気だるい身体をひきずっていつの間にかたどり着いた場所は、ふんわりと土の匂いがする療養庭園だった。
ジュナーに絞られるのは疲れがひどい。訓練でしごかれたうえにベッドの上でもしごかれるのだから。
深く息を吸い込む。土の匂いに混じって、ほんのりと青臭い植物の匂いがした。こんな風に植物に囲まれた中で新鮮な空気を吸うのは、いつ以来だろうか。
とにかく身体を休めたい。吸い寄せられるように近くにあった木製のベンチに腰かけた。最近はジュナーとヴァーミルだけでなく、ススーロにも搾り取られる日々。まあ、誘われるがまま断らない自分も悪いのだけれど。
非感染者のジュナーはともかく、ヴァーミルとススーロには気をつかう。もしヘタに断って「感染者の女は抱かないんだね」なんて言われたら……と想像したらそれだけで胃が痛くなる。
感染者だろうが、非感染者だろうが同じロドスの仲間。同じ釜の飯を食う仲間を差別なんてできるものか。
……とまあ、綺麗事を振りかざしたところで、結局自分は複数の女性と関係を持つだらしない男なのに違いはないわけで。そのせいで身体はクタクタなわけで。
疲労と寝不足で変なテンションなせいか、頭はやけに冴えてしまっていた。
「お疲れさま。カンザシグサのお茶はいかが?」
ふわり、と暖かな匂いがただよう。声の主の方を振り返れば、そこには暖かくほほ笑む療養庭園の主がいた。
パフューマ―。このヴァルポの女性は療養庭園の管理人であり、医療オペレーターでもある。
「ありがたい、いただきます」
差し出されたカップを受け取った。温かい飲み物は、疲れ切った心をほぐしてくれる。戦場で暖かい飲み物にありつけるだけで、どれだけ助けられてきたことか。
それにしてもこのお茶、飲んでいたらやたら身体が熱くなってくる。
「なんだかこのお茶……体がぽかぽかしてくるね」
「そうでしょ。元気が出るし冷え性にも効くのよ」
全身の血行がよくなってきたような気がする。それになんだか頭がぼうっとしてきた。おかしいな、やけにパフューマ―さんが色っぽく見えてしまう。
「……ずいぶん顔が赤いわね。熱はないようだけど」
ぴたり、とパフューマ―の手の平がおでこを触る。少しひんやりとして気持ちいい。それにいい匂いがする。身体を傾けてこちらをのぞき込んでくるものだから、ワンピースの胸元からのぞく谷間の部分がやけに目についてしまう。
ヤバい。非常にまずい。大事な部分にやたら血流が集まってしまっている。このままではズボンのチャックがはじけ飛んでしまいそうだ。
「どうしたの? ……ふふ、なんだか苦しそうね」
妖しくパフューマ―が微笑んだ。まるでこちらの愚息が苦しそうにしているのを見透かしているみたいに。
くそ、この調香師スケベすぎる。愚息に血流が集まりすぎているせいか、なんだか頭がクラクラしてきた。
「大丈夫? ……なんだか苦しそう。横になったほうがいいかしら?」
ぽんぽん、とパフューマ―が太ももをたたく。膝枕をしてくれるというのか。けれどもこんなビンビンな状態ではとても眠れそうにない。
「元気になってきたでしょ? カンザシグサはね、滋養強壮の効果があるの。それに私がいろいろ手を加えたから、効果はかなりあるはずよ」
「まあその……元気になった気はします」
元気になったのは身体の一部分だけなんだよなあ。やはりあのお茶には仕掛けがあったか。毒ではないにしろ、ちょっと厄介な代物だ。
「ススーロから教えてもらったの。不思議な効果を持つアーツを使う人がいるって」
「不思議な効果、ですか」
ひとまずオウム返しで答える。パフューマ―はこちらのアーツのことをどこまで知っているのかわからない。副作用のことまで知っているんだろうか?
