「マリスは……いた」
フランは広場で待つと言っていたマリスを探す。すると広場のベンチで顔を俯けていた。フランが近づいていくとその足音に気付いたのか顔を上げる。
マリスはフランであると分かると顔に笑みを浮かべる。
「おかえり、フラン君。ギルドへの報告はちゃんと出来たかい?」
「あぁ、少しトラブルはあったが無事終わった……ほら」
フランはマリスの隣に座り、そう言うとフランは懐からクエスト報酬を取り出し、マリスに見せる。
「トラブルって?」
「少し冒険者に絡まれてな、あのクエストを受けるつもりだと言っていた」
「あぁ……いるんだよね、自分より下のランクの子から報酬を奪おうとする冒険者。大丈夫だった?」
「俺は大丈夫だ。少しばかり時間はかかったが追い払えた」
「……そうなのかい?」
マリスは視線を自分から外したフランの様子に違和感を持った。しかし、フランはすぐに視線を戻し、この話を続けないためすぐに話題を変える。
「それより、本当にこの報酬を全部貰ってもいいのか?」
「うん、このクエストはシルバーのクエストに連れていってもいいのか知るために僕が受けさせたクエストで、僕も何もしてないからね、気にせず貰ってよ」
「…………」
「ん?フラン君?どうしたんだい?」
「いや……何でもない、ありがとう」
マリスは黙ってこちらを見ているフランにどうしたのかと聞くと、フランは何でもないと言い、報酬を懐に入れる。
「とりあえず、俺達はこれから一緒に行動する事になるが……どうする? シルバーのクエストを受けにいくか?」
「あぁ……その事なんだけど」
マリスはそう言うと申し訳なさそうにしながら切り出す。
「クエストを受けるのは明日からでもいい? ちょっとやらなきゃいけないことがあって……」
「明日から?別に構わないが……」
「ごめんね、僕の事情で……」
マリスはフランに頭を下げ、横に立て掛けていた弓を背中に背負い直す。
「明日からの予定は今日の夜にフラン君達の宿に行くから、そこで話してもいいかい?」
「……分かった。シユリにも伝えておく」
「ありがとう。それじゃあ宿でまたね」
そう言うとマリスは広場から去っていく。その背中が見えなくなるまでフランは手を振る。
「……そろそろいいか」
フランはそう言うとマリスの去っていった方向へと進んでいった……
「それでサフラ……フランは今日一日マリスさんの後を追い続けたんだ」
「そうだ、俺の名前が出ないよう、バれずに監視するしかないと思ってな」
宿屋の部屋にて、フランはシユリに今日の出来事を話す。するとシユリはフランの足から頭の頂点までを下から見ていく。するとシユリはゆっくりとその口を開く。
「……あの、フラン?入ってきた時にも思ってたんだけどね?」
「何だ?」
「入ってきた時はフランが何をしてたのか知らないからあまり、触れないようにしてたんだけど……」
そこまで言うとシユリは意を決して口にだす。
「なんで……なんで尾行でそうなるの!?」
シユリの目の前に立っているフラン。そのフランの姿を見てシユリは大きな声で疑問を問いかける。
目の前に立つフランは頭から大量の血を流し、その鮮血で髪を赤く染めている。服はびしょ濡れになっていた。
「最初はクエストに行った時に怪我したんだと思ってたんだけど……」
「俺はブロンズランクのクエストでは怪我をしない。これは尾行している最中に起きたトラブルによるものだ」
「……何があったの?」
自分はブロンズランクのクエストで怪我をしないと訂正をする。シユリからすれば尾行で怪我を負う方が嫌じゃないのかと思ったが、その怪我の原因を知らなければそう言う事も出来ないと考え、フランに話の続きを促す。
