申しわけないですがどうか読者様の妄想で補ってください……
がぁんっ、金属どうしがぶつかり合う音が訓練室に響きわたる。刀が鉄製のシールドを打ち付けた衝撃音。訓練用のため切れ味は落としてあるが、それでもまともに喰らえば無事ではすまない。
刀を振るうのは前衛オペレーターのハイゼ。シールドを持ちその衝撃を受けるのは重装オペレーターのジュナー。
「それで終わり!? そんな攻撃じゃ私の盾は絶対に貫けないよ!」
くっ、とハイゼは奥歯を噛みしめた。戦闘経験が自分より上のジュナーには、やはり単純な斬撃だけじゃダメか。
突きと見せかけたフェイント。すぐさま横なぎで切り込む。盾をずらして隙を作れれば――と思ったが、ジュナーはよろめきすらしなかった。
普通の攻撃じゃジュナーの盾は貫けない。練度でも威力でも劣るなら、なおさら。
「アーツを使いなよ。それともビビってるわけ!?」
「まさかっ」
そんなことはない、とは言い切れなかった。
自分のアーツの副作用くらいは把握している。斬撃の威力を増して術攻撃の効果を持たせる代わりに、周囲にいる女性オペレーターの発情を促してしまうのだ。
女性の近くでアーツを使うのは禁忌だと、ケルシーから直接注意を受けたこともある。 だから本当はアーツを使いたくないのだ。訓練相手のジュナーにも副作用の影響が出てしまうから。
「
獰猛な獣のようにジュナーが攻め込んでくる。今回もか、とハイゼは心の中で苦笑いした。ジュナーは俺にいつもアーツを使うよう仕向けてくるのだ。訓練のたびに、必ず。
アーツを使えば、その副作用でジュナーはおかしくなる。本能を抑えられなくなる。だから本当はあまりアーツを使いたくはないのだけれど。
「訓練だからって手を抜くと思った? 残念。訓練で手を抜くほど私は優しくないわ。それとも――もっと追い込まないと本気を出してくれないの?」
ぶぉん、と不穏な音を立ててジュナーの刀が光る。電流とアーツを纏った刃。あれをまともに喰らったら、ススーロのアーツでも治らないかもしれない。
「今、よけいなこと考えたでしょ! 私を相手に舐めたマネしないで!」
電流を帯びた刃で切られたらただではすまない。ギリギリ身をひねってかわす。
このままじゃ勝てるわけないな。いや、勝つかどうかなんて問題じゃない。倒さねばこちらが倒されるのだ、間違いなく。
「どうなっても知りませんよっ」
刀を握る手に力を込める。アーツを放出したせいで燃えるように体が熱くなったが、すぐに体外に放出された。
たぶん、この時だ。アーツに込められた副作用が発現するのは。至近距離にいるジュナーはまともにこの副作用を浴びてしまったはず。
「あぁ……いいね。ほら、早く来なよ! 私のことを切り裂いてよ!」
ジュナーの瞳がこちらを捉える。いつもとは違う、ドロドロとした光をたたえながら。
長引かせたらマズい。ジュナーはアーツの副作用浴びて冷静さを失いつつある。制圧するなんてまず無理だ。
ならば、イチかバチか。アーツの出力を最大まで高めて、刀身を地面と水平に突き出した。渾身の突き。これでダメならもう打つ手なしだ。
切っ先がジュナーの盾にぶつかる。それは弾かれることなくジュナーの盾にすっと突き刺さった。とっさにジュナーは盾をずらし、突き抜けた刀身が自分に突き刺さらないように対処した。
突きを放った勢いを殺しきれず、ハイゼはジュナーの盾に体をぶつける。衝撃で体がよろめいた。まるで岩の塊にぶつかったみたいだ。
「残念。盾を貫いたまではいいけど、スキだらけよっ」
ジュナーは素早く踏み込み、鋭く足を振り抜いた。腹部を狙った蹴り。目にも止まらなぬ速さで繰り出されたそれを、よけられるはずもなく。
「ぐうっ……!」
ずざざっ、と引きずるような音を立てて吹っ飛ばされてしまった。骨は折れていないとは思うが動けない。おそらく多少は手加減されているんだろう。いくら戦闘経験が違うとはいえ、情けないかぎりだ。
「体のさばき方はまだ甘いけれど、突きの鋭さは悪くなかったわ。もっとアーツを練習したらいいのに」
「……俺のアーツは奥の手なんだよ。特に女性のそばでは使うなって言われてるから」
「誰に言われたの?」
「ケルシー先生。俺のアーツの副作用に最初に気づいたのは先生なんだ」
ジュナーはほんの少し眉をひそめる。険しい表情でつかつかとこちらに歩み寄ってきたかと思うと、いきなり地面に組み伏せられた。
