「グギャ!」
「……これで全部か、結構時間をかけてしまったな」
フランは襲いかかってきた魔物を一太刀に切り伏せる。彼の周囲にはたった今切り伏せた魔物と同様の魔物が十匹程倒れている。フランは剣についた血を拭き取る。すると腰から短剣を取り出し、魔物から素材を剥ぎ取り始める。
「苦戦はしないが一匹一匹戦っているとやはり時間がかかるな……一人だと時間がかかるな」
そう言うとフランは自分の背の方を覗き込む。そこには弓を下ろしたマリスの姿があり、彼はその弓を背中に背負い直すとフランの方へと近づいていく。
「いや、一人でこの速度なら全然速いよ。このクエストは報酬は多かったけどコボルトの群れを倒さなくちゃいけないから時間がかかるんだ。だから、受ける人がいなかったんだけど……」
「正直ありがたい、誰もやる気がないなら他の冒険者に気を遣う必要がない」
「……普通の冒険者はあんまりそういうこと考えないと思うよ」
フランとマリスは素材を採りながら話す。コボルトの体から素材として売れる部位を剥ぎ取りながら、マリスはそのコボルトについた傷を見ながら戦慄する。
(やっぱりこの子……普通の子じゃない……あの歳でコボルトを断ち切れる剣術と戦い続けても息切れしない体力……何より一番おかしいのは……)
マリスは無表情でコボルトの体を剥ぎ取り、持っていく素材を吟味している。
(モンスターとの戦闘で一切表情を変えない……あのくらいの子なら初めてじゃなくても魔物を怖がったり、気分が高揚して笑みを浮かべたりするはず。だけどフラン君は一切表情を動かさない。どうしてあそこまで無感動でいられるんだろう?)
マリスはその様に思いながらフランを見ていると、フランが不意に振り返り、マリスに問いかけてくる。
「とりあえず、コボルトの群れを討伐するってクエストは終わったが、どうだった?」
「……そうだね、ブロンズのクエストどころかシルバーでも全然通用すると思うよ」
「それはつまり……」
「うん、君とパーティーを組むよ」
「そうか……」
それを聞くとフランは再び素材の回収に戻る。マリスもフランを手伝うべくその手に短剣を握り、素材の回収を始めた。
なぜ二人はこのクエストを受けることになったのか、それは二時間ほど前に遡る。
「僕と……パーティー?」
「あぁ、そうだ。といってもずっとじゃないんだが……」
「………………」
マリスはそう聞かれると下を向き、目を瞑る。フランはじっとマリスの顔を見つめる。
フラン達が考えた作戦。それはマリスの周りにフランがいることでサフラの名前が出ないようにする事とマリスの人となりを把握するためである
(クエストに連れ回すことで報酬を得ながら人との会話の時間を減らし、俺の名前が出る可能性を少しでも下げる。作戦というにはあまりに単純で強引な作戦だが、少ない時間ではこれが限界だった)
フランはマリスの顔を見つめながら考える。マリスはいまだに顔を俯かせ、考えている。
(人との時間を減らすという事は必然的に俺とマリスの時間は増える。その時間で俺はマリスはどういう人間なのかを知る……それがこの作戦の一番重要な事だ)
マリスはどのような人間であるのかを知り、サフラの事を周りに伝える人間なのかどうか、それを知るために二人が立てた計画。
(だがそもそもとしてこれはマリスが俺をパーティーにいれてくれる事を前提としたもの。その時は最終手段に頼らざるおえない……)
マリスの答えを待つ。フランはじっとその顔を見ているとマリスはようやくその顔を上げるとフランがこちらを見ている事に気付き驚く。
「……ずっと見てたのかい?」
「あぁ……駄目だったか?」
「そういう訳じゃないんだけど……とりあえず考えは纏まったよ」
マリスはそう言うとベットから足を下ろし、フランへと体を向け、姿勢よく座る。
「僕はフラン君とパーティーを組んでもいいよ。ただし一つだけ条件があるんだ」
「……条件?」
「あぁ、それを飲んでくれるのならフラン君とパーティーを組むよ」
そう言うとマリスはベットから立ち上がり、横に立て掛けてあった弓を手に取り背中に背負い、扉の前に立つ。
「今から僕と二人でブロンズランクのクエストを受注する。それで君の実力を見せて欲しい。それを見てシルバーのクエストにも連れていけるのかを判断するよ。それが条件」
「つまり、パーティーを組んでも足手まといにならない実力であると示せばいいということだな」
「そこまでは言ってないけど……とりあえずフラン君の実力が見たくてさ」
「……それならブロンズじゃなくてもいいんじゃないか?」
「それは……」
そう言うとマリスは口を閉じる。しかし数秒の沈黙の後マリスは口を再び開く。
「……シルバーのクエストだと、フラン君が危なくなった時に僕一人じゃもしもの事が起きるかもしれないからね……だからまずはシルバーの一つ下のランクでフラン君の実力を見ようと思ってね」
「なるほど」
フランはマリスの言葉に納得し、フランも椅子から立ち上がる。
「とりあえず俺はマリスに実力を示せばいいんだな?」
「うん、そのクエストを終わらせることが出来れば僕は君とパーティーを組むよ」
「ふぅ……コボルトの素材はこんなもんか?」
「そうだね、コボルトから採れる素材はこれくらいで終わりかな?」
俺達はコボルトの素材を回収し終わる。素材を入れた袋はこれ以上素材が入らないほどに膨れている。俺達はこれ以上はモンスターの
「これ以上は素材を持って帰ることが出来ない。一旦レリチアに戻ってもいいか? クエストも報告して、新しいクエストも受けなきゃいけないからな」
「確かに思ったより早く終わったからもう一つくらいクエストは受けてもいいね。こっちの袋ももう満杯だから一度ギルドに戻ろうか」
俺達は一度ギルドに戻るべく帰り道を歩く。帰り道を歩く。
そんな中俺は考える
(マリスの人となりを知る。そのためにはまずマリスと近しい関係にならなくてはならない……そうなるために一番活用しなくてはいけないのはこのような空いた時間の会話……!)
