈夫なの!?」
サフラは何の事でもない様にそう言う。リウムはすぐさまサフラの体を見回す。しかし、サフラの服や体には血などはついてはいなかった。その事にリウムはホッと一息をつく。
「怪我はしてないみたいだね……よかった……」
「あぁ、飛んできた矢なら全部避けてる。特に怪我はない」
「それならいいんだよ。……というかその話からするとその矢を撃ってきたのは……」
「こいつだ」
そう言うとサフラは壁に寄りかかっている青年を見る。
「最初の一発は暗かったのもあってモンスターか何かだと勘違いしたんだと思った。だからすぐにモンスターじゃないと声を上げた。だがこいつは俺に追撃の矢を撃ってきた」
「何で……」
リウムは何故そんなことをしてきたのか疑問に思い、サフラに問う。サフラは椅子に座る。
「それはこいつは俺の事を狙ってたんだろう。指名手配犯サフラ・ラークスを」
「サフラの事を……?…………あ」
サフラがそう言うとリウムはある事を思い出す。
「今日、色々あって頭から抜けちゃってたんだけど……」
「……何だ」
サフラは何を言うのか予想が出来ていたのかその答え合わせをするように努めて冷静に問いかける。
「私のこの魔法の詳細を伝えるのを忘れちゃってたよ……」
「……そうだよな」
サフラがそう言うとリウムはその頭を深く下げる。
「ごめん!サフラ!私の魔法についてちゃんと説明してなかった!」
リウムはサフラに対してその頭を下げ、精一杯謝る。それを受けたサフラは特に気にした様子はなく、頭を上げさせる。
「いや、明日にでも聞けばいいと思って足早にこの部屋を出ていった俺にも非はある。頭を上げてくれ」
「でも……」
「大丈夫だ、それより今はその魔法の事について教えてくれ」
サフラはリウムに魔法の詳細を聞く。リウムも今は謝っている時間はないと考え、魔法について語る。
「私は大半の魔法を使えなくなってるけど、そんな中でも使える魔法が何個かあるの。その内の一つがこの幻覚の魔法なんだけど……」
リウムは語る。この魔法は術者のイメージをそのまま出力する。サフラの姿はリウムが今のサフラから想像した子供の頃のサフラである。本来は魔力が尽きない限りは解けないのだと言う。
「でも今の私だとイメージし続けなければこの魔法を維持できないの……」
「イメージし続ける……じゃあ睡眠を取ってるときは……」
「私のこの魔法は解ける」
「なるほど…………ん?ということは……?」
サフラはリウムから魔法について聞き、頭の中でその情報を整理しているとある一つの疑問が過る。
「もしかしてリウムが眠っている間俺の姿は元のままって事か?」
「そうなるね?」
「……じゃあリウムが寝ている間俺はリウムから離れない方がいいのか?」
「そうだね?出来れば起きた時に近くにいてくれる方がいいかな?」
サフラはリウムからそう言われ、ある考えが浮かぶ。
(つまり、宿屋でリウムが寝るときに俺はリウムがいる部屋から極力でない方がいいってことか?)
サフラはその考えが浮かぶと同時にこれ以上考えないようにした。これから先の旅の事は後で考えればいいと。するとリウムがサフラに声をかける。
「私の魔法の話は後にしてさ、まずはこうなった原因を何とかしようよ」
「……そうだな、先にこっちを解決しよう」
するとサフラ達は本題へと話を戻す。
「話が逸れたが何でこの男が俺の事を狙ったのかというと、こいつが言ってた事が関係してる」
「言ってた事?」
「あぁ、俺がこの男が明確に俺を狙って撃ってきてると分かったから一旦気絶させるためにこいつに近づいた」
「近づいた?弓を向けられてるのに?」
「そうだが?そうじゃないと遠距離攻撃なんかない俺じゃ何も出来ないからな」
「…………」
リウムはサフラに何を言っているんだというような目で見られ、その事に抗議しようと考えたが、どうせ意味はないんだろうと思い、それを一旦呑み込んだ。
「それで、俺が近づいている最中にこの男はこう言った」
サフラはその男の言っていたことを復唱する。
「”あんた程のやつを殺せればみんな僕の事を認めてくれる”と」
その言葉を聞いてリウムも納得する。なぜサフラを狙った行動だと分かったのか。
「俺が子供に見えているんだったらこんな事を言う筈がない。なぜなら子供の俺はまだ何の実績もないからだ。そんなやつを殺したところで何もない」
「……それでサフラは魔法が解けてる事に気づいて急いでここまできたんだね」
「あぁ、すぐさまこの男の頭を殴って気絶させて、隠れながらここまできた」