「マリスと別れた後、俺はマリスに気付かれないように隠れながら尾行した」
「うんうん、そこまでは分かるよ?」
「そして色々あって……こうなった」
「だからその色々が聞きたいんだけど!」
「そうだな……時間がないから起きた事だけ話すが、頭に花壇が降ってきた後に階段を踏み外し転がり落ち、炎の魔法が後ろから飛んできて、それを避けようとして、婆さんの水撒きをしていた地面で足を滑らし、川に落ちたんだ」
「そ、それは凄いね……フランって運悪いの?そうだとしても悪すぎだと思うけど……」
あまりの不幸の連続にシユリも驚く、シユリはフランに不運であるのかを聞くと、フランは考え込む様子を見せ、口を開く。
「確かに不運が重なり過ぎている気もするが、元から俺は運が良くなかった。そこまで気にする事でもない」
「そんな事あって普通にしてるって普段どれだけ不運なの……?」
「しかし、マリスへの尾行だけはバレなかった。不幸中の幸いというやつだな」
よかったよかったというような様子のフランにシユリは本人が気にしてないのならいいかとそれ以上聞くことは止めた。するとフランは本来の話に戻す。
「とりあえず話を戻すが、今日一日マリスを尾行していたんだが、とりあえず分かった事が一つある。マリスは俺の事を街の中に流すつもりはないようだ」
フランが言うにはマリスは人にサフラの事を言う素振りすらなく、それどころか人……というより冒険者と会話する事を避けていたという。
「そもそもギルドに行きたくないと言っていた辺り、……人との会話が苦手……もしくは話したくない理由があると思う」
「会話が苦手ではないんじゃない? 初対面の私達とちゃんと会話できてたよ?」
「……やはり、何かあるんだろう、人と会話したくない理由が」
「……マリスさん、何があったんだろう……」
「まぁ、本人に聞ければ一番なんだろうが、マリスは冒険者同士の仲に一線を引いている。聞いたところで答えは返ってこないだろう」
「そっかぁ……」
シユリは顔を俯かせてしまうが、すぐに顔を上げ、よし!と気合いを入れ直した。その様子を見てフランも話を進める。
「俺達のやらなきゃいけない事の内の一つは根本的な解決はしていないが、とりあえずもう一つの目的の達成を目指す」
「魔術書の購入と私の冒険者登録だね!」
「そうだ。そのためには最低でも50万ベリスは必要だ。今日のクエストで報酬と素材を売った分で約5000ベリスは稼ぐ事が出来た」
「ブロンズランクのクエスト100回分……果てしないね……」
「あぁ、そこに宿代などもかかるから、さらにこなす必要があるだろう。だからこそシユリ……今日はどうだった?」
そう言うとシユリは胸を大きく張り、自信に満ち溢れた顔で答える。
「ふふふ……なんとすぐに合格を貰えたよ!明日からは私もサ……フランの役に立てるよ!」
「そうか……良かったな」
「……もっと驚いてほしいなぁ」
「……すごく驚いた。正直受かる訳がないと思っていた」
「…………」
「…………」
二人の間に微妙な空気が流れると、さすがに良くなかったかとこの空気を作り出したフランがいち早く話を切り出す。
「……とりあえず、俺達はそれぞれの方法でベリスを稼いで行こう」
「……うん! 頑張っていこう!フランも困った事があるなら言ってね!力になるから」
「……それなら一つお願いをしていいか?」
「えっ!うん!何でも言ってよ!この私が何でも解決して見せるよ!」
「なら、この後ここにマリスが来ることは言ったな?」
「うん、明日からの事について話すんだよね?」