こっちは蹴り飛ばされて弱っている。軍人上がりのジュナーなら、拘束するのは朝飯前だろう。
「……私は今ね、すごく昂ぶってる。気を抜いたら冷静さを失いそうになる。ケルシーの――他の女の名前を聞いただけで、なんだか腹が立って仕方ないの」
「なら、こうして俺にアーツを使わせるのはやめてほしいんだけど」
ジュナーの荒い息づかいが耳元にかかった。まちがいなくアーツの副作用でおかしくなっている。まるで飢えた獣のようだ。
こうして訓練でアーツをジュナーに使うよう仕向けられるのは、もう何十回目がわからない。この後は『活動室』に連れていかれるのが定番だ。
「さあ、行こうか。さっさとシャワー浴びて……訓練の続きをしなきゃ」
ようやく解放されて、なんとか立ち上がる。ジュナーの尻尾がわさわさと落ち着きなく揺れていた。
ちなみに『活動室』とは、発情期になったオペレーターが発散するために使う、ベッドとシャワールームを備えた部屋のことだ。相部屋の多いロドスでは異性をしょっちゅう連れ込むわけにもいかないので、そんな設備も必須となっている。
まあ――初めてジュナーとの訓練でアーツを使った時は、我慢しきれなくなった彼女に襲われてそのまま訓練室で致してしまったわけだが。訓練室には安全管理のための防犯カメラが付いていたが、ジュナーはその死角を知っていた。
みんなが使う訓練室でこんなことをするなんて、と正直焦ったけれど。背徳感は興奮をさらに高めるスパイスになってしまったみたいで、結局3回もしてしまった。
事後の臭いで鼻のいいオペレーターに感づかれそうになったから、さすがにもうやらないけど。
足早に活動室へと移動する。一歩前を行くジュナーに置いて行かれないよう、揺れる彼女の尻尾についていく。
活動室の部屋にはロックがかかっていた。ジュナーは自分のIDカードをかざしてロックを解除する。
ちなみに活動室は運よく空いていればすぐ使うこともできるが、基本は予約制だ。
「ジュナー、もしかしてあらかじめこの部屋おさえてた?」
「……言わせないでよっ」
ちょっと照れた表情。いつもの頼りがいのある時や、訓練中の凛々しい表情とのギャップのせいか、ついドキッとしてしまう。
照れ隠しなのかそれとも待ちきれないのか、ジュナーはさっさとシャワーを浴びに行ってしまった。とりあえずその間は少し体を休めよう。
アーツの副作用で火照った彼女は、一回で満足することなんて絶対にないのだから。
【22:15 ロドス本艦 地下エリア 第6活動室】
安っぽいシーツにお互いの地肌をさらし、ふたりは事後の気だるさに身をまかせていた。空調の風があたれば、火照った身体が冷めて気持ちがいい。
活動室は使用時間が決まっている。使用時間ギリギリまでこうして一糸まとわず身を寄せて過ごすのは、お決まりの流れになっていた。
「そういや、あなたヴァーミルとも仲いいんだっけ」
いきなりの話題にハイゼの心臓が跳ねる。まさかピロートークで他の女性オペレーターの話題が出るとは。
ジュナーとは身体の関係を持ってはいるが、将来を約束した恋人同士というわけではない。種族に差はあれど、発情期になればそれを発散する必要が出てくる。だから場合によっては複数のパートナーを持つことは、このロドスでは珍しくないのだ。
「まあね。前に任務で一緒になった時、盾持ちに囲まれてたのを助けたことがあっ
たんだ。それから仲良くなったよ」
「仲良く……ってのはどのくらい?」
「どのくらい、って言われてもなあ」
どこまで話したらいいものか。正直なところ、もう何度も関係を持っているわけだが。ヴァーミルは見た目こそ幼く見えるかもしれないが、かつては荒野でたくましく生き抜いてきたハンターだったのだ。
守られてばかりの子どもとは違う。少なくとも、本人の求めがあれば――まあ、身体の付き合いくらいはする仲だ。
「あんたのそのデカさじゃ、お子様には厳しいんじゃないの?」
「まあ、それは……意外となんとかなるもんさ」
詳しいことはさすがに話せない。前がダメなら後ろを使えばいいだろ、なんてヴァーミルから言われた時はさすがに驚いたけれど。
「……ねえ、もしかして。年上の私よりも、若い女の方がよかったりする?」
不安そうに瞳がゆれる。年下のオペレーターに俺を盗られてしまう、なんて不安になっているんだろうか?