「大変だったね……あれ?でもどうやって宿屋の人にバレずにこの部屋これたの?」
「うん?あぁそれは……ほら」
リウムがどうやってここまできたのかと疑問に思い、サフラに聞くとサフラはある方向を指差す。そこは窓であった。その事にリウムは理解が追い付かなかった。
「え……」
「宿屋の主人にバレる訳には行かないから窓から入った。鍵をかけてなかったから容易に入ることが出来たから、次はちゃんと鍵をかけておいた方がいいぞ」
サフラは当たり前かのように話し、あまつさえ鍵をかけていなかったことの注意までしてくる。しかし、リウムが一番理解が追いついていないのはそこではない。
「いや……!窓からって……!ここ三階だよ!?その人背負って登ってきたの!?」
リウムが寝ていた部屋は三階。この建物で最も高い位置。そこまで人一人背負って登ってきた事に驚いているのだ。サフラはその首を傾げて返事をする。
「そうだが?そうじゃないと入り口にいる宿屋の主人と顔を合わせることになるだろ?」
「そうだけど……」
リウムは改めて感じる。この男は普通の物差しでは測れないのだと。
(サフラはドジだし、意外と可愛いところもあるけど、それはそれとして凄い人間なんだよね……)
「俺がどうやってここまできたのかについてはもういいか? そろそろやらなきゃいけないことがある」
「……やらなきゃいけないこと?」
サフラはそう言うと気絶している男に対して視線を向けて、リウムに話しかける。
「この男をどうするかの話し合いをしなくちゃならない」
「この人を、どうするか?」
私はサフラの言葉を復唱する。するとサフラは私が分かるようにその意味を話してくれる。
「この男は俺、サフラ・ラークスの顔を見た。このまま帰すことは出来ない」
「……それって」
私はそこで言葉を止めてサフラの顔を見る。サフラの顔はいつも通りの無表情であった。
「この男をこのまま帰すと、俺の事を街中に言いふらす可能性がある。そうなってしまったらいくらリウムの魔法があっても間違いなく行動はしづらくなる」
私はサフラの言っている事が理解できた。そしてその行いも私自身そうすることが最善なんだと分かってる。サフラはゆっくりと青年に近づいていく。その様子を見た私は……。
「待って!」
「……どうした?リウム?」
私はサフラと青年の間に入った。私はサフラの顔を見る。その顔は私が何をしているのか理解出来ていない様子だった。私はサフラにお願いをする。
「お願い!この人の事を見逃してあげて!」
「…………?」
私はサフラに頼み込む。
「この人はサフラの命を狙ったし、サフラの顔を見ちゃった。だけどお願い!この人の事を殺さないであげて!」
「…………リウム」
「分かってる。この人を見逃したらサフラの事がレリチアに広まるかもしれないって。でも私はサフラに人を殺して欲しくないの!」
「…………」
私は自分の我が儘をサフラに伝える。私はサフラに人を殺して欲しくない。たとえそれが私達自身の不利益になるかもしれなくても。
「何も考えなしに言ってる訳じゃないの!私の魔法の事は言ったよね!私が眠らない限りは解けることはないの!これから私、頑張って出来るだけ寝ないようにするから!それに冒険者登録だって頑張るから!」
私は自分の出来る事をサフラに提示する。私は膝をつく、そして頭を床につけ、お願いする。サフラは何も言わない。しばらくその状態が続いているとサフラが口を開く。
「……なぁ、リウム」
「……何かな?」
サフラが何を言うのか私は耳を傾ける。するとサフラはいつもより低いトーンでこう言った。
「俺って……やっぱりそういう風に見えてるか……?」
「え……?」
サフラから出た言葉に驚き、顔を上げるとそこには遠い目をしたサフラがいた。
「別に俺はこの男を殺すつもりはない。ただ、リウムが起きたのならベットに寝かせようと思って近付いただけだ……」
「…………へ?」
私は呆けた声が出る。サフラは青年を殺そうとしているどころか青年を気遣っていただけであった。その事に気付いた時。私は顔が熱くなってくる。
「あ、あぁ!そ、そうだよねぇ!サフラはそんなことしないって思ってたんだけどちょっとだけ不安になっちゃって!あはは!」
私は咄嗟にサフラから顔を見えないようにし、笑って誤魔化そうとする。私がそうしている間にサフラは青年をベットに寝かせる。サフラは椅子に座り、その腰を曲げる。