俺は隣を歩くマリスを見る。マリスはその端正な顔をレリチアの方へと向け、口を開く気配はない。それを見て俺は確信する。
(やはり、マリスは俺と同じであまり人とのコミュニケーションをとらないのだろう。あるいは俺に対してどのように対応すべきかまだ分かっていない……どちらにしてもこちらから会話を切り出さなくてはならない……)
俺はマリスより少し前へと出る。マリスは前に出た俺の方を見る。俺は後ろに振り返り、マリスの方を見ながら歩く。
「マリス」
「何だい?」
「好きな食べ物ってあるか?」
「……え」
俺の口から出た言葉にマリスは呆けた声を出す。俺はこの質問の意図をマリスに伝える。
「これから先パーティーを組んでやっていくなら少なくない時間を一緒にいることになるだろう。そんな中でマリスに嫌な思いはさせたくないからだ」
「嫌な思い?」
「俺は相手の事を察するのが苦手だ。だからこそマリスの事を知り、好きな事や嫌な事を分かっておきたい。俺は分かっていればある程度は対処出来る。だからまずは答えやすい所から聞こうと思った」
俺の言葉にマリスは驚きの表情になる。なぜそんなに驚いているのか俺は分からないが、とりあえず俺の考えはマリスに伝えたため、後はマリスが答えるのを待つだけだった。
マリスは頭を振り、呆れたような顔を向けてくる。
「……フラン君は冒険者に向いてないかもね」
「……そうなのか?」
「うん、冒険者同士はパーティーを組んだり、協力する事はあるけど基本的に商売敵だし、何より冒険者という職業は死亡率がとんでもなく高いから、仲良くならない方がお互いの為って思ってる人が大半だよ」
「そういうもんなのか……」
俺の知り合いは全くそんな事を思ってなかった様に見えたが、おそらく俺の知り合いの方が異端なのだろうと結論付ける。
俺がそう考えているとマリスが優しい声色で話しかけてくる。
「フラン君。冒険者を続けるつもりならそういう考えはしない方がいいよ。さっき言ったことだけじゃなく、君の善意を利用してくるような悪い大人もいるかもしれないからね」
「………………」
俺はその言葉に対して口を開く事は出来なかった。マリスも自分で言ったようにあまり距離を縮めないようにしているのか喋りかけてくることはなかった。それからレリチアに着くまで俺達の間に会話はなかった。
「はい、これでクエストは達成。お疲れ様。こちらが今回の報酬だよ」
「ありがとう……ございます」
俺は報酬を受け取りながらぎこちなく敬語で礼を言う。すると受付嬢は俺の顔を見ながらため息をつく。
「別に敬語じゃなくていいよ。ここに来たときも敬語使ってなかったよね?」
「……後になって考えたら、あまり、受付嬢に上からな態度はよくないと思ってな、だからこれからは出来るだけ敬語を頑張ってみ……ます」
「別に気にしてないよ? 私も敬語はなるべく使いたくないし」
「それはそれでどうなんだ?」
目の前にいるこの受付嬢はナナカ・デュラン。俺の冒険者登録を見届けてくれた女性だ。彼女は俺の周囲を見ると耳を寄せるように手招きする。俺は耳を寄せる。するとナナカは俺に聞いてくる。
「ねぇ、マリスさんは? クエスト受けに来たときは一緒に来たよね?」
「……マリスはあまりギルドに入りたくないんだそうだ……です。だから俺一人で来た」
「……そっか。教えてくれてありがとね」
そう言うともういいと俺の耳から顔を離す。
「じゃあこれでクエストは終了したから、新しくクエストを受けても大丈夫。あと素材の買い取りに関してはもう少し時間がかかるから待っててね」
「いつぐらいに来ればいい……です?」
「…………やっぱり、敬語やめて? ちゃんと使えてないならそれは敬語の意図で使っても意味ないから」
「…………わかった」
俺は真正面からやめてと言われてはしょうがないと敬語をやめる。ナナカは再びため息をし、書類仕事を始めた。
「とりあえず二時間くらいはかかると思って。そしたら素材分のベリスは出るから」
「二時間……」
「鑑定とかもあるから時間がかかるんだよ、ごめんね」
「いや、別に気にしていない」
俺は椅子から立ち上がり、ギルドの掲示板を眺めにいく。その中に手頃なシルバーのクエストはないか見る。
(新しく発見された遺跡の探索……カシア村の植生の調査……この二つは正直俺には向いてないな……というか討伐クエスト自体が少ない……)
