モブオペでひたすら妄想を垂れ流す:ヴァルポ編 作:へまるてぃ
初めてのハーメルンの投稿なので、気が付いたことがありましたら教えていただけるとありがたいです…
初めて会った時よりも雰囲気が変わった気がする。何というか、ほんのりと女性らしさがにじみ出ているような。
医務室を訪れたヴァーミルをあらためて目にした瞬間、ススーロはそう感じた。人目をはばかるように少し背中を丸めた仕草が、なおさら女の子っぽい雰囲気をかもし出していたのかもしれない。
「ススーロ……今、少し話せるか」
少し言いづらそうにヴァーミルは口を開いた。
「かまわないよ、どうしたの? 体調が悪いならカルテのデータを準備するけど」
ヴァーミルの
やんちゃで可愛い後輩、といったところか。とはいえ、身長は10センチほど越されているのだけれど。
「いや、その、具合が悪いとかじゃねぇんだ。ただちょっと聞きたいことがあって……ススーロなら、口も堅そうだからな」
「いいよ、他の人には聞かれたくない相談なんだね。私の部屋に行こうか。ルームメイトは外勤任務で明日までいないから」
相談事は鉱石病ではないらしい。いったい何なのだろう。まあとにかく、相談事をしてくれるほど頼られているのは嬉しかった。
「悪い。今度メシでもおごる」
「そこまでしなくてもいいよ」
「いや、でも……」
ぴこぴことヴァーミルの頭上の耳が不安げに揺れる。表情もなんだか申し訳なさそうだ。
「ああ、それならそこの自販機でジュースでもご馳走してもらおうかな。相談を聞くお礼ならそれで充分だから、ね?」
話をしている間に喉も乾くだろうし、飲み物はあったほうがいい。なおかつヴァーミルの気がすむなら、ちょうどいいだろう。
ジュースを買ってもらい、ほどなくして自分の部屋に着いた。
「さ、入って」
自分はベッドに腰かけ、ヴァーミルにはデスクの椅子に座ってもらう。
ヴァーミルは落ち着かない様子で足をぷらぷらさせながら、ひと口ふた口とさっき買ったスポーツドリンクを口に含んだ。
「実は……相談ってのは、ちょっと言いにくいんだけどよ……」
「大丈夫、絶対に秘密は守るよ。医者には守秘義務があるからね」
「――痛くてチ〇コが入らない時って、どうしたらいいんだ?」
「えっ」
ちょっと何言ってんの。
それってあれだよね、間違いなくセックスのことだよね。
ヴァーミルってまだ女の子だと思ってたけど、もう大人の階段登っちゃったわけ? 大丈夫? 大人の階段を2段飛ばしで駆け上がってない?
「一応確認だけど……その、セックスの話だよね」
「おう」
おう、じゃないよ。君は私よりもいくつか年下なんだよ。
「一応だけど……相手って誰か聞いてもいい?」
荒野で育ったヴァーミルは、都市の常識が少し足りないところがある。相手のことを聞いたのは、もしかしたら悪い大人にダマされているのかもしれない、という心配があったからだ。
「ハイゼ、って奴だ。前に任務で一緒になってから、少し仲良くなってさ」
はて、ハイゼとはどんな男だったか。名前は聞いたこともあるような気がするけれど、顔は思い出せない。
患者なら覚えているはずだから、おそらくハイゼという男は医療部にはあまり来ない非感染のオペレーターなのだろう。
「ちょっと待ってね」
タブレット端末を開き、医療オペレーター権限で個人情報を閲覧する。ちなみに自分の権限で閲覧できるのは第一資料までだ。
【コードネーム】ハイゼ
【種族】ヴァルポ
【職業】前衛
【鉱石病感染状況】メディカルチェックの結果、非感染者に認定。
【能力測定】戦闘能力、アーツ適正とも標準的。
【第一資料】特に突出した能力はないが、勤勉に任務に取り組む姿勢は他のオペレーターからも評価されている。
愛刀での物理攻撃を術攻撃に切り替えるアーツを使用できるが、使用時に「副作用」が発現する。
周囲のオペレーター(特に女性)に影響を与える可能性があるため、編成には考慮すること。
――女性オペレーターに影響を与える、副作用?