「同じヴァルポの医療オペレーターだから、ススーロとはよく話すのよ。最近仲良くしているパートナーがいるっていうから、気になっちゃったの」
ああ、これは副作用のことまで聞いているな。じゃなきゃあんな興奮作用のあるお茶をふるまうわけがない。
「しかもこんなに凶悪な武器を隠し持っているなんてね。ねえ、あなたのアーツを使うところを見てみたいんだけど……どうかな?」
こてん、と首を傾けながらパフューマ―は俺のズボンの膨らみを見つめてくる。顔はほんのりと赤い。俺がアーツを使うまでもなく、すでに彼女は発情期に入りかけているんじゃないだろうか。
「別に断ってもいいのよ。でも、私のお願いを聞いたら、お礼はさせてもらうわ。一応サンプルは採取させてもらうけど」
「サンプル……? って、ちょ、ナニしてんですか!」
つい声が出てしまう。パフューマ―がズボンの上から俺の愚息をさすってきたのだ。
ヤバい。非常にまずい。このままでは下着の中で暴発してしまいそうだ。
「やだこれ、デオドラントのスプレー缶くらいあるんじゃないかしら。ふふ、早く解放してあげないと苦しそうだわ」
「それなら……せめて、ベルトを緩めてもいいでしょっ」
「だーめ。アーツを使うところを見せて。でないとこのまま生殺しにするわよ?」
華奢な指がフェザータッチで先端をなでる。くすぐったくて腰が浮いてしまいそうになってしまった。
その手は動きを止めることはない。このままではパフューマ―の思うがままだ。
「わかった、わかりました。今、アーツを使いますからっ」
たまらず降参した。お茶の効果で身体が昂っているせいもあって、このままではおかしくなりそうだ。
剣を握っているイメージを膨らませる。愛刀にアーツを纏わせるイメージ。手のひらが熱を帯びてくる。もし剣を握っていたなら、アーツが剣を包み込んでいただろう。
「何か香りがするって予想してたんだけど……何も香らないのね。あなた自身の匂いがかすかにするだけ。ああ、でもどうしてこんなに心拍数が増えるのかしら。ずっと嗅いでいたくなっちゃう」
すんすんとパフューマ―が鼻を俺の胸に押し付けてくる。なかなかに扇情的な状況だ。
「……アーツはもう見せた。次は君の番だ」
パフューマ―は頬を染めながら、もぞもぞとスカートの中に手を入れ――するりと一枚の布を取り出した。
両端にひものついた、レースで装飾された布。いわゆる「紐パン」というやつだ。
「こんなになっちゃったら……もう履いてる意味なんてないわ」
確かに、パフューマ―が手にしている布地はよく見れば濡れたように色が変わっていた。何で濡れたかなんて、もはや言うまでもない。
こちらがアーツを使う前から、彼女はすでに発情しているような感じがしていた。そこにアーツの副作用が重なったのだから、彼女ももう我慢できなくなっているのだろう。
「こっちに来て。貴重な種やアロマオイルを保管している倉庫があるの。そこは私の権限でしかロックが解除できないから、誰も邪魔が入らないわ」
ぐいっ、と手を引かれる。連れていかれたのは狭い倉庫。もちろんベッドなんてない。
とはいえ、そんなことを気にする余裕なんてなかった。
俺はパフューマ―に盛られたお茶のせいで。
彼女は俺のアーツの副作用のせいで。
理性を失った獣のように、お互いがお互いの理性を溶かし合った。
【am10:05 ロドス本艦 療養庭園 片隅のベンチ】
「……私が医療オペレーターじゃなかったら、一週間は歩けなかったわね」
狭い倉庫の中で、立った状態で。そんな不安定な状態で勢いのまま致してしまえば、身体へのダメージは避けられないだろう。ましてや……自分の場合、人並よりアレのサイズがかなり大きいから。
「立った状態でしたからね。ベッドのあるところだったら、いくらか体の負担は少なかったんだろうけど」
「仕方ないでしょ……私だって、がまんできなかったんだから……」
すねた子どものようにパフューマ―はほっぺを膨らませる。照れたように顔が赤く色づいているせいか、その仕草はやたらと愛おしい。
ぺたり、と彼女は頭上の耳を横に倒す。穏やかな表情で耳を倒すのはリラックスしている証拠だ。そして頭をなでろ、というサインでもある。耳が倒れていた方が頭をなでやすいから。
「ガマズミの実で果実酒を作ったの。見て、綺麗でしょう」
パフューマ―はルビー色の果実酒がはいったガラスの瓶を取り出した。瓶の中には、指先ほどの小さな赤い実がぎっしりと満たされている。赤ワインのような、ぞっとするほど美しい赤。
小さなグラスに注いでもらった果実酒をひと口あおる。
「今度は、もっと落ち着く場所であなたと過ごしたい。誰も来ない、誰にも邪魔されない場所で……どうかしら」
「そうだね。休みが合った時にでも、どこかへ出かけようか」
甘えた声でそう言われてしまうと、もはや断ることなんてできない。それにパフューマ―と過ごす時間は悪くない。
ジュナーのように意外と独占欲が強いということもなさそうだし、ぜひともよき友人として付き合いたい。
こんな穏やかな時間を、せめて大切にしておきたいから。
カンザシグサ 花言葉:あなたを離さない
ガマズミ 花言葉:無視したら私は死にます
次回はループス編を予定しています。