イケメン陽キャなくせに意外と打たれ弱いアラフォーが書きたかったのです。
ロドスに極東風のバーができたらしい。酒だけじゃなく料理にも力を入れており、極東ではそんなバーを「居酒屋」というそうだ。ロドス艦内の活動室を極東風に改装し、あちらの料理や屋台に詳しいマツキリさんが厨房を仕切っているとのこと。
できたばかりの頃はかなり混み合っていたけれど、今は少し落ち着いていると聞いたので行ってみることにした。昨日の任務は大変だったし、自分へのご褒美くらいいいじゃないか。
【pm9:45 ロドス本艦 居酒屋に改装された活動室】
少し遅めの時間を狙ったおかげで、席はそれなりに空いていた。とはいえ、酔っぱらったオペレーターたちの喧噪もほどよく響いている。まあ、その騒がしさをBGMに飲むのも悪くはない。
カウンター席の端っこが空いていたのでそこに座る。
「いらっしゃい。何にします?」
「せっかくなんで、極東のお酒を。あと、その……美味しそうな匂いのする、そこの鍋でぐつぐつ煮込んでるヤツ」
「これな、『おでん』っていうんや。いわば極東のポトフやな。ちょっと待ってや、美味そうなのを選びますんで。酒は……これなんかええんやないかな」
マツキリが慣れた手つきでおでんをいくつか見繕ってくれた。湯気が立つ具材はどれもうまそうだ。
「運がいいで。極東でもなかなか手に入らない酒が手に入ったんや。できあがった酔っぱらいに飲ますのはもったいない、兄さんに出したるわ。知っとるか? この極東の酒はな、米からできとるんやで」
「これが極東のお酒かぁ……まるでワインみたいだ」
小さめのグラスに注がれた透明な酒は、リンゴにも似たフルーティーな透き通った香りがした。今まで飲んだワインとかとは明らかに違う。飲みやすいくせに度数が強くて切れ味がある。
「……美味い。今日は来てよかった」
「おおきに、そう言ってもらえて嬉しいわ。それじゃあゆっくりしていってや」
マツキリは機嫌よさそうに厨房に下がっていった。ここからはのんびりひとり酒でも楽しもう、なんて思っていたのだけれど。
「ハイゼ、ここいいかな。ひとりなんだよね?」
誰かが俺の隣の椅子にちょこんと飛び乗る。飛び乗った勢いで椅子がぐらつき、あわてて押さえた。
「危ないよ、転んだら大変だ」
やんわりと注意したつもりだったけれど――椅子に座ったススーロは、なんだか不機嫌そうに俺をじぃっと見つめている。
「昨日の任務でケガしたんでしょ。他の医療オペレーターから聞いたよ」
ほんのり紫がかったオレンジ色の飲み物が入ったグラスを傾けながら、ススーロはいじけたような声で問いかける。
「まぁ、少しね。思ったより飛び道具を使ってくる敵が多かったから」
エリートオペレーターならともかく、こちとらただの多少腕の立つ前衛オペレーターだ。想定外の事態を無傷で乗り切れるほど強くはない。近接戦闘ならまだ対応できるが、遠距離からクロスボウやアーツで攻撃されればたまったもんじゃない。
「とりあえず何とかなったよ。ミルラが治療してくれたからなんとか助かったけれど」
矢傷を治療してもらいながらの突撃。痛みは戦闘のテンションで麻痺していたけれど、ミルラの手当がなかったらきっと今ごろは医療部のベッドの上だったはず。
「ふぅん……治療してもらったんだ、私以外の医者に」
ススーロの視線がじっとりと絡みつく。なんだか今日は様子がおかしい。いつもはこんな風に面倒くさい絡み方はしてこないはずなのに。
ふと、彼女のグラスを見てみる。ススーロの好きなオレンジジュースかと思っていたけれど、なんだか妙だ。
「ひと口いいか」
間接キスだね、なんてススーロがつぶやいたけれど聞こえなかったことにしておく。
「これ、お酒じゃないか。カシスオレンジっぽいな」
「……私がジュースしか飲めないとでも思った?」
とろんとした、どこか扇情的な目線。思わず目をそらしてしまう。酔ったススーロがこんなにも色っぽいとは想定外だ。
お酒なんて飲んで大丈夫か、なんて思ったけれど。たしかススーロは医科大学を卒業してからロドスに入職しているのだから、成人していてもおかしくはないのか。
「普段あまりお酒は飲まないから……ちょっと酔っちゃったかも」