「まぁ、別にそう思われても仕方ないような生き方はしてきているが、やはり実際にその様に思われてると知ると中々心にクるな……」
「ご、ごめんね……サフラの事を信じてない訳じゃないけどそれはそれとして何でもやりそうな気がして……」
私は必死に言い訳をする。その言い訳すらもサフラにダメージを与えてしまいさらにサフラは前傾姿勢になってしまう。これ以上はサフラに追撃をいれるだけになってしまうと口を閉ざす。
しばらくしてサフラがその姿勢を正し、話し始める。
「だが、この状況を何とかする為の方法を考えなきゃいけないのは事実だ」
「そうだねぇ……どうしようか……」
私達は二人してこの状況を何とかするための方法を考え始める。すると私はとある方法を思い付く。
「そうだ! ねぇサフラ! こんなのどうかな!」
「何だ?何か思い付いたか?」
「うん!それにこれは今後にも役に立つかもしれないよ!」
私はそう言うとサフラに何をするかを共有する。するとサフラも納得したのか、その方法に賛成してくれた。
「確かにそれは今後にも活かせるな……ならまず俺達の名前からだな」
「それにどういう事にするかも決めないと……」
私達は二人で作戦会議をする。私は緊急事態であるにも関わらず考えてしまう。
(こうやって誰かと一緒に何かをしようとするって楽しいなぁ……ずっとこの時間が続けばいいのに……)
そんなことを考えながら私はサフラと夜が明けるまで話し続けた。
「う、うぅん……何だ……頭が、痛い……ここは……どこだ……?」
宿屋のベットで一人の青年が目を覚ます。その青年は痛む頭を抑えながら体を起こす。
「僕は……確かレリチアの外で……ハッ!?僕の弓は!?」
そう言うと青年は自分の持っていた弓を探し始める。すると青年はすぐに気付く、ベットの横の机に立て掛けられていることに。自分の大切な武器がなくなっていないことに安堵し、一息つく。
「よかった……壊されてなくて……というか何で僕はベットに……」
「起きたか」
「!?誰!?」
青年は突然声をかけられたことで驚いて、その方向を見やる。そこには十歳を越えたばかり程の見た目をした真っ白の髪に紫の髪が一筋入った少年と同じ程に見える紫の髪に赤のメッシュの入った少女がいた。
青年はその少年の髪色に既視感を覚えるが、まずはこの状況を理解するため、二人に聞くことにした。
「えっと……君たちが僕をここにつれてきてくれたのかい?」
「うん!私達が倒れてたお兄さんをここに連れてきたんだ!」
「そ、そうなのかい……ありがとう僕を助けてくれて……」
青年は笑顔でそう言う少女へ礼を言う。青年はその少女の笑顔に見とれるが、聞かなければならない事があるため二人へ再度話しかける。
「なぁ、僕の近くにそこの……少年と同じ髪色をした大人はいなかったかい?」
そう聞くと少女は口を開き、質問に答える。
「いや?お兄さんは一人で倒れてたし、周りには誰もいなかったけど……」
「……そう、か……教えてくれてありがとう……」
「まぁ、レリチアの近くで倒れてたんだ、モンスターにでも襲われて記憶が混濁してるんだろう。頭に強い衝撃を受けたみたいだしな」
「いや……そんなことはないと思うんだけど……」
「……まぁどちらにしても頭に怪我をしてるんだ今は休んだ方がいい」
「今は複雑なこと考えるより体を休めるべきだよ!」
「……そうだね……今は休んだ方がいいかもしれないね……」
少年と少女両方からの言葉もあり、その体をベットに横にしようとする青年だったが、何かを思い出したのかその動きを止めて、二人の方へと顔を向ける。
「君達がいなかったら僕はモンスターに襲われ、危険な目にあっていたかもしれない。本当にありがとう。よければ君達の名前を教えてくれないか?」
青年は再度感謝を述べ、二人に名前を教えて欲しいと言う。二人は顔を一度顔を見合せ答える。
「私の名前はシユリ!シユリ・ツユキ!この街に冒険者になりにきたの! そしてこっちが……」
「フラン・ロッカス……シユリと同じくこの街に冒険者になりにきた」
騎士団にいた頃のサフラに対する周囲
(ラニ教育前)
「話しかけたら絶対に殺される…」
「騎士の風上にもおけない…!なぜあんなやつが騎士団にいるんだ!」
「人間じゃない…モンスターみたいなもんだろ…」
(ラニ教育後)
「思っていたより、優しいやつなんだな…あと思ったよりクールなやつじゃなかった…」
「騎士らしくはない…だが騎士団からいなくなるべき男でもない…」
「やってることは人間じゃないが…それ以外だとドジも踏むし、人間っぽいかもな…」