俺が最も活躍できる……というか唯一活躍できる討伐クエストの数が他のクエストに比べて半分以下の数しかない。俺がなぜ討伐クエストだけがこんなにも少ないのかと疑問に思っていると、後ろから一人の男が近づいてきた。
その男は首から銅のプレートをかけ、その顔に縦に引き裂かれた傷痕をつけた、大柄な男であった。俺はその男を見るとなぜだが分からないが苛立ち始めた。
「お前、今朝コボルトのクエストを持っていった奴だろ?」
「……そうだが、誰だあんた?」
「俺の事はいいんだよ。それよりお前見ない顔だがいつから冒険者何だ?」
「……今日からだが」
「へぇ」
俺がそう言うと男は俺に肩を組んでくる。いきなり何だと思っていると俺の腹に何かが当たった。俺がそこに目を向けると男がナイフの腹を俺に当てていた。俺は男の顔を見ると、なぜ自分がここまで苛立っているのかの理由が分かった。
「俺は今日そのクエストを受けようと思ってたんだ。そのために朝からギルドに来てた。それをお前が持っていった。冒険者になって一日も経っていないガキがだ」
嘘だ。俺は事前にマリスにこのクエストは受けるものがいないためずっと放置されていたと聞いている。それに仮に本当に受けるにしてもクエストは早い者勝ちだ。それを俺に言うのは筋違いだ。
「だから俺は考えたんだ。今日はそれを受けるために頑張ったのに、お前のせいで俺の頑張りは無駄になった。だからお前には誠意を見せてほしいんだよ」
「……誠意?」
「そうだ、誠意だよ誠意」
男はそう言うと俺の手にあるクエスト報酬と腰にある俺の剣をナイフで示す。
「お前が誠意を見せてくれればここは穏便に済ませる。本当なら報酬だけでよかったんだが今の俺はそれだけじゃあ気が収まらないんだよ?」
「…………」
「お前はブロンズのクエストを受けれないだろ? お前を連れていった奴がいるはずだ。そいつからも誠意を示して貰わなきゃなぁ?」
男の目が歪む。この男に苛立つ理由、それはこの男の目だ。この男は子供をただの養分としか見ていない。この男の目は下町にいた大人によく似ている。
自分より弱いと思ったものから欲望のままに奪う。俺はこの男のようなものが世界で一番嫌いだ。
俺は男に話しかける。
「そうだな、あんたの言い分はよく分からないが、俺はあんたに誠意を示せばこの場は収めてくれるんだな」
「おうよ、物分かりがよくて助かる」
「なら場所を変えよう。ここだと受付嬢や他の冒険者の目がある。出来れば人に見られていない場所で渡した方があんたも助かるだろう?」
「お前は本当に物分かりがいいなぁ。そうそうお前みたいにちゃんと謝れる奴が長生きすんだ」
そう言うと男はナイフを突きつけたままギルドを出ると、人通りのない裏路地へと俺を連れていく。俺も抵抗せずそのまま裏路地へと入っていった。
バンっとギルドの扉が勢いよく開かれた。ナナカは大きな音を出しながら入ってきた者をメガネ越しに睨む。
「あまり強く扉を開かないでください。壊れたりでもしたら直すのはギルドなんで……」
ナナカはそこまで言うと受付嬢は口を閉じる。そこに立っていたのは顔に傷をつけた大柄な男であった。しかし、ナナカが言葉を失ったのはその男の顔色であった。
その男は文字通り顔を青色に染まり、汗を滝のように流している。
ナナカはどうしたのかと男に話しかける。
「どうしたんですか!? どこか怪我でもしてるんじゃ!?」
ナナカがそう言って冒険者に近づいて確認するも怪我一つ負っていなかった。大丈夫だと分かり、一息つくと男が手を差し出してくる。
「どうしたんですか? これは……冒険者プレート?」
ナナカは差し出されたプレートを受け取る。すると男は震えた声で話し出す。
「お……俺は……ぼう……冒険者辞める……」
「……え?」
男はそう言うとナナカに頭を下げる。
「俺、今までア……アイアンの冒険者からベリスをう……奪ってました……」
「きゅ、急になんですか……?」
「だ……だか……ら……い……今から自首……してくる」
「あっ! 待って! …………行っちゃった」
そう言うと男はギルドから走って出ていく。ナナカが呼び止めようとするがそれを無視して駆け出して行った。
「もう……いきなりなんなの……」
ナナカは手に持っているプレートを見ながら仕事が増えたことにため息をつくと自らの席へと戻っていった。
ギルドのクエスト
ギルドのクエストは大きく分けて五つに分類される。
それぞれ討伐・調査・探索・捕獲・護衛の五つ