くらり、とよろけたススーロの身体をとっさに支える。子どものような細い体つきのくせに、触れれば女性のやわらかさを感じてしまう。
酔っているなら部屋まで送っていったほうがいいだろうか。いや、それとも他の女性オペレーターに頼んだ方がいいか。ジュナーならまだ起きているかもしれない。
携帯端末を取り出そうか迷っていたら、今度は別のオペレーターから声をかけられた。
「ちょっといいかな? 君ねぇ、お子様にお酒を飲ませて何をしているのかなぁ?」
黒いロングヘアをなびかせた、姉御肌のフェリーンの女性。作戦記録で何度も見た顔。ロドスのエリートオペレーター、ブレイズだ。
「ブ、ブレイズさん。これは違いますよ。そもそもススーロはちゃんとお酒を飲める歳ですしっ」
あわてて説明する。未成年にお酒を飲ませているなんてブレイズに思われたら、後でどうなってしまうかわからないじゃないか。慌てている俺をよそに、ススーロはまったく動じていない。むしろ、じいっとブレイズに視線を据えている。
「……ご心配なく。これでも私、お酒は飲める年齢なんです」
「ホントに大丈夫? 無理にお酒飲まされてたりしない?」
どうやらブレイズは純粋に心配している様子。しかしススーロにとってはそれが子ども扱いされているように感じたのか、少しだけ面白くなさそうに眉をひそめた。
「失礼だね、ブレイズさん。私はもう子どもじゃないよ。ちゃんと同意の上だし、なんならお酒だけじゃくて……彼とは、一緒に寝たこともあるんだからねっ」
ふんすっ、とススーロは小さな胸を張ってみせる。酔っているせいなのかやけに強気だな。
「ね、寝たって……どういうことっ」
やけにブレイズは大げさにうろたえていた。意外とこういう話に耐性がないんだろうか。
「寝たっていうのはもちろん『睡眠』ってことじゃないよ。私よりずぅーっと年上のブレイズさんならわかるでしょ。彼のはけっこう大きいけれど、私のナカにちゃんと
「えっ、ちょ、ウソでしょ……? こんな大人しそうな子なのに……」
得意げなススーロとは裏腹に、俺の方は気が気じゃなかった。頼むから体の関係があることを堂々とばらさないでくれ。発情期にパートナーを持つことが珍しくないとはいえ、さすがに人前では大っぴらにしてほしくない。
「うぅ……こんな大人しそうな子にマウントとられるなんて……。マスター! お酒ちょうだい! ガツンと酔えるやつ!」
ブレイズの大きな声に、慌てたマツキリが酒瓶を持って飛んできた。あれは極東の蒸留酒か。たしか『焼酎』ってやつだな。
「ごめんね、ちょっと酔っちゃったかも……それじゃあ、後はよろしくね」
そそくさとススーロは立ち去っていった。ちょっと待て、この後は俺がブレイズの相手をしないといけないのか。煽るだけ煽っておいてそりゃないぞ。
ブレイズはいつの間にか焼酎のボトルを開け、なみなみと自分のグラス注いでいた。
「私だってねぇ、若いころはブイブイ言わせてたんだよ? でもさぁ、チェーンソーで敵の奴らを片っぱしからぶった切ってたらさぁ……そりゃあねぇ、オトコも近寄らなくなるよねぇ……」
遠い目をしながら、ブレイズはグラスの焼酎をひと息で空にする。どうしよう、これはかなり面倒くさい酔い方だ。こういう時はとにかく相手の言うことを否定したり、刺激したりしないほうがいいんだよな。
「でも、俺はブレイズさんのことすごい人だと思ってます。いつも作戦記録で見てますよ」
「ふふ、フォローしてくれるのは嬉しいよぉ。でもね、その作戦記録のおかげで私はチェーンソーを振り回すヤバい奴って思われてるんだよ。特に新人からはね。考えてもみてよ、アラフォーの女がチェーンソー振り回してるんだよ? そんな女に近づきたいと思う?」
「そ、そうですか……エリートオペレーターも大変ですね」
うまい返しが思いつかず、あいまいに笑ってやり過ごす。
俺はロドスの前衛オペレーターを務めているから、ブレイズと任務にあたったことも何度かある。彼女の戦いっぷりはまさに鬼神そのもの。俺なんかでは彼女の戦闘技術にまったく及ばない。いつも彼女の背中を追ってばかりだ。
またブレイズがグラスに空けた焼酎を空にする。あれはそれなりに度数の高い蒸留酒だじゃなかったか。いくらお酒に強い彼女とはいえ、水のように飲むのは体にだってよくないはず。
ましてや彼女は、感染者なのだから。いつ体調が急変してもおかしくはないのだ。