「そうだ。だからシユリ……」
そう言うとフランは背中を向けてシユリに伝える。
「俺の頭についた血をお湯でとってくるから、しばらくマリスと話しててくれ。さすがにこのまま話すとマリスから俺に対する心証が悪くなる可能性がある」
「……そうだね!まずはそこからだね!行ってらっしゃい!……ん?」
そう言うとシユリはマリスの背中を押して行ってこいと伝える。その服は濡れている。そこでシユリはある疑問が浮かんでくる。
「そういえば花壇が落ちてきた後に川に落ちたんだよね?何で頭の血がとれてないの?」
そう言うとフランは答える。
「ん? あぁ、それは川に落ちた後に上がろうとしてる時に、川に向かって水切りをしていた子供の石が頭に直撃したからだ」
「……まだ終わってなかったんだ」
フランの不運は終わったんだと思っていたシユリはそこにさら追撃が入っていた事にかわいそうという感情を超えて恐怖を感じ始めていた。
「……ねぇ、本当に大丈夫?何かに呪われるような事した?それか罰当たりな事とか……」
「そんな事はしていないと思う。まぁ呪われるような事をした事はないというと嘘になるが……まぁ、気にしても仕方がない事だ。それじゃあ頼んだぞ。出来る限り早く戻ってくる」
「……あ、これなら……フラン!ちょっと待って!」
「ん?」
フランはそう言って出ていこうとする。するとシユリは何かを思い付いたのか。それを止める。フランはシユリが何を言うのか耳を傾ける。
「今日はマリスさんと会話してないんだよね?」
「必要な事以外は話してないな」
「マリスさんはフランがどういう人間か分かってないって事だよね?」
「まぁ、そういう話になる前に止められたからな、分かってないと思う」
「なるほどね……」
そう言うとシユリは少しばかり考え込むと、自分の中で考えが纏まったのか顔を上げる。
「フラン、今日のマリスとの話し合い、私に任せてくれないかな?」
「……何か考えがあるのか?」
フランはシユリが何かの考えがあって提案してきていると思い、その真偽を聞く。するとシユリは大きく頷く。
フランはその目を見て中途半端な気持ちでやっているわけではないと感じた。
「……分かった、今日の話し合いはシユリに任せる」
「うん!そうこなくっちゃ!じゃあフランはゆっくり湯船に浸かってきて!それと出来れば今日は私とマリスさんの二人にしてほしいんだけどいい?」
「二人で?」
「うん、二人っきりじゃないと出来ないの!」
「…………そうか。なら今日は野宿をする事にする」
「ごめんね……だけど絶対にフランの役に立つことだから!」
「何をするのか分からないが……頑張れ。もし失敗しても何とかしてみせる」
フランはそう言うと部屋を出る。彼は部屋の中にいるシユリに対して少しの不安を感じたが、もし失敗してしまった時は自分が何とかすれば良いと考え、フランは湯屋へと足を進めるのだった。
「はぁ、まさかここまでとは……本当にリウムの言うとおり呪われているのかもしれないな……」
俺は今、今日落下した川へと来ている。俺はその川の水を掬い、頭にかける。冷たいその水が俺の頭についている鮮血を洗い流す。俺はしばらくそうして血を洗い流す。髪や顔についた血が大体無くなった為、俺は川から上がり、地面に腰かける。
「まさか湯屋に向かう道中で頭に花瓶が落ちてくるとは……今度から二階のある建物の横を通るときは注意しよう……」
俺は空を眺めながら今日の出来事を振り返った。
(今朝やモンスターと戦っている時は特に普段と変わらなかった……変わったのはマリスを尾行し始めた時……?)