このプロファイルに書いてある副作用とはいったい何なのだろう。医学生時代にもそんな症例は聞いたことがない。アーツを使用すると発現するということは、アーツ学に詳しい人なら知っているかも。時間があったら調べてみよう。
「……それ、ハイゼの情報か」
「あっ、見ちゃダメだってば」
いつの間にか隣に来ていたヴァーミルが端末をのぞき込んでいた。しまった、考え事に夢中になてて気づかなかった。これは本来医療オペレーターしか閲覧できない個人情報だから、他のオペレーターには見せちゃダメだったのに。
「そういや、ハイゼも言ってたな。戦闘中は女には近づかないようにしてるって」
「そうなの? 理由も言ってた?」
好奇心からつい聞いてしまった。医療オペレーターとして、聞いたことのない症例はつい調べたくなってしまう。
「アーツを使う時、近くに女がいちゃいけないって言ってたぜ。よくない影響があるってさ」
「よくない影響……?」
「ハイゼは詳しく言わなかったけど、たぶんオレにはわかる。アイツがアーツを使ったとき近くにいたからな。初めてアイツと一緒になった任務で、オレが盾持ちの敵に囲まれてどうしようもなくなってた時……アイツが助けに来てくれたんだ」
盾持ち、ということは敵に重装がいたのか。重装には術攻撃のできるオペレーターがいないと対処は難しい。ヴァーミルの武器である弓矢が効きづらいから、その時は相当なピンチだったに違いなかったはず。
「すごかったぜ。アイツがアーツを使ったら、盾持ちの装甲をバターみたいに切っちまうんだ。でもアーツを使うと消耗も激しいのか、相当キツそうだったな。オレも手を貸してやればよかったんだが……。クソっ、あの分厚い装甲にオレの矢が通じればよかったのによ」
ヴァーミルの顔が悔しさで歪む。敵との相性があるから仕方ないとはいえ、自分が力になれかったのは相当悔しかったに違いない。
「それは大変だったね。彼は特殊なアーツを使っていたのかな」
「どうだろうな、オレはアーツに詳しくねぇし。ただ……」
ヴァーミルが口ごもる
「ただ?」
「アイツがアーツを使ったあと、なんだか、その……『熱』が出ちまって」
「熱……? ああ、そっちの『熱』か」
――女性オペレーターに影響を与える、副作用。
副作用の正体がなんとなくわかってきた。おそらくハイゼのアーツ使用による副作用は、近くにいる女性オペレーターの発情を促すものじゃないだろうか。フェロモンのような物質が出ているのかもしれない。
種族による違いはあれど、誰でも発情期はある。ちなみに「熱が出る」というのは「発情期が来た」の隠語だ。
発情を抑える薬はあるけれど、効き目には個人差があるし、中には薬を飲みたくないと訴えるオペレーターもいる。
だから発情期にはパートナーを見つけて「発散」するというのは決して珍しいことではない。ロドスは陸上艦船という閉鎖的な環境だから、そんな行為も推奨こそされないが容認はされていた。シャワールームとベッドを備え、そういった目的に使う「活動室」も整備されているくらいだから。
「盾持ちをぶっ倒したハイゼは、それからオレの手当てをしてくれた。アイツは非感染者なのに、何のためらいもなくオレの傷口に触れてたんだ。その手つきがなんだか優しくてさ……」
ヴァーミルの体表には原石がはっきり露出している。ひと目で感染者だとわかったはずなのに、非感染者のハイゼは気にせず傷の処置をしたということか。ロドスに籍を置く者なら鉱石病に差別意識は持っていないだろうが、それでも非感染者なら感染を恐れるはずだ。
「『オレは感染者だ、傷や血を触ってアンタは大丈夫なのか』って聞いたんだよ」
「彼は、何て言ったの?」
「『問題ない、応急処置くらい当然のことだよ』って、アッサリ言いやがった」
ヴァーミルの表情がゆるむ。
ああ、これはたぶん、だいぶ彼の事を気に入ってるに違いない。
だってもし私も同じようなシチュエーションになったら、心が動いてもおかしくないと思うし。
「それは……すごいね。いくらロドス職員でも、非感染者なら防護措置をしっかりしてから感染者の治療にあたるのに」
「アイツはそんなの気にしてなかった。手当ての間、少し話をして。それからなんだか……アイツのことが気になってさ」
「気になって? 『好きになって』の間違いじゃなく?」
「ばっ、ち、ちげーよ!」
頬を赤らめてヴァーミルは否定する。そんなに照れていたら説得力なんてまるでないのに。
「任務から帰った後、一緒にメシを食ったんだ。ハイゼは少し酒も飲んでた。それから……その、勢いで……」
口ごもるヴァーミルは耳まで真っ赤だ。言わずともその後、何をしたのかは想像がつく。
「熱に浮かされて、つい一線を越えちゃったわけだね」
こくん、とヴァーミルは小さくうなずく。
「でも……うまくいかなかったんだね」
また小さくヴァーミルがうなづいた。頭上に耳がへにょりと倒れて、落ち込んでいるのが見て取れた。
「アイツの……すごくデカくてさ。オレの手首くらいあった。どうしても入らなくて泣きそうになってたら『やっぱり君にはまだこういう事は早いのかもしれないね』って言われちまって……」
きゅっとこぶしを握りしめるヴァーミルの声は、なんとなく湿っぽい。
「アイツは優しくしてくれたし、アイツは悪くねえ。でも、オレには残された時間がどれくらいかなんてわからねえ。まだ早い、って言われてもよ。のんびり待ってるワケにはいかないだろっ」
ヴァーミルの思いは真剣だ。ならばこちらも先輩として、医者として、同じ女として。彼女の想いに応えるために、真剣に答えを考えないと
「うん、何かいい方法がないか考えておくよ。頑張って打ち明けてくれたんだし、私もそれに応えないとね」
「ありがとよ。……悪い、変な相談しちまって」
気にしないで、と伝えてからヴァーミルを見送って。
自室のドアが閉まってひとりになった瞬間、なんだかどっと疲労感が押しよせてきた。
ヴァーミルの相談にはなんとか余裕を持って対応できた……と思う、たぶん。正直なところ内心穏やかじゃなかった。まさか自分より年下(身長は越されているけど)のオペレーターから、セックスについての相談を持ち掛けられるなんて。
私だって、まあ……医学生時代にちょびっと経験はあるけれど、ロドスで働くようになってからパートナーを持ったことはない。医療部の仕事が忙しかったというのもある。
周りの男性オペレーターの中には、複数の女性オペレーターと関係を持っている人もめずらしくない。とはいえそれは複数の恋人を持っている、というわけじゃない。あくまで発情期のストレスを発散するための、身体だけの関係。
あのハイゼって人はどうなんだろう。感染者に優しく接してくれるような人だから、たぶん女性からけっこう人気があるのかもしれない。
もしかしたら、感染者である自分にも優しくしてくれるかも……なんて期待しちゃったり。
でもさすがにヴァーミルには言わないでおこう。後が怖いから。
次回はススーロ編です。