たしかにジュナーは俺よりもいくらか歳上だ。彼女はロドスに来る前、クルビアの軍に数年所属していた。軍を辞めた後はいろいろな職業を転々として、それからロドスの教官になっている。
ということは、今は何歳なのか――やめておこう。少なくとも俺みたいな若造より、戦闘経験も人生経験も上なのは間違いないというだけのことだから。
「少しくらい歳が上だからって、それがなんだっていうんですか。ジュナーは俺から見ても、誰からみても魅力的な
「じゃ、じゃあ教えてよ。私のどこが魅力的だっていうの?」
「面倒見のいいところ、みんなにお菓子をあげる優しいところ、意外と私服が可愛いところ。ああ、それと……」
「……それと?」
「胸が大きい」
バカっ、とジュナーに怒られた。照れたように笑顔で優しく られると、なぜだか逆に嬉しくなってしまう。
まあそこは大目に見て欲しい。男ってのは、たとえ口では貧乳好きだと言っていても、ふかふかのおっぱいに触れたとたん巨乳好きになるものだから。
「別にさぁ、あなたが他のパートナーを持つのはかまわないよ。正直なところ、発情期は薬で抑えこむより一発ヤってすっきりした方がよっぽど健全だと思うし」
「そう思うよ。トラブルさえなければ」
発情期は薬でも抑えることができる。製薬会社のロドスならその薬は簡単に手に入る。でも、薬を使うことを自然の摂理に反すると嫌う者もそれなりにいた。
身体だけ繋がるためのパートナーを複数持つ者も多くいるし、スポーツ感覚で発散させる者もいる。
そうやって恋愛感情抜きで割り切った関係であれば、トラブルが起こる可能性は比較的低いのだが。色恋沙汰と刃傷沙汰がたびたび起こっている、というのが実際である。
「ねぇ、他にパートナーを作るのは構わないけど、ぜったいに私には教えてね」
「えっ、それはどうして」
ジュナーが両腕を絡めて抱きついてきた。絶対に離さない、とでも主張するかのように。
「教えない理由なんて、ないよね。あるわけないよね。だって、ハイゼは私のパートナーだもの。別に一番でなくていいよ。他の女の子と寝てもいいの。でも――」
「……でも?」
抱きつかれているせいで、ジュナーの豊かな胸部装甲が密着しているわけだけれど。普通ならご褒美といえるシチュエーションなのに。
やけに重たい彼女の声のトーンのせいで、どうしてもその気になれなかった。
「私のことが面倒くさくなったり、邪魔になったりしたわけじゃないんだよね」
「そ、そんなわけないって」
抱きしめられた体がみしり、と音をたてる。骨を折られるんじゃないか? なんて不安が脳裏をよぎった。
「絶対に、私を裏切るようなことはしないでね」
ヴァーミルとススーロのことが脳裏をよぎる。
「もし私のことを切り捨てて他の女を選ぶっていうなら、そいつのことぶっ殺すから」
ジュナーの目は、ちっとも笑っていなかった。
ついヤンデレっぽい要素を入れてしまうのは作者の悪い癖。
次はパフューマ―の予定です。