「シユリちゃんにフラン君だね。いい名前だね」
青年はそう言うと二人の方へと再び視線を向けると、そう言われたシユリは嬉しそうにその顔を笑顔に変え、フランに話しかけている。フランは一切その表情を変えず横に立つシユリに視線を向けている。
「いい名前……!いい名前って言われちゃった……!」
「……そんなに嬉しいことなのか?」
「そりゃそうでしょ!名前を褒められたら誰だって嬉しくなるって!」
「……まぁ嬉しいんならいいんだが」
フランはそう言うとシユリから視線を外し、青年の方へとその視線を向ける。
「俺達の名前は教えた。出来ればそっちの名前も教えて欲しいんだが」
「……そうだね、君達だけに名乗らせるのは良くなかったね……」
フランに名前を言うように催促された青年はそれもそうだと青年も自分の名前を教える。
「僕の名前はマリス・アネモ。この街で……冒険者をやっている男だ」
「マリス・アネモ……いい名前だね!」
「そうかい?あまり言われたことはないけど……」
シユリはマリスと名乗った青年の名前を褒める。するとマリスは褒められなれていないのか頬をかきながら視線を下に向ける。その様子を見ながらフランは思考を巡らせる。
(マリス・アネモ……?アネモ……どこかで聞いた気がする……どこでだ?)
「どうしたんだい?僕の顔に何かついてるかい?」
「……いや、何でもない。名前を教えてくれてありがとう。本当なら色々聞きたいことがあるんだが……今は寝といた方がいい。頭に衝撃を受けたみたいだしな」
「……そうだね……正直助かるよ……僕も色々と整理したいことがあるからさ……」
そう言うとマリスはその体をベットに預ける。するとフランはシユリを連れて扉に近づいていく。
「俺とシユリは外に出て、飯を買ってくる」
「マリスさんの分も買ってくるからそれまでゆっくりしててねー!」
「……ありがとう、代金は……あ……」
そう言うとマリスは自分の腰にある袋から出そうとし、袋を開くと何かを思い出したのか、視線を下に向ける。
「……申し訳ないんだけど今手持ちがなくて……だから僕の分は大丈夫だよ……それによく考えたら君達が借りている部屋にいつまでも僕がいたらよくないね……すぐに出ていくよ……」
マリスはベットから体を起こそうとするがフランがその体を抑える。マリスは子供とは思えない力で抑えられ、一切動かすことが出来なくなった。
「……!凄い力だね……!急にどうしたんだい!」
「……さっきも言ったが、俺達はこれから飯を買いに行くから別に気にしないし、金に関しても俺らがやりたいからやってる」
「でも子供にお金を出させるなんて……」
「私達が食べてる時にマリスさんだけ何も食べてなかったら私達も食べにくいよ!」
「それはそうかもしれないけど……」
「別に俺達はただの慈善事業でやってる訳じゃない。俺達が帰ってきたときにマリスに頼みたいことがある。その対価ってことでどうだ?」
フランはマリスに口を挟ませず話す。マリスはそれでもと口を開こうとするもフランのその気迫にその口を閉ざし、諦めたのか、苦笑いをしながら了承する。
「そうだね……既に迷惑はかけてしまっているし、フラン君達の善意を無碍にするのはよくないね……」
「あぁ、それじゃあ行ってくるからゆっくりしといてくれ」
そう言うとフランは扉を開けて、宿屋の外に出ていき、それにシユリもついていく。
「……いい子達だな」
レリチアの街をフランとシユリは歩く。まだ日が出てきて間もないからか露店はまだ開いておらず、街行く人も少なく、皆一様にあくびをしている。フランは街を見渡しながらシユリに話しかける。
「一旦飯を口実に出てこれたが、まさかあそこまでしっかり覚えているとは…もう少し朧気かと…」
「まぁ、最初から全部なかった事になんてできたら苦労しないよ、今はもう一つのプランを進めよう」
「そうだな、別にこれが上手くいかなくても他に手はあるからな」
「そうそう、何の為に寝る時間を削って作戦たてたんだって話だし!」
すると二人はレリチアにある最も大きな広場にやってきた。広場にはまだ人はおらず二人だけがこの広場にいる。フランは近場のベンチへと腰掛け、シユリもその横に座る。
「まぁ、こうして周りに人があまりいない場所にこれたんだ。一旦どうするかの擦り合わせをしよう」
「うん!」
フランは周りに人がいないことを再度確認するとその口を開く。
「まず、俺達のやらなきゃいけない事は二つ。一つはシユリ……今はいいか、リウムが冒険者登録を終わらせること。もう一つはマリスの口からレリチアに俺の名前が流布されないようする事だ」