それにしても――ブレイズがアラフォーだとは驚いた。エネルギッシュな性格もあってか、とてもそうは見えない。二十代後半と言っても通じるだろう。
明るい性格、整った容姿。彼女はチェーンソーを振り回していることを気にしているようだけれど。どう見たって、普通にモテてもおかしくはないと思うんだけどなあ。
「ちょっとぉ、いま私のことをかわいそうなものを見るような目で見てたよね」
ふてくされたようにほっぺたをふくらませるブレイズに、そっとグラスに入った水を差しだす。
「そんなことないですってば」
「ウソだ! ぜったい哀れみの目で見てたもん! 私のこと、男日照りのアラフォーだって思ってるんでしょ!?」
そんなことはない。むしろ可愛らしいと思って眺めてはいたけれど。
「違いますよ、俺はブレイズさんのことを――」
「口だけの慰めなんていらないんだよ。男なら誠意を見せてよ!」
誠意、か。誠意ってなんだろう。
ブレイズも相当酔っているけれど、俺もだいぶ酔いが回っている。うまく頭が働かない。
とりあえず真剣な想いを伝えなければ。言葉だけじゃたぶん伝わらないだろう。ブレイズの手をとり、両手でぎゅっと彼女の手を包み込んだ。
「ブレイズさんはとても強くて、素敵なひとです。誰かを守るために体を張るあなたの背中を、俺はいつだって追いかけてますから」
誠意を見せるため、まっすぐ彼女の瞳を見つめながら伝えた。この気持ちはウソじゃない。ブレイズと任務が一緒になる機会は、今まで数えるほどしかなかったけれど。彼女の背中はいつだって頼もしく、いつだって追いかける目標なのは間違いないから。
「え、あ、その……」
さっきまでの勢いはどこへやら。すっかりしおらしくなってしまったブレイズは、俺に手を握られたまま目を白黒させていた。
「誠意、伝わったよ……。うん、その……十分すぎるくらい」
ずいぶんとブレイズの顔が赤くなっている。だいぶ飲んでたからなあ。水を飲むようすすめると素直に飲んでくれた。さっきまで酔ってくだを巻いていたのがウソみたいに大人しい。
また彼女の手を握ってみる。その手はずいぶんと熱い。温かい、じゃなくて熱いのだ。これは彼女のアーツというか、体質によるものなんだろうか。
「あ、あのさぁ……さっきから、私の手、さわりすぎだってば」
また一段とブレイズの手が熱くなり、そっとブレイズの手を離した。彼女の切なそうに眉を下げた表情。それがずいぶんと胸を締めつけた。
「……ねぇ」
「どうしました」
「……ひとりで寝るのは寂しい、って言ったらどうする?」
寂しそうな、しぼり出すような声。今の彼女はエリートオペレーターなんかじゃない。いろんな悩みや苦しみを抱えて生きる、ただひとりの女性にすぎないのだ。
「ごめん、忘れて。私なんかより若い子の方がいいよね。今のは、酔っぱらいの失言だと思って忘れてっ」
「忘れませんよ」
もう一度彼女の手を取る。その手は火傷しそうに熱かったけれど、今度は絶対に離すしてやるものか。
恥ずかしそうにブレイズは目をそらす。雲の上の人と思っていたエリートオペレーターが、こんなにも可愛らしい反応をするなんて。
「やめてよっ……勘違い、しちゃうから」
「勘違いじゃないです」
「年上だし、すぐ身体が熱くなるし……その、男の人とするのは……もう何年もごぶさたで……」
ブレイズの顔は火が出そうなくらい真っ赤だ。さすがにこれ以上はいじめているみたいで、なんだか申し訳ない。
「すんません、盛り上がってるところ。そろそろ店じまいさせてもらいますわ」
マツキリに声をかけられ、はっと我に返る。もうそんな遅い時間だったのか。見渡せば他の客はすっかりいなくなっていた。
「余計なことかもしれんけど……火遊びはほどほどにしといたほうがええで?」
本当はそうした方がいいとはわかっているけれど。火をつけてしまった以上、男として責任はとらないといけないのだ。
マツキリの忠告に苦笑いを返し、ブレイズと共に店を後にした。
アルコールと彼女の熱に浮かれて火傷をすることになるかもしれないけれど、それは覚悟の上だ。
次回はウィーディの予定。
今まで種族ごとに4エピソードずつ書いていましたが、今後この縛りはなくそうと思います
下半身のおもむくままに書くのだ