俺は今日の出来事がただ事ですまされる事ではないと気付いている。いくら自分が不運だとはいえ、ここまでではなかった。その上その日一日ではなくマリスを追い始めてから変わり始めた。俺はこの事に何か関係があるのかもしれないと思った。
(だが、今日一日マリスに張り付いたが特に怪しい動きもなかった……となると考えられるのは……)
「サフラ・ラークス」
そう俺が考えていると、俺の背後から声をかけられる。それは低い男の声であった。俺はそれを聞いて極めて冷静に答える。
「俺はフランだ。フラン・ロッカス。サフラ・ラークスって名前じゃない」
「ふん……意味のない事を……貴様がサフラ・ラークスである事は分かっている。時間を無駄にするな」
どうやら俺の背後にいる男は俺の正体に気付いているようで、これ以上の芝居は無駄だと告げてくる。俺も時間を無駄にしないためにさっさと認める事にした。そうして俺は背後に視線を向ける。
その男は身体全体を大きなローブで隠している。夜の暗さもあり、ローブの中を覗き見ることは出来なかった。しかし、唯一ローブから出ている手を見るとその手には大きな剣が握られていた。
「……何だ?一体俺に何の用だ」
「用件は一つ。貴様の持ち出した禁書……それを私に渡せ」
「禁書?」
「そうだ。お前がヤブツギから持ち出したあの本だ。どこにある?」
「……今は持っていない」
俺はそう言うと何も持っていないとアピールするために手を上げて何もないと伝える。そう言うと男は俺が本当に持っていないと知ると、続けて聞いてくる。
「……どこにある。言え」
「言ってもいいんだが……その代わりにあんたに一つ……いや二つほど聞いてもいいか?」
「……何だ?」
俺は驚く。俺からの要求など聞く耳など持たないと思っていた。俺は疑問に思っていた事を聞くことにした。
「あんたは禁書を手に入れたとしてどうするんだ?」
俺がそう聞くと、男は数秒黙るとすぐに答えを返す。
「……あるべき場所に戻すだけだ」
「そうか……じゃあもう一つ、あの禁書は何だ?」
俺はこの質問で確信した。この男は確実にあの禁書について知っている。俺はさらにもう一つ踏み込んだ質問をする。すると男は口を開く。その手に握っている剣先を俺の胸に向けながら
「……それをお前が知っても意味はない。さっさと禁書の場所を喋ろ。さもなくばお前が場所を吐くまで私が与えられる苦痛という苦痛を与える」
「そうか……分かった。案内する」
「分かればいい。早く禁書の場所にまで案内しろ」
俺はそう言うと手を上げたまま歩く。背中をこの男に向けながら歩いていく。しばらく歩いているとある場所についた。
「ここに俺は禁書を埋めてある」
「こんな広場にか?」
「あんな無駄に嵩張るものを持ち続けるのは無理だからな」
「ふん……にしてもずさんな隠し場所だ。さて、どこに埋めた。早く掘り出せ。それと妙な真似はするなよ? 貴様が剣に手をかけた瞬間私は貴様の腕を切り飛ばす……」
俺が案内したのは広場であった。男は俺の事を鼻で笑いながら俺に禁書を取り出せと命じてくる。俺は広場の奥にある一番大きな木の下に向かう。そこで俺は止まる。そして懐に手を伸ばす。俺は後ろにいる男に話しかける。
「ここなら少しは大丈夫か?」
「……急に何を……ッッッッ!?」
俺は男に対して懐から取り出したものを投げつける。男は飛んできたそれをすべて弾き落とした。俺はその隙に男から離れ、腰にある剣を引き抜く。
「これは……刃物の欠片……?」
「あの男のナイフの欠片……捨てようと思ってずっと袋に入れて持っていたが、まさかこんな所で活躍するとは」
俺は心の中で昼間に出会った冒険者を思い出す。あの男が俺に絡んできていなかったら少し困った事になっていたかもしれない。
男は俺に向き直り剣を構える。
「貴様……私を謀ったのだ……相応の対価を支払ってもらうぞ……」
俺も剣を構え、男に向かい啖呵を切る。
「俺もあんたに聞きたい事がある。悪いが手加減をするつもりはない。本気でやらせてもらう。」
「ふん…来い……」
俺はその声を合図に駆け出す。一対一の真剣勝負。その始まりは……
「あ」
俺は足元にあったおそらくこの木からなったであろう木の実に気付かずに踏みつけ、俺は盛大に転び背中を打ち付ける。
「………………」
「………………」
その場にはなんともいえないような空気が流れる。
……本当に今日は運が悪いな
サフラ・ラークス
サフラは命に関わるものに対する感覚は鋭いが、命に関わらないと感じたものにはその感覚が働かない。所謂死ななきゃ無傷というものである