「そうだね、とりあえずマリスさんに今までの事は全部夢だったと思わせるって作戦は失敗しちゃったね」
「正直殴った時に俺の事を忘れててくれれば一番楽だったんだが、そんな都合よくはいかなかった。だからもう一つのプランで進める。こっちならリウムの方の問題も一気に解決できる可能性がある」
フラン……もといサフラはもう一つのプランについて改めて確認をとる。
「もう一度確認するが、リウムは魔法が使えないし、使える魔法も効力が落ちてる。だけどそれは魔法の扱い方を忘れたからなんだよな?」
「うん、確かに私は魔法の威力とかは落ちてるかもだけど使えない訳じゃないと思う。多分だけどもう一度魔法を覚えれば使えるようになるし、そもそも魔法が二度と使えない体ならこの覚えてる魔法も使えないと思うから」
朝になるまでの間にリウムとサフラは話し合いをしていた。その最中に分かったのがリウムの魔法についてである。それを聞いてサフラはあるプランを思い付いた。
「魔法を覚えるのに魔術書は必須。魔術書はこのケイジュダリアに輸入されてはいるが、そもそもの魔術書の数そのものが少ないから売られてたとしても値段の問題で今の俺達では買えない可能性がある」
「サフラが後輩のラニさんから聞いてたところによると最低でも50万ベリス必要って話なんだよね……」
「冒険者登録を終わらせればギルドから5万ベリス支給されるが、アイアン……一番下のランクが受けれるクエストを受けるだけじゃいつまでたっても買えないだろうな」
50万ベリスという額の大きさをリウムはあまりよく分かってはいないが、ひとまず今のままでは魔術書を買うのは夢のまた夢なのだと考える。
「でも、私達の話したプランが成功すれば」
「全ての問題を解決する事が出来る」
「これにはサフラの提案をマリスさんが受けてくれるのが前提。失敗するかもしれないけど私も出来る限りのサポートするからがんばろう!サフラ!」
冒険者登録をするために必要な魔術書とサフラの事を知ったマリス。その両方をどうにか出来るとサフラは断言する。それにリウムも同意してやる気に満ち溢れていると、リウムのお腹からぐぅ~といった音が響く。サフラがリウムの顔を見ると、その顔を真っ赤にし、弁明をする。
「い、色々あって忘れてたけど、禁書から出てから何も食べてないし、気合いを入れようと思ったら……急にお腹が空いちゃって……」
「……どちらにしても朝飯を買いに出てきてる。そろそろ飯屋も開いた頃だろう。行くか」
「そ、そうだねぇ」
サフラは気にせずベンチから立ち上がり、街へと向かい歩き出す。リウムもサフラと共に立ち上がり、サフラの隣を一緒に歩く。
「今の時間だと何のお店が空いてるかなぁ」
「レリチアにある店だとパン屋だな」
「へぇ~パンかぁ何にしようかなぁ~サフラは何にする?」
「俺は食パンだな」
「食パン?何をつけるの?」
「何もつけないが?」
「……えっ!?」
サフラの口から出た言葉にリウムは驚く。食パンまでならリウムにもまだ理解できた。しかし、それは何かを食パンに付随させるからこそであった。ジャムであったり、バターであったりそういったものと共に食べると。リウムは再びサフラに聞く。
「ジャ、ジャムとかはつけないの?」
「あぁ、特につけないが?」
「な、何で?」
「それが一番美味しいからだが?」
「………………」
リウムはサフラの食べ方に驚愕するが、人の食べ方を否定するのはよくないとそれ以上の言及はさけた。リウムが何も喋らなくなった為、サフラも前に向き直る。しばらく二人の間に会話はなかったが、リウムがふと思い出したのかサフラに話す。
「そういえばこのプランを実行したら私とサフラって離れるよね? その間私何しようかな?」
「確かにそうだな……正直レリチアを観光してくれててもいいが……それだとリウムは楽しめないんだろう?」
「うん!サフラが頑張ってるときに私だけ何もしないなんて出来ないよ!」
「そうだよな。とはいえ一人でモンスターと戦わせるわけにもいかないからな……」
モンスターとの戦闘は冒険者ではなくともしてよいが、リウムの今の戦闘力を鑑みると一人でやらせるには危険だとサフラは考える。
(リウムは別に身体能力が低い訳でも、体力が無い訳でもない……だが武器の扱いもそうだが、おそらく戦闘自体が苦手なんだろう。俺が見ていないところで戦闘はあまりに危険……どうするべきか……)
サフラは歩きながら考える。その様子を見て邪魔する訳にもいかないとリウムは話しかける事はせず、リウムは辺りを見ながら考え始める。
(今の私が出来る事でサフラに迷惑をかけず、サフラの事を手伝える事……そもそも私に出来る事ってなんだろう……?)
リウムは今の自分の長所を考える。
(私は人より体力はある。サフラから貰ったダガーは扱いが難しくてカウンターラビットを倒せなかったけど。半日ずっと戦っても体力的な限界は感じなかった。つまり、私の長所は体力……? でもそれでどうやってサフラの役に…………あれって)
リウムは自分の長所は体力であると考えた。リウムは自身の体力という長所をどうやって役に立てるか考える。するとリウムの視界にとあるものが入ってきた。リウムはそれを見ると隣に立つサフラの腕を掴む。
サフラはその足を止めてリウムの方を向く。
「どうした? 何かあったか?」
「サフラ、あれ見て!」
「何だ?……パン屋か。考えている間についてたんだな」
「そうだけど、そこじゃないよ! あそこ見て!」
「あれは…………」
サフラはリウムの指をさした方を見る。そこにはある一枚の紙が張られていた。サフラはその紙の内容を読んでいると、リウムは口を開く。
「サフラに迷惑をかけず、役に立てる方法、見つけたよ!」
フランは扉を開く。その中にはベットから体を起こした。マリスの姿があった。マリスはその綺麗な緑の長髪を揺らし、フランの方を向く、フランはそこで初めてじっくりとその顔を見る。
その顔は男とは思えないほど中性的で、非常に整っていた。フランはその顔を見て人形のようだと感じ、フランがその顔をじっと見つめていると、マリスはその顔をかきながら話しかけてくる。
「えっと……僕の顔に何かついてるかい? その……さすがにずっと顔を見られると恥ずかしいんだけど……」
「……そうだな、すまない。あまりじろじろと人の顔を見るものではないな」
「いや、謝るほどの事じゃないよ。ただ少しばかり緊張してしまってね。ところでシユリちゃんはどこに?」
マリスは先程から姿が見えないシユリはどこにいるのかと聞くとフランはその手にある袋からパンを取り出しながら話す。
「シユリは野暮用が出来たから一旦別れて俺だけ戻ってきた。あとなにが好きなのか分からなかったから、とりあえずクロワッサンにしておいたんだがいいか?」
「クロワッサンはむしろ好きなパンだけど……本当にいいのかい? 僕がもらって?」
「あぁ、マリスの為に買ってきたものだし、シユリも言っていたが自分だけしか食べてないと食べにくいし、何より俺達はマリスに頼みたいことがあるって言っただろ? だから、受け取って貰えなければ俺達が困る」
「そういえば言っていたね、そういうことならありがたく貰うよ」
マリスはクロワッサンを受け取ると食べ始める。その様子を見て、フランも袋から食パンを取り出し食べる。しばらくパンを食べる音のみが部屋に響く。
二人がパンを食べ終わるとフランはマリスに話しかける。
「飯を食べ終わった所で悪いんだが、マリスに二つほど聞きたいことがある。いいか?」
「うん。答えられる事なら答えるよ」
「そうか、なら聞くが……」
フランはマリスの了承を得ることが出来た為、一息ついて質問する。
「マリスの首からかけてたプレート、あれはシルバーランクの冒険者が貰えるものだ。マリスはシルバーランクなのか?」
「そうだけど……?」
「分かった。次にマリスはパーティーはいるか?」
「……ッッ」
フランがそう聞くとマリスはその目を見開き、そしてその顔を下に向ける。するとその状態のまま質問に答える。
「今は……いないかな……」
「……そうか」
その様子にフランは何かがあるのだろうと考える。しかし、人の内面を察するのが苦手なフランは今は下手に触れないほうがいいと感じ、特に何も言わない。するとマリスは顔を俯かせたまま話す。
「質問には答えたけど、これは一体どういう意図で聞いたのかな?」
「今聞いたのはこれから頼むことに支障がないかの確認だ。パーティーがいたらこの頼み事を聞いては貰えないだろうからな」
「一体僕になにを頼もうとしてるの?」
マリスは何を言われるのか分からずその顔を上げてフランの口が開くのを待つ。それに答えるかのようにフランは答える。
「俺とパーティーを組まないか?」
サフラ・ラークスの食生活
下町にいた頃は朝と夜に国から支給される食パン一枚で一日を過ごしていた。騎士団に入った後もその頃の感覚が抜けず、ラニと出会う前は食パン一枚で食事を済ませていた。
(ラニにばれて怒られ、その日からラニが弁当を渡してくるようになった)